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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「(父親と涼)」3

2015年02月13日 | T.B.2012年

「ほら」

 彼が、隣人を訪ねた、ある日のこと。

 隣人が、彼に大きな肉を差し出してくる。
 ……はじめてのことだ。

「たまには、食え」

 彼は驚いて、隣人を見る。

「なんだ。いらないのか?」
 戸惑う彼に、隣人が云う。
「お腹がすいているんだろう?」

 さらに

「そのやつれた姿に、黒髪。いいとこないな、お前」

 彼は、隣人が持つ大きな肉を見る。
 これを持ち帰れば、父親に、怒鳴られずにすむ。

「遠慮するな」

 隣人の再度の言葉に、彼はその肉を受け取る。
 隣人は、彼が肉を抱えたのを見て、すぐに背を向け家の中へと入る。

 少しだけ、旧い肉なのかもしれない。

 臭う。

 けれども、彼には十分だった。

 彼は、その肉を持ち帰る。

「肉を、もらってきただと」

 父親は、目を細める。
 彼が抱えてきた肉を見る。

「隣人が、これを?」
 彼は頷く。
 父親に、肉を渡す。
「そうか」
 父親が云う。
「たまには、お前も役に立つじゃないか」

 父親は、すぐに肉をさばく。

 その日の食事が出来ると、父親は彼に料理を差し出す。

「久しぶりだな」

 彼は、料理を受け取る。
 坐って、食べようとする。

 と

「いや、待て」

 父親が云う。

「においが、おかしいぞ」

 彼は顔を上げ、父親を見る。

 お腹はすいている。
 だから、においは、さほど気にならない。
 早く、料理を口に入れたいが

「毒だ」

 父親が云う。
「肉に、毒が盛られている!」

 彼は驚き、持っていた料理を、置く。

「隣人め! 俺たちを殺す気だったか!」

 父親は、皿を投げる。

 皿が、大きな音を立てて、割れる。

「なにもかも……」
 父親は、彼を見る。
「お前のせいだ」

 彼は、目を見開く。

「お前がいなければ、もっと、普通に暮らせたのに」
 父親は、別の皿を投げる。
「黒髪でさえなければ!」

 父親は、彼の髪を掴む。

 彼は痛みに、顔をしかめる。

「お前がいなければ!」

 父親は、彼を押しやる。
 彼はその場に倒れる。

「おい」
 倒れた彼に、父親が云う。
「お前、隣人の息の根をとめてこい」

 彼は、思わず、父親を見る。
 その身体は震えている。

「お前のせいだ。責任をとれ」
 父親が、狩りの道具を出す。

 鋭い、刀。

 彼に、差し出す。

「ほら」

 父親が云う。

「狩りと一緒だ。こつがある。……判るな?」

 彼は動かない。
 ゆらゆらと、明かりが揺れる。

「早く受け取らないか!」

 父親は、彼の手に、刀を握らせる。
 腕を掴み、彼を立ち上がらせる。

「村人にやられたことを思い出せ」

 彼は、何も云わない。
 目を見開いたまま、刀を、見る。

「お前なら、出来る」

 明かりが、揺れる。

 彼が出て行った扉を見て、父親は、もう一本の刀を取り出す。



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