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「希と燕」5

2015年02月24日 | T.B.1961年

希が山一族との協定の話を聞いてから
ひと月が過ぎた。
恐らく、村人への通達はもうそろそろ。

不可侵の協定を揺るぎない物にするため
花嫁が交換される。

「また、考え込んでる」

悩む希をよそに、
花嫁を迎える当事者の燕は飄々としたものだ。

「だって、お前な」

変更が利くのならば
きっとその通達の前までだろう。

どうにかならないのか、と
燕自身は思わないのだろうか。

「あのさ、
 そんなに悪い事?
 山一族の嫁を貰うことが」
「え?」
「俺みたいなやつは、きっといつまでも余ってるからさ
 こんな事でも無いと嫁さんなんて来てくれないよ」

燕は自分の黒眼の事を言う。

「だから、ちょうどよかったんじゃないかな」

黒眼は敵対する東一族の色。
だから西一族では嫌われる。

燕の狩りの腕は飛びぬけている。
さすがと称賛されることも多いが
それでも燕を、という声は無い。
山一族の嫁の話も、いい機会なのかもしれないと希も思った。

でもそれは、
燕に気になる人がいないというのならばの話だ。

「お前、規子の事」

「あー、うんそれか。
 良いんだよそれは、もう、
 仕方ないっていうか」

規子とは家も歳も近いので
幼い頃から知っている。
3人で過ごすことも多かった。
だから、燕の想いも、
一歩引いて見てみればすぐに分かった。

「でも、規子にお前の事どうだって聞いたら
 悪い反応じゃなかったぞ」

「……なにそれ」

「お前が気にしているとは言ってない。
 ただ、兄として弟はどうだと進めただけだ」

規子は燕を瞳の事を気にかけない。
それに、もし、二人がそうなれば希としては嬉しい。

「余計なお世話だとは思うけど」

「そうじゃなくてさ!!」

燕の語尾が強くなる。

「兄さんの口から、
 規子に俺の事どうだって聞いたのかって
 言ってるんだよ」

「そうだよ」

相手がいるのだと分かれば
村長も少し考え直すのかもしれないと
そう、思っただけだ。

「だって、規子は!!」

「……規子は……なんだよ?」

「いいよ、もう!!」

燕は呆れたようにその場を立ち去る。

「なんだよ、は、
 こっちのセリフだ」

だって、それじゃあ、まるで。

「規子は」

弟の事は分かっていても、
幼なじみとして過ごしてきた規子の事は
何一つ分かっていなかったのだろうか。

もし、本当にそうなのだとしたら

「……」

燕はどうだと進めたあの時

規子が浮かべていた表情は、
もしかしたら泣き顔だったのかもしれない。


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