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「タイラとアヤコ」2

2017年05月23日 | T.B.1961年

「アヤコ、そっちに行った!!」

タイラが追い出したウサギをアヤコは追う。
走りながら矢をつがえる。

一投目は外れる。

命中力がイマイチなのは昔から。
数で稼ぐ。

獲物との距離がこれ以上開かないうちに
二投目。

「当たって!!」

祈りながら放った矢はなんとか獲物に届く。
一撃でとは行かないが
動きが鈍くなったところに班の仲間が近寄り
とどめを刺す。

「今ので、何匹目?」
「2匹、かな」
「なんとか、ノルマ達成って所かな」

彼らは狩りの一族。
今日は定期的に行われる狩りの日。
男女に関わらず、
若者は狩りに参加し、その成果は村中で分配される。

狩りの腕は村での優劣に大きく左右する。

「これで、安心して帰れるわ」

その日の状況にもよるが
せめて、1匹ぐらいは。
口には出さないが、
当然の成果として求められる物。

「少し休憩しましょう」

アヤコはタイラと
もう1人、班を組んでいるヤコに声を掛ける。

「おやつにどうぞ」

ヤコが菓子を配る。
柔らかい、飴玉のような物。
色とりどりの袋で個包装されている。

「何これ、かわいい」
「でしょう。
 北一族のお店で買ったのよ」
「今度行ったときに買おう!!お店の場所教えてよ」
「露店街の割と端のお店なんだけど」

タイラは会話に加わらず、
女の子ってそういうの好きだよね。
味同じじゃん、という目で見ながら
静かにお茶を飲んでいる。

今日の班は
気の置けないメンバーで良かった、と
アヤコは思う。

1人は兄弟で、
もう1人は同じぐらいの実力。
いつもこういう班だと
気を使わなくて済む。

狩りの班は、
その時の指示役が割り振るが
狩りの腕が無い者とある者を組ませる人も居る。

そちらの方が、
全体の成果を上げられる。
どの班もウサギ2匹じゃ成り立たない。

「……」

そんな事は分かっているけれど、と
ぼんやり思う。

アヤコはどちらかというと出来ない方。
そうすると、
役に立てなくて気まずい気持ちになってしまう。

でも、足が速い事と
走りながら矢をつがえる事が出来る。
アヤコが少しだけ周りに自慢できる事。

「狩りが出来なきゃ、
 この村では立場がないもの」

なんとか、せめて
今の立ち位置を維持しなくては。

「いや、すごかった」

狩りを終え、成果を報告に行ったタイラが帰ってくる。

村の広場にはそれぞれが収穫した獲物が集められる。

「ノゾミ達の班はやっぱり凄いな。
 イノシシを仕留めたらしいけど
 大きいから俺も運びの手伝いに行ってくる」

少し興奮気味に話すタイラから
どれほどの物か何となく想像が付く。

「さすが。
 ノゾミ達は違うわね」

ヤコの言葉にうんうんと頷く。

反省。
足が早いと言っても女性では、だし。
矢は当たってなんぼだ。

でも、と
アヤコは1人、言い訳めいて言う。

「ウサギも美味しいもの」

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