族長フタミに伝わったのは、そう遅くなかった。
各家の長が、族長の元へと集まる。
その誰もが、暗い顔。
族長のいない部屋で、各家の長が話す。
「いったい、どうなっている」
「事情はわからん」
「なぜ、生け贄が消える」
各家の長の後ろには、さらに、補佐たちが控える。
「今回の生贄は、ロ=フタミ家の者だったな?」
「フタミ家、どうなっている」
「どうなるも何も」
フタミ家の長は、
ハラ家の後ろに控えるヒロノを見る。
「ヒロノ。確か、お前が管理を任されていたな?」
云われて、ヒロノは頭を下げる。
「聞いた話だと、通達のその日に、生贄は消えたとか?」
ヒロノは答えない。
「管理を任されていたのだろう?」
「ヒロノ、聞いているのか」
「生贄はどこへ行った?」
ヒロノは頭を下げる。
「申し訳ありません」
「申し訳ありません?」
「いったいどうするのだ」
「海との衝突は免れんぞ!」
ヒロノは、頭を下げたまま。
弁明も出来ない。
と
そこへ、族長フタミが入ってくる。
席に向かいながら、一言。
「困ったことになったな」
各家の長と、補佐たちは頭を下げる。
「選ばれた生贄が消えるなど、聞いたことがない」
族長が席に着くと、各家の長は頭を上げる。
云う。
「以前までは、生贄を隔離していたとか」
「清めも含め」
「逃げ出さないように」
「フタミ様」
「今回の生贄も、隔離するべきだったのでは」
「この事態になる前に」
「そうだな」
族長は息を吐く。
「だが、その話も今さらだ」
各家の長は、口を閉ざす。
「急ぎ、今後のことを考えなければ」
族長は、ヒロノを見る。
「海一族に、今回の生贄の決定は通達済みだな?」
「はい」
「……しかし、」
族長は、皆を見回す。
「カオリ=ロ=フタミが、誰なのかは、海一族には判らん」
その言葉に、皆はざわつく。
――確かにそうだ。
普段、交流を行っていないのだから。
「フタミ様、それは……」
「やむを得まい」
族長は、目を細める。
「代役を立てる」
族長は、ハラ家を見る。
「急ぎ、生贄の候補を選ぶように」
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