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「山一族と海一族」13

2016年05月06日 | T.B.1998年

 族長フタミに伝わったのは、そう遅くなかった。

 各家の長が、族長の元へと集まる。
 その誰もが、暗い顔。

 族長のいない部屋で、各家の長が話す。

「いったい、どうなっている」
「事情はわからん」
「なぜ、生け贄が消える」

 各家の長の後ろには、さらに、補佐たちが控える。

「今回の生贄は、ロ=フタミ家の者だったな?」
「フタミ家、どうなっている」
「どうなるも何も」

 フタミ家の長は、
 ハラ家の後ろに控えるヒロノを見る。

「ヒロノ。確か、お前が管理を任されていたな?」

 云われて、ヒロノは頭を下げる。

「聞いた話だと、通達のその日に、生贄は消えたとか?」


 ヒロノは答えない。

「管理を任されていたのだろう?」
「ヒロノ、聞いているのか」
「生贄はどこへ行った?」

 ヒロノは頭を下げる。

「申し訳ありません」

「申し訳ありません?」
「いったいどうするのだ」
「海との衝突は免れんぞ!」

 ヒロノは、頭を下げたまま。
 弁明も出来ない。

 と

 そこへ、族長フタミが入ってくる。

 席に向かいながら、一言。

「困ったことになったな」

 各家の長と、補佐たちは頭を下げる。

「選ばれた生贄が消えるなど、聞いたことがない」

 族長が席に着くと、各家の長は頭を上げる。
 云う。

「以前までは、生贄を隔離していたとか」
「清めも含め」
「逃げ出さないように」

「フタミ様」
「今回の生贄も、隔離するべきだったのでは」
「この事態になる前に」

「そうだな」

 族長は息を吐く。

「だが、その話も今さらだ」

 各家の長は、口を閉ざす。

「急ぎ、今後のことを考えなければ」

 族長は、ヒロノを見る。

「海一族に、今回の生贄の決定は通達済みだな?」

「はい」

「……しかし、」

 族長は、皆を見回す。

「カオリ=ロ=フタミが、誰なのかは、海一族には判らん」

 その言葉に、皆はざわつく。

 ――確かにそうだ。
 普段、交流を行っていないのだから。

「フタミ様、それは……」

「やむを得まい」

 族長は、目を細める。

「代役を立てる」

 族長は、ハラ家を見る。

「急ぎ、生贄の候補を選ぶように」



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