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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「小夜子と天院」6

2014年07月04日 | T.B.2016年

 彼女は、部屋の前の庭に、布を広げる。
 そこに、豆を並べる。

 天気はよい。

 ここで、豆をむこうと、彼女は、地面に坐る。

 と

 誰かが、彼女の横に坐る。

 彼女は驚いて、顔を上げる。

「……天院、様?」

 返事は、ない。

「天院様!」

「ああ」
 天院が答える。
「名まえ、判ったんだ」

 彼女が云う。

「長いこと、お目にかかってるのに、気付くのが遅すぎました!」
「何を?」
「名まえも知らなかったし!」
「うん」
「使用人のようなもんだって、云ったじゃないですか」
「怒ってる?」
「怒ってる」
「何で?」
「私は、首ですか!」
「首?」

 彼女は、豆をむき出す。

「天院様に、普通に話しかけてしまったから」

「……小夜子(さよこ)」

 天院が云う。

「小夜子が思ってるより、高位じゃないよ、俺」
「でも」
 小夜子が云う。
「私なんかに比べたら」

 天院は笑う。
 豆むきを、真似する。

 小夜子が云う。

「天院様、違う」
「うん」
「豆むきには、こつがあるの」
「うん。教えてよ」

 ふたりは、豆をむく。

「……天院様は」

 しばらくして、小夜子が口を開く。

「宗主様の、ご家族様なの?」
「さあ。どうかな」
「また……」

 小夜子は、ため息をつく。

「よく考えたら、会ったときから、はぐらかされてる」
 天院が云う。
「たいしたことじゃないし」
「私にとっては、たいしたことです」

「気にしない方がいいよ」

「気にします」

「怒ってる?」

 小夜子は答えない。

 天院は、立ち上がる。

 もうすぐ、豆むきが終わる。

「ねえ、小夜子」
 天院が云う。
「それ終わったら、こっちに来て」

 天院は、少しだけ歩く。

 小夜子は、豆むきを終わらせる。

 立ち上がる。

「天院様」

「天院でいいって」

「そこに、何があるの」

「上を見て」

 天院に云われたとおり、小夜子は上を見る。



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