彼女は、部屋の前の庭に、布を広げる。
そこに、豆を並べる。
天気はよい。
ここで、豆をむこうと、彼女は、地面に坐る。
と
誰かが、彼女の横に坐る。
彼女は驚いて、顔を上げる。
「……天院、様?」
返事は、ない。
「天院様!」
「ああ」
天院が答える。
「名まえ、判ったんだ」
彼女が云う。
「長いこと、お目にかかってるのに、気付くのが遅すぎました!」
「何を?」
「名まえも知らなかったし!」
「うん」
「使用人のようなもんだって、云ったじゃないですか」
「怒ってる?」
「怒ってる」
「何で?」
「私は、首ですか!」
「首?」
彼女は、豆をむき出す。
「天院様に、普通に話しかけてしまったから」
「……小夜子(さよこ)」
天院が云う。
「小夜子が思ってるより、高位じゃないよ、俺」
「でも」
小夜子が云う。
「私なんかに比べたら」
天院は笑う。
豆むきを、真似する。
小夜子が云う。
「天院様、違う」
「うん」
「豆むきには、こつがあるの」
「うん。教えてよ」
ふたりは、豆をむく。
「……天院様は」
しばらくして、小夜子が口を開く。
「宗主様の、ご家族様なの?」
「さあ。どうかな」
「また……」
小夜子は、ため息をつく。
「よく考えたら、会ったときから、はぐらかされてる」
天院が云う。
「たいしたことじゃないし」
「私にとっては、たいしたことです」
「気にしない方がいいよ」
「気にします」
「怒ってる?」
小夜子は答えない。
天院は、立ち上がる。
もうすぐ、豆むきが終わる。
「ねえ、小夜子」
天院が云う。
「それ終わったら、こっちに来て」
天院は、少しだけ歩く。
小夜子は、豆むきを終わらせる。
立ち上がる。
「天院様」
「天院でいいって」
「そこに、何があるの」
「上を見て」
天院に云われたとおり、小夜子は上を見る。
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