俺は、泣いた。春の終わり。暗く長い夜。この部屋には、俺一人だけ。何もない。俺は、これからどうやって生きていくのだろう。途方に暮れる。
加奈が、出て行った。俺は、まだ、彼女に執着している。(残念ながら、加奈を愛しているとは、とても言えない。あたしの幻想、幻像を追いかけている、と加奈は言っていた。)
それでも、もう続けることはできなかった。俺の言葉は、何も加奈には届かなかった。
今朝、加奈が出ていくと宣言した。俺にとっては、突然に思えた。そして、加奈を引き止めようとした。土下座もした。でも、加奈は、…君は、ただ、あたしを引き止めたいだけでしょ?自分のやっている意味がわからないまま、土下座してるでしょ?と、冷ややかだった。
「やり直すことは、できないか。俺の悪いところは、直すから。」
「なぜ、その言葉を今、言うの?」
加奈は、静かに言った。なんの感情もこもらない声。
「俺を捨てて欲しくないから。」
「もう、遅い。どれだけ、…君と話をしようとあたしがしたと思う?その時、向き合わないでいて。今さら。それに。」
乾いた声で、加奈は続ける。
「俺を捨てる?…君は、何回もあたしを捨ててきたじゃない?あたしの心を。あたしのプライドを。ま、いいよ。あたしを悪者にしていい。あたしをぼろくそにけなせばいい。」
加奈は、俺を見た。なんの感情も、こもらない目。憎しみすらない。道端の石ころでさえ、もう少し色のある目を向けられるだろう。
俺は、悟った。何をしても、加奈の心は動かせない。加奈は、もう、言うことはないらしい。彼女は、合鍵をテーブルの上に置いた。荷物を持ち、ドアを開けて出て行った。後ろを振り向きもしなかった。
バタンとドアが閉まる音。俺への最終通告の音。
俺は、座り込んだまま動けなかった。
…どれくらい動けなかったのだろう。そして、これだけ泣いたのは、いつぶりだろう。目の縁がひりひりする。
ベランダを開ける。春の月。朧月。中天にある。真夜中。物音ひとつしない。
麻痺してしまったのだろう。今は、何も感じない。怒りも悲しみも憐憫も自嘲も。
ただ、終わった。ということだけ。空っぽだ。ただ、それだけ。
加奈が、出て行った。俺は、まだ、彼女に執着している。(残念ながら、加奈を愛しているとは、とても言えない。あたしの幻想、幻像を追いかけている、と加奈は言っていた。)
それでも、もう続けることはできなかった。俺の言葉は、何も加奈には届かなかった。
今朝、加奈が出ていくと宣言した。俺にとっては、突然に思えた。そして、加奈を引き止めようとした。土下座もした。でも、加奈は、…君は、ただ、あたしを引き止めたいだけでしょ?自分のやっている意味がわからないまま、土下座してるでしょ?と、冷ややかだった。
「やり直すことは、できないか。俺の悪いところは、直すから。」
「なぜ、その言葉を今、言うの?」
加奈は、静かに言った。なんの感情もこもらない声。
「俺を捨てて欲しくないから。」
「もう、遅い。どれだけ、…君と話をしようとあたしがしたと思う?その時、向き合わないでいて。今さら。それに。」
乾いた声で、加奈は続ける。
「俺を捨てる?…君は、何回もあたしを捨ててきたじゃない?あたしの心を。あたしのプライドを。ま、いいよ。あたしを悪者にしていい。あたしをぼろくそにけなせばいい。」
加奈は、俺を見た。なんの感情も、こもらない目。憎しみすらない。道端の石ころでさえ、もう少し色のある目を向けられるだろう。
俺は、悟った。何をしても、加奈の心は動かせない。加奈は、もう、言うことはないらしい。彼女は、合鍵をテーブルの上に置いた。荷物を持ち、ドアを開けて出て行った。後ろを振り向きもしなかった。
バタンとドアが閉まる音。俺への最終通告の音。
俺は、座り込んだまま動けなかった。
…どれくらい動けなかったのだろう。そして、これだけ泣いたのは、いつぶりだろう。目の縁がひりひりする。
ベランダを開ける。春の月。朧月。中天にある。真夜中。物音ひとつしない。
麻痺してしまったのだろう。今は、何も感じない。怒りも悲しみも憐憫も自嘲も。
ただ、終わった。ということだけ。空っぽだ。ただ、それだけ。