寡黙堂ひとりごと

詩吟と漢詩・漢文が趣味です。火曜日と木曜日が詩吟の日です花も酒も好きな無口な男です。

十八史略拾い読み 一飯の徳も必ず償い、睚眦の怨みも必ず報いたり

2009-06-01 17:58:35 | Weblog
武王の最期は力士孟説と力くらべをして鼎を持ち上げたところ、脈を絶って死んだという。
続き
弟の昭襄王稷(しょく)立つ。魏人范睢(はんすい)という者有り。嘗て須賈(しゅか)に従って齊に使す。齊王、其の辯口を聞き、乃ち之に金及び牛・酒を賜う。賈、睢が國の陰事を以て齊に告げしかと疑い、帰って魏の相の魏齊(ぎせい)に告ぐ。魏齊怒り、睢を笞撃(ちげき)し、脋(きょう)を折り、歯を拉(くだ)く。-中略
睢、出づるを得、姓名を更めて張禄(ちょうろく)と曰う。秦の使者王稽、魏に至り、濳かに載せて與(とも)に帰り、昭襄王に薦めて、以て客卿と為す。教うるに遠交近攻の策を以てす。時に穣侯魏冉、事を用う。睢、王に説いて之を廃せしめ、而して代って丞相と為り、應侯と号す。
魏、須賈をして秦に聘(へい)せしむ。睢、弊衣間歩し、往いて之を見る。賈驚いて曰く范叔、固(まこと)につつが無きか、と。留まり坐して飲食せしめ、曰く、范叔、一寒此くの如きか、と。一綈袍(ていほう)を取って之に贈る。
 やがて范睢は須賈のために申し出て、私が宰相に取り次いで来ますと、屋敷に入った。須賈はいつまで経っても出て来ないので、不審に思い門番に尋ねたところ、先ほどお入りになった方は宰相の張禄さまですよ、と。はっと気づいて范睢は膝でにじり歩いて邸内に入って罪を詫びた。睢は坐ったまま須賈を責めて「お前が殺されずにすんでいる訳は、あの綿入れを贈ってくれたことが、なつかしく昔馴染みの心もちが残っていたからだ」と。やがて、他の使者をも招待してご馳走の用意をしたが須賈の前には飼い葉桶が置いてあるだけであった。その上「帰って魏王に告げよ、速やかに魏齊の頭を斬り来たれ」と。魏齊逃げてのち死す。
睢既に志を秦に得、一飯の徳も必ず償い、睚眦(がいさい)の怨みも必ず報いたり。