京セラの稲森さんが亡くなった。
ベンチャーの草分け、カリスマ経営者、再建請負人。
稲盛さんを形容する言葉は数あれど
私が思い出す稲盛像は「煩悩」という言葉だ。
凡庸は取るに足らぬ人間のことだが
煩悩は人間の欲望や執着、怒りなどを戒める仏教用語だ。
一度だけお会いして話す機会があった。
その頃、私はさして詳しくもないのに経済番組を担当していて
稲盛さんのインタピューが撮れるとあって
スタッフとともに京都のお寺へいそいそと出かけて行った。
当時、稲盛さんは得度された直後とあって
墨染の袈裟姿でテレビの収録に来られた記憶する。
「私はこう見えてもなかなか煩悩を断ち切れない人間でして・・・」
開口一番、仏教に帰依する理由を問うとそんな言葉が返って来た。
経営の神様から「煩悩」という言葉が出るのが意外だった。
それに対して「私も煩悩の数では人に負けませんが」と応じると
静かに笑っていただいて緊張がほぐれた覚えがある。
それからしばらくは煩悩論議だったが
稲盛さんの言う私利私欲を厳しく戒める経営者としての煩悩と
私のようなただの飲んだくれの煩悩とは
根本的に違うものだと悟ってずいぶん恥ずかしい思いをした。
稲盛さん、あの時の教えは今も忘れていません。
齢90歳のご長寿、お疲れさまでした。