三ツ谷洋子のスポーツ21・ブログ

Jリーグ開幕前から理事として17年間かかわったスポーツビジネスコンサルタントの三ッ谷洋子が日々の話題を取り上げます。

オリンピックのレガシー

2013年09月16日 | 2013年
東京オリンピック・パラリンピック招致決定をロンドンで知りました。
7日夜の英国BBCテレビのニュースでは、
「日本は政治的・経済的に何の問題もない」というコメントでトップの扱いでした。

IOC総会のプレゼンテーションで
安倍首相が福島第一原発の放射能汚染水問題について
「状況はコントロールされている」と自信たっぷりに語る部分がVTRで流され、
外国の人たちに力強いメッセージとして伝わったようです。
(実際には問題がないわけではありませんが。)

今年の春ごろから、
「三ッ谷さんもブエノスアイレスに行かれるんですか?」とよく聞かれました。
現地の様子に関心はありますが、
それはマスコミに任せればよいことと考えていました。

私が同じ時期に目を向けていたのはロンドンです。
「オリンピック・レガシー国際会議 ―都市におけるメガイベントのインパクト」
8月中旬にこんなタイトルの会議があることを知りました。
9月4日~6日、会場は東ロンドン大学です。

4年前に、私はロンドンのオリンピックパークを視察しました。
昨年の大会を終え、今、そこがどうなっているのか、
ずっと気になっていたのです。

プログラムを見ると、2日目にオリンピックパークの視察があります。
「ロンドンオリンピックの代表的なレガシー」を確認する絶好の機会です。

「会議」の趣旨は次のようなものでした。

「この国際会議は、研究者や政策立案者、大学院生、
その他のオリンピック・パラリンピックという
メガイベントを招致することから生じる都市開発に関する問題に従事した者が、
それぞれの知識を共有し、情報交換する場所を提供するものである。」
(intelligence 130815)

分かりやすくいえば
「オリンピックのような大きな大会に関連する都市開発の問題について、
様々な立場の人たちが集まって情報交換をしようじゃないか」ということです。

巨大スポーツ施設は「まちの誇り」になることもあれば、
大きすぎて使いづらく、「まちのお荷物」になることも少なくありません。

私が東京オリンピックに関連してずっと気になっていることの一つが、
新国立競技場の大会後の利用についてです。

国際的な設計コンペを開催して決まったデザイン案は、
曲線を多用したユニークなものです。
デザインが好きか嫌いかは別にして、
大会後の利用に関連して大きな問題が2つあると考えています。

1つ目は「屋根付き」の屋内施設であること。
天候の心配はなくなりますが、
巨大屋内施設は光熱費が非常にかかります。

また、サッカーの試合は天然芝のピッチが必要です。
公表されている画像を見ると中央部分が開閉するデザインですが、
天然芝にとっては直射日光と風通しが必要です。

Jリーグ開幕以来、スタジアムのピッチは1年中緑でなければなりません。
それまでは、冬は枯れ芝のピッチで試合をしていました。
現在では夏芝・冬芝を巧みにミックスして、
日本のスタジアムは美しい緑のピッチを維持しています。

新スタジアムの画像の屋根は、透明の素材に見えますが、
太陽光不足で芝の張り替えが必要になるのではないかと心配です。
透明の屋根付きスタジアムであるオランダのアムステルダム・アレナは、
太陽光が足りないため年に何度か、芝を張り替えています。

2つ目の問題は8万人収容というスタジアムの規模です。
通常のイベント施設としては大きすぎです。

現在の国立競技場は約5万4千席ですが、
満員になるイベントは年にいくつあるのでしょうか。
それが8万席に増えるのです。

施設の大小を問わず、イベント開催時に客席がガラガラでは
いくら優れたイベントでも白けてしまいます。
誰もが一度くらい体験したことがあるのではないでしょうか。
イベント施設に限って言えば「大は小を兼ねない」のです。

ロンドンのオリンピックパークの整備は、
ロンドン東部の再開発計画の一環として位置づけられたものです。
8万人収容のスタジアムは、
現在、5万5千席を撤去する工事をしています。

「2万5千人収容のスタジアム」に生まれ変わります。
これまでもオリンピックスタジアムの座席の一部が
仮設席として造られた例は珍しくありませんが、
3分の2も座席を外してしまった例を、私は知りません。

ロンドンのメインスタジアムはまちのサイズに合わせて小ぶりになり、
他のスポーツ施設についても、
大会後の活用方法がしっかり計画されていました。

東京の新スタジアムは、
最新のハイテク機器が設置されることになるでしょう。
これまで見たこともないような素晴らしい演出が可能ですが、
その分、使用料も素晴らしく高くなると思います。

年間の施設維持費も気になります。
例えば、2002年サッカーワールドカップのスタジアムは3億円~9億円。
屋根で覆われている札幌ドームは、2倍の18億円と聞いています。

スポーツ施設は、規模が大きくなるほど採算を取るのが難しくなります。
大会後の活用や施設運営への配慮が見られない施設は
「まちのお荷物」になりかねません。

ところで肝心のロンドンの国際会議です。
これまでのオリンピック開催都市だったバルセロナ、アテネ、北京の他、
招致活動のライバルであるマドリードとイスタンブールからの参加もあり、
英国を入れて23か国から約180人が集まりました。

日本人の参加者は私を除くとたった1人。
南アのサッカーワールドカップをテーマに研究発表された
一橋大学准教授の鈴木直文さんだけでした。

オリンピックを開催することで、
開催都市には様々な「レガシー」(遺産)が残されます。

3日間、朝から夜まで真面目に(!)講演や発表を聞き、
各国の参加者と意見交換をすることができました。

そして、改めて認識させられたのは、
「レガシー」とはスポーツ施設だけでなく、
社会、経済、文化、環境など有形・無形を問わず、
多様な分野に広がっているという事実でした。

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       三ッ谷 洋子
 株式会社スポーツ21エンタープライズ代表取締役
 法政大学スポーツ健康学部教授
 スポーツビジネスコンサルタント
 スポーツビジネスプロデューサー
「スポーツとまちづくり」アドバイザー
 WSFジャパン(女性スポーツ財団日本支部)代表

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2 コメント

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U+301D祭U+301Fの後(跡?)始末 (みなしごハッチ)
2013-10-12 14:21:32
私の勤務先にはイベントプロデュースを教える学科があり、東京オリンピック招致にも協力的だったと思います。
ただ、三ッ谷さんが今回ご指摘されている建設した施設のイベント後の問題点や具体的な対応計画については語られる機会はなかったようです。
おそらく東京オリンピック招致のキャンペーンのほとんどでも、また招致賛成の人々の頭にも考えられたことはないのではないでしょうか。
三ッ谷さんが現地で確認されたこと、また、東京オリンピックのあり方についてのお考えを、もっと広く伝える機会を持たれることを期待しています。

もっと議論を! (三ッ谷洋子)
2013-11-05 23:28:10
みなしごハッチさん、いつもコメントありがとうございます。
(タイトルが文字化けしていました。)

ご指摘のように、私自身ももっと発信しなければとはずっと考えています。
そのために関連資料に目を通しているところですが、範囲が広い分、時間がかかっています。

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