新谷行『アイヌ民族抵抗史 アイヌ共和国への胎動』(角川文庫、原著1972年)を読む。
もとは三一新書として出され、この文庫化(1974年)のあとに、増補版がやはり三一新書から出ている。また、この5月には河出書房が復刊するようだ。(極論が少なくない本でもあり、その点がいかにフォローされるかについても注目したい。)
著者は、日本によるアイヌ民族の土地侵略の前史として、桓武天皇や坂上田村麻呂による蝦夷との戦争を位置付ける。すなわち、日本の正史における非対称な物語であり、そのように語られてきたということだ。
アイヌに対しては、松前藩による収奪から、侵略行為がエスカレートしていく。松前藩=日本は、シャクシャインの蜂起(1669年)を騙し討ちにより制圧するなど、支配の正当性を認めがたい形での政治的・経済的な支配を続けていった。本書に言及はないが、同時期、日本列島の反対側では、島津藩が琉球王国への侵攻を行っている(第一次琉球処分、1609年)。日本の植民地支配の歴史において重要な時期だということになろうか。
日本のアイヌ抑圧は苛烈なものであったようだ。土地を奪い、漁業の権利を奪い、交易の権利を奪い、「奴隷化」していった。知らなかったことだが、国後島でもアイヌの蜂起があり(1789年)、シャクシャイン同様に騙すように制圧したのちは、国後支配をさらに暴力的なものとした。また、1899年に制定された「旧土人保護法」においては、農業に従事しようとする者に土地を無償で払い下げることになっていたが、実際に与えられた土地はまったく農業に適さないひどい場所であった(のちの調査では、耕作可能な土地は半分に過ぎなかったという)。そして日本の敗戦後も、差別と同化政策が続けられたのであった。
すなわち、侵略と収奪の歴史を抜きにしてアイヌ民族について語ることは野蛮に他ならない。
●参照
瀬川拓郎『アイヌ学入門』
姫田光義編『北・東北アジア地域交流史』
井上勝生『明治日本の植民地支配』(アジア侵略に先だってなされたアイヌ民族の支配)
伊佐眞一『伊波普猷批判序説』(伊波はアイヌをネーションを持たぬとして低く評価した)
石川直樹+奈良美智『ここより北へ』@ワタリウム
OKI meets 大城美佐子『北と南』(OKIはアイヌの弦楽器トンコリの使い手)
上里隆史『琉日戦争一六〇九 島津氏の琉球侵攻』
でも、どの版を読めばいいのか。
なんてことだ……!