Sightsong

自縄自縛日記

湯本貴和『熱帯雨林』

2011-02-25 08:13:02 | 環境・自然

湯本貴和『熱帯雨林』(岩波新書、1999年)を読む。

熱帯に行ったことはあっても熱帯雨林を体験したことのない自分にとっては(沖縄の亜熱帯林止まりである)、観察方法や生態系の話など興味津津である。著者によると、自らを防御する植物が多い熱帯雨林は「毒物の森」であるという(!)。私もグンター・パウリ氏(ゼロエミッションの提唱者)にアドバイスをもらってコロンビアの森林管理に関わりかけたことがかつてあって、そうしていたなら、熱帯雨林の世界に触れることができていたのだが。

地面までほとんど光が届かない熱帯雨林にあって、倒木によってできる「林冠ギャップ」という穴が新たな勢力争いに重要な役目を果たすという説明が面白い。光を届けるために間伐や枝打ちを行うべきだとする日本の森林管理とはまったく別世界だ。むしろ乱伐や過度の焼畑を抑えるのみならず生態系(人間が加わった)を狂わせないようにすることが森林管理ということか。

熱帯の社会生活とのリンク付けを行うのはトロピカルフルーツだ。昆虫や鳥が花粉を運ぶばかりでなく、猿や象のような大きな動物が果実を食べて移動し、糞をすることで種子が拡散されていくメカニズムがある。その秘密は、マンゴーやランブータンの種が果実から離れにくく、その場で吐き出されないことにある。レストランで供されるマンゴーからは種が取り除かれているが、こんなことも考えれば宴が愉しい。それだけではない。南米にはホウガンノキという、直径20cmの実を付ける木があるという。この進化を駆動したのは、人間がやってくる以前に生息していた象のような大型草食獣であったに違いないと想像している。大きな果実の存在から、人間以前の世界にまで想像力が飛翔するわけである。

そして「一斉開花」。何年かに一度にしか開花しない多くの花が、突然わらわらわらと活動する現象である。いろいろな理由が考えられてはいるものの、まだそのメカニズムは謎に包まれているようだ。そんな時期に居合わせたら興奮するのだろうね。

タイは、映画『象つかい』(チャートリーチャルーム・ユコン)で描かれたように、戦前は国土の8割が熱帯林におおわれていたという(いまでは3割程度に過ぎない)。バンコクも含め、諸都市の現在の土地利用面積をもって「アジア的」だとか「アフリカ的」だとか論じた吉本隆明はやはり乱暴に過ぎる。

●参照
そこにいるべき樹木(宮脇昭の著作)
東京の樹木
小田ひで次『ミヨリの森』3部作
荒俣宏・安井仁『木精狩り』
森林=炭素の蓄積、伐採=?
『けーし風』2008.3 米兵の存在、環境破壊(やんばるの林道についての報告)
堀之内貝塚の林、カブトムシ
上田信『森と緑の中国史』
沖縄の地学の本と自然の本
熱帯林の映像(着生植物やマングローブなど)
只木良也『新版・森と人間の文化史』
チャートリーチャルーム・ユコン『象つかい』(タイの森林伐採問題)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。