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自縄自縛日記

太田昌国の世界 その62「軍隊・戦争と感染症」

2020-08-01 09:37:44 | 政治

ひさしぶりに東京琉球館で太田昌国さんのトーク(2020/7/31)。

2時間ほどのお話は次のようなもの。

●ワイドショー的に感染者数について一喜一憂、大騒ぎでコロナの本質が視えなくなっている。ことの本質はなにか。コロナによって透けてみえるものはなにか。
●731部隊は、満州において、医師や疫学者による研究を行った。それは中国人を実験台に使い、いかに感染症を有効に使うかというものであった。人道主義を投げ棄て、数をいかに滅ぼすかということを最優先する連中がいた。それが75年前までのわれわれの国家の姿だった。戦後、アメリカは日本の指導者たちをあえて裁くことはないとかくまった。731の決算は済んでいない。その精神は為政者のなかに何の反省もなく生き延びている。
●横田の在日米軍司令部が公表したところによれば(2020/7/24)、米兵のコロナ感染者は189人。そのうち大半の162人が沖縄の海兵隊員(キャンプハンセン、普天間)。
●そして軍隊は移動する。日米地位協定において米軍人はパスポート・ビザの日本の法令が適用されないことになっている。羽田から民間航空機で岩国に入った者が3人。海兵隊員(1万5千人)の3分の1が半期ごとに部隊を交代する。移動範囲は日本の国内にとどまらない。
●軍隊は機密があることを当然視している。その論理が一般社会に通り、感染症についても軍隊以外の庶民は知るべきことでもないと思っている。
●米国は日本が主権を持たない「保護領」のごとく、治外法権地域としてふるまっている。冷静にみれば、戦後75年間、米国は政治的・経済的・軍事的に敗戦国をしゃぶりつくし、利用しつくしてきた。日本だけでなくドイツ、イタリアも同様である(枢軸国、ファシズム3国)。こんなふうに国家の歴史を展開してよいのか。日本の自民党や外務官僚も米国一辺倒以外のことを考えなかった。それはただの戦争の結果であり、論理、倫理、正義などあったものではない。
●中国の尖閣諸島などにおける行動ももちろん問題だが、一方で米国が世界中で我が物顔でふるまっている。それに対する批判なくては東アジアの状況を公平にとらえることはできない。メディアは嫌中意識を増幅させるだけであり、それに対しては逐一批判的であるべき。
●コロナの感染者数などにひるみおびえて引きこもる人が増えれば増えるほど、為政者にとっては好都合。その結果、集会やデモもできない。為政者は国会を開かず記者会見もしない。自由討論に耐えうる論理が政策がないからだ。もちろん疫学的なことも考えなくてはならないが、言いなりのままやっていたらどうなるかも併せて考えないと、人間社会の存続があやうくなる。
●この政治や社会のありようは、スペイン風邪(1918-20年)のときと似ている。当時と予防措置も似たようなもの(マスク、密を避ける)。世界では第一次世界大戦の死者の4倍、日本では関東大震災の死者の5倍。しかしそれが民衆の記憶として語り継がれなかった。なぜか。
(※なお、スペイン風邪という名称は、中立国ゆえ情報を出したスペインの名前が付された気の毒なものだ。いまWHOは倫理基準としてウイルスの発症地を使わないとしている。「武漢ウイルス」など不可。)
●米国では第一次大戦の「戦死」が「インフルエンザ死」にまさるという意識があった。「銃後」の人たちは、たかだか「インフルエンザ死」のことを大ごととして言おうとはしなかった。そして記憶として受け継がれなかった。
●このときの感染は、まさに、軍隊の移動とともにあった。感染した米兵がヨーロッパに。感染した英国兵士がアフリカに。転戦と移動を通じて際限なく感染が広まった。
●現地の民衆はその結果を引き受けざるを得なかった。
●このありようは、現在のコロナ禍にも、また、たとえばアグリビジネスによる排除や反テロ戦争などによる流浪の民・難民のありようにも共通している。
●「米国のコロナによる死者はベトナム戦争を上回った」という言説が出回った。米軍の死者は5万数千人、コロナの死者はもう15万人超。だがベトナム人の死者は500万人、さらに後遺症で苦しむ者多数。問うべきは「君たちにとってはそうだろう、だが不正義によるベトナム人の死者は?」。この声が世界に満ち溢れなければならない。
●いかにして、軍事優先の論理を根こそぎ取り除いていくか。

参考文献

【日米安保、地位協定】
●豊下楢彦『安保条約の成立』(岩波新書)
●前泊博盛『日米地位協定入門』(創元社)
●前田哲男『敵基地攻撃論批判』(立憲フォーラム)

【スペイン風邪】
●アルフレッド・W・クロスビー『史上最悪のインフルエンザ―忘れられたパンデミック』(みすず書房)
●速水融『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ―人類とウイルスとの第一次世界戦争』(藤原書店)

【民衆の視点からの歴史】
●阿部勤也『ハーメルンの笛吹き男 - 伝説とその世界』(ちくま文庫)
●藤木久志の著作(百姓一揆などについて)
●良知力『向こう岸からの世界史―一つの四八年革命史論』(ちくま学芸文庫)
●網野善彦の著作

●太田昌国
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