Sightsong

自縄自縛日記

『情況』の、「中南米の現在」特集

2010-03-07 07:00:00 | 中南米

『情況』2010年3月号(情況出版)が、「中南米の現在」特集を組んでいる。また中南米の他にも、表紙にあるように、「沖縄と政局」に関して興味深い指摘がなされている。

由井晶子「今につながる沖縄民衆の歴史意識―名護市長選挙が示した沖縄の民意」において、琉球の支配に関する研究の経緯が少し紹介されている。かつての「日支両属」、「薩摩支配」、伊波普猷の「日琉同祖論」などを巡る研究や批判である。非常に興味がある。まずはここで触れられている高良倉吉、安良城盛昭、新川明、田名真之、豊見山和行の成果に当たってみたい。

佐藤優「青年将校化する特捜検察 「小沢・検察」戦争をどう見るか」は凄まじく面白い。勿論いつもの煽りの芸もあるのだろうが、それを差し引いても、この一論文を読むだけでも本誌を買う価値がある。

中南米特集は多士済々だ。冒頭の対談がなんと太田昌国+足立正生(凄いね)。そしてベネズエラ、ウルグアイ、キューバ、グアテマラ、メキシコ、コロンビア、ボリビア、ペルーの実態を伝えるルポ。このあたりは、日本のメディアでは「反米」の目立つ動きとしてのみ、わずかに報道される程度であり、情報としてとても貴重だ。

かつて米国流の新自由主義の実験台とされた中南米だが、「反米」という図式のいまでも、なお米国側の手足が激しく荒らしていることがわかる。なかでも、イスラエル、モサドによる動きが活発であることには注目すべきだ。

「太田 モサドが活発って、どういうことですか?
足立 (略)かつては、各国の軍・警察にセキュリティのノウハウを売り込んで訓練するレベルだったんです。それが今や、そこで手に入れた共同関係を基盤に、かつての米国CIAの代わりにイスラエルの各種の特殊部隊が実働している。米国とイスラエルは、軍事と保安部門は一体ですから、米国の代行をしているとも言える。
太田 いわゆる左派政権の国ともですか?
足立 そうです。そこに入り込み始めているから、これは危ないなと思ってる。」

(対談 太田昌国・足立正生「中南米の現在、先住民族の現在」)

「イスラエルでは、”ベネズエラ、ボリビアが、イランにウランを提供している”とする眉唾な「秘密報告書」が報じられている。「南米介入」への世論作りだ。
 ルーラ大統領は虎の尾を踏んでしまった。」

(高橋正則「米国の牙が戻ったラテンアメリカ」)

●『情況』
新自由主義特集(2008年1/2月号)
ハーヴェイ特集(2008年7月号)
沖縄5・18シンポジウム『来るべき<自己決定権>のために』特集( 〃 )
尹健次『思想体験の交錯』特集(2008年12月号)
「現代中国論」特集(2009年10月号)

●参照
G・G・マルケス『戒厳令下チリ潜入記』、ドキュメンタリー『将軍を追いつめた判事』
廣瀬純『闘争の最小回路』を読む
太田昌国『暴力批判論』を読む
中南米の地殻変動をまとめた『反米大陸』
モラレスによる『先住民たちの革命』
デヴィッド・ハーヴェイ『新自由主義』
チェ・ゲバラの命日
『インパクション』、『週刊金曜日』、チャベス
ウカマウ集団の映画(1) ホルヘ・サンヒネス『落盤』、『コンドルの血』
ウカマウ集団の映画(2) ホルヘ・サンヒネス『第一の敵』
ウカマウ集団の映画(3) ホルヘ・サンヒネス『地下の民』
松下俊文『パチャママの贈りもの』 貨幣経済とコミュニティ


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4 コメント

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Unknown (24wacky)
2010-03-07 22:46:05
これもジュンク堂で手にとって「読んでる暇ないよな」とあきらめた一冊です。

豊見山和行についてはよろしかったら以下を。

http://earthcooler.ti-da.net/e2437829.html
http://earthcooler.ti-da.net/e2438926.html
http://earthcooler.ti-da.net/e2439972.html
http://earthcooler.ti-da.net/e2600149.html

佐藤優は書店で次々出される平積みを見るにつけ、「絶対読まねーぞ」と視線を外しますが、そんなこといわれると読まずにはいられませんねえ。余計なことを書く人だ、まったくSigtsongさんという人は(笑)。

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Unknown (Sightsong)
2010-03-08 07:42:02
24wackyさん
『琉球王国の外交と王権』と「お取り合い」についての発言、ご紹介ありがとうございます。道標になります。まずは自分でもこれを参照しながら読まないといけませんね。
今回の『情況』は、佐藤優もさることながら、知らない領域の論文が多くて勉強になりそうです。なりそうです、というのは、一読には時間がかかりませんが、自分の知識と考えにしていくのが大変そうだということです。
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Unknown (tamara)
2010-03-22 20:53:42
つい私も買ってしまいました(笑)
最近、本当に本を読む暇がなくなっています。活字に向かうのってエネルギーが必要ですね。
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Unknown (Sightsong)
2010-03-22 21:42:46
tamaraさん
なかなかこれは咀嚼が大変そうです。本に関しては、整理してブログに書くことが区切りになっています。どうも記憶の機能が年々劣化していくので、思い出すのに自分の書いたものを検索したりしています(笑)。しかし、それが良い点なのだな、なんて思ったりしています。
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