Sightsong

自縄自縛日記

中野晃一『右傾化する日本政治』

2015-08-08 08:18:34 | 政治

中野晃一『右傾化する日本政治』(岩波新書、2015年)を読む。

政治の右傾化が、手の付けようがないほど顕著に、また隠すつもりがないとしか思えないほどあからさまに進んでいる。本書ではこれを「新右派」と呼び、旧来の穏健な「旧右派」と明確に区別する。後者が昔ながらの自民党政治、すなわち開発主義と恩顧主義を特徴としていたのに対し、いまの右派は、新自由主義と国家主義を強く押し出している。一部の強い者による一部の強い者のための政治、そしてそれは、歴史修正主義をビルトインした軍備とナショナリズムの強化とセットになっている。

誰がこんな統治システムを望んだのか。重要なことは、社会の動きが政治に反映されたのでは決してなく、意図して一部の強い者に権力を集中させてくるシステムの転換が行われ、それが着実に奏功しているということである。

大きな種を蒔き芽吹かせたのは小沢一郎であった。小選挙区の導入は、最初から、少数者による政治決定を可能にするシステムを狙ってなされた(小沢の中では「政治の主役は有権者ではなく政治家であり、民意の代表は二義的な問題に過ぎない」ものであったと、中北浩爾『現代日本の政党デモクラシー』は指摘している)。本人が政治の中心から排除され、「積極的平和主義」が国連を主舞台とするものではなく歪んだ米国戦略の一部となる方向に進んでしまったことは皮肉なことだ。そして、思想なきポピュリズムの小泉政権を経て、身も蓋もなくシステムを濫用する現政権に至る。

本書は、このように変貌する自民党政治に抗するオルタナティブが育たなかったことを示している。社会党・社民党は自壊した。民主党は組織としての強度に難があり、自民党と違う存在意義を放棄してしまった。というと絶望的なようであり、事実絶望的でもあるのだが、新たな希望はいくつも出てきている。著者は最後の章において、「同一性にもとづく団結から他者性を前提とした連帯へ」という見出しを掲げ、「左派勢力が自由化・多様化をいっそう進めることによって民衆的基盤を広げたとき、はじめてリベラル左派連合による反転攻勢が成果を挙げることになるだろう」と書いている。学生運動の思想的な弱点をことさらに論ったり、教条的な思想にとらわれて他政党と連携しなかったりしている場合ではないわけである。

●参照
シンポジウム「グローバル時代にデモクラシーを再生できるか?」(中野氏の発言あり)
中北浩爾『現代日本の政党デモクラシー』
小林良彰『政権交代』
山口二郎『政権交代とは何だったのか』
菅原琢『世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか』
トマ・ピケティ『21世紀の資本』
デヴィッド・ハーヴェイ『新自由主義』
『情況』の新自由主義特集


ジョージ・フリーマン+チコ・フリーマン『All in the Family』

2015-08-08 06:50:11 | アヴァンギャルド・ジャズ

ジョージ・フリーマン+チコ・フリーマン『All in the Family』(Southport、2014-15年)を聴く。

George Freeman (g, vo)
Chico Freeman (ts, ss)
Kirk Brown (p, key)
Harrison Bankhead (b, vo)
Hamid Drake (ds, perc)
Reto Weber (hang, perc)
Mike Allemana (g)
Joe Jenkins (ds)
Joanie Pallatto (vo)

幾度となく父親のサックス奏者ヴォン・フリーマンとの共演を残しているチコだが、ヴォン亡き今、一緒にやろうと声をかけたのはヴォンの弟ジョージ・フリーマンであった。ずいぶん仲のいいファミリーだね。

チコのサックスは、いちど沈ませたような落ち着いたテイストで、極めてロジカルにソロを積み上げていく。もはや野心的な作品はないが、若いころの暴発力が姿を消しただけであり、昔も今も聴けばかれだとわかる個性がある。それが好きで、わたしも性懲りもなく聴き続けているわけである。これを偏愛という。

この盤も、要するに、他の盤と違う特徴が何かあるというわけでもなく、よくチコが演奏する「Angel Eyes」もオリジナルも含めてああチコの音楽だなと思うくらい。

●参照
チコ・フリーマン+ハイリ・ケンツィヒ『The Arrival』(2014年)
チコ・フリーマン『Elvin』(2011年)
チコ・フリーマン『The Essence of Silence』(2010年)
最近のチコ・フリーマン(1996, 98, 2001, 2006年)
サム・リヴァースをしのんで ルーツ『Salute to the Saxophone』、『Porttait』(1992年)
チコ・フリーマンの16年(1979, 95年)
ヘンリー・スレッギル(4) チコ・フリーマンと(1976年)