小林良彰『政権交代 民主党政権とは何であったのか』(中公新書、2012年)を読む。
著者は、政権交代の原動力を、自民党への懲罰だとする。ところが、何についての懲罰なのか明確でない。確かに、小泉政権以来の新自由主義政策による悪影響、そしてその不徹底だという指摘はある。しかし、それ以外については、支持率や状況の推移を追っていくのみであり、安部政権のイデオロギー的な危うさや、日米安保の行き詰った矛盾に関しては指摘されていない。
民主党政権に交代してからの分析結果は、マニフェストの実現がほとんど達成できていないことを明らかにする。その間の政局の解説は、まるで想いの全くない人が俗っぽい新聞記事を並べたようであり、他人事のようだ。
たとえば、普天間基地問題については、それが日米安保の歪んだ歴史のあらわれだということには全く想いを馳せず、鳩山首相の「みんなに良い顔をしようとする」欠点をあげつらう。決定力がないことを、政治的資質のなさだと切ってすてているわけである。そもそも矛盾だらけの構造を変えようとした点を、まったく考えていないのである。
また、領土問題を巡り、中国、ロシア、韓国に強硬的な行動を取られたことについては、米国との関係が希薄になったからだとする。「ほら、見たことか」と言わんばかりだ。短期的に米国の後ろ盾が弱くなったからなめられたのだ、というわけである。やはり、歴史的な経緯は著者には無関係のようだ。
前原外相に在日外国人からの献金があった問題については、それが少額であり、政局の中でことさらに問題視されたことは考えない。「問題になった」から、「問題」なのである。
菅首相が福島第一原発への海水注入を中断させたことは、現首相がメルマガで流した誤情報であることがすでに判っているが、前者のみを客観的であるかのように解説し、後者への言及はない。
何があったのかを振り返るには良い本かもしれないが、評価はしない。民主党ブレーンによって書かれたという点で毛色が違うが、山口二郎『政権交代とは何だったのか』(岩波新書、2012年)の方が遥かに良書だ。政局ばかりを述べて高みから現象を眺めるよりも、何を理想とするのかの想いが伝わってくるほうが良い。
最後に、「民意」を反映する選挙制度の提言がある。分析によれば、日本の有権者が投票に際して考慮しているのは、主に、候補者の所属する政党なのだという。そのため、比例代表制を中心とした制度にすべきだとする。これには賛成だ。もちろん、票の数をより反映させるためではなく、似通った二大保守政党以外の声を強くしなければならないからである。
●参照
○山口二郎『政権交代とは何だったのか』
○菅原琢『世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか』
○西川伸一講演会「政局を日本政治の特質から視る」