Sightsong

自縄自縛日記

ヘンリー・スレッギル(4) チコ・フリーマンと

2007-01-28 13:09:58 | アヴァンギャルド・ジャズ
ヘンリー・スレッギルによるエアー(AIR)のデビュー・アルバムは、1975年の『AIR SONG』(Whynot)である。スレッギルは、テナーサックス、アルトサックス、バリトンサックス、フルートを使い分け、それぞれ効果をあげている。

1曲目の「Untitled Tango」では、コールマン・ホーキンスばりに塩辛いテナーの音。それからタイトル曲「Air Song」では、悠然と(幽然と)、止めては進むフルートの曲で、時間の流れを管理してみせている。どこかで聴いたような感じだと記憶を辿ったら、それはマヤ・デレンによる実験的な映画、『午後の網目』(1943~59年)におけるテイジ・イトーの音楽だった。悪夢のリフレインも、雰囲気が似ている。



『AIR SONG』をプロデュースしたレーベル、Whynot は悠雅彦氏によってシカゴAACMのメンバーを中心に録音したシリーズである。翌76年にはチコ・フリーマンの処女リーダー作『Morning Prayer』をも製作しており、先見の明があったと言えるだろう。

きっかけは、1975年5月、悠氏がシカゴのサウスサイドで開催された「AACMジャズ・フェスティヴァル」にムハール・リチャード・エイブラムスの招きで参加した折、スレッギルとフリーマンとに注目したことであったという(油井正一によるチコ・フリーマン『Morning Prayer』解説)。そのフェスティヴァルのメンバーは、メールスやニッティング・ファクトリーなみの豪華さだ。

■第10回AACMジャズ・フェスティヴァル出演メンバー
▼チコ・フリーマン・ユニティ・マインド・アンサンブル
チコ・フリーマン、ヘンリー・スレッギル(reeds)、フランク・ゴードン(tp)、Adegoke(p)、レナード・ジョーンズ(b)、ベン・モンゴメリー(ds)、ドン・モイエ(perc)、エド・グリーン(vl)、G'Ra(vo)
▼ムハール・リチャード・エイブラムス・ビッグバンド
エイブラムス(comp, cond)、モーリス・マッキンタイアー、チコ・フリーマン、他3人(reeds)、不明5人(tp)、レスター・ラシュレー他3人(tb)、アミナ・クローディン・マイアーズ(p)、ドン・モイエ(perc)、他
▼ジョゼフ・ジャーマン・リターン・フロム・イクザイル
ジョゼフ・ジャーマン、チコ・フリーマン、ジェームス・ジョンソン、ヴァンディ・ハリス(reeds)、ヴェラ・セングスタック(harp)、マラカイ・フェイヴァース(b)、アイ・エートン(ds)、Iqua(vo)
▼アミナ&カンパニー
アミナ・クローディン・マイアーズ(p)、ヘンリー・スレッギル(reeds)、ラムリー・マイケル・デイヴィス(tp, p,vo)、マリリン・ロジャース(el-b)、Ajaramu(ds)、カヒル・エルザバー(perc)、不明3人(chorus)
▼フレッド・アンダーソン・セクステット
フレッド・アンダーソン、ダグラス・エワート(reeds)、ジョージ・ルイス(tb)、Salim(p)、フェリックス・ブラックマン(b, el-b)、ハンク・ドレイク(perc)、Iqua(vo)
▼ムハール・リチャード・エイブラムス・セクステット<エスカレーションズ>+3
エイブラムス(p)、モーリス・マッキンタイアー、ヘンリー・スレッギル、ウォランス・マクミラン、ヴァンディ・ハリス(reeds)、マラカイ・フェイヴァース(b)、Ajaramu(ds)+ビル・ブリムフィールド(tp)、ジョージ・ルイス(tb)、ドン・モイエ(perc)
▼ザ・ブラック・アーティスト・グループ・イン・シカゴ
▼AACMビッグバンド
1975年5月8~11日 トランジション・イースト(シカゴ)
(「ジャズ批評」27、1977 による)

チコ・フリーマンによる『Morning Prayer』(Whynot)にもスレッギルは参加している。それまでの間、エアーとしては、『Wildflowers』(Douglas)で1曲のみ参加、『Live Air』(Black Saint)、『Air Raid』(Whynot)を吹き込んでいる。

『Morning Prayer』のメンバーは、チコ・フリーマン(ts, ss, fl, pan-pipe, perc)、ヘンリー・スレッギル(as, bs, fl, perc)、ムハール・リチャード・エイブラムス(p)、セシル・マクビー(b, cello)、スティーヴ・マッコール(perc)、ベン・モンゴメリー(ds, perc)、ダグラス・エワート(b-fl, bamboo-fl, perc)。ここでもエイブラムスが独特の匂い漂うピアノで存在感を発揮している。チコは1949年7月17日生まれ、スレッギルより5歳半年下である。シカゴ出身ではないマクビーは「特別参加」であったが、これをきっかけに、チコと頻繁に共演することになる。

マルチリード奏者が2人参加したことにより、チコ・フリーマンとヘンリー・スレッギルの資質の違いがはっきり見えてくるようだ。チコはあくまでコード内で端正な(しかし、激しい)ソロをとる。スレッギルはコードからのアウト・インを繰り返すアナーキーさが持ち味である(特に「Like The Kind of Peace It Is」)。

また、ほかの聴きどころは「Pepe's Samba」。チコ自身もエルヴィン・ジョーンズをゲストに再演しているが(『Beyond The Rain』)、マクビーの『Compassion』でも演奏している。

これ以降、2人のインタラクションは、少なくとも録音上はない。資質の違いによるものだろうか。ただ、1986年のチコの『Live At The Ronnie Scott's』では、スレッギルの曲を1つ演奏している。

ともかく、チコ、スレッギル、それからエイブラムスという強烈な個性が揃った『Morning Prayer』は、その熱気と違和感とで特筆すべきものだと思う。



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