チコ・フリーマン『Elvin』(JIVE、2011年)を聴く。チコ・フリーマンが、エルヴィン・ジョーンズに捧げたアルバムである。
Chico Freeman (ts)
George Cables (p)
Lonnie Plaxico (b)
Winard Harper (ds)
Joe Lovano (ts) (only 1 and 7)
Martin Fuss (ts, bs, fl) (only 4)
一聴しての最大の印象は、何だか小さくまとまっていて、もはやチコには若い頃のような突破力は望めないのだなということだ。
確かに、端正にコード進行に沿って素晴らしいソロを積みかさねていく様子も、テナーサックスの独自の音色も、チコのものである。それでも、何かチコの真似をするチコのような感覚で、驚きも、鮮烈なヒットもない。もう仕方がないのかな。チコ・ファンとしては聴き続けるのだが。
ドラムスのウィナード・ハーパーも、当たり前のことではあるが、エルヴィンとは似ても似つかない。別に真似をすればいいわけでもないし、エルヴィンに音楽的に近いドラマーを連れてくればいいわけでもないのだろうが、それでは、このトリビュートアルバムは何なのだ。
曲は、意外にも、かつてチコがエルヴィンと共演したものというよりは、ジョン・コルトレーン、ジョー・ヘンダーソン、ウェイン・ショーターといった先達たちの演奏を題材にしている。「Inner Erge」など、曲がジョーヘン臭いので当然チコのテナーもジョーヘンぽく聴こえるが、そのうち、チコならではのソロを展開するのはさすがである。
この中で演奏している「The Pied Piper」は、同名のアルバム『The Pied Piper』(Black Hawk、1984年)で演奏された曲であり、チコと心が浮き立つようなアンサンブルを吹いたジョン・パーセルではなく、マーティン・ファスという別の奏者が代りを務めている。これはオリジナルのほうが断然良いかな。
エルヴィン・ジョーンズにサインをいただいた
『Elvin』には、付録として短いヴィデオが収められている。そこでも、チコが、エルヴィンはコンテンポラリーでのデビュー盤に参加してくれて、昔からの縁があるんだよ、などと語っている。そのアルバムが、『Beyond the Rain』(Contemporary、1977年)である。
これは、実は私の秘かな愛聴盤でもあって、改めて聴いてみると、若いチコの破天荒な勢いも、もちろんエルヴィンの音楽全体を包み込むような破格のドラミングも、ヒルトン・ルイスのモーダルなピアノもすべて素晴らしい。いまのチコと同じことも違うこともよくわかる。
できれば、ここで演奏されている「Two over One」(リチャード・ムハール・エイブラムスの名曲!)、「My One and Only Love」、「Pepe's Samba」あたりを、トリビュート盤でも取り上げてほしかった。と言いつつ、実際にいまの演奏を聴いたら失望するのだろうなという確信がある。
ヒルトン・ルイスにサインをいただいた
●参照
○チコ・フリーマン『The Essence of Silence』
○最近のチコ・フリーマン
○チコ・フリーマンの16年
○ヘンリー・スレッギル(4) チコ・フリーマンと
○サム・リヴァースをしのんで ルーツ『Salute to the Saxophone』、『Porttait』
○エルヴィン・ジョーンズ(1)
○エルヴィン・ジョーンズ(2)