Sightsong

自縄自縛日記

アクセル・ドゥナー + 今井和雄 + 井野信義 + 田中徳崇 『rostbeständige Zeit』

2010-03-25 01:02:31 | アヴァンギャルド・ジャズ

メンバーの組み合わせに目眩がして、珍しく予約をして入手した、アクセル・ドゥナー + 今井和雄 + 井野信義 + 田中徳崇 『rostbeständige Zeit』(doubt music、2008年録音)。

アクセル・ドゥナーを初めて聴いたのは、1996年にアレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハが率いるベルリン・コンテンポラリー・ジャズ・オーケストラ(BCJO)が来日したときだ。ただ、エヴァン・パーカー、ルディ・マハール、シュリッペンバッハなど他のプレイヤーの演奏があまりにも強すぎたためか、その際のドゥナーの印象は希薄だ。再びドゥナーの存在が浮上するのは、マハールと組んだ奇妙なユニット「失望」においてである。しかし、この盤の演奏を前にしては、「失望」の存在感も少し遠ざかってしまう。

ここでのドゥナーのトランペットは多様な技量の高さを見せる。それどころか、初めて聴く類の演奏もある。なかでも、水の中で吹くかのようなノイズには驚かされる。また、擦音のような静かなノイズを、定期的にぶつりぶつりとぶつ切りにしては、執拗に吹き続ける様は、まるでレコード盤の最後の無音部が繰り返しているかのようだ。1枚目の4曲目「if」では、この実験により、ターンテーブルとの共演とさえ紛ってしまうのだ。

興奮させられるのは1枚目の3曲目「or」だ。フリー・インプロヴィゼーションの醍醐味という面では、この曲が素晴らしいだろう。今井和雄のギター、井野信義のベースとの火打石同士の格闘であり、17分間、文字通り耳が離せなくなる。ただ、他の曲の緊張感も捨てがたいものがあり(実際に楽譜を確認する間もないぶっつけ本番のセッションだったようだが)、耳も意識も、脳も、鉱石のようなフラグメントと化す。鉱石のぎらぎらとした断面には、ときおり今井和雄のギター音がぎらぎらと反射する。

2枚目は「失望」でも演奏していたドゥナーの曲集である。私が聴き比べることができたのは、4曲目「viaduct」と6曲目「foreground behind」だ。あらためて「失望」を聴いてみて、この盤との演奏の違いが浮き上がってくる。「失望」はミニマルな音楽なのだ。閉ざされた空間における倒錯した片笑いなのだ。ルディ・マハールというもうひとりの個性との間に形づくられる磁場が、そのような独特な音空間を形成しているのかもしれない。一方、この盤の音楽は遥かに空中に開かれた系である。このことは、初回限定での付属盤に収録された、セロニアス・モンクの曲「Reflections」を、「失望」のモンク集と比較してみても、同様のことを言うことができる。(勿論、どちらが良いかという問題ではない。)

入手してから1週間以上が経ち、何度も聴いているが、そのたびに感嘆したり、意識がどこかに遠のいたりして、なかなか捉えられない。それは良い音楽だということだ。このメンバーによるライヴを観てみたい。

●参照
『失望』の新作(今の新作の前)
今井和雄トリオ@なってるハウス