四季の彩り

季節の移ろい。その四季折々の彩りを、
写真とエッセーでつづって参ります。
お立ち寄り頂ければ嬉しいです。

「高層の狩人」

2021年05月13日 12時47分42秒 | 短歌
 私は、1990年代の後半、構成メンバーが百二十名を越えるSE部隊を率いて、携帯電話iモード関連の
ビックプロジェクトの開発に、統括プロジェクトマネージャーとして取り組んだことがありました。
  iモードは今では当たり前のシステムですが、携帯電話を用いて、インターネットを経由し、 どこからでも
コンピュータに繋がる技術です。当時は世界でも初めての画期的な技術であり開発者としてもワクワクする
取り組みでした。

 3年余にわたった開発プロジェクトは、文字通り会社としても、私自身もビジネスマンとしての存在証明を
かけた業務でした。開発の最盛期には月曜に出勤し、土曜日に初めて家に帰れるような勤務状態で文字通り
「不夜城の城主」と揶揄されるような日々を経て何とか、開発を完了することが出来ました。
プロジェクト完成パーティーの席上、開発会社の代表一人として挨拶する場面がありましたが、
メンバーの晴れやかな笑顔に苦闘ともいえる日々が報われる想いがしました。



 開発の日々の中で、コーヒーブレークのひと時に、また、仮眠に入る前の業務日誌の作成時に、
システム手帳の片隅に短歌をメモることがありました。それはささやかな癒しであり、自らを
見つめなおすよすがでもありました。
 そんな短歌は、かつて所属していた短歌会の歌誌に断片的に載せたものもありますが、思い優先の
短歌としての完成度も低いことから省いたものも多々ありました。今回は当時の息吹を再現すべく
極力当時に詠んだままの原型を残し掲載したいと思います。



   ☆夕陽さえ足下に眺める錯覚に狎れゆく日々よ高層の罠
   ☆灯も消えぬ高層の街 開発の 闇にうごめく狩人の群れ
   ☆狩ることが狩られぬ保障となる街に 胸の痛みを奥に追いやり
   ☆先端の技術をめぐる情報戦 産み出す苦悩 勝る誇りも
   ☆25時 未だ消されぬ灯の下で まなこはらして開発を追う
   ☆先端の技術に挑む友の自死 引きずる影に無縁ならざる
   ☆挑みゆく相手失う技術者の 己に放つ矢の音を聴く
   ☆忘れがたきひとつの思い秘むるまま 窓を横切る流星(ほし)を見つめり

   ☆掠めるも刺さる事なき矢の音を 高層の闇 その底で聴く
   ☆繰り返す錯誤の果てに生まれくる技術は我らも蝕みてゆく
   ☆知能をも生み得る技術の開発は 神に挑みし修羅の荒野か
   ☆分秒の速さを競う開発に 我の魂も刻まれゆくか
   ☆裡に棲む修羅に挑みて夢紡ぐ 先端技術の諸刃見つめて
   ☆もの創る誇りも業(ごう)も呑み込みて今は阿修羅に成るほかはなし
   ☆100名を超えるメンバー率いるも リーダー我は孤独の淵に
   ☆振り向かばたった一人の石だだみ 滑る枯葉の音のみ響く

   ☆先端の技術を巡る暗闘の 日々に棄てたる想いぞ恋おし
   ☆先端の技術に挑む我らさえ その成果には 預かりもなく
   ☆荒みゆく心癒せとセントポーリア 君が形見は今も咲き継ぐ
   ☆人のもつ哀しみ奥に押し込みて何を拓(ひら)くやコンビュートピア
   ☆憧れも惑い希いも呑み込みて 望まぬ修羅の日々を疾(はし)らん
   ☆もの創る誇り支えに開発の 現場に一人 修羅として立つ
   ☆いのちをも人生さえも賭けてなお悔い無き仕事と つぶやきてみる
   ☆くちなしの匂い仄かに漂えり 眠り忘れし石の街にも
   ☆木枯らしの枯らす一樹も無き街に 夢の一つも温め行かん
   ☆温めし消し去り難き夢ひとつ お台場つつむ残照に顕つ
コメント (15)
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