うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

うめ婆行状記 

2016年05月15日 | 宇江佐真理
 2016年3月発行

 北町奉行所同心の夫を亡くした商家出のうめは、堅苦しい武家の生活から離れ、気ままな独り暮らしを楽しもうとするが…。
 笑って泣いて…。家族や夫婦の絆を描いた、著者の遺作となった長編時代小説。

うめの決意
うめの旅立ち
うめの梅
うめ、悪態をつかれる
盂蘭盆のうめ
土用のうめ
祝言のうめ
弔いのうめ
うめ、倒れる
うめの再起 長編

 醤油問屋・伏見屋の長女として生まれ たうめは、「合点、承知」が口癖のきっぷのいい性格。
 縁あって武家に嫁いだが、その、北町奉行同心だった夫・霜降三太夫を、卒中で亡くした後は、堅苦しい武家の生活から抜け出してひとり暮らしを始める。
 気ままな暮らしを楽しもうとしていた矢先、甥っ子の鉄平に隠し子がいることが発覚する。
 それが、思わぬ大騒動となり、渦中に巻き込まれたうめ。ひと肌脱ごうと奔走するのだが…。

 2015年に急逝した著者の遺作となる長編時代小説。これが宇江佐ワールド、最期となってしまった。
 そして読むに連れ、やはり人物描写力や情景を表現する言葉の美しさに感銘を覚えずにはいられない。
 解説にて、諸田玲子氏も語っておられるが、
 「そうは言っても人には寿命というものがある。この先、生きていても、いいことなど、それほどあるとは思えなかった。死にたくはないが、かと言って生きているのも、うんざりする思いだった」。
 この節に、歳を重ね、麓が見えてきた人間の心理を正に言い得ていると感じ入る。
 本作品は、未完のまま幕を閉じられたのは残念でならないが、憚りながら、最期の作品のテーマに宇江佐氏が書かれた意図が分かったような気がした。
 「普通のご飯が食べられるから、あたしの身体は治ったも同然ね」。
 主人公のうめの最後の言葉である。宇江佐氏が心から、言いたかった言葉ではないだろうか。
 もう、新たな宇江佐流・江戸には出会えない虚脱感に包まれている。

 宇江佐先生、先生のお陰で、時代小説の素晴らしさを知ることができました。ユーモアあり、ほろ苦さありの素晴らしい作品の数々をありがとうございました。
 御病状を把握しながらも、未来へと繋がる前向きな作品を書かれた先生に、今更ながら頭が下がります。
 最後になりましたが、心より御冥福をお祈り申し上げます。合掌

主要登場人物
 霜降うめ…北町奉行所臨時廻り同心・故三太夫の妻、大伝馬町・酢、醤油問屋・伏見屋の長女
 伏見屋佐平…伏見屋の主、うめの長兄
 伏見屋市助…馬喰町・伏見屋の出店の主、うめの末弟
 きよ…佐平の女房
 つね…市助の女房
 鉄平…佐平、きよの長男
 ひで…鉄平の女房
 鉄蔵…鉄平、ひでの長男
 霜降雄之助…北町奉行所定廻り同心、三太夫、うめの嫡男、
 霜降ゆめ…霜降雄の妻
 雪乃…雄之助、ゆめの長女
 美和…三太夫、うめの長女
 りさ…三太夫、うめの二女
 介次郎…三太夫、うめの二男
 宇佐美光江…三太夫の妹、北町奉行所同心・文右衛門の妻
 徳三…元指物師
 おつた…徳三の女房



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