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うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

明治・妖モダン

2013年09月08日 | 畠中恵
 2013年9月発行

 江戸が明治に改まって20年。煉瓦街が並ぶ銀座は、夜を照らし出すアーク灯が灯る東京でも一番のモダンな街へと変貌していた。
 そこにモダンとは掛け離れた、江戸の遺物のような、掘立小屋のような派出所があった。だが、それは建物だけではなく、明治の世では消えてしまったと思われている妖たちが跋扈していたのである。

第一話 煉瓦街の雨
第二話 赤手の拾い子
第三話 妖新聞
第四話 覚り 覚られ
第五話 花乃が死ぬまで 計5編の短編連作

主要登場人物(レギュラー)
 原田巡査...銀座煉瓦街四丁目・交差点派出所勤務の警官
 滝駿之介巡査...銀座煉瓦街四丁目・交差点派出所勤務の警官
 百木賢一(百賢)...銀座煉瓦街三丁目牛鍋屋・百木屋の主
 百木みなも...賢一の長妹
 百木みずは...賢一の次妹
 赤手...銀座煉瓦街三丁目裏路地・煙草商
 お高...三味線の師匠
 騙しの伊勢...詐欺師
 長太...かっぱらい

第一話 煉瓦街の雨
 雷神が怒りに任せて降らせているような雨の中、雨宿りに駆け込んだ銀座煉瓦街四丁目の派出所で、伊勢は、原田巡査から不思議な話を聞く羽目になった。
 それは、三丁目牛鍋屋・百木屋で起きた主の妹・みなもの勾引し事件であった。
 みなもは、四十にも手の届く待合茶屋の主・下谷から一方的に思いを寄せられ、目を見張る程の大粒のエメラルドのブローチを贈られていた。それをひと目にて原田巡査は、連続強盗殺人事件との関わりに気付き、捜査に乗り出すも、みなもは、警官に化けた見知らぬ男に連れ出され、忽然と姿を消したのだった。
 その後、木島は路上で頓死。それも鎌鼬(かまいたち)の仕業としか思えない死に様だった。そして、下谷は、濡女に掘りに引き込まれて水死したのだが、その濡女の顔が、みなもであった。そう言い残して、原田巡査と滝巡査の姿がふつりと消えた。
 すると、表から雨足が和らいだのを幸いに、原田巡査と滝巡査が派出所に戻って来たのだった。
 今さっきまで伊勢に話をしていた原田巡査は…。

主要登場人物
 下谷...銀座待合茶屋の主
 木島...下谷の用心棒

第二話 赤手の拾い子
 赤手が、迷子を拾ったと銀座煉瓦街四丁目交差点の派出所へ届けに来たが、何とその娘・おきめは、ダイヤモンドの粒を幾つも守り袋に収めていたのだ。
 派出所では預かれないので、役所の開く明日まで赤手に預かれと言われる始末。だが、男手ひとつでは子どもの面倒を見られる訳もなく、思い倦ねて百木屋へ預かってもらう事にする。
 だが、確か3歳くらいだったおきめが、僅かの時間に成長をしているではないか。もしやおきめの名は、鬼女からきているのでは…。

主要登場人物
 おきめ...迷子(?)
 丸加根...深川の金貸し

第三話 妖新聞
 羽の生えた三味線、人魚、妖刀などの記事を載せた妖怪記事が新聞を賑わせている昨今、江戸橋近くの河畔に、5人の老若男女の死骸が打ち上げられた。
 何事も妖騒ぎに結び付ける新聞記者の高良田に苦々しい思いを抱きながらも、原田巡査と滝巡査は、事件に駆り出され大わらわであった。
 そんな中、百木屋に集う常連たちが殺された人の身元を突き止めると、犯人から、新妻・靖子を拉致したとして、呼び出された原田が斬り付けられる。
 やがて稀代殺人犯・笹熊は服毒自殺を図り終結を迎えたかに思われたが、巡査らは、裏で糸を引くある人物に目星を付ける。

主要登場人物
 高良田...銀座・多報新聞社の記者

第四話 覚り 覚られ
 壮士に取り囲まれた男を助けた折り、頭を杖で殴られた滝。助けた男は代言人の青山と名乗り、某氏から、知り合いが「さとり」ではないかを探って欲しいと依頼されており、その探索を手伝って欲しいと言い出した。
 妖探しなど雲を掴むような話に巡査が手を貸す訳もないのだが、そんな最中に赤手が行方をくらませてしまう。
 旧知の赤手探しに乗り出した原田巡査と滝巡査ではあったが、執拗に青山も「さとり」探しと称して2人に食らい付くのだった。
 明治の今更「さとり」などといった妖を持ち出し、世論を集めようとする青山の言動に普請を抱く巡査たちは、その狙いが第一回衆議院議員選挙に関わりがあるのではないかと…。 

主要登場人物
 青山...免許代言人(弁護士)

第五話 花乃が死ぬまで
 沽券を引ったくられそうになった女・伊沢花乃が、銀座煉瓦通り四丁目交差点派出所で、滝巡査を見た途端に、20年前に悲恋に泣いた、滝駿之介ではないかと詰め寄る。容姿も瓜二つで名前も同じではあるが、年齢が合わず、思い違いであったと悟る花乃であった。
 だが、それからも花乃は2度命を奪われ掛け、それが花乃の財産を狙った者の仕業であると分かると、百木やに集う面々、特にお高が事の終結を急いだ方が良いと提言し、滝と花乃のロマンスを新聞社に売り込み、周囲の注目を集めさせるのだった。
 果たして花乃は、親族を名乗る者たちに襲われ、滝とお高の機転で事態をくぐり抜けるが、滝駿之介との恋には思わぬ結末が待っていた。

主要登場人物
 伊沢花乃...財産家の未亡人
 辰二郎...かっぱらい

 畠中氏得意とするところの、妖物が、時を江戸から明治に移しての登場。
 随所に、江戸と明治は地繋がり、時繋がりといった江戸の幻影をかんじさせつつ、近代化され、モダンな雰囲気漂う銀座煉瓦通りを舞台に繰り広げられる。
 だが、妖がメインではなく、飽くまでも表面上は噂なのである。妖を使って悪巧みを練ったり、己の不始末を妖に押し付けたりといった、明治ならありそうな江戸の名残り。
 ただし、それだけでは終わらない。実は…。やはり妖は身近にひそみ、普通に暮らしているのでは…といった不可思議を含んでいるのだ。
 その序章として「第一話 煉瓦街の雨」の終焉で、不思議な出来事を持ってきておいて、「第二話 赤手の拾い子」では、「やはり」を思わせる。ただ、この話の中で、ダイアモンドの別けに触れていないのが、残念だが。
 そして、「第三話 妖新聞」では、思いも掛けないどんでん返しで、妖がクローズアップ。
 「第四話 覚り 覚られ」、「第五話 花乃が死ぬまで」では、次第に素性が明かされていくのだが、未だ未知なるレギュラー陣もおり、続編へ続くかと思われる。
 また、「第三話 妖新聞」にて、「アイスクリン強し」のミナ(皆川真次郎)と思われる人物が作った菓子も登場し、ファンの心を掻き立ててくれるのだ。
 全般に面白く、一気に読ませていただいたが、想像力を掻き立てられたのは第三話までで、そこからは、トーンダウンを感じた。
 それは当方が勝手に、滝巡査の正体を「しゃばけ」シリーズの仁吉(白沢)に重ね合わせていたからだろう。
 それも、雑誌「yom yom」に読切りで書かれた「えどさがし/しゃばけ」では銀座煉瓦街へと若旦那探しに仁吉が現れると、いった内容と見知っていたので、同作品も収録されていると勝手に勘違いしていた次第。
 巡査の中に、「アイスクリン強し」の若様組などが登場したら楽しいのだが。是非ともそんなジョイントを期待して止まない。
 また、登場人物のキャラが、ほかの作品と比べ、薄くも感じた。
 「えどさがし」の書籍化をご存じの方、是非、ご一報くださいませ。


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たぶんねこ

2013年07月23日 | 畠中恵
 2013年7月発行

 大妖である皮衣を祖母に持つ事から、妖や付喪神が見えるが、滅法身体の弱い若旦那と、若旦那命の妖たちが織りなすファンタジー小説第12弾。


跡取り三人
こいさがし
くたびれ砂糖
みどりのたま
たぶんねこ
終 計5編の短編連作

跡取り三人
 長崎屋の主・藤兵衛に連れら、大商人たちの集まりに顔を出した一太郎。そこには同じように大店の跡取りである幸七と小一郎も同席していた。
 すると、任侠の大親分である大貞が、誰が一番、金子を稼ぐことができるのか、勝負をしようと持ち掛け、一太郎たちは、大貞の家に住み込んで仕事探しに精を出すのだが、兄探しを武家の娘に頼まれた小一郎が、剣呑な目に合わされたのきっかけに、一太郎たちの仕事は、思わぬ方に転がり出すのだった。
 「まんまこと」シリーズでお馴染みの、両国の貞こと両国の顔役・貞吉の父親・大貞が登場。という事は、「まんまこと」の麻之助、清十郎、吉五郎らと若旦那は、同時代のほぼ同世代。どちらかの物語中、是非ともジョイントして欲しい。

こいさがし
 一太郎の母・おたえは、行儀作法を仕込むべく、於こんという娘を預かった。於こんの目的は玉の輿ににあるのだが、家事は元より裁縫も何もかも不慣れな於こんは、おてつにみっちりと鍛えられている。
 そこに、先達ての大貞が、仲人をして仲介料を儲けると意気込んでいると、困り果てた富松がやって来た。時をおかずに、今度は河童の大親分・禰々子が、娘ひとりに相手2人の見合いを仕切って欲しいと持ち込んで…。
 富松の仕切る見合いには、情婦(いろ)が乗り込み、禰々子の方は、ひとり目の相手と手に手を取り合って消えていく…。

くたびれ砂糖
 安野屋で修行中の栄吉が、砂糖を買い求めに長崎屋を訪れた。伴っていた小僧・平太の態度の腹を立てた妖たちが、栄吉の行李に潜り込み、安野屋へ行ってしまったから大変。事が起こる前に妖たちを連れ戻さなければと、一太郎も安野屋へと向かった。
 件の安野屋では、主夫妻に番頭の3人が病いで倒れ、その病状が次第に進むといった問題を抱えていた。医者の処方した薬を手に、仁吉は、何かほかの物が混入していると見抜く。しかしてその犯人とは…。

みどりのたま
 頭を打ち川に落ちて記憶を失った仁吉。いつの間にか医者に間違われ、病いの老人・古松を診るはめに。だがその老人は、なぜか仁吉を白沢と呼び、旧知の仲らしい。実は古松は、荼枳尼天の庭に住まう妖狐であったが、江戸の出て来たまま戻る術を失ったのだと言う。
 古松を荼枳尼天の庭まで通じる道へと戻す為に仁吉は、記憶が戻らないまま奮闘するも、掏摸や仁吉を敵対視する妖狐の仲間に付け狙われる。 

たぶんねこ
 天界で荼枳尼天の庭にいた、幽霊の月丸が、どうしても江戸に帰りたがっていると、見越の入道が長崎屋に現れた。件の月丸は、見越の入道の巾着に中に封じ込められていたのだが、ふとした弾みで一太郎もその中に。
 夜半の江戸を彷徨いながら、月丸の江戸での望みを叶えようと、一太郎は手助けを買って出るも、巷を賑わす盗賊の刃傷沙汰を目撃したことから、追われる羽目になる。
 
 ど素人がプロの作家さんに対して甚だ生意気ではあるが、畠中恵氏は、この2~3年、見違えるくらいに腕を上げた。デビューから作風は面白く、そして楽しめているが、近年は洗練されかつさらに読み易く感じる。
 本作品は、仁吉、佐助といった準主役の出番が少なく、一太郎と新たな登場人物のかけあいが多く、ある意味で、シリーズの脱却…いや違う、シリーズの方向転換か…。マンネリを防ぎ(これまでもマンネリ感はないが)、新たなステージに入ったのではないだろうか。
 とにかく畠中氏の作品は読み易いのが特徴的であり、かつ飽きもこず、読み人を選ばないのだ。
 人気の同シリーズも既に12冊目となるが、一太郎の魅力には増々磨きがかかったようである。
 惜しむらくは、連作当初からの妖たちの出番がめっきり減ったことと、「ころころり」のようなほろ苦いストーリがみられないことである。

主要登場人物
 一太郎...日本橋通町廻船問屋・薬種問屋長崎屋の若旦那
 仁吉(白沢)...妖、薬種問屋長崎屋の手代
 佐助(犬神)...妖、廻船問屋長崎屋の手代
 おたえ...一太郎の母親 
 藤兵衛...一太郎の父親、長崎屋の主
 皮衣(ぎん)...一太郎の祖母、妖
 おてつ...長崎屋の下女
 久郎兵衛...長崎屋の番頭
 屏風のぞき...付喪神
 鳴家(小鬼)...妖
 鈴彦姫...付喪神
 金次...貧乏神
 おしろ...猫又
 お獅子...付喪神
 見越の入道...大妖
 野寺坊...獺の妖
 禰々子...関東河童の大親分
 美春屋栄吉 日本橋菓子屋の嫡男(安野屋で修行中)、一太郎の幼馴染み
 寛朝...上野広徳寺の僧侶
 秋英...上野広徳寺の僧侶、寛朝の弟子
 本島亭場久...貘の妖、噺家
 武蔵屋幸七...日本橋塗物問屋の嫡男
 松田屋小一郎...江戸橋煙管問屋の嫡男
 大貞....両国の顔役(「まんまこと」シリーズから)
 富松...大貞の子分(「まんまこと」シリーズから)
 於こん...金狐
 平太...団子屋の息子、安野屋の丁稚  
 梅五郎...箱屋橋田屋の三男、安野屋の丁稚
 文助...表具師の息子、安野屋の丁稚
 月丸...幽霊




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ときぐすり

2013年05月31日 | 畠中恵
 2013年5月発行

 お気楽な、名主の跡取り麻之助と、家督を継いで名主となった清十郎。そして八丁堀見習同心の吉五郎。3人の悪友たちが繰り広げる人情物語「まんまこと」シリーズ第4弾。

朝を覚えず
たからづくし
きんこんかん
すこたん
ともすぎ
ときぐすり
朝を覚えず 計7編の短編連作集

朝を覚えず
 妻のお寿ずを亡くしてから1年、未だ本来の姿には程遠い麻之助は、清十郎から眠り薬を巡る騒ぎの相談を受ける。
 太源という若い医者が処方した眠り薬を飲んだ人が死亡したり目を覚まさなくなったり…。飲んだ人によって効能が違うばかりか一服の分量にも違いが。
 麻之助、清十郎は、我が身を張った危険な手段で薬の謎を解明する。

たからづくし
 親類たちから縁組みを強く迫られたその日、清十郎はその場から飛び出したまま、姿を消した。清十郎を探す麻之助と吉五郎だったが、両国の貞が、金貸しの丸三が、見目麗しい武家娘に熱を上げていると聞かされ、同時にその娘を探って欲しいと頼まれる。

きんこんかん
 両国広小路の小屋掛けで、3人の見目麗しい娘が営む菓子屋が繁盛していた。男たちは娘目当てに店に通うも、娘たちの目当ては吉五郎にあると言う。それを両国の貞から聞かされた麻之助だっが、吉五郎の身持ちの固さを思うとにわかには信じ難い。
 娘3人の吉五郎を巡るバトルには絡繰りがありそうだと、麻之助は貞の父親である元締め・大貞を巻き込み采配に出る。

すこたん
 菓子を食べるとき不可欠なのは、皿か、それとも茶か。 瀬戸物問屋・小西屋彦六と茶問屋・増田屋久七の跡取り息子同士の下らない裁定をすることになった麻之助。だが、その背後には茶屋娘を巡る恋の鞘当てがあった。
 因果を含め争いを終わらせた麻之助だが、しばらくすると、いわくつきの娘・緒すなの高額の持参金を巡る縁組にて、またも両家は歪み合う。
 緒すなに相応しい縁組みとは。麻之助は、彼女の気質・条件を考慮し、鼈甲櫛笄商・辰巳屋春之助に妻合わせてはどうかと…。

ともすぎ
 吉五郎が足繁く市谷御門へ通っていると耳にし、麻之助と清十郎、金貸しの丸三は真意を確かめるため、市谷御門へと赴く。そこで出会った徒目付組頭の村井新左衛門に案内されたのは、彼の許嫁の三吉潤。嫁入り前に小太刀を習いたいと言う潤に義父・小十郎の命で吉五郎は指南をしていたのだった。
 一方で、武家たちが出世のために、金貸しを仲立に上役に賄賂を送っている事を探る吉之助。その矢先、丸三が忽然と消えた。
 丸三の行方を追う、3人。果たして意外な人物が浮かび上がる。

ときぐすり
 愛猫・ふにが、高い木から降りられなくなり難義しているところを、北国から江戸にやって来たばかりの少年・滝助に救われた。
 ひょんな出会いから麻之助は、滝助の身の振り方に手を差し伸べる運びとなる。
 麻之助は滝助を、糊売りの老婆・むめに預け、独り暮らしの袋物師・数吉親方の飯炊きをさせる。
 だが、滝助の生い立ちは、孤児だったところを掏摸に拾われ、盗賊の手下として飯炊きをしていたというものだった。折しも、北国での検挙を逃れた盗賊の一味が江戸に潜伏。
 そしてついにある夜、盗賊たちが滝助の元にやって来た。

 畠中氏の作品の中で、一番好きなシリーズの待ちに待った新作。胸を躍らせながら読んだ。そして期待を裏切らない素晴らしい内容であった。
 シリーズ開始時は、お由有に淡い恋心を抱いていた麻之助だったが、寿ずを娶り子が授かり幸せが続くと思われた矢先に、産褥から母子共に鬼籍に入る。
 そして、その傷を癒しながら、友情、町名主としての責務に関わるといった内容である。
 そんな中、やはり麻之助も物語も成長し、関わる人物も変わってきた。吉五郎の姪に当たるおこ乃との今後の進展を匂わせながら、高利貸し・丸三や両国の貞との繋がりが全編に広がる。
 「すこたん」と「ともすぎ」に関しては、詰め込み感が多少否めなくもあるも、全体を通し、ふんわりと柔らかい麻之助ワールドに、江戸を背景に見る事が出来る作品である。
 また、本作品から吉五郎の養子先の様子も少しづつ描かれ、義父・小十郎に関してはかなり魅力的なキャラに仕上がっているため、今後のシリーズに顔を出し、関わっていく事を感じさせる。
 畠中氏の作品は、登場人物を頭の中で整理し易いのも特徴的で、よって物語に入り込むのが容易である。
 発売から未だ幾日を過ぎていないので、結末などは伏せておくが、この一冊から読み始めても、前作までの流れを掴め、更には前作を読みたくなる事は必須だろう。
 今後も、同シリーズの更新を望んで止まない。
 畠中氏と言えば、「しゃばけ」シリーズが余りにも有名だが、未だ氏の作品を読んだ事のない方には、この「まんまことシリーズから入る事をお勧めしたい。今回は切なさの募る話や、ほろ苦さは含まれていなかったが、寿ずを失った麻之助の描写は、シリーズ中でも畠中氏の作品中でも、3本の指に入る巧さである。同シリーズには、決して裏切らない面白さがある。

主要登場人物
 高橋麻之助...神田の古町名主宗右衛門の総領息子
 八木清十郎...隣町の町名主
 相馬吉五郎...北町奉行所見習同心
 宗右衛門...神田の古名主、麻之助の父親
 おさん...麻之助の母親
 故・野崎寿ず...麻之助の妻、吉五郎の遠縁
 お由有...清十郎の義母、故・源兵衛(清十郎の父親)の後妻
 幸太...清十郎の義弟
 おこ乃...吉五郎の姪、寿ずの又従姉妹の娘
 貞吉(両国の貞)...両国の顔役、物売り
 大貞....両国の顔役、貞吉の父親 
 丸三...神田の高利貸し
 庄吉...丸三の手代
 相馬小十郎...北町奉行所定町廻り同心、吉五郎の義父
 相馬一葉...小十郎の娘、吉五郎の許嫁
 みけ(八木家)、とら(相馬家)、ふに(高橋家)...兄弟猫




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つくもがみ、遊ぼうよ

2013年04月18日 | 畠中恵
 2013年 3月発行

 付喪神となり、話したり動き出したりする古道具たちと共に暮らす、古道具屋兼損料屋の出雲屋のちょっぴり不思議なファンタジー小説「つくもがみ貸します」の第2弾。


つくもがみ、遊ぼうよ
つくもがみ、探します
つくもがみ、叶えます
つくもがみ、家出します
つくもがみ、がんばるぞ
終           計5編の短編連作

 出雲屋の清次・お紅夫妻の、11歳になるひとり息子(長男・長女は夭折)十夜。近所に住む、幼馴染みの市助・こゆりと寝起きも食事も一緒にする間柄。
 そんな子どもたちにとって、出雲屋の付喪神たちは恰好の遊び相手である。
 気位高く、人とは直接話をしなかった付喪神たちであったが、相手が子どもでは、投げられたり、振り回されたりで、たまらずに悲鳴を上げ、いつしか子どもたちは元より、清次・お紅とも会話を交わす間柄となっていた。そして、子どもたちが巻き込まれる謎を解き、彼らの身を守ろうとするのだった。

つくもがみ、遊ぼうよ
 出雲屋の新参者・付喪神そう六の絵双六が、羽子板の胡鬼に乗っ取られ、十夜たち3人は双六の中に閉じ込められてしまった。
 そこから抜けるには、胡鬼の羽子・無患子と羽子板対決に勝たなければならない。
 羽子・無患子から、実に覚えの無い恨みを勝ったそう六のために、十夜と付喪神たちは、羽子・無患子の持ち主である伊勢屋のお三津の元を訪れ、その悩みと不安を解消する。

つくもがみ、探します
 出雲屋の付喪神たちが、突如現れた雛道具の付喪神たちと一戦を交える覚悟で出雲屋の2階に集結する一方、大人たちは、近頃、怪異が起きた後、盗賊に襲われる事件が続いていることから、夜は、十夜のみならず、清次とお紅もすおう屋か鶴屋に非難するように勧める。
 札差・大久屋が、深川の寮に雛人形を集めていると、噂を耳にした3人は、早々忍び込むのだが、そこは盗賊の隠れがとかし、大久屋共々人質にされてしまう。
 
つくもがみ、叶えます
 絵双六の独楽の付喪神と、独楽対決に挑むことになった十夜たち3人。
 そんなある日、近くの神社に菓子や玩具を供え詣でると、探しものが見付かると噂になっていた。
 先の一件で知合った、分限者の大久屋が、番小屋で山ほどの菓子を買い求め、どこぞに出掛けているらしい。
 実は、独楽の付喪神が欲に駆られて、勝手にお告げをしていたと知る。

つくもがみ、家出します
 絵双六の子とろ子とろ遊びで、十夜らに負けた付喪神たちは、腹いせに書き置きを残して家出を企んだ。
 目的地は御蔵蔵前・札差の大久屋である。だが、行き着いた先は、大久屋の甥であり、その財産を狙う甥の高国と孫四郎の元であった。彼らの良からぬ企みを知り、付喪神たちは必死で深川の出雲屋に帰ろうとするのだった。

つくもがみ、がんばるぞ
 願掛けをしていた行方知らずの娘・お兼が見付かり、大久屋は、霜降を崩しお兼を可愛がっている。
 そんなお兼が、十夜に「捨て子だ」と唐突に告げるのだった。清次とお紅は、十夜にその事実を告げなくてはならなくなった。そして十夜は、幼い心を痛める。
 それは、端から身代わりと承知していたお兼が、十夜こそ大久屋の実の子ではないかと勘ぐった妬みからであった。
 そしてお兼を担ぎ出し、大久屋の身代を狙う、高国と孫四郎ら親族によってお兼の身が危うくなり、寸でのところで十夜らと付喪神たちが身を救うのだった。

 面白い。独立した「つくもがみ、遊ぼうよ」として読んだ時には、毎章、子どもたちが双六の対決を絡めながら折り重なる事件を解決していく展開である。
 ただ、「つくもがみ貸します」の続編として期待していた時には、明らかにトーンが違い過ぎて清次・お紅の登場の少なさ(特にお紅)に残念な思いが残ってしまった。
 僭越ながら、畠中氏は、大分腕を上げてきたと感じる。物語自体は本当に面白く、計算されて書かれているのだ。
 十夜が実は大久屋の探し求める、実子ではないかといったニュアンスも最期まで残しながらも、清次・お紅がどれだけ彼を大切に実の親子以上に思っているかなど、出来事に情を絡めている。
 序章から十夜を拾いっ子ではないかと匂わせておいて、大久屋の登場と、彼の子探し。だが、その子は偽物であることが分かりながらも、もしやといった匂いを終章まで感じさせながらも、明らかにはせず、引っぱりながら読者の想像意識を書き立てると技法はお見事である。
 そして、前作との繋がりを後半、市助の父親であるすおう屋佐太郎が、実は前作でお紅と曰くのあった元日本橋唐物屋飯田屋の総領息子であることも明かしている。
 ただ、付喪神と子どもたちの関係など、全体のトーンが「しゃばけ」シリーズに類似していたのが気に掛かる。
 続編は難しいだろうと思われる作品であった。

主要登場人物
 十夜(とおや)...清次・お紅の二男
 市助...すおう屋の三男、十夜の幼馴染み
 こゆり...鶴屋の長女、十夜の幼馴染み
 出雲屋清次...深川・古道具屋兼損料屋の主
 お紅...清次の女房
 すおう屋佐太郎...深川・小間物屋の主、元日本橋唐物屋飯田屋の総領息子
 鶴屋平助...深川・料理屋の主
 お春...平助の女房
 大久屋...御蔵蔵前・札差の主
 そう六...絵双六の付喪神
 羽子・無患子...羽子板の胡鬼
 野鉄...蝙蝠の根付けの付喪神
 月見夜...掛け軸のの付喪神
 うさぎ...櫛のの付喪神
 猫神...猫の根付けの付喪神
 利休鼠...鼠の根付けの付喪神
 裏葉柳...青磁の香炉に身を代えた男
 五位...煙管の付喪神
 黄君...琥珀の帯留の付喪神
 お姫...姫様人形の付喪神
 唐草...金唐革の紙入れの付喪神
 青海波...守袋の付喪神




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けさくしゃ

2012年12月10日 | 畠中恵
 2012年11月

 腕っぷしは弱いが、趣味人としてたいそう名高い粋な、旗本の殿様・高屋彦四郎が、強欲だが目利きな版元・山青堂山崎平八に乗せられ、ついつい戯作を手掛けた事で、身に降り掛かった難題を、戯作仕立てで謎を解く新感覚時代ミステリー。

戯作の序 これより、始まり、始まり、となりまする
戯作の一 運命の者、歩いて玄関よりいたる
戯作の二 世の中、義理と付き合いが、山とありまして
戯作の三 羨ましきは、売れっ子という名
戯作の四 難義と困りごとと馬鹿騒ぎ
戯作の五 いや、恐ろしき
戯作の六 明日が知れぬ世であれば
戯作の終 これにて終わりますると、ご挨拶申し上げ 計6編の短編連作

戯作の一 運命の者、歩いて玄関よりいたる
 狂歌連で披露した話が、版元・山青堂山崎平八の目にとまり、戯作を書かないかと申し込まれるが、時を同じくして、山青堂手代の長介が、将来を誓い合ったお仙という娘に、団子屋を開くための金子を預けたと聞いて…。

戯作の二 世の中、義理と付き合いが、山とありまして
 彦四郎が説いたお仙、孝三、長介の恋の顛末を、山青堂が勝手に描いて狂歌連に持ち込んだが、評判は芳しくないと聞き、彦四郎の戯作魂に火が付いた。ついに「恋不思議江戸紫」として読本の世界に飛び込むはめに。

戯作の三 羨ましきは、売れっ子という名
 市井で大ベストセラーの「御江戸出世物語」を夫婦で楽しみに読んでいた彦四郎だったが、決して正体を現さないその戯作者が、あろうことか、妻の勝子であると風評が立ち、愛妻の危機とばかりに彦四郎は正体を突き止めようと…。
 
戯作の四 難義と困りごとと馬鹿騒ぎ
 彦四郎の戯作「恋不思議江戸紫」が、重版(海賊版)だと、大坂の版元・一角屋から訴えられた。一方桂堂は、身に覚えのない娘のことで末吉と名乗る男から揺すられる。

戯作の五 いや、恐ろしき
 北町同心の柳十郎兵衛の訪いで、彦四郎が湯屋で御政道を批判する戯作を語った咎があると告げられる。また、絵師の葛飾北松、桂堂、一角屋の番頭らが獄門になったと噂が立ち、大身旗本の石川伊織が不貞の輩に襲われるなど、彦四郎の回りが物騒になっていった。

戯作の六 明日が知れぬ世であれば
 売れ行きがさっぱりだった「恋不思議江戸紫」が、急に再販に次ぐ再販で、彦四郎(夏乃東雲)は、時の人となった。訳は川原崎座の芝居に掛ったことからであった。芝居小屋に脚を運んだ彦四郎、山青堂らがいる場で、看板女形の桜月が何者かに殺害され、彦四郎、山青堂に嫌疑が掛る。

 長編合巻「偐紫田舎源氏」などで知られる江戸時代後期の戯作者・柳亭種彦が、葛飾北斎画で読本「阿波之鳴門」を執筆する前(世に出る前)の、暇を持て余していた旗本の殿様だった頃が背景のフィクション小説。
 身に降り掛かる災難を、戯作にして謎を解いてくといった新しいタイプのミステリーである。
 畠中氏の物語の主人公は、病弱であったり、柔和であったり、どこか頼りなげでありながらも、頭の切れが素晴らしいといった人物が多く、スーパーヒーローではい。
 この度も、旗本の殿様で、かつ見た目は申し分ないのだが、小普請組でお役目はなく、身体も弱く、腕っ節はからっきし。そして何より愛妻家である。
 魅力的な主役の回りを固めるのは、これまた彦四郎をして言えば、「狸」の山青堂。抜け目がなくどこか寝穢く、だがそう悪い人間ではない、芯から憎めない男と、殿様に対しても遠慮のない中間・善太。
 殿様を補うべく、この善太の多彩振りが物語中盤からの山場になる。
 読み終えて、ベストセラー作家の畠中氏に対して、僭越ではあるが、「幅が広がった」と感じている。
 読み易さも入り込み易さも、相変わらずの巧さなのだが、言うなれば、これまでの読者層よりも幾分年齢高めの、時代小説ファンにも十分に楽しめる作品であった。
 謎解きも、彦四郎の戲作といった想像上で進行するのだが、それに無理もなく自然に受け入れられる。
 「しゃばけ」シリーズや「まんまこと」しりーずも勿論、畠中氏は一編だけの物語にも印象的な作品が多いのだが、残念ながら続編は描かれていない。「けさくしゃ」に関しては、シリーズ化も可能な題材だと思えるのだが如何なものであろうか。

主要登場人物
 高屋彦四郎知久(夏乃東雲、柳亭種彦)...小普請組旗本、戯作者
 勝子...彦四郎の妻
 善太(滝川善治郎)...高屋家中間、徒目付
 山青堂山崎平八...地本問屋の主
 長介...山青堂の手代
 桂堂...地本問屋の主
 石川伊織...大身旗本
 直子(覆面頭巾)...伊織の妻、戯作者  



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つくも神さん、お茶ください

2012年07月10日 | 畠中恵
 2009年12月発行

 2006~2009年までの、書評や解説に書き下ろしを纏めたエッセイ集。

木の道に足を踏み入れたる あらまあ
読んだ観た聴いた 最後に食べた
まよえるこひつじの度胸
あじゃれ よみうり

 畠中さんは畠屋と名乗り、時代風の言い回しで文章を綴っている。本当に江戸が好きなのだなあと実感。
 そして幼い頃から好きだった本や、立ち寄った江戸の名残や中国美食旅行なども書いているが、畠中さん曰く、自分自身について書く習慣がないと、最初に断りを入れているだけあり、著者の感情があまり表現されておらず、素顔を垣間みるような内容ではない。
 また、江戸に拘りはあれど、淡々と起伏なく進む文章が、一連の時代小説のような光を感じられなかった。
 思うに、ベストセラー作家の本なら売れると見込んだ編集が持ち掛けたは良いが、新作を書いている時間がない。ならばエッセイはどうか? と持ち掛けられたのではないだろうか。
 足りない分は書評で補っている感が否めない。

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ひなこまち

2012年07月01日 | 畠中恵
 2012年6月発行

 大妖である皮衣を祖母に持つ事から、妖や付喪神が見えるが、滅法身体の弱い若旦那と、若旦那命の妖たちが織りなすファンタジー小説第11弾。

ろくでなしの船箪笥
ばくのふだ
ひなこまち
さくらがり
河童の秘薬 計5編の短編集

ろくでなしの船箪笥
 唐物屋小乃屋の七之助、冬吉兄弟が祖父の形見として受け取った船箪笥。だが、仕掛けがあるらしく引き出しを開ける事が出来ず…。

ばくのふだ
 怪談で人気の落語を聞きたいと、一太郎は妖たちと寄席に出向いたが、なんとその場で噺家に刃を向けた侍が…。一太郎は騒動に巻き込まれるのだった。

ひなこまち
 浅草の人形問屋平賀屋が、美しい娘ひとりを選び、その面を手本とした雛人形を作り、去る大名家に献上すると言う。娘たちは雛小町の選ばれようと、奇麗な着物を買いあさる中、仁吉と屏風のぞきは、売り物を盗まれた古着売りの娘に出会う。

さくらがり
 上野広徳寺に花見に行った一太郎と妖たち。そこに関東河童の大親分の禰々子が、河童の秘薬を携えて一太郎を訪った。秘薬のひとつ、惚れ薬の飲み込んだ着物や仏具が暴れ出し…。
 
河童の秘薬
 河童の秘薬を分け与え、それを飲んだと言う武家の奥方が長崎屋を訪ねた。だが見知らぬ子が迷い込んだ事から、一太郎は子を預けに自身番へと向かうが、どうも何時もの町と何かが違っている。

 今回は手法が違っている。まず冒頭で、指物師が忘れて行った「お願いです、助けてください」。5月10日までに助けて欲しいという木札を上げながら、それには触れずに雛小町の番付作りをバックグラウンドに、違った内容の事件が続く。
 だが、この木札と番付はメインテーマにならないまでも、全編に引っ掛かりを示す。
 さらに「ろくでなしの船箪笥」が、「さくらがり」へと繋がりを持ち、全てが明らかになる「河童の秘薬」まで、短編集でありながら、繋がりがあるといった手法である。
 そして、2作前の「ゆんでめて」。こちらは、弓手と馬手を取り違えたばかりに起きた、歪んだ空間の話であったが、最後に起動を戻した為、この1冊での過去は消えていた。だが、何かがふと気に掛かるといった設定で、今回、キーワード的な役目を果たしている。
 胸にジーンとくるような話は織り込まれてはいないが、組み立ては見事。僭越ながら文体も最初の頃から比べ、畠中さん腕を上げられたと感じた。「ゆんでめて」から書き方が変わったように思える。
 著者自身、ストーリ作りに苦心されているのか、今回は、一太郎の両親の藤兵衛、おたえ。兄の小間物屋青玉屋の主の松之助、それに幼馴染みの子屋三春屋の栄吉といったこれまでのレギュラーの出番はない。
 また、そろそろ正三郎とお雛の祝言話が絡んでくるかと思われたが、材木問屋中屋の於りん、紅白粉問屋一色屋のお雛ら準レギュラーの登板もなかった。
 新顔の本島亭場久(貘)のキャラが立っているので、彼は今後も登場しそうである。惜しむらくは謎解きが浅いが、何はともあれ、増々読むのを止められないシリーズである。

主要登場人物
 一太郎...日本橋通町廻船問屋・薬種問屋長崎屋の若旦那
 仁吉(白沢)...妖、薬種問屋長崎屋の手代
 佐助(犬神)...妖、廻船問屋長崎屋の手代
 おたえ...一太郎の母親 
 藤兵衛...一太郎の父親、長崎屋の主
 屏風のぞき...付喪神
 鳴家(小鬼)...妖
 鈴彦姫...付喪神
 日限の親分(清七)...岡っ引き
 金次...貧乏神
 
 おしろ...猫又
 お獅子...付喪神
 権蔵...狸の妖
 禰々子...関東河童の大親分
 七之助...瀬戸物町唐物屋小乃屋の総領息子
 冬吉...小乃屋の次男
 寛朝...上野広徳寺の僧侶
 秋英...上野広徳寺の僧侶、寛朝の弟子
 本島亭場久...噺家、貘
 於しな...日本橋古着売り太吉の娘
 安居...某藩武士(大名)
 雪柳...安居の妻
 義之助(仮名)...迷い子
 


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ちょちょら

2012年06月08日 | 畠中恵
 2011年3月発行

 「ちょちょら」。弁舌の立つお調子者。いい加減なお世辞。調子の良い言葉。
 自刃した兄千太郎の後を継ぎ、困窮する弱小藩の江戸留守居役を仰せつかった間野新之介だが、想像以上に、留守居役の役目は重く…。
 新米留守居役と、それを取り巻く留守居役の組合の面々とが織り成す笑いの新感覚時代小説。


第一章 新米留守居役
第二章 思い、思われ
第三章 月下をゆく
第四章 お手伝い普請
第五章 印旛沼藩
第六章 菓子と金
第七章 嫁
第八章 黒雲
第九章 明日はくるか(長編)

 留守居役の役目は、幕府から仰せつかる「お手伝い普請」から逃れるため、情報を集め、独自のつてを得る事にある。
 亡くなった兄に代わって留守居役を拝命したものの、自他共に認める平々凡々な新之介には、重い役目だ。
 同じ組合の岩崎始め、諸先輩に鍛えられる日々であった。そんな最中、藩の存続を揺るがすほどの、普請事業が計画されていると知り、新之介は奔走する。
 果たして「お手伝い普請」から逃れる事は出来るのか。多々良木藩の運命は…。

 所謂賄賂やコネといったものを大っぴらにしながら、小藩の弱味を笑いで現している。新之介の凛としていない(?)キャラと美丈夫ながら腕も立つ岩崎のコンビも面白い。
 ただ、日本史に興味がなく、畠中恵ファンというだけで読むなら、時代背景や職務を理解するのが、少し難しいだろう。
 畠中さんの作品の中では異色である。
 実際、物語中くらいの普請であれば、薩摩(この藩は常に天下普請で泣かされたいた)、伊達などの大藩が指名されるだろうが。
 また、何度探しても岩崎の名前が分からなかったが、最初から彼だけ名字だけなのはなぜだろうか。「ころころろ」に主録された「ほねぬすびと」で、長崎屋を陥れようとする久居藩の岩崎なる人物が現れるが、その岩崎の優秀な息子というのが、この留守居役の人と同一人物と見たが…。すると長崎屋も文政だし、こちらは文政六年。親戚か。

主要登場人物
 間野新之介...播磨国多々良木藩の江戸留守居役
 岩崎...伊勢国久居藩の江戸留守居役
 戸田勘助...伊予国大洲藩の江戸留守居役
 平生左助...豊後国臼杵藩の江戸留守居役
 大竹伝右衛門...豊後国岡藩の江戸留守居役
 赤堀重蔵 越後国新八田藩の江戸留守居役
 入江千穂...元多々良木藩の江戸留守居役貞勝の娘、新之介の兄千太郎の元許嫁
 志賀藤四郎...幕府の奥右筆
 権兵衛...幕府の表台所人
 高瀬...幕府の茶坊主
 宗春...幕府の茶坊主
 淡島屋...酒問屋
 冬菊...俳人
 戸屋...札差 


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若様組まいる

2012年06月06日 | 畠中恵
 2010年11月発行

 時代は明治となり徳川の威光を失った元幕臣の若様たちが、巡査教習所で訓練中。だがそこには、旧幕臣への差別や、「若様組」、「薩摩組」、「静岡組」、「平民組」の対立。果ては教習所内で銃に絡む事件が起き…。
 「アイスクリン強し」より時が少し遡り、永瀬健吾を主役とした青春&捕り物ストーリー。


番町の住人
愛宕町
起床ラッパ
去りゆくもの
東京
巡査派出所
明日のこと
終章 (長編)

 暮らしのために巡査になることを決意した永瀬健吾は、芝愛宕の巡査教習所で訓練を受けていた。東京に残った旧幕臣である永瀬らと、徳川家の移封に従い静岡に下った旧幕臣との間にもわだかまりがあるばかりか、官軍の薩摩出身者、更には資産家の平民と、いざこざが絶えずにいた。更に幹事には目の敵にされ…。
 そんな折り、資産家の父を持つ姫田新七が狙撃された。永瀬たち「若様組」は、幹事の命で姫田指導役まで押し付けられる。
 教習所内での発砲事件は、市井を賑わせるピストル強盗と関連があるのか…。永瀬たちの推理が光る。

 登場人物が多過ぎて、当初かなりの戸惑いがあった。また、教習所内での発砲事件から先が、また少し混乱し読み下すのに手間の掛った1冊だった。
 
主要登場人物
 ※巡査教習所生徒・若様組
 永瀬健吾...(若様組の頭/元二千石の若様)
 福田春之助...(元千石の若様)
 園山薫...(元三千石の若様)
 大熊金太...(元三百五十石の若様)
 高木順之介...(元八百石の若様)
 平田文太郎...(元二百五十石の若様)
 小山孝...(元三百石の若様)
 小沼武一...(元五百石の若様)

 ※巡査教習所運営
 田中石之助...所長
 有馬将勝...幹事
 巡査教習所教師
 浜木功
 黒田信二
 林欽一

 ※巡査教習所武道師範
 中村友男
 羽生実
 川畑元雄
 下津六郎
 伊吹忠一

 皆川真次郎(ミナ)...築地外国人居留地の西洋菓子職人志望、永瀬の幼馴染み
 小泉琢磨...小泉商会の主
 沙羅...琢磨の娘、女学生、永瀬の幼馴染み


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アイスクリン強し

2012年06月06日 | 畠中恵
 2008年10月発行

 築地の居留地で孤児として育った皆川真次郎は、念願の西洋菓子屋風琴屋を開いたばかり。そこに、菓子目当ての元幕臣の警官たち「若様組」が毎度顔を出し…。
 文明開化華やかし明治を舞台にした青春ストーリー。


チヨコレイト甘し
シユウクリーム危うし
アイスクリン強し
ゼリケーキ儚し
ワッフルス熱し 計6編の連作


 ミナと若様組の元に謎の手紙が届いた。差出人が誰かを当て、その者が欲している物を探し当てた者には褒賞を与えるという。

チヨコレイト甘し
 ミナは、何者かに追われている小弥太を助け、成り行きで風琴屋に置いておくことになった。だが、その小弥太を狙った追手の士族に、大切な料理をめちゃめちゃにされてしまう。

シユウクリーム危うし
 貧民窟として名高い万年町で、孤児となってしまった士族の娘の元に泥棒が入った。それを調べる朋友の永瀬に伴い、ミナも恐る恐る足を踏み入れる。

アイスクリン強し
 女学校で菓子教室を開いた時の事を、さも女ったらしのように新聞に書かれたミナ。長瀬と共に新聞社に抗議に出向くと、男が刀を振り回して暴れていたのだった。

ゼリケーキ儚し
 東京でコレラが流行し、長瀬以外の若様組の面々は防疫活動に駆り出された。一方、長瀬は大河出警視に呼び出され、自由民権運動の闘士の加賀を探し出すよう命じられる。

ワッフルス熱し
 序章の手紙の謎解きを始めた若様組。一方のミナは、沙羅の誕生日プレゼントに頭を悩ませていた。そして小泉家が壮士に襲われる。

 美味しそうな見出しと、甘い香りが漂うかのようなミナの菓子作りシーン。やはり食べ物絡みは、嗅覚まで刺激される。
 明治を舞台とした小説は余り好みではないのだが、この作品に関しては、何故か前向きに楽しく読めたのは、青春群像劇だったからだろう。
 また、ミナ、永瀬、福田ら主要人物のキャラ設定が良い。

主要登場人物
 皆川真次郎(ミナ)...築地外国人居留地の西洋菓子店風琴屋の主
 永瀬健吾...巡査(若様組の頭/元二千石の若様)、ミナの幼馴染み
 福田春之助...巡査(若様組/元千石の若様)
 園山薫...巡査(若様組/元三千石の若様)
 小泉琢磨...小泉商会の主
 沙羅...琢磨の娘、女学生、ミナの幼馴染み
 ストーン...宣教師、ミナの育ての親



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こころげそう~男女九人お江戸の恋ものがたり~

2012年06月05日 | 畠中恵
 2008年1月

 「こころげそう=心化粧」、口には言わないが、内心恋いこがれる事。
 9人の幼馴染みたちが織り成す、恋愛模様にミステリーのエッセンスが加わった笑いと涙の青春ストーリー。

恋はしがち
乞目
八卦置き
力味
こわる
幼なじみ 長編

 女の幽霊が出るという噂を耳にした宇多。幼なじみの千之助と於ふじの兄妹が神田川で溺れ死んだ矢先の事だ。もしや於ふじではないかと、於ふじの父、由紀兵衛を訪ねる。するとそこには、幽霊になった於ふじの姿があった。
 兄妹が同時に死ぬなど腑に落ちない宇多は、於ふじの死因を探る一方、於ふじの力を借り、様々な事件を解決していく。
 そして於ふじの死因が分かった時…。
 一方で、幼なじみ同士の、入り組んだ恋愛模様が繰り広げられていくのだった。

 舞台は日本。時代は江戸。だが、アメリカン・ハイスクールを思わせる、若者の色恋沙汰。そこに幽霊を搦め、推理サスペンス的に仕上げた技量はさすがである。
 幽霊とは言っても、おどろおどろしさはなく、青春ストーリーである。
 何より、ラストシーン。実に美しい言葉で締め括った作品に巡り会った事への喜びに、我が心も打ち震えた。読み終えての壮快感が心地良い。
 余談 表題の「こころげそう」を最初、心化粧ではなく、こころげ荘だと思っていました。

主要登場人物
 宇多...岡っ引き長次の手下、於ふじに思いを寄せていた
 於ふじ...大和屋由紀兵衛の娘
 千之助...大和屋の総領息子、於ふじの兄
 お染...大工の棟梁の娘、弥太と恋仲
 弥太...野菜の棒手振り、お染と恋仲
 おまつ...両国の水茶屋の茶汲み娘、弥太に思いを寄せる
 重松...口入屋永田屋の手代、おまつに思いを寄せる
 お品...岡本屋の娘
 お絹...岡っ引き長次の娘、宇多を慕っている
 長次...江戸橋本町の岡っ引き
 由紀兵衛...長屋の大家、元小間物屋大和屋の主


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つくもがみ貸します

2012年06月04日 | 畠中恵
 2007年9月発行

 古道具屋兼損料屋の出雲屋には、付喪神となり話したり動き出したりする古道具たちがいる。だが、主の清次とお紅とは決して言葉を交わさず、単に仲間同士で噂話に花を咲かせるのだった。
 ちょっぴり不思議なファンタジー小説。

利休鼠
裏葉柳
秘色
似せ紫
蘇芳 計5編の連作

利休鼠
 婿入りが決まった武士から、跡取りの証しである鼠の根付けが逃げ出したので、捕まえて欲しいと頼まれた清次。その下手人は意外なところにいた。

裏葉柳
 新たに料理屋鶴屋が開店する。だがそこは、幽霊騒ぎで有名な見世だった。店の品を収めに行った清次は、昼日中から幽霊を目撃してしまう。

秘色
 蘇芳という名に敏感な清次とお紅。それはお紅の良く知る男の俳号であり、蘇芳の香炉共々、男も姿を消していたのだ。
 
似せ紫
 火事で焼け出される前は、日本橋の古道具屋小玉屋の娘だったお紅。その頃、お紅を好いた男がいたが、その母親は得心せず、お紅に商いの才覚を示せと難題を持ち掛ける。

蘇芳
 お紅の待ち人である飯田屋佐太郎が4年振りに江戸に戻った。だが、その佐太郎が、4日もしないうちにまた行方知れずとなり、清次は探しに向かう。

 表題の付喪神が、リレー方式に語り手を務めている。「しゃばけ」シリーズ同様、付喪神が出てくるが、こちらの付喪神は、人との接触を嫌う。それでいて、どこか優しい。
 付喪神と清次、お紅との信頼関係が嬉しい一作。この作品に関しては完結して良いと思う。続編で下手にいじらない方が良いだろう。

主要登場人物
 清次...深川古道具屋兼損料屋出雲屋の主
 お紅...出雲屋を切り盛りする清次の姉
 野鉄...蝙蝠の根付けの付喪神
 月見夜...掛け軸のの付喪神
 うさぎ...櫛のの付喪神
 猫神...猫の根付けのの付喪神
 利休鼠...鼠の根付けの付喪神
 裏葉柳...青磁の香炉に身を代えた男
 五位...煙管の付喪神
 黄君...琥珀の帯留の付喪神
 お姫...姫様人形の付喪神
 唐草...金唐革の紙入れの付喪神
 青海波...守り袋の付喪神
 佐太郎...日本橋唐物屋飯田屋の総領息子 


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ゆめつげ

2012年06月03日 | 畠中恵
 2004年9月発行

 小さな神社の神官兄の弓月は、しっかり者の弟信行に叱られてばかりだが、弓月には、白昼夢で失せ物探しなどを占う「夢告げ」の能力が備わっていた。

ゆめつげ
 白加巳神社の権宮司の佐伯彰彦から、蔵前の札差青戸屋の行方不明の息子を、「夢告げ」で占って欲しいと依頼があった弓月。
 弟の信行を伴い白加巳神社に向かう途中、辻斬りに出会い親子を助けながら、命からがら白加巳神社に辿り着くと、そこには青戸屋夫婦と3組の親子が待っていた。
 3組の親子はいづれも自分こそが青戸屋の息子を、拾って育てたのだと主張を譲らない。
 だが弓月たちは、真実の子を探し当てる前に、その神社の周りで起きていた、剣呑な事件に巻き込まれていくのだった。
 
 畠中さんにしては、少し風変わりな禰宜を主役に置き、おどろおどろしい内容の作品。少しまどろっこしく解釈に難義もしたが、よくよく読めば、幕末の江戸を巧みに織り込んでいる。表面だけではない奥深さのある作品だ。

主要登場人物
 川辺弓月...上野清鏡神社の神官/禰宜
 川辺信行...清鏡神社の神官、弓月の弟
 佐伯彰彦...白加巳神社の権宮司
 幸右衛門...蔵前の札差青戸屋の主
 お栄...幸右衛門の妻
 お福...長唄の師匠
 正五郎...お福の養子
 加納竹之助...武士
 伊之助...竹之助の養子
 吉也...東本願寺近くの水茶屋の主
 清吉...吉也の養子
 坂上の親分...地廻りの岡っ引き
 源吉...岡っ引きの手下



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こいわすれ

2012年06月02日 | 畠中恵
 2011年9月発行

 お気楽な、名主の跡取り麻之助と、同じく清十郎。そして八丁堀見習同心の吉五郎。3人の悪友たちが繰り広げる人情物語「まんまこと」シリーズ第3弾。

おさかなばなし
お江戸の一番
御身の名は
おとこだて
鬼神のお告げ
こいわすれ 計6編の短編集

おさかなばなし
 堀川沿いにある七不思議のひとつ置いてけ堀で、声が聞こえたり河童に金子を盗られたりと、真しやかに囁かれる中、清十郎が件の掘に落ちて伏せっていた。

お江戸の一番
 書画と狂歌の連が、番付を巡り睨み合っていた。麻之助は、両国橋界隈の小屋掛けでどちらの連に人気が集まるか勝負をするように進言する。

御身の名は
 麻之助へ届いた女文字文。だが指定された待ち合わせを幾度もすっぽかされてしまう。そこへ八木家支配町の金のちょろまかしや怪しい出来事が重なって…。

おとこだて
 武家の妻女を誑かし、金を引き出す男の事が読売に書き立てられていた。その下手人に目された貞吉の汚名を晴らす為に噂を追うと、ひとりの男に辿り着く。

鬼神のお告げ
 三尸のお告げで富籤で大当たりした男がいた。次第に三尸のお告げは富くじだけではないという憂さが広がり、麻之助の身にも危うい雲が立ち込める。

こいわすれ
 柳橋から落ちようとした娘を助け、自ら川に落ちた麻之助と清十郎。その娘は、決まっていた縁組を暦のせいで破談になったと言う。

 まさか、まさかの結末に、目頭を押さえた印象深い最終章。麻之助涙の場面に、こいわすれ草の花言葉を搦める憎い演出が更に切なさを増している。
 ただ、このシリーズ、これにて続編が書かれていないが、是非とも書いて欲しい。

主要登場人物
 高橋麻之助...神田の古町名主宗右衛門の総領息子
 八木清十郎...隣町の町名主源兵衛の総領息子
 相馬吉五郎...北町奉行所見習同心
 宗右衛門...神田の古名主、麻之助の父親
 おさん...麻之助の母親
 野崎寿ず...麻之助の妻、吉五郎の遠縁
 お由有...清十郎の義母
 幸太...清十郎の弟
 おこ乃...吉五郎の姪
 貞吉(両国の貞)...両国の顔役、物売り
 丸三...金貸し
 みけ、とら、ふに...猫


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こいしり

2012年06月01日 | 畠中恵
 2009年3月発行

 お気楽な、名主の跡取り麻之助と、同じく清十郎。そして八丁堀見習同心の吉五郎。3人の悪友たちが繰り広げる人情物語「まんまこと」シリーズ第2弾。

こいしり
みけとらふに
百物語の後
清十郎の問い
今日の先
せなかあわせ 計6編の短編集

こいしり
 麻之助と寿ずの婚礼の日、八木源兵衛が卒中を起こし倒れてしまう。源兵衛は清十郎に、以前訳ありだった二人のおなごが健勝か確かめて欲しいと告げる。

みけとらふに
 麻之助の元に吉五郎の姪のおこ乃が、子猫3匹を連れてやって来た。巷では化け猫の噂が持ち切りで、家においておくと処分されてしまうのだと言う。

百物語の後
 吉五郎は麻之助に五両、清十郎に二朱を携えていた。先日加賀屋が百物語に行き、そこで盗られた紙入れを探し出した礼だと言うが、二人に心当たりはない。

清十郎の問い
 父の留守を預かる麻之助の元へ、お守りをなくして困っているお寿ずの姉の嫁ぎ先の女中。同じくお由有の父親の店の奉公人が現れた。落とし物として出て来たお守りはひとつ。

今日の先
 麻之助は、余命1年を宣告され、死ぬ前に遊び倒したい男の指南をする運びとなった。当日、金子を使いすぎないように監視する姪が、何者かにさらわれた。

せなかあわせ
 お由有の元に届けられた懸想文の差出人が、回り回って麻之助の元に届いた。麻之助は、差出人の名前も相手の名前も分からない懸想文を書いた本人を見つけ出そうとする。

 「まんまこと」は、明るく楽しい痛快さが光ったが、今回は切なさが加味され、さらに奥深くなった。
 収録作品中、「百物語の後」は夢か現か釈然としない、不思議な世界へと足を踏み入れた話になっている。
 ほか、全編を通し、面白おかしさの陰で抱く心の揺れがせつなく進行する。

主要登場人物
 高橋麻之助...神田の古町名主宗右衛門の総領息子
 八木清十郎...隣町の町名主源兵衛の総領息子
 相馬吉五郎...北町奉行所見習同心
 宗右衛門...神田の古名主、麻之助の父親
 おさん...麻之助の母親
 野崎寿ず...麻之助の妻、吉五郎の遠縁
 源兵衛...神田の町名主、清十郎の父親
 お由有...清十郎の義母
 幸太...清十郎の弟
 おこ乃...吉五郎の姪
 貞吉(両国の貞)...両国の顔役、物売り
 丸三...金貸し
 みけ、とら、ふに...猫

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