
江戸が明治に改まって20年。煉瓦街が並ぶ銀座は、夜を照らし出すアーク灯が灯る東京でも一番のモダンな街へと変貌していた。
そこにモダンとは掛け離れた、江戸の遺物のような、掘立小屋のような派出所があった。だが、それは建物だけではなく、明治の世では消えてしまったと思われている妖たちが跋扈していたのである。
第一話 煉瓦街の雨
第二話 赤手の拾い子
第三話 妖新聞
第四話 覚り 覚られ
第五話 花乃が死ぬまで 計5編の短編連作
主要登場人物(レギュラー)
原田巡査...銀座煉瓦街四丁目・交差点派出所勤務の警官
滝駿之介巡査...銀座煉瓦街四丁目・交差点派出所勤務の警官
百木賢一(百賢)...銀座煉瓦街三丁目牛鍋屋・百木屋の主
百木みなも...賢一の長妹
百木みずは...賢一の次妹
赤手...銀座煉瓦街三丁目裏路地・煙草商
お高...三味線の師匠
騙しの伊勢...詐欺師
長太...かっぱらい
第一話 煉瓦街の雨
雷神が怒りに任せて降らせているような雨の中、雨宿りに駆け込んだ銀座煉瓦街四丁目の派出所で、伊勢は、原田巡査から不思議な話を聞く羽目になった。
それは、三丁目牛鍋屋・百木屋で起きた主の妹・みなもの勾引し事件であった。
みなもは、四十にも手の届く待合茶屋の主・下谷から一方的に思いを寄せられ、目を見張る程の大粒のエメラルドのブローチを贈られていた。それをひと目にて原田巡査は、連続強盗殺人事件との関わりに気付き、捜査に乗り出すも、みなもは、警官に化けた見知らぬ男に連れ出され、忽然と姿を消したのだった。
その後、木島は路上で頓死。それも鎌鼬(かまいたち)の仕業としか思えない死に様だった。そして、下谷は、濡女に掘りに引き込まれて水死したのだが、その濡女の顔が、みなもであった。そう言い残して、原田巡査と滝巡査の姿がふつりと消えた。
すると、表から雨足が和らいだのを幸いに、原田巡査と滝巡査が派出所に戻って来たのだった。
今さっきまで伊勢に話をしていた原田巡査は…。
主要登場人物
下谷...銀座待合茶屋の主
木島...下谷の用心棒
第二話 赤手の拾い子
赤手が、迷子を拾ったと銀座煉瓦街四丁目交差点の派出所へ届けに来たが、何とその娘・おきめは、ダイヤモンドの粒を幾つも守り袋に収めていたのだ。
派出所では預かれないので、役所の開く明日まで赤手に預かれと言われる始末。だが、男手ひとつでは子どもの面倒を見られる訳もなく、思い倦ねて百木屋へ預かってもらう事にする。
だが、確か3歳くらいだったおきめが、僅かの時間に成長をしているではないか。もしやおきめの名は、鬼女からきているのでは…。
主要登場人物
おきめ...迷子(?)
丸加根...深川の金貸し
第三話 妖新聞
羽の生えた三味線、人魚、妖刀などの記事を載せた妖怪記事が新聞を賑わせている昨今、江戸橋近くの河畔に、5人の老若男女の死骸が打ち上げられた。
何事も妖騒ぎに結び付ける新聞記者の高良田に苦々しい思いを抱きながらも、原田巡査と滝巡査は、事件に駆り出され大わらわであった。
そんな中、百木屋に集う常連たちが殺された人の身元を突き止めると、犯人から、新妻・靖子を拉致したとして、呼び出された原田が斬り付けられる。
やがて稀代殺人犯・笹熊は服毒自殺を図り終結を迎えたかに思われたが、巡査らは、裏で糸を引くある人物に目星を付ける。
主要登場人物
高良田...銀座・多報新聞社の記者
第四話 覚り 覚られ
壮士に取り囲まれた男を助けた折り、頭を杖で殴られた滝。助けた男は代言人の青山と名乗り、某氏から、知り合いが「さとり」ではないかを探って欲しいと依頼されており、その探索を手伝って欲しいと言い出した。
妖探しなど雲を掴むような話に巡査が手を貸す訳もないのだが、そんな最中に赤手が行方をくらませてしまう。
旧知の赤手探しに乗り出した原田巡査と滝巡査ではあったが、執拗に青山も「さとり」探しと称して2人に食らい付くのだった。
明治の今更「さとり」などといった妖を持ち出し、世論を集めようとする青山の言動に普請を抱く巡査たちは、その狙いが第一回衆議院議員選挙に関わりがあるのではないかと…。
主要登場人物
青山...免許代言人(弁護士)
第五話 花乃が死ぬまで
沽券を引ったくられそうになった女・伊沢花乃が、銀座煉瓦通り四丁目交差点派出所で、滝巡査を見た途端に、20年前に悲恋に泣いた、滝駿之介ではないかと詰め寄る。容姿も瓜二つで名前も同じではあるが、年齢が合わず、思い違いであったと悟る花乃であった。
だが、それからも花乃は2度命を奪われ掛け、それが花乃の財産を狙った者の仕業であると分かると、百木やに集う面々、特にお高が事の終結を急いだ方が良いと提言し、滝と花乃のロマンスを新聞社に売り込み、周囲の注目を集めさせるのだった。
果たして花乃は、親族を名乗る者たちに襲われ、滝とお高の機転で事態をくぐり抜けるが、滝駿之介との恋には思わぬ結末が待っていた。
主要登場人物
伊沢花乃...財産家の未亡人
辰二郎...かっぱらい
畠中氏得意とするところの、妖物が、時を江戸から明治に移しての登場。
随所に、江戸と明治は地繋がり、時繋がりといった江戸の幻影をかんじさせつつ、近代化され、モダンな雰囲気漂う銀座煉瓦通りを舞台に繰り広げられる。
だが、妖がメインではなく、飽くまでも表面上は噂なのである。妖を使って悪巧みを練ったり、己の不始末を妖に押し付けたりといった、明治ならありそうな江戸の名残り。
ただし、それだけでは終わらない。実は…。やはり妖は身近にひそみ、普通に暮らしているのでは…といった不可思議を含んでいるのだ。
その序章として「第一話 煉瓦街の雨」の終焉で、不思議な出来事を持ってきておいて、「第二話 赤手の拾い子」では、「やはり」を思わせる。ただ、この話の中で、ダイアモンドの別けに触れていないのが、残念だが。
そして、「第三話 妖新聞」では、思いも掛けないどんでん返しで、妖がクローズアップ。
「第四話 覚り 覚られ」、「第五話 花乃が死ぬまで」では、次第に素性が明かされていくのだが、未だ未知なるレギュラー陣もおり、続編へ続くかと思われる。
また、「第三話 妖新聞」にて、「アイスクリン強し」のミナ(皆川真次郎)と思われる人物が作った菓子も登場し、ファンの心を掻き立ててくれるのだ。
全般に面白く、一気に読ませていただいたが、想像力を掻き立てられたのは第三話までで、そこからは、トーンダウンを感じた。
それは当方が勝手に、滝巡査の正体を「しゃばけ」シリーズの仁吉(白沢)に重ね合わせていたからだろう。
それも、雑誌「yom yom」に読切りで書かれた「えどさがし/しゃばけ」では銀座煉瓦街へと若旦那探しに仁吉が現れると、いった内容と見知っていたので、同作品も収録されていると勝手に勘違いしていた次第。
巡査の中に、「アイスクリン強し」の若様組などが登場したら楽しいのだが。是非ともそんなジョイントを期待して止まない。
また、登場人物のキャラが、ほかの作品と比べ、薄くも感じた。
「えどさがし」の書籍化をご存じの方、是非、ご一報くださいませ。

