拝啓 夏目漱石先生

自称「漱石先生の門下生(ただのファン)」による日記

拝啓 萩尾望都先生?

2008-12-18 00:02:24 | 漫画
教育実習が終わった後ぐらいから、時間の許す限り少女漫画、特に萩尾望都作品を読み漁る日々が続く。萩尾作品は今まで『ポーの一族』『トーマの心臓』『11人いる!』『イグアナの娘』など有名な作品までしかカバーしてなかったが、最近本格的に読み始めてハマりまくり。何で今まで深入りしなかったんだって感じね。主に小学館や白泉社文庫で出てる作品を手当たり次第読んだが、どれも脳みそをスパークさせられるような怪作揃い。…まぁ、唯一バレエを扱った漫画にはハマれず、しかもそれ読んだのが割と最初の方だったから「あれ、私、萩尾漫画合わないのかも…」と思ったが、他のは軒並みツボだった。特にSF漫画はシビれますな。
特定の作家の作品を、ある日突然読み漁るようになる自分…なんだか3年前を思い出す。2005年の暮れ頃、突然夏目漱石先生に傾倒した時と凄く似てる。「とりあえず新潮文庫制覇しよう」と思い、寝る間も惜しんで漱石先生の世界に没頭。地元では珍しく雪が積もった時も、文庫を仕入れに凍えながら近所の本屋へ行ったっけ(ちなみにその時買ったのは確か『門』)。で、漱石先生ブームが続いてる時にこのブログを立ち上げたもんだから、このようなブログ名になり…懐かしいな。もうすぐ3周年なんだね。
というわけで今日は、特に印象に残った萩尾作品をサラっと紹介&感想を。本当に味わい深い作品ばっかだが、中でも特に印象に残った『金曜の夜の集会』という短編について。小学館文庫から出てる短編集『半神』に収録されている32Pの作品。8月最後の金曜日、天文クラブ所属の少年・マーモは、今夜地球に接近する彗星を観測するのが楽しみでしょうがない。楽しみな事はさらに増える。ひそかに憧れていた女の子・セイラと来週の金曜日にデートする約束をしたのだ。しかしマーモはふとした事がきっかけで、自分が住む町に関する秘密を知る。この町は今夜、日付が変わると同時に消滅するというのだ………。
萩尾望都の短編で今の所一番好きな作品。キラキラな日々を過ごしていたマーモは、突然未来を失う。天文学者になりたい、というマーモの夢は永遠に叶わない。セイラとの約束も果たせないし、成長期ゆえ、男子より高いセイラの身長を追い越す、という夢も叶わない。よりによって、人生で最も無邪気に夢を見られる少年時代に、彼は己の運命を知る。さらに、町を消滅の危機から守るために大人達が行う「あること」が衝撃的。「あること」をされたマーモは、ある意味『ポーの一族』のエドガーと近しい、悲しい存在となる。不老不死の体にされてしまい、少年の姿のまま永久に生きる事を強いられたエドガー。マーモの運命とエドガーの運命、一体どちらが辛いだろう。より多く笑顔で居られるのはマーモかもしれないけど、傍観者として見ていると涙が止まらなくなるのもマーモかな。
でも、夢が叶うことと幸せになることは必ずしも一致しない。夢見た通りになったのに満足できなかったり、長年の夢を叶えた瞬間に燃え尽きてしまったり…。それなら、抱えきれない素敵な夢を自由に描き続ける事が出来る少年時代が、人の一生で一番きらびやかな時期なのかもしれない。マーモの夢を壊そうとする大人は作品内には誰も居ない。彼の楽しい日々を壊す資格は誰にも無いし、夢を描く子供の素晴らしさを大人達は知っている。明日が来ない事、夢が叶わない事を知ったマーモがとった行動が美しくロマンチックなのは、彼が夢いっぱいの少年だから。でもやっぱり、可哀相過ぎるよマーモ…。読んでると本当に切なくなる名作。

あ、どうでもいいけどマーモ、描かれたのが同時期ゆえ、『訪問者』のオスカーにそっくりで超可愛いね。短編集『半神』は一度読んだら忘れられない名作の宝庫。ブックオフで見掛けたら、ぜひ。 


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