拝啓 夏目漱石先生

自称「漱石先生の門下生(ただのファン)」による日記

『ヒーローショー』感想殴り書き

2010-06-13 02:49:33 | 映画
井筒監督『ヒーローショー』感想殴り書き。私は公開二日目に行ったんだけど、劇場ガラガラだった。ジャルジャルファンらしき若い女の子や井筒ファンらしき男性が居たんだけど、計15人居るかいないか?…まぁでも、私は凄く好きな映画よ、『ヒーローショー』。全部観たわけじゃないけど、自分が今まで観た井筒作品ではダントツ一番。犯罪を犯した若者を描いた作品だが、紋切型の「最近の若い連中は…」的なオッサンの愚痴映画ではない。大変なことをやらかした奴らが袋小路に追い込まれる様をドラマ性そっちのけで冷静に観測した、息苦しい映画だ。
些細な揉め事が集団リンチ→殺人に発展。思いがけず事件を起こしてしまった当事者たちの行動は…?というのが映画の大まかな内容。映画と同等の事件を起こした経験が無くても、物事が悪い方へ悪い方へ流れていくのを止めることができず、茫然としたり失望したり後悔したりした経験、誰にでもあるのではなかろうか。で、結局事態は解決せず、後味の悪さだけが残る。とことん救いの無い展開はエンターテイメント失格なのかもしれない。でも実際、一度起きてしまった事は無かったことにはならないし、全てを解決してくれる救いのヒーローなど居ない。そんな現実を『ヒーローショー』はきちんと描く(ただ、ネットで感想みてると、あのラストをハートウォーミングなものとして捉えて「甘い!」って言ってる人が結構いるんだよね。違くねぇ?)。私、『アリスインワンダーランド』のことは多分半年後には綺麗に忘れてるけど、『ヒーローショー』のことは忘れられない。
『ヒーローショー』の登場人物たちは、並びだけ見ればそこそこイケメン揃いで、それこそ『クローズ』や『ルーキーズ』や『ドロップ』っぽい。しかし『ヒーローショー』のイケメン達には、観る者がスカっとしたり、カッコ良と思えたりするシーンは一切用意されてない。それどころか、観客の感情移入を拒むような最低な事ばかり繰り返す。延々と痛々しい暴力を続けたり、責任を平気でなすりつけたり。「仲間同士の絆」なんてもちろん無いから、これだけ男が沢山出てても「チーム男子萌え」とか無理だろう(よくわからないけど…)。『ヒーローショー』というタイトルだけど、ヒロイックな人物は誰一人存在しない。とにかく本当ダメな奴ばっかり出てくるんだけど、みんな水を得た魚のように活き活きと『ヒーローショー』の世界を生きていた。泥だらけになりながら(矛盾してる?)。井筒監督の、役者たちを輝かせる手腕は相変わらず凄まじい。
特にジャルジャルの二人の役への入り込み。ジャルジャルに俳優としての才能があるかどうかは判断不能。多分井筒監督だからこそ二人があんなに輝いたんだろうな。あの無茶苦茶なエリカ様も『パッチギ』では完全に可憐な美少女だったからねぇ。芦屋育ちのボンボンで筋肉ムキムキ、同世代の若手芸人よりもそこそこ華のある青春を謳歌したであろう福徳は、金無し彼女無し才能無しの冴えない芸人志望の青年を見事に体現。そして後藤。「何の特徴もないルックスやな…」と東野幸治に言われ、温かい家庭に育った色白ヒョロヒョロの後藤、まさか「自衛隊上がりで地元で超有名な元ヤン」がハマるとは。ケンカのシーンで、ターゲットを「こんのヘタレ極道がぁぁ!」と怒鳴り散らしながらボコボコ殴る後藤ナイス。でも後藤がカッコいいのはそのシーンまでで、ストーリーが進むにつれ、他の野郎どもと共に迷走していく(ヒーロー性を背負ったキャラなのかな?と初めは思ったんだけどね)。野郎ども…みんな最低だけどいい味出してた。まず、渋谷で出会い系サイトを経営する後藤の自衛隊時代の悪友の新庄似の男!悪だくみを思いつき今回の事件に油を注いだ彼の調子こきっぷりとその後の無策っぷり。情けねぇ!先輩の女に手を出して事件のきっかけを作ったチャラ男のテキトーな言動の数々も印象的だ。調子乗りすぎて後藤にシバかれるシーン、「俺、中国人の俳優にツレ居るけど」はクリーンヒット。そして後藤の舎弟。全ての発言が奇跡的に緊張感が無く軽薄。リンチの末、相手が死んでしまえばサラっと「埋めます?」。大金が必要となれば「臓器とかって売れます?」。車から殺人の足がつくのでは?となれば「解体やってる俺のツレにバラしてもらいます?」。この男、「どっかで見た顔だなぁ」と思ったらHYDEファンの黒歴史(苦笑)映画『下弦の月』の三浦君!あの時の優等生君が、数年後、立派に軽薄なヤンキーを演じている…素晴らしいね。あと、鬼丸の弟…出番は少ないが観る者をゾっとさせる圧倒的な存在感。
映画の舞台は、序盤は東京だが、メインとなるのは千葉県勝浦市。海とジャスコとカラオケがレジャースポットの田舎町だ(映画で得た情報で書いてますすみません)。私は映画を観て、勝浦のどん詰まり感に妙に心惹かれてしまった。「魅力的!この町に住みたい!」とかは全然思わないんだけど…なんでだろうねぇ。湿った潮風の似合う勝浦。そこで迷走する野郎ども。これらの要素に、何故か惹かれるから何度でも観たくなるんだよね。私既に二回観たしね。海があれば私の住んでる町だって勝浦みたいなもんだけどねー。ちなみに、勝浦のシーンで使った衣装は全て勝浦(のジャスコ?)で仕入れたらしく、チャラさ全開。勝浦のヤンキーのカリスマである後藤は黒のジャージでバシっとキメてます。新庄も渋谷から勝浦に戻った瞬間にヤンキー丸だしの豹柄着る。久々に地元で後藤と再会し「やっぱ勝浦ジャージだよなぁ!」…結構イケメンなのに!
それにしても。事件から一夜明けて実家の豪邸に帰った新庄の気だるい表情はリアルだった。心身ともに疲弊しきってるのに、不安を押し殺して何事も無かったフリをしようと見せる姿の気まずさ。リビングで大画面を見つめ、事件の憂さ晴らしをするが如くXBOX360に興じる新庄弟もリアル。あと、福徳が寂しく一人暮らししてる部屋が「あるあるある!」って感じで、美術スタッフ凄いなぁと思った。キッチンの汚れ具合、グチャグチャな家具や小物の配置、無造作に置かれたプラモデル、寂れたポスター…。でも福徳がハマってるパソコンの「妹ゲーム」は古臭く感じた。彼の孤独を象徴するアイテムの一つなんだけど、もっとこう…何かなかったかなぁと。パソコンじゃなくDSだったらもっとリアルだったかも。
あと不満なのは音楽。主題歌がピンクレディーの「SOS」じゃ不自然過ぎる。監督の年齢を考えると奇跡的なぐらい現代の若者を捉えて撮ったのに、なーんでレトロな曲選ぶんだよ。ストリート感溢れるアンダーグラウンドシーンの若手ラッパーとか使って欲しかった。作中では、ヤンキーがカーステで爆音で聴いてる音楽にヒップホップがチョイスされてるが、「この国が好きな奴は手挙げろ」という不愉快なリリックで(笑)。「若い奴は大した考えもなく右傾化するんだ」的な、井筒監督の偏った視点を感じて、ちょっと…。ちなみにあの曲を提供した人はそのような思想を持ってる人ではなく、「国粋的な曲を」という井筒監督のオーダーに合わせて作ったそうだ。うーん…。

最後に。後藤が福徳にバット渡すシーン。ジャルジャルファンなら某コント思い出して笑うよね。他、後藤にボコられる福徳や、「(福徳の)相方さんですか?」と聞かれ「違います」と即答するシーンなど、ジャルジャルの二人だからこそ笑える、本来なら映画にとってノイズでしかないような部分まで好きになってしまった私は、『ヒーローショー』に関してかなり盲目的になっていると思う。

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