拝啓 夏目漱石先生

自称「漱石先生の門下生(ただのファン)」による日記

La vie en rose

2008-12-20 23:41:17 | 映画
『クレヨンしんちゃん オトナ帝国の逆襲』を観た大人達がノスタルジックな気分に浸ってしまったり、「ひろし35年の歩み」に感情移入して号泣したり。出演するイケメン俳優につられて子どもと一緒に平成版『仮面ライダー』観てたら、その複雑で重厚なストーリーに夢中になったり。いくら宮崎駿が「子どもたちのために作った作品」と言っても、大人だってジブリ映画が大好きだったり。今やってるピクサー最新映画『WALL・E』も、やっぱり良質な子ども向け映画でありながら大人でも十分楽しめる力作。以下感想。
元々ピクサー映画は大人になってから観た方がグっと来るであろう作品が多く、『ファインディング・ニモ』は子を持つ親が観ればハラハラものだろうし、『Mr.インクレディブル』では、自分にとってやりがいのある仕事をし始めた途端イキイキしてくる主人公に対し、「そうそう、男っての外の世界で認められないと家庭内で良き夫・良き父親では居られないんだよ、愛情不足とかじゃなくてさぁ」と共感する男性(及び、主人公と自分の旦那さんを重ね合わせて「…やれやれ」と思う女性)が多そうだ。『カーズ』などはクラシックカー好きのオッサンにはたまらない作品かもしれない。子どもも大人も、当然のように100%楽しませられるように作られてるのがピクサー映画。…いや、でも『Mr.インクレディブル』で、外出時に颯爽と奥さんのお尻を触る主人公の心情は子どもには理解できんかもしれんが。
でも新作『WALL・E』は、大人ウケ(SFヲタク?スターウォーズっぽい音が鳴りまくり)を狙いつつも、子どもに向けた明確なメッセージをビシバシ発信している作品だ。「友達を作ろう」「勇気を出して好きな子の手を握ってみよう」「部屋に引きこもってばかり居てはだめだよ」「つーかこんな大人になるな」…こういったメッセージを直球でぶつけてくる。この映画に出てくる、友達や恋人を作ることはおろか自分の足で歩くことすら忘れて醜い姿になった沢山の大人達を観た子どもは、「うっわぁ、あんな大人にはなりたくなーい!」と思うことだろう。「ていうか映画に出てきた人間、うちの親そのものかも…」なんて思ってしまう子どももいるかもしれない。
既に各所で言われてるから結構有名だと思うが、この映画の前半40分程は、セリフが殆どない。お掃除ロボットウォーリーが、ゴミだらけの地球で、たった一人でせっせと仕事をするシーンが延々と続く。セリフは無く、ウォーリーが動く時に発する機械音が、誰も居ない地球で寂しく鳴り響く。この悲壮感…。途中で友達(ゴキブリ)が出てきて本当にホッとしたよ。でもセリフが無くても、ゴキブリとのちょっとしたやりとりや、ゴミの山から見つけたオモチャを整理するシーンなどでウォーリーの可愛い性格、人間くささ(?)が零れ落ちるので、誰もがウォーリーに感情移入してしまうだろう。大昔のロマンチックな恋愛映画をこれまたゴミの山で見つけたモニターで観ながら感動し、目をキラキラさせるシーン、この映画で一番好きだ。中盤で出てくるウォーリーよりもずっと高性能のロボット・イヴと、ウォーリーとのやりとりも、ほぼ「ウォ~リ~」「イ~ヴァ(「イヴ」と発音できないウォーリー)」という二つのセリフしか無いのに釘付け。
ムーディーなシャンソンやジャズなどをバックに繰り広げられる、無機質なルックスのウォーリーとイヴのラブストーリー。セリフが無いのが逆に良いんだろうな。生後間もない赤ちゃんとコミュニケーションを取るために母親が、ちょっとしたしぐさや発語から「お腹すいた?」「おむつ?」などと赤ちゃんの気分を推測するかのように、『WALL-E』観てる観客も、気づけば必死に、言葉の乏しいロボットたちの気持ちを追いかけてしまう。「40分セリフなし?子どもにはキツいんじゃない?」と思われるかもしれないが、誰でも夢中になれる作りになってるぜ、ちゃんと。 
ピクサー初の宇宙モノ『WALL・E』。ボロボロのウォーリーの下に降臨するウォーリーより数段レベルの高い存在、各所で流れるクラシック音楽(「美しき青きドナウ」「ツァラトゥストラはかく語りき」)、ロボットVS人間のスリリングな戦いなど、『2001年宇宙の旅』を思わせる点が多々ある。『2001年~』では主人公はロボットとの戦いを制し、サル→人間と来てさらに上の存在、精神だけの存在=スターチャイルドへと進化する。『WALL-E』では、人間達がロボット任せだったこれまでの生活を捨て、人間らしい生活を取り戻す。『2001年~』との関連は観てて私でも気づいたが、中にはSF映画マニアだからこそうならされる設定も色々とあるようですよ。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿