拝啓 夏目漱石先生

自称「漱石先生の門下生(ただのファン)」による日記

メンタルタフネス

2008-04-19 22:29:40 | 音楽
宇多田ヒカルが表紙のロッキングオンジャパンを買った。この雑誌買うの2年ぶりだ…。いやぁ、かなり面白かったな、宇多田。新作『HEART STATION』のインタビューの中でダントツの濃さ。とにかくインタビュアーの兵庫慎司、本当にグッジョブであった。鹿野淳のインタビューの10倍ぐらい興味深かったし、何より宇多田ヒカルの実像に、より近くことができていたと思う。

「くよくよしてちゃ敵が喜ぶ」(「Fight the Blues」)
「儚く過ぎていく日々の中で 気分のムラは仕方ないね」(「Beautiful World」)
「悲しいことは きっとこの先にもいっぱいあるわ」(「Stay gold」)
「上手くいかなくたって まあいいんじゃない」(「Kiss&Cry」)
「気になるあの子が突然留学」(「虹色バス」)

『HEART STATION』収録曲の歌詞は、ネガティブな事がそこらじゅうに転がっている事を軽やかに告げる。失敗なんてして当たり前だぜ、と。むしろしない方が変だぜ、と。世の中は悲しみで溢れているから、それらを避けて通ろうとしても無理。幸せになれると信じて歩んだ道も、不幸へと続く道かもしれない…残念ながらこれは全く不自然な事ではなく、普通の事だぜ、と。このような態度-ネガティブな事に対し、「まぁこんなもんでしょ」と受け流す態勢が万全な気持ち-で日々の生活を送る事が出来れば、非常にラクだろう。でもそれは普通なかなか出来る事ではない。人は誰しも悲しい事や嫌な事、面倒な事が起きないよう、無意識の内に願いながら生きてるはずだし、いざ事が起きたら「まぁ、しょうがない」では済ませられない。
しかし、幼い頃から奔放な母親に振り回され続け(離婚→復縁の繰り返し、せわしない東京とニューヨークの往復生活、「あの人は鬼だ!」と急に言い出す母親…etc)、自身のCDデビュー直後からはさらに激動の日々を過ごしてきた宇多田ヒカルは、何が起きても動じない強靭な精神力を身につけ、ついにその精神の集大成のようなアルバム『HEART STATION』を完成させた。ロッキングオンジャパンのインタビューでは、そんな変人・宇多田に対し「なんでそんなにタフなんだアンタ」ということを、凡人代表のインタビュアーがあらゆる角度から切り込み、宇多田が具体例をポンポン盛り込みながら説明していく、というやり取りが延々続く。相変わらずの頭の回転の速さに加え、離婚の顛末や「あれ?ぼくのティンティン……」という迷言までサラリと飛び出す無防備さは、さすが…。
ただ、こういった宇多田の精神世界について切り込んだ内容より画期的だったのが、インタビュー前半の、「なぜ自分でアレンジを始めたのか?」「そもそも、どうやってアレンジをしていく事を覚えたのか?」について。ずーっと謎だったのだ。作詞作曲に加えアレンジまで自ら手掛けるようになった宇多田に対し、どうして誰も彼女の音作りについて聞かないのか…。この点で今回のインタビュアー・兵庫はグッジョブなのだ。ロッキングオンという雑誌自体、ミュージシャンに対して歌詞の意味や精神性を問うインタビューばかりで、「編集部の人って具体的な音楽制作の知識一切無いのか?音楽雑誌なのに…」と常々思ってたが、今回は良かった。「特定のジャンルに属した音楽は作らない」という宇多田の曲作りの行程やこだわりが窺い知れた。本当に不思議だったのだ。キャリアを重ねる度に「これはR&B」「これはハウス」「これはファンク」等と定義出来なくなっていく、どんどん独自性を高めていく宇多田の音楽的変貌が。宇多田が「remix」とか「サウンドレコーディング」とかに出ててくれればアレンジについて色々語るだろうが、まぁ、登場しないしね。
宇多田ヒカルがアレンジを始めたきっかけは、『First Love』レコーディング中、プロのアレンジャーが自分の曲をいじってるのを見ながら、恐る恐る「もっとここはこうした方が…」みたいに突っ込みを入れるのに疲れたから、らしい。「15、16の小娘に、ある程度名の通ってるアレンジャーの人が、あーでもないこーでもない言われたら…」という気遣いに疲れ、全部自分でやることにした、と。これ読んで、『First love』には誰が参加してたのか、あまり聴かないこのアルバムを引っ張り出してきたらびっくり。「Automatic」は西平彰かよ!「Movin'on without you」は村山晋一郎か…。二人とも、エイベックス系を除けば、関わった事のないミュージシャンは居ないんじゃねーかぐらいの人…。そーか、こんな邦楽界の大物が関わってたのか、あのアルバムには。言うまでもないが、私は宇多田自身が制作の主導権を握り始めた3rd『DEEP RIVER』以降が好きですわ。

あ、今回のジャパンのもうひとつの目玉がhideラストインタビュー再録。再録なので当時のをそのまま載せただけだったが、「ピンクスパイダー」の表記がわざわざ「PINK SPIDER」に直してあった。なぜ。英語が正しいのかな?まぁ、必見ですよこれは。最近X JAPAN及びhideに興味持った人にとっては目からウロコだと思う。