拝啓 夏目漱石先生

自称「漱石先生の門下生(ただのファン)」による日記

『All of タンポポ』/タンポポ

2007-12-18 23:11:31 | アルバムレビュー
『All of タンポポ』/タンポポ


1. 乙女 パスタに感動 ★★★
明るく楽天的なギターのリフに導かれて思わず体を揺らせてしまう、木村カエラが歌ってそうな愉快で楽しいポップロック。アレンジは2期タンポポの世界観をつんくと共に支えた永井ルイ氏。言葉の語尾を繰り返すバカっぽくも楽しげなバックコーラスがこの曲のキモだろうか。「ビデオ返しわすれた(れたれたれたれた…)」の部分が妙に耳に引っかかる。

2. 恋をしちゃいました!★★★★
1曲目を引き継ぐガールポップ。アレンジは、モー娘を語る上で欠かせないダンス☆マン率いる「THE BAND MAN」のキーボディストでモー娘の数々のヒット曲での演奏も担当、さらに松浦亜弥「LOVE涙色」のアレンジも担当した渡辺チェル氏。タフで陽気なドラムとギターがウキウキ感を増幅させる。間奏の優雅なチェンバロ・ストリングスにも並々ならぬ気合を感じる。曲名と携帯メールが登場する歌詞からYUIの「CHE.RR.Y」を思い出すが、6年前に発表されたというこの曲の方が、つんく作詞だけあってシチュエーションに凝りまくっている。「デートの途中にメールした」の部分が秀逸。よく思いつくなこういうの。

3. 王子様と雪の夜★★★★
鈴と鐘の音がフィーチャーされたクリスマスソング。永井ルイ氏のアレンジ。ありがちなベタな曲かと思わせるが、間奏にふと入ってくる、ワイルドなギターソロが異彩を放つ。冒頭の「テレビを見てたら不安になっちゃって」のくだりは、この曲が発売された2001年末の情勢を反映したものだろうが、当時も今も、世界情勢は嫌になるほど変わっていない…。歌唱力のレベルの違う4人の歌がパーツのように組み合わさって構成された曲なので聴いてると「下手だなぁ…」と笑いそうになるパートもあり、それが良いフックになっている。

4. ラストキッス ★★★★
1~3曲目が4人体制の2期タンポポで、この4曲目から7曲目までは3人体制の1期タンポポ。1期と2期は元々のコンセプトが全く違うようで、ここからアルバムのカラーが変わる。1~3曲目は生音主体だったがここからはクールな打ち込み主体。ストリングスにわざわざ金原千恵子たちを起用していて1期とは力の入れようが異なっている。
切なすぎる歌詞を容赦なく煽る冷たい質感のメロディーとキーボードが美しい。

5. Motto★★★
ディープなR&B曲。歌詞もぐっと年齢が上がっている。ここではベースにウィル・リー(12年前スマップのアルバムに起用された時業界中で大騒ぎになった名手)を起用。やはり力の入れ方が違う。アレンジャーはハロプロで傑作を生み出しまくりの河野伸。グルーヴィーなリズム隊とシンセの絡みが印象的だが、メンバーのコーラスワークもなかなかのもの。

6. たんぽぽ(Single Version) ★★
前2曲とは打って変わってありがちな、軽快で爽やかなポップス。大人びた歌い方と爽やかな音のギャップが結構面白いが、曲としては平凡か。

7. 聖なる鐘がひびく夜★★
1期メンバーによるクリスマスソング。曲の雰囲気は2期のメンバーが歌ってもおかしくなさそうなノリだが、こちらのメンバーの方が歌唱力が上なのでハモリが綺麗である。綺麗過ぎてよくありがちなクリスマスソングになってしまっている。

8. I & YOU & I & YOU & I★★★★★
2期による曲。2期の曲はもう「ポップロックしかやりません!」という感じなのだろう。アレンジャー・永井ルイ氏によるクイーン風のブリティッシュロックアレンジが上手くハマっている。独特な歌唱力を生かすにはコレしかない。妙な曲名だが聴いてると涙が出そうになる、「恋をしちゃいました!」の進化形にしてタンポポの最高傑作(個人的には、ね)。

9. 誕生日の朝★★★★
1期による曲。じわじわと盛り上がっていく曲とコーラスが美しい。つんく、良いメロディー作るなぁとただただ感心。これが出た頃ってモーニング娘もそこまで売れてなかったはずだし、仕事量も少なく全力投球出来たのだろう。

10. A Rainy Day★★
1期による、スカ風味な曲。異様にうねるベースプレイと妖艶なエレピが耳に気持ちよい。歌声がうまくまとまり過ぎている気がするので、その分聴き所はオケにあるのでは。

11. BABY CRY★
2期による、生バンドを迎えて作られた曲。メロディーに妙にやっつけ仕事感がただよう。ここまではキャッチーな良メロ連発してたのにね。悪っぽいイメージを打ち出そうとしたのだろうが、あまりハマっていない。この曲はライバル(?)のプッチモニの方が合うような。

12. 年末年始の大計画 ★★★★
2期による曲。穏やかながらも幸せムードが漂うメロディーを彼女らなりに壮大に歌う。変な曲名だが、アルバムのラストに収まっていそうな感動的な曲である。2期でオリジナルアルバムを作ってないというのが何とも勿体無い。

13. たんぽぽ(Grand Symphonic Version)★★★
新加入した2期のメンバー2人のボーカルを加えて再録。総勢5名での新バージョンである。若いのに器用で芸達者な加護と不器用ながらも可愛い声の石川が参加し、原曲とはかなり違う印象に。ボーカル新録だけでなく新たなアレンジも施されている。優雅ながらも素朴なオーケストラサウンドがまさに「タンポポ」といったところだろうか。

総評★★★★
モー娘から派生したユニット・タンポポがリリースした全シングルなどを収録したベスト。構成メンバーによって1期と2期に分かれている。打ち込み主体で作られたクールな音と流麗なストリングスが印象的な、大人なイメージ1期と、生音主体で作られた、可愛らしいブリティッシュポップな2期(永井ルイGJ!!)。どちらもなかなか魅力的だが、歌唱力の弱さを武器にしてしまっている2期が特に面白い。メンバーの歌唱力の差がかなりあるように聴こえるが(誰がどの声かはモーヲタに聞こう)、曲自体がポワンとしているので下手な歌でも妙にマッチしている。歌詞に出てくる「あなた」はどれも「派手さは無くて平凡だけど優しくて素敵な人」という設定。ゆえに聴き手の妄想が入る隙間が上手いこと用意されている。勘違いして魅了されてしまった男ファン、めっちゃくちゃ沢山いたんだろうなぁ。1期と2期の曲が混在しているのでアルバムとしてのまとまりは皆無だが、それだけ幅広い音楽性が楽しめる。つまんない曲も一部あるものの、出来のよいガールポップが聴きたければおすすめの一枚。中古で250円が相場だし。