つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

アテが……大はずれ

2006-11-10 20:08:47 | ファンタジー(異世界)
さて、3冊分のオレの時間返してくれの第710回は、

タイトル:オルディコスの三使徒(1巻「妖魔の爪」2巻「紅蓮の絆」3巻「巨人の春」
著者:菅浩江
出版社:角川書店 角川スニーカー文庫(初版:H4、H6、H7)

であります。

えー、ほんとうは、この3冊でノルマ3日分をこなしてやろうと姑息なことを考えていたら……そうは問屋が卸さない、らしい。
その理由は後ほどと言うことで。

王家から下賜されたラウラという宝珠に祈りを捧げることで、生活を営む世界。
ソテと言う寒村で過去の事故や容姿から不遇を託っていた少女ブラウリカは、娯楽の少ない村を訪れたビンダカイク技芸団が座を開くその日、ふたりの旅の男に出会う。

技芸団の来訪を聞いて警戒するふたりの男に疑問を抱くブラウリカだったが、その警戒は、技芸団を隠れ蓑に世を乱すマヌダハルの手先。その力で村人を惑わし、ブラウリカを除いてすべてが石と化したソテ村からブラウリカはふたりの男……オルディコスの使徒と名乗る香師イシュラーマ、夢師タグロットとともに村を離れることになる。

あともうひとりの使徒、楽師を探すふたりに連れられ、旅をすることとなったブラウリカは、兄のもとで起きたマヌダハルの腹心との戦いや、闇に染まりかけた少年との出会いを経て、ふたりが探す「光の楽師」として目覚め、オルディコスの三使徒として、マヌダハルとの戦いに挑む。

……と、こんな感じで書いてると、いかにもなヒロイックファンタジーに見えるが、ストーリーは善悪の二元論では語れない「神」をテーマにして、SFテイストもちょっと入れた物語。

1巻は、ブラウリカが「光の楽師」として目覚める物語で、当然主人公でヒロインのブラウリカが主体。
ここでは、ブラウリカの生い立ち、境遇などから光の楽師として目覚めるまでの心の動きなどがきちんと描かれ、好感が持てる。
また、3巻完結のため、伏線もきっちりと作り、この時点で勧善懲悪の二元論ではない匂いを感じさせるところもいい。

2巻は3人揃ってからのマヌダハル討伐に向けた展開だが、弱まったオルディコス神の力や怠惰な王家、貴族への不信などから、マヌダハル側の巧みな煽動などを経て、完結編へのつなぎ。

完結編となる3巻は、テーマに沿った展開とこういうヒロイックファンタジーには珍しい大団円が待っている。

で、なぜこれが1日1冊にならなかったかと言うと……テーマの扱いを大きくしすぎて、物語やキャラの扱いが薄くなったため、と言えるだろう。
おそらく、だが、設定上、神……オルディコスとマヌダハルの対立軸を勧善懲悪にならずに理屈をこねくり回そうとした結果、3巻でまとめるために汲々としてしまった、と言ったところだろうか。

特に顕著なのが3巻。
2巻のラストの出来事で陥ってしまったブラウリカの現状や、イシュラーマの思いなど、テーマを語るためにこうしたキャラの心の動きが十分に語られないため唐突な感が否めない。
また、十分でないことはキャラそのものやバックボーンを希薄にさせ、人間味を感じさせない要因ともなる。三使徒のキャラの個性だけははっきりしているだけに、余計にその個性だけが上っ滑りしてる感じがするんだよねぇ。

「神」というテーマを持ってくるのはいいが、それによって物語やキャラ(人間)というものが、理屈をこねくり回すための人形になっていては意味がない。
もし、汲々としてせず、まとめたんだとしても、テーマとか、解説とかに埋もれてキャラが人形や道具にしかなってない小説ってのは嫌いなんだよね。

まぁ、物語としてはオチはつけてくれているが、他にも「その伏線でその展開かえ?」とか、「これ、ホントに理屈通ってんのか?」とか、まぁ……ぼちぼち首を傾げざるを得ないところもあったりするわけで……。
古い作品だし、いまの作風から見れば、だいぶ違っているところがあるからなぁ、と心の中でフォローを入れたとしても、このシリーズは落第。

長くなってもいいから、もっときっちりテーマもキャラも描いてほしい、と言うのが正直なとこかな。

脇のふたりだね

2006-11-09 16:56:20 | 木曜漫画劇場(紅組)
さて、漢字表記がなんか似合ってるぞの第709回は、

タイトル:ガートルードのレシピ(全5巻)
著者:草川為
出版社:白泉社 花とゆめコミックス

であります。

鈴:LaLa DXのときからリアルタイムに読んでるLINNで~す。

扇:つい先日、全巻揃えたSENでーす。

鈴:ようやく揃えたか……。
しかし、このマンガ、探すのに苦労したのぅ。

扇:意外となかったぜよ。
『龍の花わずらい』は速攻で見つかったんだがなぁ……。

煤:やっぱり、初の単行本作品だし、LaLa DX連載だったからなぁ。
いまでこそ、人気はあるが、このころはそこまで版は出てなかったんかもな。

扇:個人的に、これが一番面白いと思うんだがね。
しかし、先週こっそりとネタ掘りしたおかげで、しばらく木画は保ちそうだな。

鈴:そーねー。
……って、なんだその木画ってのはよっ!

扇:いい略称だと思ったんだが……。
んじゃ、木場で。

鈴:どこのマンガのキャラだ?(笑)

扇:えーと……カードで戦う漫画じゃないのは確かだ。
仕方ない、木漫で我慢するか。

鈴:なんか、韻が「ぽこぺん」みたいな感じでイヤだ(笑)

扇:どこをどう読んだら『木漫』が『ポンポコポン』になるんだっ!
普通に読むなら『もくまん』と読め、『もくまん』と。

鈴:一緒やぞ、それ、韻。

扇:四文字なのと最後が『ん』なとこだけだっ!

煤:だから韻だって。
抑揚が一緒だからな。
……でもまぁ、気に入らんのであれば、「曜漫」とかはどや?

戦:それ、どこの菓子?
で、『すす』って読み方変わってるぞ。せめて『林』ぐらいにしときなさい。

鈴:そりゃ羊羹やっ!
しときなさいって……いまごろ気付いたのか……。
(5つ目……)

扇:やれやれ、わざわざスルーしてあげたと言うのに……。

鈴:……ほんまか?(疑いの目)

扇:疑うなら、五十六億七千万年後の未来を賭けても良いぞ。(笑)

鈴:いったいいつまで生きてるつもりやねんっ!

扇:さあ?
三分後かも知れんし、百億年後かも知れん。
いずれにせよ、そんな先のことは解らない。(笑)

鈴:3分後もわからんとは……。
痴呆症?(爆)

扇:何を言う、三分後の未来が読めたら無敵だぞっ!
将棋とかで使ったら多分負けなし。

鈴:なに、仕事中の3分後はほぼ100%読めるぞ(爆)
それに、将棋って3分レベルの話なんかえ?

扇:少なし、相手の次の手が読めるのは充分強みだと思うぞ。
NHK杯とか制限時間結構厳しいから、先が読めるとかなり美味しいと思う。

鈴:そゆもんかのぅ……。
「ヒカルの碁」とか「月下の棋士」とか読んでても、まったく何がすごいのかわからん人間にとっては、3分も5億年も大差はないんでな。
まぁ、5億年先を読めても、読めすぎだろ!? って気はせんでもないが(笑)

扇:五億年先に何が存在するのか知りたい人間は沢山いるだろうがな。
ま、心配するな。少なくとも君は塵に還っている。

鈴:では、還ってあ~んなことやこ~んなことが出来るということだな?

扇:そう、どっかの地下に集合して『ダストモ○スター』になったり、旧家の奥で実体化して『まっ○ろ○ろすけ』になったり、色々遊べるぞ。私は遠慮しておくがな。

鈴:何を遠慮しておる。
遠慮なんぞせんでもえぇやろに……ひひひひひひひひひひひひひ……。

扇:↑妖怪?

鈴:魔女と言いなはれ。
……女ぢゃないけど。

扇:本場ヨーロッパでは男女関係なく魔女と呼ぶらしいけどね。
つまり、『魔女』という訳語自体が間違ってるわけだが……。

鈴:ほほぅ……。
じゃぁ、相棒も魔女?
(なんかこゆ感じのタイトルのマンガorアニメがあった気がする)

扇:相棒は実は、魔~女~だったので~す!

鈴:スタジオぴえろを思い出すような台詞を吐くなぁっ!!!

扇:何の話だ?(素)

鈴:何を言っているっ!!!
魔法の天使クリィミーマミとか魔法の妖精ペルシャとか魔法のスターマジカルエミとか、作ったとこだぁっ!!!!
(なぜ知っている、オレ(爆))

扇:さて、萌え萌えなLINN君はほっといて、そろそろ本編の話をしよう。
ガードレールのレシピを探し求める女の子が、悪魔三人組と一緒に全国を歩き回るロードムービーです。

鈴:誰が萌えとるかっ!!!
……って、いったい誰が探し求めてんだ、をい。
ったく……、まじめにストーリー紹介をするかね。

様々な悪魔の身体の一部を使って作られた人造悪魔のガートルード。その一部を取り返すために追ってきた悪魔との争いの中で出会った少女と、ガートルードを作る際のレシピ(製造法)を巡って、ガートルードの一部になった悪魔たちとの戦いと、少女との(さぶいぼな)交流を描いた作品であります。

扇:さぶいぼ言うな。
まぁ……この二人、愛し合うようになるのが妙に早かった気はするがね。
とりあえず、CM入れますか。


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鈴:じゃぁ、ストーリー紹介も終わったことだし、キャラ紹介やね。
主人公のガートルード。様々な悪魔の一部をつぎはぎして作られた人造悪魔。
第1話で、プッペン、マリオットというおもしろ悪魔に追いかけられていた最中、ヒロインの佐原漱と出会い、悪魔としてだけではなく、感情を取り戻し、佐原とともに困難に立ち向かう、けっこう少年マンガ的(一部)な主人公キャラ。
基本的に、素直でないと言う属性を持つ。

扇:では、ヒロインの佐原漱。
出会ったばかりのガートルードが悪魔だと名乗っても驚かず、それどころか塩を使ってあっさり倒し、数十分後にはラブラブな関係になってしまったという、色々な意味で世紀末的なヒロイン。
実はガートルード作成法を記した『レシピ』と深い関係があり、それを巡って兄と対立することになる。
ちなみに、他の草川ヒロインに比べると涙腺がゆるかったりする。

鈴:では、第1話でガートルードを襲っていたが、第2話からお仲間になったおもしろ悪魔の片割れプッペン。
右の耳をガートルードの一部にされた人形遣いの悪魔だが、本性はただの食いしん坊。
ストーリー上は第1話以外では特にガートルードに絡むところは少なく、ちょっかいを出す程度の扱いだが、外伝ではパートナーのマリオットとともに主役を演じる。
感性型の典型的なキャラ。

扇:んじゃ、片割れのもう一人・マリオット。
こちらも人形遣いの悪魔だが、左の耳をガートルードの一部にされている、料理が大好き、四人組の中で一番冷静、と色々な意味でプッペンの逆をいくキャラ。
静かな優しさが光る好人物だが、本編ではちと影が薄いかも知れない……。

鈴:影は薄いが、マリオットがいなければ生活が成り立たないのがガートルード一家(笑)
では、当初のラスボス(シドー)の佐原兄(名前は忘れた)=ガートルードを作ったクロード(玄人ではない)
佐原の骨にレシピを刻み、佐原の兄を乗っ取って、ガートルードを付け狙ったお兄さんだが、佐原とガートルードのの前に砕け散る(恥)
なんか、こういうのはなんだが、あんた、佐原の秘密に関わらなければ、出てこなくてもぜんぜんOKな薄いキャラだったんですけど。

扇:呼んでやれよっ! 佐原久作って!
では、大トリで、ガートルードから左目を取り返すためにやって来たカーティス。
スーツが似合う現代風悪魔で、人間をたぶらかし図に乗せて無理な契約をかわしたあげく相手が破滅するのを見るのが趣味という素敵な御方。
一度目は敵、二度目は味方として出演し、面白い役回りを演じてくれた。
いかにもやり手の詐欺師のような風を装っているが、ある過去の関係でサハラには死ぬ程甘い。
(詳しくは五巻収録の短編を参照。なぜかハードボイルドな話になっている)

鈴:短編と言えば、やはりおなじく5巻のプッペン&マリオットの外伝であろうなぁ。
特に、プッペン=福辺、マリオット=毬夫の部活ネタはほほえましくてよいし、漢字表記、そのまんまで似合いすぎ……(笑)

扇:この二人、本編ではマスコットに近かったからなぁ。作者としても描いておきたかったのだろう。
カーティスの外伝も良かった。やはり、本来の彼はこういう格好いいキャラなのだろう。
つーか、草川は短編上手いね、ほんと。

鈴:そうねぇ、外伝あたりの短編にはおもしろい作品が多い。
とは言え、短編オンリーと言うわけでもなく、主人公のタイプはおなじながらもほのぼのとした「十二秘色のパレット」とか、雰囲気のある作品が多いからねぇ。
新人さんでこのひとが好き、ってのがけっこういたりするのも納得、かな。
と言うわけで、そろそろ今週の木曜劇場はお開きであります。
それでは、結局いろいろ呼び方を変えても木劇がいちばん合ってるなぁと思いつつも

扇:SEN、LINN揃って気に入っているので、この方は今後も紹介していきます~。
呼び名は……やっぱり木劇で確定か、木曜漫画劇場じゃ長すぎるし。
では、今日はこれにて失礼致します。

ハリウッド戦車物?

2006-11-08 22:41:20 | SF(国内)
さて、SFも浮上するか? な第708回は、

タイトル:くたばれ戦車商隊
著者:上原尚子
出版社:富士見書房 富士見ファンタジア文庫(初版:H1)

であります。

お初の作家さんです。
『覇邪の封印』のゲームブックを書いた方らしいのですが……覚えてない。
敵の超重戦車に仲間を奪われた青年が、過去にケリを付けるために復讐戦を挑む物語です。



時は未来――月に建設された都市群が地球に対して独立戦争を仕掛けている時代。
解放戦争と呼ばれるそれは、月都市の大半を巻き込んで二十年以上続いている。
だが、月のすべての都市が地球と敵対しているわけではなく、中立を保つ都市も多数存在した。

そんな状況下で、中立都市内の反地球勢力は極秘裏に解放軍、及び、ゲリラへの援助を開始した。
戦局が拡大するにつれて軍事企業の介入も活発になり、その流れは『商隊』と呼ばれる賞金稼ぎ部隊を生むに至る。
商隊が地球側の兵器を自前の装備で破壊し、そのスコアに応じて企業が賞金を出し、その戦果を解放軍が買うというシステムの確立により、月は巨大な軍事市場と化していた。

戦車商隊『チーム2355』のリーダー・ユカヤは突然の成り行きに衝撃を受けていた。
一年前、自分のいたチーム2228をたった一台で潰滅させた超重戦車『リトルマレイ』――奴を仕留める依頼が、直接自分の元に来たのだ。
こちらのメンバーはアタッカー三人、バックアップ二人、装甲車一台、装備はせいぜい対戦車歩兵分隊クラスでしかない……が、ユカヤは決して逃げるわけにはいかなかった!



一言で言っちゃうと、根性で勝とうとする連中と物だけで勝とうとする連中の戦い、です。
時代は未来、舞台は月ですが、軍事テクノロジーは二十世紀レベル(未来の品は宇宙服とホバーバイクぐらい)だし、月の戦場特有の描写も少ないので、第二次世界大戦ものとして読んでも差し支えはないでしょう。
ユカヤ達2355のメンバーは装甲車に乗って戦場を駆けめぐるのですが、車内が非常に広いため、作品の雰囲気は戦車物と言うより戦艦物に近いかも。

でもね――

シャワー室付きの装甲車って何よ?

シャワー室、休憩室、ホバーバイクとジープの格納庫まであるって……どれだけデカい車やねん!
一応、敵への攻撃はアタッカー(歩兵)が行うみたいですが、攻撃チームである以上、装甲車が攻撃を受けることも多い筈……つーか、冒頭でいきなりユカヤが敵の装甲車をバズーカで破壊してるし……。
こんなでっかい的を用意して戦車に挑む時点で、ナンセンスの極みですね。ついでに言うと、何で後半に出てくる敵のヘリコはこいつを狙わなかったんでしょう? 謎だらけです。

主人公側がこのていたらくですから、敵はもっとひどい。
ターゲットのリトルマレイは、重装甲が売りの超重戦車なのですが……イラスト見る限り、その大きさは駆逐艦レベル。

お前はマウスか?

補助火器はどこ? デカさだけが売りのマウスも機銃だけはちゃんと付けてたぞ。
機銃がないにしても、せめて随伴歩兵ぐらいは付けろ! 近接戦でカモられるだけだぞ!
つーか、一緒に付いてきてる装甲車や戦車も適当に固定機銃撃つしか能がないのか? 歩兵出せ、歩兵! そんなんだから、ユカヤ達アタッカー三人組にいいようにやられちまうんだよ!

ド素人かお前らっ!

地球人は、余程、戦車商隊の戦法を学ぶ気がなかったらしいですね。
バズーカに地雷に手榴弾と、ユカヤ達は対戦車兵器使い放題なのに、地球人はノロマな棺桶を沢山揃えて力押しって……よくもまぁこれで二十年も戦えたもんです。

ついでに言うとドラマも薄い。
メンバー五人、及び、ユカヤの元チームメイトであるザックの視点を使い回すことで群像劇っぽい話にしようとしてるんですが、個々のエピソードの扱いが軽すぎて空中分解してます。
そもそも、何でみんながユカヤを信頼するのかさっぱり解らない。もうちょっと強硬に彼と対立し、魂をぶつける奴がいないとドラマが盛り上がらないんですが。

落第です、褒めようがありません。
ユカヤにとって人生のハイライトとも言えるリトルマレイの撃破は敵のマヌケな戦い方のおかげで盛り上がらないし、最後に語られるユカヤの相棒コーのサブストーリーも何じゃそりゃって感じで……どうにかして下さい、もう。

ふたりは最強

2006-11-07 19:26:04 | ミステリ
さて、ミステリは浮上するか? な第707回は、

タイトル:ミステリなふたり
著者:太田忠司
出版社:幻冬舎 幻冬舎文庫(初版:H17 単行本:H13)

であります。

お初の作家さんです。
署内では『氷の女』として恐れられる鬼刑事・京堂景子と、家に居ながらにして謎を解いてしまう夫・新太郎の活躍を描く連作短編ミステリー。
表題作を含む十編を収録。例によって一つずつ感想を書いていきます。

『ミステリなふたり』……二十九歳の警部補・京堂景子は家に帰るなり水を要求した。呆れ顔で出てきた八歳下の夫・新太郎に甘えつつ、手掛かりゼロの殺人事件についてグチをこぼす。被害者は早乙女化成社長の後妻、第一発見者は彼女の姉、しかし死体発見時に現場は密室となっていて――。
いきなり京堂夫婦のラブラブっぷりが炸裂している第一話。せめて肉じゃがの火ぐらいは消させてあげようよ景子さん。ミステリとしては安楽椅子探偵物で、飽くまで犯人らしき人物を指摘するだけで終わっている。しかし、いくら新太郎君の推理が納得いくからって、事件ほっぽいて二戦目に突入って……をい。

『じっくりコトコト殺人事件』……疲れ果てて帰宅し、これでもかとばかりに空腹を訴える景子。さっそく、新太郎はじっくり時間をかけて煮込んだ鶏肉のワイン煮込みを出そうとするが――。
これまた安楽椅子探偵物。殺害方法に疑問を持てば自ずと答えは出るが、ラストはちょっとひねってある。しかし、新太郎君の料理の腕はかなりのもののようだ。世の女性はこぞってお婿さんに欲しがるのではなかろうか。

『エプロン殺人事件』……景子は不機嫌の絶頂だった。今夜こそ家でゆっくりできると思っていた矢先に殺人事件が起こり、しかも、他の刑事が揃いも揃ってボンクラだったからだ。現場に不自然な点があるというのに、誰一人として気付かないとは――。
愛知県警内で『鉄女』または『氷の女』と呼ばれる景子が、その本領を発揮する話。新太郎といる時のとのギャップが凄まじいが、それが彼女の魅力だろう。推理は……いや、そこまで断定するのはどうよ? といったところ。これ以後、京堂夫妻の家ではなく、事件現場を舞台とした話が多くなる。しかし、景子以外の刑事は本当にボンクラばかりなのはいかがなものか……。

『お部屋ピカピカ殺人事件』……筍御飯、鰆の幽庵焼き、かきたま汁、もやしと三つ葉の和え物を前に、京堂夫婦は家事の得手不得手について話していた。ふいに、景子が現在担当している殺人事件のことを話し始める。被害者宅に不審な点があり、それと今の話が関係していたのだ――。
非常に出来がいいワントリック物。夫婦の会話による導入→景子の捜査→家での謎解き、と王道的な流れも上手くいっており、本書中屈指の名品に仕上がっている。しかし、新太郎君ってホントーにマメだね。

『カタログ殺人事件』……帰宅するなり、景子は新太郎を押し倒した。不可解な殺人事件を抱えて、頭が煮詰まっていたのだ。被害者である単身赴任の男は、余りにも不自然なものを握りしめて事切れていた――。
決定的な情報がラスト直前で明かされるというひどい仕様……の割に真相は安直。新太郎君の言葉じゃないが情報が少なすぎる、にも関わらず情報がなくても犯人は簡単に予想できる。困ったもんだ。

『ひとを呪わば殺人事件』……実はもう犯人は逮捕されている、と景子は言った。動機・機会・手段すべて揃っており、おまけに犯人は犯行を認めている。しかし、それでも納得できない点があった。それは――。
ちょっと反則気味のどんでん返し。よりによって、その部分を偶然で済ましちゃうかなぁ……。最後に新太郎が語る、愛の話も何かイマイチ。

『リモコン殺人事件』……凶悪犯をペティグリーで仕留め、休む間もなく次の捜査に向かう景子。呆れ顔の同僚など気にせず仕事に徹する姿は『鉄女』そのものだが、そんな彼女にも苦手なものがあった。悲しみに暮れる遺族を事情聴取することだ――。
尻切れトンボの印象が強い話。爪の謎が説明しきれてない(そもそも、犯人はなぜ全部切ってしまわなかったのか?)し、取って付けたように犯人を出すやり方も不満が残る。それにしても……景子さんの語る、「ここは下らないミステリ作家が自分の探偵を引き立たせるために用意したような能なし警察官の集会場か」って、自虐ネタすれすれでは?

『トランク殺人事件』……偶然起きた追突事故、偶然開いたトランク、偶然そこからはみ出した指、そして偶然発見された死体。どこまで偶然で、どこまで必然なのか? 現場の景子と家の新太郎は、電話のやり取りで真相に迫る――。
おーい……それだけで犯人探すのって、どうなの? 最後に、名探偵京堂新太郎の意外な弱点が判明するのは面白いが、事件そのものは尻すぼみ。

『虎の尾を踏む殺人事件』……愛知県警捜査一課は重い空気に包まれていた。一ヶ月の間に四人の女性が惨殺され、その殺害方法が共通しているにも関わらず、捜査が一向に進展しないためだった。そんな誰もが諦めかけている中、『鉄女』の異名をとる京堂景子が重大な証拠提示した――!
警部補・京堂景子の魅力全開の話。理路整然と被害者の共通点を指摘し、犯行が可能な人間を洗い出していく姿は文句なしに格好いい。相変わらず、それで犯人割り出すのはどうか? と思う部分もあるが、ラストシーンで犯人と対決する時の姿が決まりすぎているのでいいとしよう。

『ミステリなふたりhappy lucky Mix』……前九編を読んだ方なら、ここでどんな話が来るかは大体予想が付く筈。なので解説はしない。連作短編のトリを務めるに相応しい逸品だと思う。

基本は――

景子が事件の話をする(もしくは現場検証をする)
→食事しながら夫婦で推理(もしくは電話で相談)
→新太郎が謎解きをする(景子が新太郎の推理に従って事件を解決する)、

というパターンの繰り返し。
各編に微妙な変化を付けることでマンネリ対策をしているのは好感が持てますが……それでも個々の事件の印象が極度に薄いのは難あり。
主人公夫婦のキャラが立っており、会話も楽しいのですが……二人を目立たせるために他の刑事を単なる邪魔者にしちゃってるのも、何か引っかかります。

全体としては……微妙。
多くを望まないなら、軽く読んでみても良いかと思います。
空き時間に一編ずつ読むには適していますが、腰据えて一気に読むとダレます。

かくて、〈円環〉は顕現せり

2006-11-06 20:45:51 | ファンタジー(異世界)
さて、「あ、ファンタジー増やしちゃった」な第706回は、

タイトル:〈骨牌使い〉フォーチュン・テラーの鏡III
著者:五代ゆう
出版社:富士見書房 富士見ファンタジア文庫(初版:H18)

であります。

五代ゆうが放つ大河ファンタジー『〈骨牌使い〉の鏡』の最終巻です。
運命に翻弄される少女アトリの静かな戦いと、〈詞〉の世界を揺るがす大戦争の顛末を描きます。
前二巻については第622回、及び、第631回を御覧下さい。



〈骨牌〉の王国ハイランドは存亡の刻を迎えていた。
王に死の影が忍び寄り、〈真なる骨牌〉をその身に宿す者達は次々と〈異言〉の元へと走る。
最後の希望であったアトリすらも連れ去られ、ロナーは押し寄せる東の蛮族との絶望的な戦いにその身を投じていった……。

一方、アトリは〈異言〉達の都で幻を視ていた。
それは失われた物語……かつて存在した旧王国の崩壊を語る物語だった。
謎の〈十三〉の正体が明らかになり、アトリは己の為すべきことを知る。

滅びは間近に迫り、誰もが否応なく戦いの渦の中に飲み込まれていった。
今を守る者達と過去の罪を問う者達、二つの相反する勢力がハイランドに屍の山を築いていく。
その中で、アトリとロナーは再び出会い……別れた。それぞれが己の運命と対峙するために――!



本来、私は何かしらの毒を含んだラストの方が好みなのですが――

ここまでやってくれればハッピーエンドで問題ありません。

大団円です。
めでたしめでたしです。
文句の付けようがないハッピーエンドです。

もちろん、すべてのキャラクターが幸せになるなんて甘っちょろいものではありません。
すれ違いはあります、最後まで解り合えなかった相手もいます、他人の想いを力で押し潰したりもします。
生き残った者達は己の罪を自覚した上で、最後に訪れる幸福を抱くのです――ハッピーエンドとはこうでなくては。

で、本巻の内容なのですが、一言で言えば『戦いの果てに訪れる二人の聖婚』です。
一巻で語られた伝説の真相を知るアトリ、己の無力さと臆病さを思い知るロナー、二人の接近とともに過去と現在も接近し、物語は終局へと向かいます。
一巻からこっち、流されっぱなしだったアトリもようやく主人公となることができました……にしちゃロナーの方が断然目立ってる気がするが。(爆)

最終巻ということもあって、伏線の回収も激しいです。
この世界のシンボルとも言うべき〈骨牌〉の役割、アトリの夢に出てくる人物の正体明かし、忘れ去られていた(失礼!)アトリの友人モーウェンナとの決着まで付けます。
ロナーがようやく重い腰を上げた時、これでもかとばかりに顔キャラを登場させるシーンの盛り上がりは凄まじく、今までの地味な展開を綺麗さっぱり吹き飛ばして読み手をクライマックス・モードに引きずり込んでくれます。いや、ホント上手い。

本巻のMVPは、一巻からスポット的に登場していた道化師ドリリス。
他のキャラはともかく、こいつだけは読めなかった……そういう役回りだったのね。
ロナーのごとき若造にあっさり論破されてしまったのはちょっと笑いましたが、最後までふらふらと現れては、美味しいとこだけ持っていく妙な奴でした。こういうキャラ好き。

最後までハズさず書ききってくれてます。三重丸のオススメ。
さ~、次はデビュー作『はじまりの骨の物語』を読むぞっ。

まだまだ続ける

2006-11-05 00:03:28 | ファンタジー(現世界)
さて、前がOKなら当然次も手に入れなければの第705回は、

タイトル:12DEMONS
著者:御堂彰彦
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H17)

であります。

電撃文庫の比率が高い?
SENとも話していたが、ここは数が出るのでたまに読めるのに当たりやすい、と言うこととジャンルも節操なしなのでいろんなタイプのが読める、と言うのが一番だろうねぇ。

さておき、前回読んだ「付喪堂骨董店 ”不思議取り扱います”」がかなりよかったので、すでに出ている別の作品をチョイス。

聖誕学園では、12月だと言うのに文化祭が催されていた。
創立記念日に行われる文化祭で朽木椎矢は、クラスの出し物である喫茶店を終え、クラスメイトの円夜琴葉、賀来喜久子とともに演劇部が行う、この学校が建てられた土地にまつわる伝承を舞台にした演劇を見る。

その後、出し物の後片付けを行い、後夜祭に向かうはずだった椎矢は、突然の地震を感じた直後、いつもの学校でありながらおなじ学校ではあり得ない、誰もいない世界へと放り込まれてしまう。
誰もいない学校……彷徨う椎矢に不気味な餓鬼のような存在が取引を持ちかけてくる。
それに応じたときから、土地の伝承に基づく儀式の幕が上がる。

12人の宗教関係者によって12の部位に封じられた悪魔。
その封印された部位をすべて手に入れたひとりだけが助かることが出来、さらにひとつだけ願いをかなえてもらえる、と言う条件で始まる争奪戦を描いた物語。
……の1巻。

はっきり言って、12人も出してだいじょうぶか? と思ったがこれがなかなか……。
主人公の椎矢、ヒロインの琴葉とその友人の喜久子に加え、文化祭で行った演劇で主役を張った甲斐谷芙未、有栖川擁子、生徒会役員の進藤真、紗々木知事加、京部創那、演劇部脚本兼演出の刀納依聖司、暴力沙汰の多い掛衣豪、椎矢の幼馴染みで美人だが変人の黒百合空亜、ずっと学校を休んでいた音無千代。
12人ともに、偶然であれ確信的であれ、その思考、動機、行動はきちんと分けられており、描写や台詞が被りそうなキャラの場合は展開によって、片方をそのシーンから除外するなど、区別にはきちんと神経を使っているところが窺える。

こういうのも失礼だが、そこまでライトノベルに求める気はさらさらない。
それでもきちんとここまで書ける、と言うのは特筆に値するだろう。
ただ、文章の途中で視点を変えるときに、もう少しうまく書いてくれれば、もっとよかった部分が散見されるところが、ちと残念。

ストーリー展開だが、こちらも破綻はなく進んでいく。
それぞれの動機や行動、心理描写なども過不足なく描かれ、離合集散したり、敵対したりしながら展開し、読み応えも十分。
1巻のラストで、「あ、やっぱり」ってとこはあるが、それでも伝承にまつわる謎や過去の事件など、今後の展開への引きもしっかりとしており、十二分に続きを読みたくなるだけのパワーもある。

「付喪堂~」を読んで、ライトノベルの作家で、しかもほとんどが評価の低い男性作家にもかかわらず、かなりのおもしろい作品だと思ったが、この「12DEMONS」もライトノベルとは思えないほどの読み応えが素晴らしい。
Amazonでも高評価を獲得しているが、さもあらん。

ただ、折り返しのあらすじや設定などを見ると……「バトルロワイアル」が元ネタか……。
「付喪堂~」でも、「夢柳堂夢咄」や「ザンヤルマの剣士」の影がちらついていたこともあって、これも元ネタの匂いがぷんぷんする。100%オリジナルの設定やストーリーなどあり得ないのは当然だが、こうもまた元ネタがはっきりしてると、パクリ……とは言わなくても、そうした疑念が残る。
書き分け、展開、読み応え、作品の雰囲気と、どれも十二分に持ち合わせているだけに、こうしたところは極めて残念でならない。

もっとも、こうしたライトノベル、ファンタジー系の作家でここまでの力量を持ち合わせた作家は稀有なので、酷く評価を下げる、と言うところまではいかない。
やはり比較的オススメできる作品と言える。



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容赦ねぇなぁ、このひと

2006-11-04 14:10:51 | 恋愛小説
さて、他のにかまけて返却日間近だったのよ第704回は、

タイトル:柘榴熱
著者:宇佐美游
出版社:実業之日本社(初版:H17)

であります。

約50回ほど前に読んだ「玉の輿同盟」がなかなかよかったので、お初に手を出すよりは安心かなと言うことでチョイス。

野瀬光希は、優しくそれなりに資産のある家の息子である悠一と結婚し、主婦業を務めていたが、悠一のジャカルタ派遣について行き、帰ってきてから、主婦業だけの生活に嫌気が差して小さな出版社の契約社員となる。
しかし、セクハラが当たり前の会社ですでに30を超えた光希は、ことあるごとに嫌みを言われ続ける日々だった。

そんな光希に、思いがけず会社でアルバイトをしていた年下の市村が思いを寄せてくる。
年齢から、もうこんなことはないと思い、付き合いを始めてしまう。
履歴書に未婚と書いた嘘、悠一への嘘、市村への嘘を重ねて続ける不倫。
それを話せるのは友人の伊都子、多香実のタイプの違うふたりだけ。

だが、甘い蜜月はそう長くは続かない。会社の同僚たちと同じように次第に言葉で光希に攻撃する市村。それでも離れられない光希は、いつバレるのかと言う不安や、逃れられない思い、悠一への裏切りなどから次第に……。

前は女性4人組の赤裸々な人間関係を描いたものだったが、今回は野瀬光希と言うひとりの女性に焦点を当てている。

ストーリーは、女は、男に負けるもの……そんなふうに言い聞かされ、育てられた光希が持つ、負けて当然という根底の意識と自立願望が、会社での出来事や市村との不倫などに形を変えて光希を翻弄する姿がじっくりと語られている。
「玉の輿同盟」では人間関係を軸に各キャラの赤裸々な姿が描かれていたが、これも光希中心ではあるが、やはりひとりの女性の姿が直接的に描かれており、興味深い。

文章は光希ひとりを中心にしているぶん、前みたいに誰が何を喋ってるのかわからない、なんてことはない。
だが、逆にひとりだけというのは中盤以降、変化に乏しい分、冗長に感じることが往々にしてある。
雰囲気も、光希の根底にある相反する意識と不倫生活の嘘と不安など、重いほうなので、冗長さに拍車をかけている。
全体的には概ねおもしろく読めたが、冗長な部分が続くところはやはりマイナス。
……つか、「ええいっ、とっとと腹ぁくくらんかいっ!」と、ちょっとばかしイラっと来るところがあったり……(笑)

総評としては及第だが、楽しさと言う点では「玉の輿同盟」のほうが上。
悪いとは言わないが、良品とまでは言えないか。

イヤな予感も……

2006-11-03 13:42:34 | ファンタジー(異世界)
さて、ぢつはちょっとほっとしてたりしての第703回は、

タイトル:狼と香辛料3
著者:支倉凍砂
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H18)

であります。

1巻2巻と続いて若き行商人ロレンスと、麦に宿る神狼ホロが織りなす剣も魔法もないちょっと変わったファンタジーの第3弾。

ホロの故郷であるヨイツを訪れる目的もあり、前作リュビンハイゲンから冬の大市と祭りで賑わう町クメルスンへ向かうロレンスとホロ。
その途中、おなじ商業組合に所属し、魚商人のアマーティと出会う。
商人同士の会話の中、どうやらアマーティはホロに惹かれている様子。

とは言え、その計らいもあって祭りで賑わうことから難しい宿探しも何とかなり、ついでに商売の合間にホロの相手までしてもらうことに。
商売に続き、ヨイツまでの道のりについて情報収集をしたロレンスだったが、ホロの話を話半分で聞かされたはずのアマーティは、ロレンスに賭けを挑み、それに勝利した暁にはホロに求婚する、と言う挑戦状(+契約書)を突きつける。

その契約内容と、連れとしてともに旅してきたホロが易々と承諾するはずもない、とタカをくくってその契約を呑んだロレンスだったが、契約のひとつは達成しそうな気配。
さらにホロとは微妙にすれ違い、誤解が誤解を生み、賭けもホロも掌からこぼれ落ちようとする。

ちょうど2巻でロレンスとホロのふたりの関係がちと前進したところでもあったので、こうしたホロを巡っての事件というのは順当なネタだね。
また、アマーティとの賭けをきっかけに描かれる商売ネタも、ロレンスとホロのすれ違いにうまく絡んで物語の出来はいいと思う。
クライマックスも、いままでよりも読み応えのあるだけの盛り上がりがあり、ストーリーとしては、順調なネタながらもおもしろく読めた。

ただ、1巻でも指摘した文章面の欠点がここに来てぶり返してきたようだ。
読みづらさとそれに伴う流れの停滞が2巻よりも顕著になり、せっかくのストーリーのよさが台無し……とまでは言わないが、目減りしてしまうのは確か。
どこかほのぼのとしたロレンスとホロの関係や、対する商売という緊張がうまく混ざり合った、よい雰囲気もあり、文章的な部分さえ、もっときちんと出来ていれば、ライトノベルの中でもかなりのクオリティの作品、との評価も下せよう。
ただし、ほのぼのラブコメディとして(笑)

それにしても、このシリーズ、少なくともあと3冊くらいで完結してもらいたいもの。
ヨイツ、と言う目的もあることだし、とりあえずそこへ向けての道筋も3巻である程度つけられているので、ダラダラと長く続けるよりも、2、3冊くらいですっきり終わらせてくれればいいのだが……。



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帰ってきた偽装夫婦

2006-11-02 20:35:32 | 木曜漫画劇場(白組)
さて、『ナイーヴ』に続いて、なぜかこれが来る第702回は、

タイトル:ふたりで朝まで
著者:二宮ひかる
出版社:白泉社 ジェッツコミックス

であります。

扇:朝まで踊ってたら足首死ぬと思うSENでーす。

鈴:何やろうと徹夜は死ぬと思うLINNで~す。

扇:体力落ちたよなぁ……昔は二昼夜連続ぐらい平気だっだんだが。

鈴:平気だったのか……異常だな……。
私は1日やったら爆睡してたぞ。
睡眠不足はお肌の敵だからな。

扇:ついこないだ、徹夜でブルーソネット全話見た奴が何を言う。(笑)

鈴:なんでブルソネやねんっ!
ウィッチブレイドや!!
んで、徹夜ではないっ!!
8時くらいから1時すぎくらいまで5時間ぶっ通しで見ただけだ!!(爆)

扇:無修正バージョンを?(笑)

鈴:いらん誤解を与える台詞を言うなぁっ!
まぁ、実際、テレビ放映版と、DVDはちと違うが。

扇:コスチュームが多少変わってるだけらしいな。
ちらっと見た限り、それは装甲の意味ねーだろ! ってツッコミが入るぐらいで、特に規制食らうほどのもんでもないと思うけどねぇ

鈴:まぁ、確かにねぇ。
ちと露出は高いが、規制かけるほどではないわなぁ。
まぁ、確かにそのままにするとうるさいひとびとはいそうだが。

扇:このテの格好ってゲームなんかではさも当然のように使われてるんだがなぁ。
ま、R15指定ぐらいは食らってるかも知れないけど。
しかし、あンた……色々言ってた割には最後まできっちり視たよな。(笑)

鈴:可能性はあるな。
……って、あぅあぅあぅ……。
いーじゃん、おもしろかったんだし、涙腺緩んできたおっさんにはいい感じな話がけっこうあったんだし(笑)

扇:まぁ、バトル抜きにすれば、母と娘のホームドラマみたいだしな。
歳食って人情話に弱くなった独身男には、結構キツイものがあるかも知れんね。

鈴:なに、べたべたなホームドラマだ。
主人公親子のベタっぷりな親子関係にけっこうぐっと来るぞ(爆)
まー、そう言う意味では、見た目よりも比較的まともなストーリーのアニメではあるがね。

扇:ほほう……暇をみてチェックしておくか。
こっちは『幕末機関説 いろはにほへと』ぐらいかな、GYAOで視てるのは。
いかにも幕末伝奇物って感じで楽しいんだが、サブで出てくる遊山赫乃丈一座の芝居は頂けんな……下手な上に、話のテンポを悪くしてるだけだ。

鈴:したまへ。
まぁ、気が向いたら……と言うか、向き始めているが、DVD買うかもしれんから、それを待ってからでもよいぞ(爆)
で、「いろはにほへと」はGYAOではCMとかで出てきてるから知ってるが、そーゆー話なんか……。
でも幕末かぁ……「あやかしあやし」見てるから、江戸ものはいまさら見る気にはなれんかな。

扇:そういう話だ。普通の時代劇を期待すると痛い目を見るぞ。
一座のキャラは周囲の一般人と比べて浮きまくってるし、最初の敵になる奴は刀でパワーウェイブ放つし、主人公は眼が青く輝くし……と伝記物街道まっしぐらだ。
『あやかしあやし』か、当たりだったら君がDVD買うだろうから、それに期待しよう。(笑)

鈴:あー、どーかなぁ。
結局、よいと言ってたハガレンも買ってないからなぁ、DVD。
……そもそも……金ないし……(切実(爆))

扇:買え!
そして貸せ!
すべては俺の健康で文化的な生活のためにっ!

鈴:じゃぁ、
「ああっ女神さまっ」のOVA3巻と映画版と一緒で、なおかつストーリーの概要をそれぞれ400字詰め原稿用紙30枚以内に書いて提出する。
と言う条件付きなら考慮する(笑)

扇:超却下。
まぁ、感想に関しては、原稿用紙30枚以内って時点で、「いらん」で済むんだがな。

鈴:……ちっ……。
じゃぁ、29枚以上30枚以内ね。
出せよ……。
と、出すこと確定と言うことで(貸してやる)、恒例のパターンに行くかね。

扇:以前木劇でも紹介した二宮ひかる、の作品集です。
全五話からなる表題作と、オムニバス短編「ソノ時、彼女は…?」(1)(2)(3)を収録。
「ふたりで朝まで」は、『最低!』に収録されている「いつわりの恋」の続編です。
挙式予定者限定の旅行懸賞に当選してしまったため、偽装結婚した真潮と慎太郎のその後の話。
前作は、旅行から帰ってきて、「離婚しよう」と決める所で終わっていたのですが、本作で、真潮が離婚届けを提出していなかったことが判明――話がこじれます。(笑)

鈴:こじれてたな、マジで。
まぁでも、なんだかんだあっても、収まるところに収まった定番ではあるがね。
じゃぁ、CM行っとくか。


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扇:では、主人公(?)の石和慎太郎。
25歳、プログラマー、真潮の夫。
程良く堅物で、程良く押しに弱く、結構助平という典型的な二宮男。
離婚したと思っていた真潮にアパートを襲撃され、多少抵抗した後、肉欲に負けて彼女と同居することを決めた……実に正直な人物。
当初は、真潮の真意を計りかねて微妙に距離を取っていたが、一度感情をぶつけあった際に開眼(笑)、以後は昼夜問わず××まくる凄い関係に発展した。
自分の立ち位置を忘れて、「結婚しよう!」と言ってしまった時の顔はなかなか笑える。

鈴:じゃぁ、ヒロインの会田真潮。ちなみに年齢不詳。作中から少なし、同級生くらいだとは思われる。
実家の事情により、慎太郎のアパートにもぐり込んだ偽装結婚の相手……のはずだが、実は離婚届を出してないことが判明。会田ではなく、石和真潮だったりする。
押しが強いのか、いかにもな女性キャラなのか、微妙なところを行き来するキャラ。
ただし、相変わらず二宮男を翻弄するところはこれもまた、二宮女といえるであろう。

扇:何と言うか……嗅覚だけで生きてるようなタイプだったな。
自分で離婚しようって言っときながら届けは放置状態だったし、家族にまったく事情説明してなかったみたいだし、最後は最後で慎太郎が追ってくるまで放浪状態って……人生勘がすべてか、をいっ!

鈴:でもまぁ、裏の計算はそれなりにしてそうだがね。
放浪状態も、慎太郎がじれるのがホントはわかってそうだし~(笑)

扇:網にかかるのを待ってる感じはするわな……実際かかったし。(笑)
んじゃ、残りの短編三部作についてもちょっと話しておくかね。

鈴:そーね。じゃぁ、「ソノ時、彼女は…?」の第1話「かわいいあの子」
……のヒロイン、吉田千鶴。事務機器メーカーの営業で、先輩社員と営業に赴く快活な、しかもくちさがない……いや、違う、歯に衣着せぬ言動の25歳。
……まぁ、25には見えないが、八重歯がかわいいけっこうお気にの子(爆)
とゆーか、この子、押しが弱い先輩(男)が赤面する台詞を吐きまくり、真っ昼間にホテルに連れ込む、なんてことをやってたりするが、やっぱり……と言うか、先輩に惚れててやってるところは、二宮女って感じだぁね。

扇:基本的に、二宮の恋愛物はそれで成立してるからな。
えーと……男の紹介はいいか、どの話でも大体同じ性格だし。
んじゃ、二話目『鏡の中の…』の水上洋子。
ちょっと世間知らずな発言と、何となく堅い雰囲気から、職場でお嬢様扱いされている22歳。
本人はそういうイメージを払拭したいと思っているが、方法が解らずにストレスをため続けている。
新人の本木君と先輩後輩関係でギクシャクしており、それを同僚にからかわれたことで日頃の鬱憤が噴出、すったもんだの末に、彼を無理矢理自分の家に引きずりこんで……。(以下自主規制)
何もかも自分の中で処理してしまうタイプなので、襲われた本木君が彼女を理解出来たがどうかはかなり怪しい。

鈴:まー、してへんやろなぁ、最後の台詞からも。
では、連作最後の「笑顔が一番」の叶ゆきえ、22歳、受付嬢。
その職業柄、誤解されることが多く、おなじ会社の人間にもそんなことを言われ、飲み会で爆発。終電後のため、誤解のもととなった男を連れ込むことになってしまうが、ぢつは奥手なかわいらしさが判明する、見た目よりも中身のかわいい子。
ちなみに、この短編の秀逸は男側の決め台詞と、古風な感覚だったりする(笑)

扇:とまぁ、同じ会社に勤める三人の女性を主人公にした、オムニバス短編三部作です。
千鶴や洋子が、自分が主役の話以外にもゲスト出演してたりするのは結構楽しい。
何か強烈な印象があるってわけじゃないけど、読んでると……作者の前職が良く解ります。(笑)

鈴:そのまんまやろ。
まー、そゆとこは、加納朋子の書く親父連中もそのまんまだが(笑)
と言うわけで、再度の二宮マンガではありますが、短編連作と短編と、前のナイーヴよりは手に取りやすかろうと思います。
と言うわけで、今回の木曜劇場はこの辺で、さよ~なら~♪

扇:二宮ひかるを知らない方が、最初に読むにはちょうど良い短編集です。
短編と短編の間にある作者のお喋りも結構楽しいので、十八歳以上の方は読んでみて下さい。
(モロにそういうシーンがあるので、一応釘を刺しておく)
では、今回はこれにて。さようなら♪



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そして、少女は荒野から帰る

2006-11-01 23:49:42 | マンガ(少女漫画)
さて、今日は楽するつもりだったのに長くなった第701回は、

タイトル:少年は荒野をめざす(全六巻)
著者:吉野朔実
出版社:集英社 ぶーけコミックス(初版:S61)

であります。

自分が女性であることを自覚できない少女と意識的に何かに執着することを避けている少年の出会い、と、それによって起こる騒動を描くガール・ミーツ・ボーイ物。
登場人物の色分けが上手く、非常に質の高い青春ドラマに仕上がっています。
まぁ、中学三年生→高校一年生にしては聡すぎる気もせんではないが……。



狩野都は3千メートル自由形の王者と呼ばれているが、本人はそれを知らない。
水泳をやっているわけではない、そもそも彼女の得意分野は文章を書くことだ。
ただ、ぼやっとしてる割には頭が良くて、何も考えずに思いつきで発言する癖があって、皆が笑っている時は自分も無意味な笑顔を見せることがある……それだけのことだ。

狩野のクラスには彼女以外にも問題児が二人いる、東の横綱・小林靫彦と3-4の左脳・管埜透だ。
小林は勢いのままに場を盛り上げるムードメーカー、管埜は頭脳の使い道を選ばない策略家。
狩野の思いつきを管埜が具体化し、小林が意味もなく盛り上げる、鉄壁の三枚ブロックを誇る三人組を人は3-4三大スタアと呼ぶ。

しかし……そんな彼らでも、時間との戦いだけは放棄出来ない。
目前には高校受験が迫っており、狩野はまだ進路を決めかねている。
そう、彼女は何も変わっていないのだ……五歳の時、野原に少年を置き去りにしてからずっと。

かつて、狩野には七歳年上の兄がおり、彼女はずっと彼の代わりに世界を見ていた。
だが、病弱だった兄は狩野が五歳の時に死んだ……もう自分の代わりはしなくていい、と言い残して。
人生をやり直したはずの狩野の時間は、ずっと止まっている。小説を書くようになった今でも。

そしてある日、狩野は彼を見つけた……自分がなる筈だった存在、陸を――!



自分と誰かを重ね合わせてしまうという瞬間は、誰にでも訪れるものではないかと思います。
本作の主人公・狩野もそのタイプなのですが、その対象が死者で、しかも異性というのがかなり深刻。
しかし、彼女は見つけてしまったのです、自分と同じ顔を持つ少年を……。

そりゃ、行き着くところは決まってるわな。

性別の異なるドッペルゲンガーを愛し、憎悪するという展開は、以前に木曜漫画劇場で紹介した『ジュリエットの卵』に似ています。
あちらの主人公・蛍は、姿こそ兄の水に近付きながら、同時に、二人だけが存在する閉鎖空間からの脱却を計りました。
こちらの主人公・狩野は違います……時間と共に陸にのめり込み、同調していきます。(ある意味ホラーだ)

一言で言ってしまえば錯覚なのですが、当人達にとってはそうではありません。
狩野も陸も、互いに同調することで現在の自分に疑問を抱くようになり、そして……。
すいません、これ以上は言えないんでパス。(爆)

基本は、狩野と陸の話ですが、他のキャラも上手く生かされています。
特に秀逸だったのが、狩野の避難所となった洋館の主・日夏さん。
美形で小説家で少年少女趣味で性格破綻者という実にイイ男で、最後まで狩野と陸を支えたにも関わらず、決定的な部分では二人に袖にされてしまった可哀相な方でした。

つーか、二巻以降は日夏さん一人で話が保ってたと言っても過言ではない。
ちなみに、マーガレットコミック版・五巻の作品解説にて、作者自身が彼についてコメントを書いています。
本作における日夏さんの存在意義を実に上手く表現されているので、ここに紹介しておきます。

「青年期のこどもたちにとって、特別に自分を愛してくれる『他人』の存在が、在るか無いかでその後の人生は変わります。これは目に見えない安全ネットのようなもので、自分には人を引きつける力があるという幻想は、ここぞと言う時、すなわち深い溝を跳び越えようとする時威力を発揮します。『日夏さん』です」

ファンはもちろん、ベタベタなロマンスが苦手な人にもオススメします。
他人はほっといて、二人だけの世界を作って終わりなんてことはありません、ちゃんとしっぺ返しも食らいます。そこがいい。



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