つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

実はネムキ愛読者?

2006-11-14 18:00:54 | ファンタジー(現世界)
さて、早々と同じ作品を紹介してしまう第714回は、

タイトル:付喪堂骨董店 ”不思議取り扱います”
著者:御堂彰彦
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H18)

であります。

第697回でLINNが褒めていた(珍しい!)ので、私も拾ってみました。
不思議な力を秘めた骨董品『アンティーク』絡みの騒動を描く現代のおとぎ話。
全四編を収録。例によって、一つずつ感想を書いていきます。


『第一章 偶然』……偶然嫌いの『僕』は、小学生の時に『偶然』を起こすアンティーク『ペンデュラム』を手に入れた。それは、願うだけで望み通りの偶然を起こしてくれる。だが、それは飽くまで偶然であって必然ではない――。

いわゆる屁理屈系の話。偶然と必然について延々と講釈してくれるが、矛盾だらけで呆れてしまう。結果は引き起こせないと言いつつ、どう考えても結果まで引き起こしてるぞ、こいつ。特に×との出会い! 『僕』と主役・来栖刻也の視点を使い分け、ヒロインの舞野咲と物語のホームグラウンド『付喪堂骨董店~FAKE~』の紹介をすることで、第一章の役目だけは果たしている。ちなみに、咲がいかにも『私は許されざる罪人なのよ』みたいなことをのたまうが、具体的な話は本巻では出てこない。ただ、冒頭で出てくる二十代後半の女性は恐らく……(以下削除)。


『第二章 像』……あの方の右手には神が宿っていた。触れるだけで、どんな病もたちどころに治してしまう力を持っていた。だから、あの方の優しさが詰まった像にも同じ力がある筈だった。それなのに何故――。

あるアンティークをキーに異なる時間を並行して書く話。定番ネタの嵐なので先は読めるが、過去の話でアンティークの伝説の真相を語り、現在の話でアンティークが巻き起こすトラブルを描くという構成で、最後まで綺麗にまとめてくれている。ただ、148頁で刻也が瀕死の咲のことを想うシーンは言葉が軽すぎて白けた。前フリもなく唐突に、出会って一年しか経ってないが、あいつとは深いところまで関わっている気がするって言われてもねぇ……。


『第三章 記憶と記録』……あの日、私は見てしまった。あの人が母を突き飛ばし、殺したところを。だけど、誰も信じてはくれない。だから私はノートにそれを書き留めた。記憶力の悪い私でも、そこに書いたことは忘れずにいられる母の形見のノートに――。

この章のためだけに本書があると言っても過言ではない傑作。ゲストの女性の設定が素晴らしく、彼女を描くだけで最後までドラマが成立している。記憶の欠如とその対策、忘れたいのに忘れられない記憶、過去の真実および現在とのつながり、すべてのピースがピタっとはまるクライマックスだけでも凄いが、すべて終わったかと思わせて最後に再び突き落とすブラックなオチまで付いているのは驚異的。短編の一つの完成形だろう。


『第四章 プレゼント』……一人暮らしの貧乏学生・刻也は、仕送りに『付喪堂骨董店~FAKE~』のバイト代を加えることで生計を立てている。当然、無駄金を使う余裕などない。だが、そんな彼が咲にプレゼントを贈って――。

一言で言えば、暗い話が続いた後の息抜き。いかにもハードボイルドな過去がありそうで中身はただの苦労人な刻也と、いかにも罪を背負って生きてそうで中身はちょっと常識が欠落した普通の少女な咲。そんな二人の、甘酸っぱいというか、青臭いというか、見てる方が恥ずかしくなるというか、要するにベッタベタなやりとりを描いている。あーはいはい、と呆れるのは簡単だが、ここは暖かく見守ってやるのが読者の良心かも知れない。そういうことにしておこう。


どの短編もストーリーの組み立てはきっちりしており、安心して読めます。
王道まっしぐらといった感じのキャラクターも、この話には合っているので問題なし。
ただ……これは白い文章にも関係するのですが、心理描写にちと難があります。

ゲストキャラは一行一段落で回りくどい割に、単に同じ思考を繰り返してるだけというのが大半。
メインキャラはまだマシですが、ゲストよりも与えられた行数が少なく、思考が飛躍して自己完結している場合があります。要するに、自分で解ってるから読者に説明せずに済ませてしまう……って、をい。(怒)
続刊を出すことを意識して、敢えて情報を制限しているのかも知れませんが、これ一冊単体で読んだ場合、第二章のようにキャラクターの思考回路が支離滅裂に思えてしまうこともあるのはかなりのマイナス。
(ここらへんは、次作で改善……されるのかなぁ)

まぁそれでも――
第三章がずば抜けて面白いので多少の欠点は目をつぶりますが。(爆)

色々書きましたが、なかなか読ませてくれる短編集です。オススメ。
LINNと大体同じ評価になりましたね……チッ。



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