つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

カルタでGO!

2006-08-14 23:49:14 | ファンタジー(異世界)
さて、久々のラノベな第622回は、

タイトル:〈骨牌使い〉フォーチュン・テラーの鏡I
著者:五代ゆう
文庫名:富士見ファンタジア文庫

であります。

初登場の作家さんです。(私の記事では)
『詞』 ことば に支配された世界を舞台に、『骨牌使い』 かるたつかい の少女アトリの数奇な運命を描くファンタジー長編で、本書は三分冊の内の一冊目に当たります。
二冊読んだ後で、相方が単行本の方を読了していることを知りました。(爆)

今夜もまた、『それ』はアトリの元を訪れた。
涙を流しながら腹に触れ、沈むように中へと入ってくる。
そして、風が吹くだけの無人の広野へと彼女を誘うのだ……。

アトリは亡き母の骨牌を受け継いだ骨牌使いである。
かつて骨牌使いは、この世のすべてを語った十二の詞――その力を宿した骨牌を用いることで強大な力を行使していた。
だが、今の世にそこまで強力な使い手は存在せず、彼女もまた、〈斥候館〉専属の占い師として慎ましく生きている。

祭りの席で、アトリは同じ骨牌使いに母を侮辱された。
骨牌による決闘という、詞を使う者として恥ずべき行為の果てに、彼女は旅の青年ロナーの未来を占うことを余儀なくされる。
占いを毛嫌いする彼が奪い取った『結果』を示す最後の札……それは、十二枚中最も不吉とされる忌み札『月の鎌』であった――。

確率十二分の一で、『徹底的な破壊』って、かなりシビアな占いですね。

とまあ、無粋なツッコミは置いといて……かなり凝った設定の異世界ファンタジーです。
『世界』を十二の詞によって語られる物語としており、詞を象徴する骨牌と、それを使って詞を操る骨牌使い達の存在を無理なく成立させています。
また、異言者と呼ばれる詞を破壊された者達や、詞も骨牌も知らず独自の文化を育ててきた民族を出す等、基本をきっちり押さえることで世界に奥行きを与えています。

ストーリーとしては王道で、主人公アトリが秩序の守護者と混沌の眷属の争いに引きずりこまれ、秩序側の一員ロナーと関わる内に世界を学んでいくというもの。
物語自体は淡々と進みますが、アトリの亡き母への屈折した感情や、隠された自分のルーツを知った時の困惑などを非常に丁寧に書いており、じっくり読ませてくれるのは好印象。
もっとも、本巻の彼女は状況に振り回されっぱなしなので、どちらかと言うと世界の案内役で終わっちゃってる感じはしますが……。(次巻でちょっと解消されます)

あと印象的だったのが、何から何までとにかく無駄がない作りをしていること。
捨てキャラが一人もいない、展開で寄り道したりしない、文章の水増しもまったくない……どこまで計算してるんだこの作者っ!
反面、手軽に読める作品やカタルシス溢れる作品を求める方からすると、固い! と感じる部分もあるかも知れません。私の場合、ジャストフィットだけど。

ただ、本巻に限って言えば――

世界の変動に呼応して現れる骨牌『見えず、聞こえず、語られぬ十三』の存在。
五百年前、骨牌の力で一国が滅びたというベルシャザルの伝説と現代のつながり。
夢の中でアトリを訪問する人物は、実は×なのではないか? という疑惑。

等々、謎が豊富で、激しい盛り上がりはなくても、続きを読む気にはなる……筈。(弱気)

文章、構成、設定、どれを取っても水準以上の良作です。オススメ。
ところで、序盤でいきなり出てくる『多島海』って名称は『ゲド戦記』へのオマージュなのか?(笑)


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