つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

60分一本勝負~

2006-11-11 13:36:38 | ファンタジー(異世界)
さて、図書館にないから買うしかないのよねぇの第711回は、

タイトル:ゼロの使い魔
著者:ヤマグチノボル
出版社:メディアファクトリー MF文庫J(初版:H16)

であります。

SENと話をしていて話題に出てきて、ファンタジー復権の至上(?)命題もあるので読んでみたもの。
……しかし、なんでこれを私が読むと言う話になっていたのだろうか……。

構成は1冊で長編1本、と言うわけではなく、中編が2本収録されている。

「魔法の国」
平賀才人は、目を覚ますとそこにはマントを羽織った、どう見ても日本の東京に住むひとではない一団に囲まれていた。
わけのわからないまま、そこで飛び交う理解不能な言葉たち。
そんな一団の中、囃し立てられていた少女は、何かを呟きながら才人にキスをする。
それは少女……ルイズが、才人を自らの使い魔として契約する儀式だった。
そして、才人は日本ではないどこかの世界で、この世界では極めて珍しい人間の使い魔となった。

第一話、と言ったところ。
主人公のひとりである才人がおちこぼれの魔法使いメイジのルイズに召喚され、使い魔となる導入部。
異世界に来た才人が現実を知って悩んだり、貴族、平民の区別がある社会でトラブルを巻き起こしたりと、パラレルワールドに飛ばされた主人公らしい展開で、テンポはよく軽快だが、ストーリー上はお約束の塊。

ただ、一人称と三人称を区別なく混ぜているのは気に入らない。
文章の作法の最低限くらいはきちんと守りなさい。

「ガンダールヴ」
前話の「魔法の国」での出来事から、ルイズの家系と昔からいがみ合っている家系のキュルケが、前話の出来事で才人に惚れてしまい、そのいがみ合いとルイズたちがいるトリステインで名を轟かすメイジの盗賊の事件を絡めた話。
ルイズとキュルケのいがみ合いから偶然、盗賊が魔法学院の宝を盗むところを目撃し、キュルケの友人タバサと4人で盗賊討伐に向かう。

変わらず、テンポはよく、展開も無理はなく、流れはよい。
文章も三人称に統一され、読みやすくなっている。

1話目の文章上の欠点を除けば、総じて、コメディの命である「テンポ」はとてもよく、軽く読むには適している。
キャラも、主人公の才人の行動や思考は一貫しており、破綻はない。
ルイズも高飛車で、才人の背伸びしたご主人様を演じており、時折見せるかわいらしさや凛々しさなど、十二分にお約束キャラの気配が濃厚で、いかにも人気の出そうなキャラに仕上がっている。

また、これまたお約束ながら、家系や才人を含めてルイズのライバル役となるキュルケも正反対のタイプだったりするし、その他、脇役の学院の教師、学院長など、コメディらしい軽快なキャラも多く、コメディとしての要素に申し分はない。

ストーリーも2話とも、展開は定番だが、定番だけに破綻なく進み、見せ場もきちんと作っている。

キャラはお約束で、ストーリーは定番と、わかりやすい物語を好むひとならば、確かに楽しめるであろうし、キャラに入れ込むことも可能であろう。
テンポの良さもこの作品の魅力に、十二分に貢献していることだろう。

ただし、逆に軽さと読みやすさ以外にさして見るべきところはなく、正味1時間もあれば読み終われてしまう読み応えのなさは、印象やインパクトのなさにつながる。
また、ストーリー、設定ともにお約束なので、才人が召喚された理由やルイズのおちこぼれやどんな魔法も失敗して爆発させてしまうこと、四大元素以外に「虚無」という魔法の系統があることなど、伏線を勘案すると、これから先の展開、落としどころが1冊読めば概ね読めてしまうところも、作品の軽さを助長する原因のひとつとなる。

もっとも、こうした面はお約束や定番を持ち出す以上、避けて通れない部分ではある。
コメディとしてのよさは、きちんと評価できるものとなっていることだし、決して落第とするほど悪い作品というわけではない。
ただ……、これで1冊580円(税別)は高いぞ、ゼッタイ。