つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

ふたりは最強

2006-11-07 19:26:04 | ミステリ
さて、ミステリは浮上するか? な第707回は、

タイトル:ミステリなふたり
著者:太田忠司
出版社:幻冬舎 幻冬舎文庫(初版:H17 単行本:H13)

であります。

お初の作家さんです。
署内では『氷の女』として恐れられる鬼刑事・京堂景子と、家に居ながらにして謎を解いてしまう夫・新太郎の活躍を描く連作短編ミステリー。
表題作を含む十編を収録。例によって一つずつ感想を書いていきます。

『ミステリなふたり』……二十九歳の警部補・京堂景子は家に帰るなり水を要求した。呆れ顔で出てきた八歳下の夫・新太郎に甘えつつ、手掛かりゼロの殺人事件についてグチをこぼす。被害者は早乙女化成社長の後妻、第一発見者は彼女の姉、しかし死体発見時に現場は密室となっていて――。
いきなり京堂夫婦のラブラブっぷりが炸裂している第一話。せめて肉じゃがの火ぐらいは消させてあげようよ景子さん。ミステリとしては安楽椅子探偵物で、飽くまで犯人らしき人物を指摘するだけで終わっている。しかし、いくら新太郎君の推理が納得いくからって、事件ほっぽいて二戦目に突入って……をい。

『じっくりコトコト殺人事件』……疲れ果てて帰宅し、これでもかとばかりに空腹を訴える景子。さっそく、新太郎はじっくり時間をかけて煮込んだ鶏肉のワイン煮込みを出そうとするが――。
これまた安楽椅子探偵物。殺害方法に疑問を持てば自ずと答えは出るが、ラストはちょっとひねってある。しかし、新太郎君の料理の腕はかなりのもののようだ。世の女性はこぞってお婿さんに欲しがるのではなかろうか。

『エプロン殺人事件』……景子は不機嫌の絶頂だった。今夜こそ家でゆっくりできると思っていた矢先に殺人事件が起こり、しかも、他の刑事が揃いも揃ってボンクラだったからだ。現場に不自然な点があるというのに、誰一人として気付かないとは――。
愛知県警内で『鉄女』または『氷の女』と呼ばれる景子が、その本領を発揮する話。新太郎といる時のとのギャップが凄まじいが、それが彼女の魅力だろう。推理は……いや、そこまで断定するのはどうよ? といったところ。これ以後、京堂夫妻の家ではなく、事件現場を舞台とした話が多くなる。しかし、景子以外の刑事は本当にボンクラばかりなのはいかがなものか……。

『お部屋ピカピカ殺人事件』……筍御飯、鰆の幽庵焼き、かきたま汁、もやしと三つ葉の和え物を前に、京堂夫婦は家事の得手不得手について話していた。ふいに、景子が現在担当している殺人事件のことを話し始める。被害者宅に不審な点があり、それと今の話が関係していたのだ――。
非常に出来がいいワントリック物。夫婦の会話による導入→景子の捜査→家での謎解き、と王道的な流れも上手くいっており、本書中屈指の名品に仕上がっている。しかし、新太郎君ってホントーにマメだね。

『カタログ殺人事件』……帰宅するなり、景子は新太郎を押し倒した。不可解な殺人事件を抱えて、頭が煮詰まっていたのだ。被害者である単身赴任の男は、余りにも不自然なものを握りしめて事切れていた――。
決定的な情報がラスト直前で明かされるというひどい仕様……の割に真相は安直。新太郎君の言葉じゃないが情報が少なすぎる、にも関わらず情報がなくても犯人は簡単に予想できる。困ったもんだ。

『ひとを呪わば殺人事件』……実はもう犯人は逮捕されている、と景子は言った。動機・機会・手段すべて揃っており、おまけに犯人は犯行を認めている。しかし、それでも納得できない点があった。それは――。
ちょっと反則気味のどんでん返し。よりによって、その部分を偶然で済ましちゃうかなぁ……。最後に新太郎が語る、愛の話も何かイマイチ。

『リモコン殺人事件』……凶悪犯をペティグリーで仕留め、休む間もなく次の捜査に向かう景子。呆れ顔の同僚など気にせず仕事に徹する姿は『鉄女』そのものだが、そんな彼女にも苦手なものがあった。悲しみに暮れる遺族を事情聴取することだ――。
尻切れトンボの印象が強い話。爪の謎が説明しきれてない(そもそも、犯人はなぜ全部切ってしまわなかったのか?)し、取って付けたように犯人を出すやり方も不満が残る。それにしても……景子さんの語る、「ここは下らないミステリ作家が自分の探偵を引き立たせるために用意したような能なし警察官の集会場か」って、自虐ネタすれすれでは?

『トランク殺人事件』……偶然起きた追突事故、偶然開いたトランク、偶然そこからはみ出した指、そして偶然発見された死体。どこまで偶然で、どこまで必然なのか? 現場の景子と家の新太郎は、電話のやり取りで真相に迫る――。
おーい……それだけで犯人探すのって、どうなの? 最後に、名探偵京堂新太郎の意外な弱点が判明するのは面白いが、事件そのものは尻すぼみ。

『虎の尾を踏む殺人事件』……愛知県警捜査一課は重い空気に包まれていた。一ヶ月の間に四人の女性が惨殺され、その殺害方法が共通しているにも関わらず、捜査が一向に進展しないためだった。そんな誰もが諦めかけている中、『鉄女』の異名をとる京堂景子が重大な証拠提示した――!
警部補・京堂景子の魅力全開の話。理路整然と被害者の共通点を指摘し、犯行が可能な人間を洗い出していく姿は文句なしに格好いい。相変わらず、それで犯人割り出すのはどうか? と思う部分もあるが、ラストシーンで犯人と対決する時の姿が決まりすぎているのでいいとしよう。

『ミステリなふたりhappy lucky Mix』……前九編を読んだ方なら、ここでどんな話が来るかは大体予想が付く筈。なので解説はしない。連作短編のトリを務めるに相応しい逸品だと思う。

基本は――

景子が事件の話をする(もしくは現場検証をする)
→食事しながら夫婦で推理(もしくは電話で相談)
→新太郎が謎解きをする(景子が新太郎の推理に従って事件を解決する)、

というパターンの繰り返し。
各編に微妙な変化を付けることでマンネリ対策をしているのは好感が持てますが……それでも個々の事件の印象が極度に薄いのは難あり。
主人公夫婦のキャラが立っており、会話も楽しいのですが……二人を目立たせるために他の刑事を単なる邪魔者にしちゃってるのも、何か引っかかります。

全体としては……微妙。
多くを望まないなら、軽く読んでみても良いかと思います。
空き時間に一編ずつ読むには適していますが、腰据えて一気に読むとダレます。