つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

兎小屋ダンジョン

2006-11-20 19:31:45 | ゲームブック
さて、またもウィズネタな第720回は、

タイトル:ウィザードリィ ~魔術師ワードナの野望~
著者:塩田信之
出版社:双葉社 ファミコン冒険ゲームブック(初版:S63)

であります。

ファミコン版ウィザードリィIを元にしたゲームブックです。
魔術師ワードナから魔除けを取り戻すため、六人パーティを組んで地下迷宮に挑むというストーリーは原作と同じ。
最後にちょっとだけオリジナルな展開がありますが……それは読んだ方だけの秘密。(笑)
(ゲームブックって何よ? という方は第113回を御覧下さい)

本書の目玉は、ウィズの楽しみの一つであるキャラクターメイキングを再現していることでしょう。
さすがに原作ゲームほどの自由度はありませんが、メイキング部分を本編と分割し、一つのゲームとして成立させているあたり、作者の気合いが感じられます。
以下、登場キャラとそれぞれのメイキングについて、簡単に書いてみます。

・主人公(名前なし)……人間の戦士で、一応主役。性格は自由に選べる(善固定だったっけ……?)が、唯一ロードに転職できるキャラなので、善にしとかないと泣きを見る。こいつ一人が戦い、他の連中がフォロー入れるのが本書の戦闘の基本なので、常に最強状態を保つのが得策。プレイヤーキャラのためか、苦労するポジションの割には個性が薄い。

・グレン……ホビットの盗賊で、裏の主役(笑)。忍者に転職できるが、ベストエンドを迎える気がないならほとんど意味はない。最初に持つ武器で性能がちょっと上下するので注意。休息中、行軍中、罠外し中などなど、場所も状況も無視して軽いノリで喋りまくるため、六人中最も目立つ。

・ミルディ……人間の元気娘で、お色気担当。性格は善固定、職業は僧侶か戦士を選べるが、僧侶にするメリットは皆無である。非常に明るい性格で、グレンに次ぐお喋り屋。前衛に入っても重装備はしない、上級職にも転職しない、と妙なこだわりを持つが、実はパーティで一番まともな人物だったりする。

・アリサ……エルフの僧侶で、いかにもヒロインぽい黒髪の美少女。善悪の性格選択のみできる。もっとも、初登場時のイメージが引っ込み思案の見習い僧侶or物静かな邪教徒のどっちかになるだけで、以後はまったく反映されない。殆ど喋らないが、イラストのおかげで人気だけはあるかも。(爆)

・ルコック……身長2mを誇る、謎の長髪男。性格も種族も職業も自由に選べる。巨漢のホビット魔術師なんて凄いキャラを作るのも楽しいが、こいつが前衛にいないと序盤が厳しいので、ドワーフの戦士にしといて侍に転職するのがベスト。かなり強い上に、隠された過去まであり、実は真の主役という噂も。

・ベネディクト……ノームの魔術師で、実は重要な秘密を持つ老人。性格も悪固定で、メイキングは一切できない。喋らない、言うこと聞かない、呪文も殆ど唱えない、と数合わせ以下の存在だが、最後の最後で目立つ。

ちなみに、各キャラクターのグラフィックに興味がある方は、こちらのサイト→『駄人間生誕』を御覧下さい。

ゲームノベルの項にて、本作の紹介をされています。
今回の記事を書くにあたって、かなり参考にさせて頂きました。厚く御礼申し上げます。

話を戻して……誰だ、殆ど固定じゃんとか言ってるのは?
いや、限られたパラグラフの中でかなり頑張ってた方なのですよ、これでも!
ちゃんと六人全員にキャラクターシートが用意されており、HP、装備、ACなどを別々に記録するという、妙にTRPGチックな作りをしてたのも好みでした。
(私がD&Dやってたのも大きいかも知れませんが)

とまぁ、キャラクター作りに関してはかなり満足のいく本作なのですが……本編は、サボってるというか、手抜いてるというか、ちょっと痛い仕事してます。
何と言っても、ダンジョンが狭い。

冒険を開始すると、三方向に道が分岐します。
この内一つはレベル1で行くと死ねるので、残るは二つ。
片方は実質一部屋で終わり、もう片方は数部屋で手詰まりとなります。

この兎小屋を何度も行き来してまずはレベル上げしようね、ってことか作者っ!

やりましたけどね、レベル上げ。(爆)
中盤以降も、とても迷宮と呼べるような広いマップは出てきません。
最終ステージに至っては迷路自体が存在せず、サイコロの出目によって登場する敵が変わるという鬼な仕様で……これはひょっとして苦行か? 苦行なのかっ?

にも関わらず、カバーがボロボロになるまで遊んでしまった人間がここにいますが。(爆)

いや……ゲームブックは懐の寒いガチンチョには素晴らしい玩具だったのですよ、マヂで。

ゲーム性にこだわらず、飽くまでウィザードリィ物語の一つを楽しみたい方にオススメします。
当然ながら絶版で、AMAZONでも結構な値段が付いてたりしますが、気合いで探して下さい。

こんなのも書けるのか

2006-11-19 17:47:38 | 時代劇・歴史物
さて、記事書いてるときの左下にある画像がいつも気色悪くて気分が悪くなるの第719回は、

タイトル:独孤剣
著者:藤水名子
出版社:角川春樹事務所 時代小説文庫(初版:H14)

であります。

中国を舞台にしたいわゆる剣侠小説を得意とする著者の、剣侠ものの長編。
前回「王昭君」の評価もよく、だいぶん月日も経った……と言うか、6月だから5ヶ月経て(爆)の再登場。

……ただし、かなりのを吐きまくる予定なので、見たくない方はご注意を。

流刑という重罪を得、そして刑期を終えて出てきた、元罪人であることを示す金印を額に晒したひとりの男、李竣。
剣を鞘に収め、鞘のうちから敵を屠る独孤剣と言う剣技を身につけた李竣は、3人の悪辣な男たちに支配されている穏華荘と言う宿場町を訪れていた。

過去に、軍事費の公金横領と言う冤罪を、親友であった林之睦とともに被せられ、獄中で自殺した林、そして自らを拷問し続けた獄吏、それが穏華荘を支配する男たちだった。
また、林と病死したその妻、暎華の娘である美芳が穏華荘の小さな宿に引き取られ、苦しい生活をしていることもここを訪れる要因だった。

だが、3人の支配者たちが差し向けた役人たちとの戦いに傷ついた李竣は、一時立ち寄った酒場の女主人小苓に助けられ……。

総評、駄作

おそらく、「王昭君」を読んでいなければ、二度とこのひとの作品は読まない、と決断したであろうほどに、駄作。
ぶつぶつと繋がりに乏しい場面&ストーリー展開、読みやすい敵の首魁、その理由のどうでもよさ加減&ありきたりなネタ、ラストの尻切れトンボ、まったく意味を見出せない小苓や美芳のキャラ、無駄としか言いようがなくうざったいだけの擬音、中途半端なキャラや固有名詞の中国読みと日本語音読みの混在などなど、よくもまぁ、これで出そうと編集部も著者も思ったものだと、つくづく思ったね。

だいたい、序盤から中盤がほとんど状況だけの流れで、終盤に至って「実はこうでした」というような、回答だけ最後に用意して満足する下手な推理小説みたいな展開がおもしろいわけがない。
久しぶりに、読んでいてあまりのつまらなさに眠くなると言う拒否反応を体験してしまったね。

120%、オススメしない。
250ページあまり、660円+税、ぼったくられないようにしましょう。

先入観勝負

2006-11-18 15:09:49 | ファンタジー(異世界)
さて、IPの右肩下がりが悲しいの第718回は、

タイトル:シュプルのおはなし Grandpa's Treasure Box
著者:雨宮諒
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H16)

であります。

お初の作家のデビュー作の短編連作。
タイトルのとおり、主人公の少年シュプルが、大好きなムルカという青年が主人公の冒険譚をパートナーにして、おじいちゃんの家にある宝箱から発見した品物をもとに、物語を語る、と言う体裁で4話の短編が収録されている。

シュプルが語る物語の前には、シュプル、幼馴染みのアロワ、お母さん、おじいちゃんの4人でのちょっとした日常が描かれ、次にシュプルの物語、そしておじいちゃんが語るシュプルが見つけた宝物のほんとうの理由、となる。
では、例によって各話ごとに。

「第一話 雪と弾丸」
まずは、おじいちゃんの家に預けられたシュプルがアロワとともに、物置から宝箱を見つけ、そこからひとつの弾丸を見つけ、そこから語る物語。

ある王国の遊撃部隊に所属するシュプル、上司である大尉のムルカや部隊の仲間とともに進軍を続けていた。
そんな部隊には必ず、一発の弾丸が支給されていた。王の信仰する神によって祝福されたそれは自決用の弾丸。これを用いれば必ず安楽な死後の世界へ行けることが約束されている。

だが、ムルカはそんなことはないと断言し、シュプルも薄々と気付いていながらも、戦闘が始まり、ついに終戦を知らせるビラが敵の爆撃機から雪のように舞い落ちてくる。

「第二話 夢を掘る人」
宝箱とされる木箱から探り当てた小さなスコップをもとに紡がれる物語。

井戸を掘るボランティアをしているシュプルとムルカは、渇水に悩まされる寒村に井戸を掘るために招かれていた。
その村の村長の次男、三男とともに井戸を掘っているときに、村を出て都会へ行ってしまった長男が、ここにダムを建設するため、最後となる地権者の説得のために村を訪れる。

村を嫌い都会へ出て行った長男と、村や村にある貴重な樹木などと言った故郷を愛する弟たちと争いになり……。

「第三話 愛の言葉」
おじいちゃんとアロワが、おじいちゃんとおばあちゃんが出会ったときの話と絡め、宝箱から見つけた、空気の抜けた風船をもとに語られる物語。

ある町で靴磨きとしているシュプル。おなじく靴磨きのライバルでありながら友人のムルカとともに、その日の稼ぎを手に1杯呑みに出かける途中、いまでは珍しい風船売りの女性を見かける。
「永遠の愛を誓う」風船だが、いまではもうそんなことをする者も少ないが、それでも風船売りを続ける女性ミツキに惚れたシュプルは、足繁くその日の稼ぎを持って風船を買う。

しかし、そこへミツキを狙う領主の放蕩息子イホップが現れ、権力と財力にものを言わせ、ミツキとの結婚をミツキの養い親である叔母から取り付け……。

「第四話 我が愛しきギャング・スター」
宝箱の中にあった白い粉が入った小瓶から紡がれる物語。

伝説のギャング・スター、カルロス・バンビーナの幹部であったシュプルとその部下のムルカ。
捜査当局からも畏敬されていたバンビーナ一家は、しかし引退したカルロスに代わり一家を取り仕切るようになったシュプルは、先代の名誉を重んじるやり方から麻薬などを取り扱うようになり、堕落していた。
だが、それは表向き、一家を離れ、青年実業家として成功し、表と裏の顔を使い分け、両方で成功することを目論むカルロスの息子カテナの意向であった。

だが、それを知らない幹部の一部は一家の堕落に、鉄の掟をも覚悟し、一家を離れるようになり、その掟とカルロスとの約束との狭間で悩み……。

さて、総評だが、さすがに本好きだがまだ少年のシュプルがありったけの想像力を働かせて語る物語、と言う体裁を取っているだけあって、とても雰囲気の穏やかな、ほほえましい作風に仕上がっている。
またスローライフを地でいく村、幼馴染みのアロワ、子供っぽさを残すお母さん、気難しそうだが一時期村を離れたと言う過去を持つ、不思議な部分のあるおじいちゃんなど、語られる物語以外の冒頭部分も、そうした雰囲気をうまく助長しており、おじいちゃんが最後に語る宝物のほんとうの理由もけっこう日常のありきたりな出来事だったりするところも、くすっとさせてくれておもしろい。

シュプルが語る物語の中でも、主人公が小さなシュプルなので、周囲のキャラとのギャップや、文章中で頻繁に表現される通常の擬音と、シュプル用ののどかな擬音なども、作品の雰囲気に大きく貢献している。

ただし、シュプルが語る物語そのもので言えば、映画をほとんど見ない私でさえも、どう考えてもどの作品も何らかの映画のシチュエーション、ネタなどを引っ張ってきたのだろうと想像がつくくらい、あからさまなもので、きっちりと作品を分析するとはっきり言って、大した物語ではないとの判断が大勢を占めよう。
また、「…」の多用など、文章的にも目につくところがそれなりにある。
そう言う意味では、分析型の読み手にとってはあまりオススメ出来ない作品と言える。

逆に作品の持つ雰囲気などを楽しむ感性型の読み手にとっては、十分読める作品になっていると思う。
それでも、子供が作ったお話だからと言う大前提を、常に念頭に置いておかないとバカを見るだろう。

個人的には私は後者のタイプなので、シュプルの物語の出来よりも、子供っぽい甘さの残る物語の作りや、物語のあとに語られるおじいちゃんの宝物のほんとうの意味、穏やかでほほえましい雰囲気の作風など、評価できる部分は大いにあるので、ライトノベルという評点の甘さも付け加えて、良品、と評価しておこう。

へ~、ほ~、ふ~ん

2006-11-17 01:48:09 | 恋愛小説
さて、初手からけっこう冷めてしまったの第717回は、

タイトル:迷宮の月の下で
著者:水上洋子
出版社:角川書店 角川文庫(初版:H9)

であります。

確か、このひとはお初の作家……と思ったら同じ名前が二宮の「ふたりで朝まで」にあったりして……(笑)
さておき、確か、ではなく、ほんとうにお初の作家。

カメラマンをしている日高彩子は、個人の事務所を持ち、カメラマンとしての仕事が軌道に乗ってきたころだった。
そんな彩子に、結婚はしていないがすでに5年、同棲している藤本章吾は、妻としての役割を求めるようになり、それがふたりの気持ちにすれ違いを発生させる。

そんなとき、雑誌の表紙を撮影するための小道具として使ったアンフォラに描かれた女神の姿と、雑誌の編集長である石原美和子の言葉から、長年の夢でもあったギリシャでの撮影旅行の話が持ち上がる。
章吾の求める妻の役割や、カメラマンとして仕事を持ち、自立する自分などの答えを出すために、ギリシャへ渡った彩子は、そこで島田亮一という男性に出会う。

クレタ島で見た、アンフォラに描かれたひとりの女神。
ヘラ、ヴィーナス、アテーナへと3人に引き裂かれたギリシャ神話の女神たち。
古代の女神たちの姿と、古代から変わらぬ女性としての悩みとに翻弄されながら彩子はやがて……。

日高彩子と言うひとりの女性が、仕事や家庭、愛と言ったものに対して、語られる物語で、いちおう、島田亮一との恋愛部分が中盤以降、強くなっていくのでカテゴリは恋愛小説に。
また、仕事、家庭、愛をそれぞれアテーナ、ヘラ、ヴィーナスの3柱の女神、そしてギリシャ神話以前には、ひとりであったとされる完全な女神になぞらえて語られているところが特徴。

ストーリー的には、そうした女神たちの特徴とうまく絡めており、彩子に関してはカメラマン、章吾との生活、島田との恋愛と進んでいく。
また島田との恋愛の中では、3女神の誰かを投影した女性キャラを配して構成されており、ストーリーの核である「女神」というものをうまく利用している。
ただ、彩子以外の他の女神を投影した女性キャラが、ほとんどストーリーを展開させるためだけのお人形になっているのがいまいちだが……。

文章的にも読みづらいところなどはあまりなく、読み進めるのに苦労はないが、中盤以降、それまで彩子のみの視点だったのが、突然亮一の視点になったり、さらに三人称で書かれているのに唐突に一人称になるなど、目につく部分が出てくるのが難点。
ストーリーは彩子が抱える問題を丁寧に描いており、すごいおもしろいとは言えないまでもじっくりと読めるものになっているだけに、こうした文章の一貫性のなさは残念だねぇ。

もっとも、それ以上に気になったのは、いったいいつからギリシャ神話の愛と美の女神はヴィーナスになったんだ? ってとこだったりして。
何か、物語に絡んでヴィーナスにする必要があるのかと思ってはみたけれど、関係なかったし……。
著者紹介で「女神の文明を訊ねる旅を続けている」とあるにしては、お粗末でないか? って気はするね。
ストーリーはよくても文章やこうしたところがダメだと、総評としていい評価は出来ないなぁ。
まぁ、すんごいダメってわけではないので、ぎりぎり及第、かな。

実はオヤジ最強

2006-11-16 18:34:23 | 木曜漫画劇場(白組)
さて、そりゃ誰かと二十四時間一緒ってのはたまらんわな、の第716回は、

タイトル:ひもろぎ守護神ガーディアン(全五巻)
著者:緋采俊樹
出版社:秋田書店 少年チャンピオン・コミックス

であります。


 :ちょっと装いの変わったSENでーす。

鈴:ちょっとじゃねぇだろ! と田中(爆笑問題)のように突っ込むLINNで~す。

扇:そうか? さほど変わったとは思えんのだが?

鈴:文字から絵に変わりゃだいぶ変わったと思うぞ。

扇:実験がてらやってみたんだが、やはり旧世代の人間にはちと刺激が強すぎたか……。

鈴:文字ベースの人間だからなぁ。
もっとも、絵が描ければ小説より先にマンガ描いてるだろうがな(笑)

扇:大丈夫、文字にしかできんこともある筈だっ!
漫画の情報量の多さが羨ましくなる時は、多々あるがな。(爆)

鈴:ありまくりだな(笑)
私の場合、場面転換の簡単さは極めて羨ましいところだ。

扇:あと、状況説明ね。
見開きだけで、一瞬にして状況を解らせるって芸当ができるのはいいよなぁ。

鈴:うむうむ。
あとは小物の説明がいらんとこもだな。
絵であれば、いちいち説明せんでもいいが……小説は具体名が必要だからなぁ。
そもそもストールとショールの違いがわからん人間にはきつい……。

扇:それを言うなら、カットソーとシャツの違いって何だ?
デニムとジーンズの違いって何だ?
シャギーとレイヤーの違いって何だぁ~!

鈴:ずぇんずぇんわからん。どれも一緒に見えるぞ。
あっ、そうだ、同僚の女のコのおかげで、ひとつボレロというものを知ったぞ!
やはりこの手の話は、女のコに聞くに限る!

扇:馬?

鈴:ちゃうわっ!
ラヴェルと言うひとが作曲したクラシック音楽だな。

扇:服とか髪の話ぢゃなかったのかなぁ……。

鈴:はっ!Σ( ̄□ ̄;)
……えーっと、確か、ジャケットの短い感じの服だったような気が……。

扇:ああ、Gジャンのことか。

鈴:それもちゃうっ!!
まぁ、男から見りゃ単なるジャケットの一種にしか見えんってのはわかるが……(爆)

扇:なら、皮ジャンか?

鈴:をい……。
ちなみに、同僚の女のコが着ていたのは、編み物だったぞ。

扇:それはカーディガンでしョ?

鈴:そこまで長くはなかったぞ。
……なんか、いかに服の名前がわかってないかってのを暴露しまくってるような気がするな……(爆)

扇:何を言う、俺だって――やめよう、危険な会話になりそうだ。
絵で描きようがない社会構造の説明とかは、文字ベースの方が解りやすいけどな。
世界の雰囲気を伝える場合、文字で絵と張り合うのは無謀だが……。

鈴:説明は文字ベースのほうがいいわな。
マンガでネームがたくさんあるとうざったくなってくるからなぁ。

扇:魔夜峰央みたいに、枠内文が個性になってる人もいるけどね。
でも、小説で解説文が多い作品って嫌いだろ?

鈴:嫌いだ(笑)
まず斜め読みするな。特にSFとか。

扇:即答かよ。
まー実際、話に1ミリグラムも関わってこない、作者の自己満足のためだけの説明は長く読んでると死ねるな。せめて、会話に絡めるとかはして欲しいところだ。
もっともこの方法も、主人公と教師の会話とかでやると、説明文に鉤括弧つけただけってことになりかねんのだがな。(毒)

鈴:まぁ、だらだらと説明されるよりはまだマシだろう、会話文だと。
それでもけっこう適当に読むがな(毒毒)

扇:作家に限らず、誰でも自分の好きな話題になると、省略と過剰説明のオンパレードになるからなぁ。
君の場合、武術の話になるとかなり危険だ。

鈴:そうだなぁ、危険だ、……かなり……(爆)
だから極力武術ものは書かないようにしてる……と言うか、これ、細かく書き出すと、自分で書いてて、キャラがどういう動きしてるのか、わからなくなるから(爆)

扇:そう、俺もさすがにメタ小説だけは書く気がせん。
小説論ぶちまけたら話が弾むのは解ってるが、ヒートし過ぎて読者を呆れさせるのは間違いない。

鈴:まぁな。さんざん記事で書いてて自分でやるのはアホやからなぁ。
……っと、いいころだし、そろそろストーリー紹介に行くかね。

扇:小学五年生の聖舞咲が、自分に取り憑いている兄・勝己の亡霊を祓うために奮闘する話です。
舞咲の心友だけど実は中身の勝己に惚れてる愛梨とか、同級生だけど凄腕の祓い師だったりする天国まほろばなど、とても小学生とは思えない連中が闊歩するドタバタコメディー……になるのかな?
載ってる雑誌は少年チャンピオンだったけど、モロに少女漫画のお約束を連発してるのは御愛敬。

鈴:勝己の亡霊を祓うため、ってのがミソだよなぁ、このマンガ。
いろいろと理由があったりする割には、さっぱりあっさり、舞咲はいらねぇ、っつってるとこがなかなかナイス(笑)
では、キャラ紹介……の前にCM~。

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鈴:では、主人公兼ヒロインの聖舞咲。
「ひもろぎ」という依代兼神に命令することが出来る稀有な体質を持っているため、悪霊(及びその他諸々)に付け狙われるはずだったが、兄の勝己が憑依していることで、これまで免れていた子。
天国に出会い、その能力を自覚するも、大半は役立たずで、天国に傾倒するだけの子だったが、次第に女のコらしさを増すとともに凶暴さも比例(5巻のあれはかなり来ていた)
この子にかかっては、いままで守っていたはずの勝己も厄介者以外の何者でもない。
まー、いくらかわいそうだと何だと言いながらも、いらんもんはいらんとぶっ飛ばすそのキャラクターはけっこう楽しいが。

扇:一巻でいきなり、出て行け宣言してたもんなぁ……舞咲。
では、もう一人の主人公と言うべき聖勝己。
舞咲が生まれた日に事故で死亡し、その後はずっと守護者として妹を守っていた幽霊。
いかにも苦労人っぽいが、舞咲が寝てる間に彼女の身体を使って深夜のおでん屋にしけ込んだり、色んな意味で妹の成長を楽しんでたりと、一歩間違えると外道と呼ばれかねない面も、まぁ……追い出されそうになったのは妥当な線かなとは思う。
後に仲間となる櫂とは馬が合ったのか、しきりに舞咲とくっつけようとしていた。余計なお世話と言うべきだろう……。

鈴:なに、その余計なお世話も、この子がいるからだろう。
で、その「この子」の藤崎愛梨。舞咲の親友で、初手から「舞咲」の嫁……ならぬ婿になるために自らを鍛錬してきた剛の者。ただし、見た目は黒髪ロングな日本美少女。
舞咲に傾倒する理由は過去に死にかけたところを助けられたことによるが、実はそれは兄のほうで、あっさりと舞咲から勝己に鞍替えするあたり、したたかである。
まぁそれでも、舞咲とはいい友達関係にあるからいーか。
でも舞咲、よく考えろ、愛梨がいるかぎり、勝己からは一生離れられんぞ。

扇:愛梨が勝己と危険な関係になろうとした場合……依代って舞咲がやるんだろうしなぁ。
では、舞咲から勝己を祓おうとした少年祓い師・榊天国まほろば
守銭奴に見えて結構甘く、世慣れてるようで純情という、いかにもな少女漫画的彼氏役。(笑)
当然の如く美少年であり、当然の如く表面上は鉄面皮で、当然の如くマザコンでファザコンという、絵に描いたようなキャラ……いや、格好いいんだけどね、背伸びしてる所が。
猛烈なアタックをかけてくる舞咲には、触っただけで金を請求するというつれない態度を取っていたが、最終話でど真ん中直球ストレートのプロポーズを食らい、ものの見事に堕ちる。(笑)
ちなみに、どう考えても作者の趣味の男だということは突っ込んではいけない。

鈴:……突っ込む以前に、小学生だし……。
じゃぁ、キャラ紹介はこんなもんかな。
あと、誰か紹介したいキャラはいるかね?

扇:したい、と言うより、外せん奴はいるな。
三巻で敵として現れ、後に舞咲の彼氏候補その二になる牧村櫂。
自分を庇って死んだ友人がおり、その友人の友人から白い目で見られて捨て鉢になったイジケ野郎。
強引に舞咲の中に霊体として入り込み、神の力を手に入れようとするが、計画性も何もなかったためメインキャラの袋叩きにあって敗北、その後仲間になる。
出てきた時はザコっぽいグラフィックだったが、髪を下ろして美形キャラに転身、暗い過去を持つ三番手みたいな位置で天国の地位を脅かした。(笑)
舞咲とは悪くない感じだったが、いかんせん年の差(明確に書かれてはいないが、十歳差ぐらいの筈)がありすぎたため、最後はさらっと身を引いた。
ただし、五巻の番外編見る限り、作者は諦めていないようである。描いてく内に気に入っちゃったんだろうなぁ……。

鈴:諦めてないんだろうが……まぁ、順当にいけば、天国とくっつかんとなぁ。
あとは……やっぱり、ビンボー神のビンさんかなぁ。見た目麗しく、しかし腰は低く、けれどビンボー神としてきっちり仕事をする、ある意味、万能な神様だったしねぇ。

扇:何だかんだ言って大人だったしなぁ。
たかが貧乏神とか言いつつ、結構強いし、頼れる御方であった。
んじゃ、キャラ紹介も済んだし、そろそろ終わっときますかね。
妙に世知辛い子供達が暴れ回るコメディ……に興味がある方は読んでみて下さい。
ちなみに、こんな子供いねぇ! という突っ込みは入れない方向で。(爆)
ではでは、今日の所はさようならぁ~。

鈴:なに、いねぇって心配はいらんって。
だいたい、絵見てると、考えなけりゃ、誰もこいつら小学生だと思わないし。
実際、私も「そういえば、小学生だったな」と気付くくらいだったしな(爆)
特に愛梨とか……。
と言うわけで、今回の木曜劇場はお開き! にございます~



(ちなみに、LINNはこんな感じ→

お手軽ウィズ

2006-11-15 18:31:27 | その他
さて、久々にその他のカテゴリーも増やしてみよう、な第715回は、

タイトル:ウィザードリィ・外伝II イマジネーションズ ガイドブック
監修:ベニー松山  編集:BENT STUFF
出版社:アスキー アスキームック(初版:H5)

であります。

ゲームボーイで好評を博した『ウィザードリィ・外伝II 古代皇帝の呪い』の副読本&攻略本です。
ウィザードリィ関連ムックとしては、以前紹介した『ウィザードリィのすべて――ファミコン版』に匹敵する名著。
ちなみに、石垣環のコミック版『ウィザードリィ外伝』とはまったく関係ありません。

監修がベニー松山だけあって、内容は『ウィザードリィのすべて』とほぼ同じ。
カラーページにモンスターイラストと豆知識、モノクロ頁にウィザードリィ基本講座、各階マップと攻略、魔法・アイテム・モンスターの各種データを載せています。
イラストが豊富な上、解説の書き方が上手いため、仮にゲームを持っていなかったとしても読むだけで面白い点まで『ウィザードリィのすべて』と同じです。ここらへんはさすが。

しかし、この本の最大の特徴は……ゲームに登場するすべてのアイテムにグラフィックを付け、それを装備した姿とともにカラーページで披露している所にあります。
古き名品・聖なる鎧から、外伝オリジナルの最強兵器・ベイキングブレードまで、ゲームでは名前と能力から想像するしかなかったアイテムを非常に美しいCGで表現しています……これ見るだけでも買う価値あり。
もちろんそのすべてに解説が入っており、攻略に役立つ上、さらにプレイヤーの想像力をかき立ててくれます。

他の記事も負けてはいません。
カラーページのモンスター解説では、旧ゲームボーイの制約で白黒表示だったモンスターすべて(最終ボス除く)に彩色を施し、一挙紹介しています。
さらに、召喚魔法でのみ呼び出せるモンスター――つまりゲーム本編ではグラフィックが用意されていない連中にまで、新たにイラストを書き起こして紹介するという念の入れよう。

モノクロ頁も、ゲームでは表現されていなかった部分の解説に大きな頁を割いています。
細かいストーリー紹介、冒険の舞台アルマールの情勢、そして何と言っても、イラスト付き迷宮各階ガイド!
その階が造られた目的や、そこに潜む危険な敵の存在について、まるで研究書のような考察を行っています。と言うか、制作者が書いてるんだから、裏設定の公開と言った方が正しいのかな? どちらにせよ面白いのですが。

あ、もちろん攻略記事がおざなりってわけではありません。
クライマックスとなる第十層、第十二層を除けば、ワープゾーンの位置まで書き込まれた詳細なマップが載っています。
アイテムリストには特殊効果および使用時の破壊パーセンテージまで書いてありますし、モンスターデータは数値データに加え特殊能力に防御効果まで網羅しており、これ一冊でゲームがクリアできます。

ゲーム自体についても少し触れておきましょう。

ウィザードリィ・外伝IIは旧作の良さを受け継ぎながらも、新たな面白さを加えた意欲作でした。
明らかに正伝のIを意識したマップ、懐かしの顔触れに混じって出てくる風神・雷神・阿修羅といった東洋の面々、強力無比ながら特定の種族にしか使えないオリジナルアイテム等々、魅力的な要素が満載。
しかも、迷宮支配者を倒したと思ったらその背後に黒幕が存在し、最後は魔界に乗り込んで六魔王やティ×マッ×と対決するという凄まじくスパルタンなストーリーが用意されており、強くなりすぎて相手がいないという不満を吹き飛ばしてくれました。
今だと中古でしか手に入らないでしょうが、ファンなら一度は遊んでみて欲しい傑作です。

イマジネーションズ・ガイドブックの名に恥じない傑作です。オススメ。
ただし……いつものパターンで絶版だったりしますが……。(爆)

実はネムキ愛読者?

2006-11-14 18:00:54 | ファンタジー(現世界)
さて、早々と同じ作品を紹介してしまう第714回は、

タイトル:付喪堂骨董店 ”不思議取り扱います”
著者:御堂彰彦
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H18)

であります。

第697回でLINNが褒めていた(珍しい!)ので、私も拾ってみました。
不思議な力を秘めた骨董品『アンティーク』絡みの騒動を描く現代のおとぎ話。
全四編を収録。例によって、一つずつ感想を書いていきます。


『第一章 偶然』……偶然嫌いの『僕』は、小学生の時に『偶然』を起こすアンティーク『ペンデュラム』を手に入れた。それは、願うだけで望み通りの偶然を起こしてくれる。だが、それは飽くまで偶然であって必然ではない――。

いわゆる屁理屈系の話。偶然と必然について延々と講釈してくれるが、矛盾だらけで呆れてしまう。結果は引き起こせないと言いつつ、どう考えても結果まで引き起こしてるぞ、こいつ。特に×との出会い! 『僕』と主役・来栖刻也の視点を使い分け、ヒロインの舞野咲と物語のホームグラウンド『付喪堂骨董店~FAKE~』の紹介をすることで、第一章の役目だけは果たしている。ちなみに、咲がいかにも『私は許されざる罪人なのよ』みたいなことをのたまうが、具体的な話は本巻では出てこない。ただ、冒頭で出てくる二十代後半の女性は恐らく……(以下削除)。


『第二章 像』……あの方の右手には神が宿っていた。触れるだけで、どんな病もたちどころに治してしまう力を持っていた。だから、あの方の優しさが詰まった像にも同じ力がある筈だった。それなのに何故――。

あるアンティークをキーに異なる時間を並行して書く話。定番ネタの嵐なので先は読めるが、過去の話でアンティークの伝説の真相を語り、現在の話でアンティークが巻き起こすトラブルを描くという構成で、最後まで綺麗にまとめてくれている。ただ、148頁で刻也が瀕死の咲のことを想うシーンは言葉が軽すぎて白けた。前フリもなく唐突に、出会って一年しか経ってないが、あいつとは深いところまで関わっている気がするって言われてもねぇ……。


『第三章 記憶と記録』……あの日、私は見てしまった。あの人が母を突き飛ばし、殺したところを。だけど、誰も信じてはくれない。だから私はノートにそれを書き留めた。記憶力の悪い私でも、そこに書いたことは忘れずにいられる母の形見のノートに――。

この章のためだけに本書があると言っても過言ではない傑作。ゲストの女性の設定が素晴らしく、彼女を描くだけで最後までドラマが成立している。記憶の欠如とその対策、忘れたいのに忘れられない記憶、過去の真実および現在とのつながり、すべてのピースがピタっとはまるクライマックスだけでも凄いが、すべて終わったかと思わせて最後に再び突き落とすブラックなオチまで付いているのは驚異的。短編の一つの完成形だろう。


『第四章 プレゼント』……一人暮らしの貧乏学生・刻也は、仕送りに『付喪堂骨董店~FAKE~』のバイト代を加えることで生計を立てている。当然、無駄金を使う余裕などない。だが、そんな彼が咲にプレゼントを贈って――。

一言で言えば、暗い話が続いた後の息抜き。いかにもハードボイルドな過去がありそうで中身はただの苦労人な刻也と、いかにも罪を背負って生きてそうで中身はちょっと常識が欠落した普通の少女な咲。そんな二人の、甘酸っぱいというか、青臭いというか、見てる方が恥ずかしくなるというか、要するにベッタベタなやりとりを描いている。あーはいはい、と呆れるのは簡単だが、ここは暖かく見守ってやるのが読者の良心かも知れない。そういうことにしておこう。


どの短編もストーリーの組み立てはきっちりしており、安心して読めます。
王道まっしぐらといった感じのキャラクターも、この話には合っているので問題なし。
ただ……これは白い文章にも関係するのですが、心理描写にちと難があります。

ゲストキャラは一行一段落で回りくどい割に、単に同じ思考を繰り返してるだけというのが大半。
メインキャラはまだマシですが、ゲストよりも与えられた行数が少なく、思考が飛躍して自己完結している場合があります。要するに、自分で解ってるから読者に説明せずに済ませてしまう……って、をい。(怒)
続刊を出すことを意識して、敢えて情報を制限しているのかも知れませんが、これ一冊単体で読んだ場合、第二章のようにキャラクターの思考回路が支離滅裂に思えてしまうこともあるのはかなりのマイナス。
(ここらへんは、次作で改善……されるのかなぁ)

まぁそれでも――
第三章がずば抜けて面白いので多少の欠点は目をつぶりますが。(爆)

色々書きましたが、なかなか読ませてくれる短編集です。オススメ。
LINNと大体同じ評価になりましたね……チッ。



――【つれづれナビ!】――
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骨の首飾りが呼ぶ……

2006-11-13 19:37:41 | ファンタジー(異世界)
さて、五代ゆう株上昇中な第713回は、

タイトル:はじまりの骨の物語
著者:五代ゆう
出版社:富士見書房 富士見ファンタジア文庫(初版:H18)

であります。



【ゲルダではなくトラボルタなノッペラ星人】


先週の予告通り、五代ゆうのデビュー作が登場です。
北欧神話をモチーフにした世界を舞台にした長編ファンタジー。
唯一無二の存在に裏切られた女性ゲルダの復讐の旅を描きます。



ゲルダにとって彼は父であり、恋人であり、すべてだった。
たとえ、陰で魔女と呼ばれようと、彼の側にいられればそれで良かった。
彼の名は魔術師アルムリック、ルーンの担い手、昼と夜の主人。

二人は傭兵として、『冬』の討伐に出たゲルトロッド王の遠征軍に参加していた。
『冬』とは、北の国ヨトゥンヘイムを統べる『雪の女王』が送り込んできた魔軍である。
敵は強いが、負けはしない……アルムリックと、彼から『焔の華』の名を授かった自分がいる限り。

戦いが始まり、ゲルダは炎を操って『冬』の魔物を蹴散らしていた。
何度か『冬』との戦いを経験してきたこともあって、遠征軍は魔軍を押していく。
だが、信じられないことが起こった……勝利が見えた瞬間、アルムリックの呪いが味方を襲ったのだ。

兵士がばたばたと倒れる中、辛うじて、ゲルダは生き延びることができた。
アルムリックは北に飛び去り、後には雪と静寂だけが残った。
ゲルダは立ち上がり、北の地目指して歩き出す――裏切り者に復讐するために。



『〈骨牌使い〉の鏡』『ゲド戦記』の影響が色濃く見えましたが、こちらはアンデルセンの『雪の女王』かな?
もっとも、童話のゲルダは小さな少女で、本作のゲルダは大人の女性ですが。
ちなみに、『雪の女王』はインターネット電子図書館『青空文庫』で読むことができます。興味がある方はチェックしてみて下さい。

筋は非常に単純で、上記の粗筋の通り、ゲルダの復讐譚です。
重要キャラクターはゲルダ含めてたった五人。内二人は最終章までほとんど出番なし。
おまけに、旅物語に付きものの各地の細かい描写もありません。大雑把に、北の国と銀世界があるだけです。

これで三百頁以上書いて中だるみしてないってのが凄い。

読み終わった時には、むしろ、短い話だと感じたぐらいでした。
これは、ゲルダというハードボイルドなキャラクターの魅力もあるのですが……やはり彼女と、彼女の変化を描くために用意されたキャラクターとの絡みが秀逸なのが大きいと思います。

自分を守ってくれる存在だったアルムリック、守らなくてはならない存在・ケティル王子、そして、対等に向き合うべき存在・スヴェン。
ゲルダの旅とは三人と関わることであり、節目に配置された彼らとの出会い、別れ、再会によって、物語はプロローグからラストまで綺麗につながっています。
デビュー作でこの構成力は驚異的……さすが、大賞が出ないことで有名な某新人賞で大賞取っちゃっただけのことはあります。

数行前で舞台が薄いようなことを書きましたが、これは、世界観に北欧神話を持ち込むことでがっちりフォローされています。
ゲルダが語る天地創造の物語、作品内に出てくる数々の固有名詞、最終目的地ヨトゥンヘイムに座す雪の女王の正体等々、元ネタを知っていればより楽しめること請け合いです。
反面、北欧神話を知っているとマクロな流れが読めてしまうかも知れませんが、最後の最後は飽くまでゲルダ個人の物語としてケリを付けてくれているので、さして問題はありません。

ど真ん中ストレートのファンタジーです。かなりのオススメ。
二連発で当たりでしたが、次は何を読むべきか……。

まるでRPG?

2006-11-12 16:11:42 | SF(国内)
さて、これは1冊完結なのねの第712回は、

タイトル:<柊の僧兵>記
著者:菅浩江
出版社:朝日ソノラマ ソノラマ文庫(初版:H2)

であります。

これも古い作品……と言うか、平成2年ってまだぴちぴちしてたころだもんなぁ……(笑)

さて、ストーリーは、ある惑星での物語。
面積のほとんどを乾いた広大な砂漠である惑星で暮らす人々は、点在するオアシスを聖域として、その聖域の小山を神ニューラと崇めていた。
だが、そこは恵みの水をもたらすと同時に、人々にとって毒となる空気をもたらす場所でもあった。

過酷な環境で生きる人々の中にあって、身体の弱い「白い子供」と呼ばれる少年ミルンは、他の青年たちとおなじように生活が出来ないことに悩んでいた。
ニューラとオアシスの恵みを受けて暮らす中、聖域での儀式の途中、円盤に乗った何者かが襲来し、儀式に集まっていた村人たちを虐殺していく。

それから逃げ延びたミルンと、ふたつ年下でおなじ「白い子供」の少女アジャーナは、ミルンの母の言葉に従い、人々に様々な技術を伝え、長い年月を生きる「柊の僧兵」に助けを求めるため、広大な砂漠へ一歩を踏み出す。

えー、よくも悪くも、ふつうで、何のひねりもない話だぁね。
ありきたりなRPGのストーリー展開をそのまま持ってきたようなもので、酷いハズレと言うこともなければ、当たりと言うわけでもない。

だいたい、

主人公のミルン=勇者
アジャーナ=ヒロイン兼魔法使い(魔法は使わないけど頭脳労働に比重あり)
3人の柊の僧兵=三賢者で協力者

と言う構図で敵である異星人ネフトリアと対決する、と言うこれだけとRPGのキーワードで、おそらく本読みのひとには、どういうストーリー展開をするのか、と言うのが簡単に想像がつくだろう。
総じて言うなら、SFを舞台にしたミルンの成長物語だし。

いちおう、ミルンやアジャーナと言った「白い子供」以外に、砂漠に順応した頑強な人々の動きや、柊の僧兵たちにかかるネタなど、一転二転するところもあるが、意外性があるわけではない。
もっとも、前の「オルディコスの三使徒」のように物語やキャラが軽視されていると言う部分はないし、展開やストーリーがわかりやすいので、安心して読めるとは言える。
……言える、と言うか、それしかなかったりするんだけど……。

それにしても、最近のこのひとの作品は雰囲気のあるよい作品があるが、昔のは……いまいちやな……。

60分一本勝負~

2006-11-11 13:36:38 | ファンタジー(異世界)
さて、図書館にないから買うしかないのよねぇの第711回は、

タイトル:ゼロの使い魔
著者:ヤマグチノボル
出版社:メディアファクトリー MF文庫J(初版:H16)

であります。

SENと話をしていて話題に出てきて、ファンタジー復権の至上(?)命題もあるので読んでみたもの。
……しかし、なんでこれを私が読むと言う話になっていたのだろうか……。

構成は1冊で長編1本、と言うわけではなく、中編が2本収録されている。

「魔法の国」
平賀才人は、目を覚ますとそこにはマントを羽織った、どう見ても日本の東京に住むひとではない一団に囲まれていた。
わけのわからないまま、そこで飛び交う理解不能な言葉たち。
そんな一団の中、囃し立てられていた少女は、何かを呟きながら才人にキスをする。
それは少女……ルイズが、才人を自らの使い魔として契約する儀式だった。
そして、才人は日本ではないどこかの世界で、この世界では極めて珍しい人間の使い魔となった。

第一話、と言ったところ。
主人公のひとりである才人がおちこぼれの魔法使いメイジのルイズに召喚され、使い魔となる導入部。
異世界に来た才人が現実を知って悩んだり、貴族、平民の区別がある社会でトラブルを巻き起こしたりと、パラレルワールドに飛ばされた主人公らしい展開で、テンポはよく軽快だが、ストーリー上はお約束の塊。

ただ、一人称と三人称を区別なく混ぜているのは気に入らない。
文章の作法の最低限くらいはきちんと守りなさい。

「ガンダールヴ」
前話の「魔法の国」での出来事から、ルイズの家系と昔からいがみ合っている家系のキュルケが、前話の出来事で才人に惚れてしまい、そのいがみ合いとルイズたちがいるトリステインで名を轟かすメイジの盗賊の事件を絡めた話。
ルイズとキュルケのいがみ合いから偶然、盗賊が魔法学院の宝を盗むところを目撃し、キュルケの友人タバサと4人で盗賊討伐に向かう。

変わらず、テンポはよく、展開も無理はなく、流れはよい。
文章も三人称に統一され、読みやすくなっている。

1話目の文章上の欠点を除けば、総じて、コメディの命である「テンポ」はとてもよく、軽く読むには適している。
キャラも、主人公の才人の行動や思考は一貫しており、破綻はない。
ルイズも高飛車で、才人の背伸びしたご主人様を演じており、時折見せるかわいらしさや凛々しさなど、十二分にお約束キャラの気配が濃厚で、いかにも人気の出そうなキャラに仕上がっている。

また、これまたお約束ながら、家系や才人を含めてルイズのライバル役となるキュルケも正反対のタイプだったりするし、その他、脇役の学院の教師、学院長など、コメディらしい軽快なキャラも多く、コメディとしての要素に申し分はない。

ストーリーも2話とも、展開は定番だが、定番だけに破綻なく進み、見せ場もきちんと作っている。

キャラはお約束で、ストーリーは定番と、わかりやすい物語を好むひとならば、確かに楽しめるであろうし、キャラに入れ込むことも可能であろう。
テンポの良さもこの作品の魅力に、十二分に貢献していることだろう。

ただし、逆に軽さと読みやすさ以外にさして見るべきところはなく、正味1時間もあれば読み終われてしまう読み応えのなさは、印象やインパクトのなさにつながる。
また、ストーリー、設定ともにお約束なので、才人が召喚された理由やルイズのおちこぼれやどんな魔法も失敗して爆発させてしまうこと、四大元素以外に「虚無」という魔法の系統があることなど、伏線を勘案すると、これから先の展開、落としどころが1冊読めば概ね読めてしまうところも、作品の軽さを助長する原因のひとつとなる。

もっとも、こうした面はお約束や定番を持ち出す以上、避けて通れない部分ではある。
コメディとしてのよさは、きちんと評価できるものとなっていることだし、決して落第とするほど悪い作品というわけではない。
ただ……、これで1冊580円(税別)は高いぞ、ゼッタイ。