つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

古典が苦手ならばこっちもあり

2005-05-21 21:25:08 | マンガ(少女漫画)
さて、またもや趣味の平安ものに走る第172回は、

タイトル:ざ・ちぇんじ!(全4巻)
著者:山内直実(原作:氷室冴子)
出版社:白泉社 花とゆめコミックス

であります。

以前に書いた「とりかえばや物語」を元ネタにした話で、こちらは少女マンガ(もとは少女小説。コバルト文庫だし)らしく、すっきりまとまってる。

しかも、話の大筋は原作を踏襲していてくれるので、原作を知っていても楽しめる。

主人公は男装の姫君の綺羅姫。
原作通り、元服し、内裏に出仕し、結婚し、その結婚相手を親友の宰相中将に寝取られたり、はたまたその宰相中将に押し倒されたりと、このあたりは原作のとおり。

ただし、原作は主人公は宰相中将の子供を懐妊したり、その子供を捨てて帝に転んだりするんだけど、そこはそれ、少女マンガ(小説)でそんなことをするわけにもいかない。

なので、原作を踏襲しつつも、姫君はほんとうの姫君に、若君はほんとうの若君に戻るところをうまい具合に描いている。

原作ではかなり無理のある戻り方をしてたけど。

それと、宰相中将との密通で懐妊した右大臣家の姫も、原作と違ってきちんとフォローされてるし、この関係で宰相中将もただの軟派なキャラからいい感じなキャラになってる。

古典をそのままマンガにすると……っつって、できないって。
かなりえぐい話だし。

そういうのが耐えられるなら、これをきっかけにして原作を読んでみるのもいいかもしれないけど、話の大筋は変わっていないので、この作品をもっとえぐい感じにしたら原作、ってイメージでいいのかもしれない。

原作はそうでもないけど、こちらは比較的万人受けするようになってると思う。

ただし、けっこう……つか、かなり古いマンガなので新刊で手に入るかは疑問……かも。



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日本語の本と言っても

2005-05-20 21:29:00 | 学術書/新書
さて、ここいらでちと趣味の本でも入れようかなの第171回は、

タイトル:名前のおもしろ事典
著者:野口卓
出版社:文春新書

であります。

最近話題の日本語の本……というのは大して興味はなかったりするけど、こういう名前や語彙の話はけっこう……いや、かなり好き。

なので、そういえば最近この手のを読んでない(第4回の「漢字の話(上)(下)」以来のような気がするので、何気なく手に取ってみたもの。

で、本としてはタイトルどおり、名前……特にひとの名前に関するものの話題が多い。

だいたい日本の名字っておなじ文字で違う読み方(戸塚で「とづか」「とつか」みたいなの)も含めると29万字を超える名字があるのだからこれはすごい。

また、雨や風などの自然現象につける名前も、季節や状態からとても細かく名前をつけたりする。

そういった話を、

第1章 名前のふしぎ
第2章 名前を付ける
第3章 名前あれこれ
第4章 独り歩きする名前
巻末付録 名前を巡る言葉とことわざ

の5章に分けて語られていく。

ひとの名前が多いとは言ったけど、地名や動植物名、作家のペンネームの話題、クラシックの作曲家の通称など、おもしろ事典と銘打ってあるだけに、名前を主題としたコラムっぽい感じで、堅苦しい感じはない。

物書き的には、作家さんのタイトルの付け方や名前の付け方とかの記事にけっこう共感(^^

正しい日本語とか、読み方とか、なんとかかんとか、そういうのよりは気軽に雑学って感じでよいのでは?

なんで麻雀で闘うんだ?

2005-05-19 03:05:48 | 木曜漫画劇場(白組)
さて、ギャンブルはしない我々な第170回は、

タイトル:兎――野生の闘牌1~9巻(以下続刊)
著者:伊藤誠
出版社:近代麻雀コミックス

であります。

扇:こんにちま~、新しい挨拶を覚えたSENで~す。

鈴:おいすっ、といまはなきひとの挨拶を引っ張り出してみるLINNでーす。

扇:声が小さーい、もう一度!

鈴:おいすっ!
これでどうだ(笑)


扇:うし! 
……で、書評なわけですが。
今回は変わり種、麻雀漫画です。

鈴:副題がなければ麻雀マンガとは思えないタイトルですが、きちんと対決している麻雀マンガです。
ちなみに副題の「野生」というのは……あれ、なんだったっけ?(爆)

扇:いや、登場人物に獣の名前がついてるんだってば。
てっとり早くキャラ紹介行きますか、とにかく多いし。
主人公の兎。ハーフでいわゆるいじめられっ子。ユキヒョウの尻を追っかけているうちに、なぜか代打ち集団ZOOの一員になる。まったくの麻雀素人だったが、危険牌を察知する能力に目覚め、強敵を打ち破っていく。ある意味スマートな成長型主人公。

鈴:では次にユキヒョウ。このマンガのヒロイン。
極めてまともな、けれど強い麻雀を打つ代打ち。絵はとても大人びた感じではあるけれど、これでも女子高生(笑)
あと、多数の弟妹を抱える優しいお姉さんだが、筋金入りの守銭奴。

扇:キツネ、通称ケツネさん(←さんは必須!)。
ZOOのお母さん。数字の天才、会計をやっている。強く優しく、なおかつ内に殺気を秘めるとんでもない完璧キャラ。園長曰く、「あれは俺のオキニだ」(笑)
ちなみに連載当初は中学生で、メンバーの中で最も若かった。つーか、年下になついてる兎って……。

鈴:ジャッカル。身長150センチ台の小柄な身体ながら喧嘩は最強。
麻雀は極めて大味。つか、ある対戦で役は東のみでドラの数だけで役満ってなによ。
と言うわけで、とにかくドラが乗る人。たいていカンをするとドラが乗るあたり、実は園長より運が強いのかもしれない。

扇:園長。ZOOのお父さん。
ヤクザだが、なぜか学生ばかり集めている(別に鉄砲玉にしようというわけではない)。とてつもなく運が強いが、本人は全く自覚なし。つーか、開始と同時にリャンシャンテンで、「今日はツキが悪い」ってどうよ?
ちなみに、神がかり的に強い弟がいるが、兎というもっと強い弟を見つけてそっちに鞍替えした。(笑)

鈴:チャップマン。園長とともにZOOを立ち上げた相方。
現在、無口無表情を地でいく掴めないひと。しばらく、ほんとうに麻雀が強いのか? と疑われるくらいだったが、本気になると兎でさえ歯が立たないひと。つか、ある意味不思議ちゃん(笑)
ただし、ギターの腕は大したことはない。

扇:新庄直樹。園長の兄貴分。
いわゆる好き好き極道パパ(笑)。でも、全然極道に見えない人。飄々とした人物だが、「持ってきたかな?」で連荘スタートし、相手がハコるまで止まらないというとんでもない雀豪。散々負けていてもラス親で全部逆転してしまうのは麻雀漫画の王道だが、この人がやると妙に納得してしまう。

鈴:新庄カナ。新庄直樹のひとり娘。なので、麻雀は基本的にパパの系統。
ただし、親でなくても連荘を発動し、延々と上がり続けてしまうジャッカル並にちっこい女の子。
とは言うものの、ジャッカルと違って麻雀以外は天然ボケの不思議ちゃん。チャップマンとの不思議ちゃんコンビは、かなり微妙に噛み合ってるのか、噛み合ってないのか、これまた不思議。

扇:まだまだ濃いメンツはいるが、とりあえずここで終了。
先週のBREAK-AGEもそうだったけど、やはり群像劇は良いねぇ。

鈴:まぁなぁ。基本的には各キャラの対戦や掛け合いを楽しむもの、って感じかなぁ。
ストーリーは、まぁ、麻雀マンガにありがちな感じだし、BREAK-AGEほど充実してはいない。絵柄はかなりいま受けしそうだけど。

扇:だな。
麻雀解らなくても雰囲気だけで楽しめます。普通の漫画として読んで下さい。
つか、麻雀漫画として読むとあまりにも運の要素がでかすぎるので引くかも。

鈴:それはある。はっきり言って、講談社の週間マガジン連載の「哲也」のほうが麻雀マンガらしい。
でもまぁ、麻雀そのものはけっこう大味なぶんだけ、痛快な感じがするので、麻雀知らなくても楽しめるマンガになっているとは思います。……たぶん(笑)

扇:つーか麻雀好きに言わせると、「哲也」もツッコミ所満載らしいけどな。ま、「麻雀放浪記お子様バージョン」てとこで。
珍しく最近の作品だった本日の木曜漫画劇場、これにて終了でございます。
多分次回は『ディア マイン』になる……予定。
でわでわ。

鈴:なんかこのところ、木曜劇場はキャラの紹介で終わってるような気がしないでもないが……。
さておき、次回は恒例の白泉社シリーズでございます。(たぶん)
では、この辺で


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王の名は……

2005-05-18 12:03:49 | ファンタジー(異世界)
さて、三部作三つ目の第169回は、

タイトル:さいはての島へ――ゲド戦記III
著者:アーシュラ・K・ル・グウィン
出版社:岩波書店

であります。

いよいよ、ゲド戦記第三巻です。
壮年となったゲドが三度、危険な戦いに身を投じます。
前二巻については、第167回第168回を御覧下さい。

古き歴史を持つモレド家の末裔アレンは不安を胸に賢人の島ロークに降り立った。
西の島から領地エンラッドにもたらされた奇妙な噂の真偽を問うために。
正確に言えばそれは既に噂ではなく、エンラッドすらも侵し始めていた。

凶報はアレンのもたらしたものだけではなかった。
南海域及び、世界の中心に位置する多島海南部からも同様の知らせが届いていた。
魔法の泉が枯れ、人々はその使い方はおろか存在すらも忘れかけていると……。

今だ確固たる魔法の力を有し、鉄壁の守りを維持するローク島。
その頂点に位置する九人の長と大賢人は、その夜、会合を開いた。
様々な意見が飛び交う中、大賢人は自ら原因の究明に乗り出すことを宣言する。

若きアレンは大賢人の誘いに応じ、危険な航海に出ることを決めた。
探すべきものは未だ判然とせず、行く手には死の危険が満ちている。
連れはアースシー最高の大魔法使い――名はハイタカ!

映画にしたら一番受ける話

ロード・オブ・ザ・リングもそうでしたけど、素直~な作品になるんでしょうね。
真面目だけど若者らしい反発心を抱えたアレンが主人公で。
やたらと思わせぶりなことを言う強大な魔法使いゲドがその連れで。
最後にゃ××××まで行って強敵と対峙するんだから盛り上がらない筈がない。

しかし、それは表層的な部分。
実際のところ、今回のメインは魔法の考察及び、生と死の考察です。

アースシーにおける魔法とは現代の科学に相当します。これだけなら有象無象の作品でも頻繁に使われる手法なのですが、ル・グウィンは魔法が科学よりも遥かに精神性に左右される学問であることを利用して、人間の際限ない欲望とそれが生み出すものをより鮮明に見せてくれます。

「わしらは均衡というものを考えなくてはならん。それが破れると、人は他のいろいろなことを考え出す。真っ先に考え出すのは迅速さだ」
かつて影を解き放ったゲドならではの重い台詞です。

魔法と言う便利な道具を手にした時、人は何を望むのか。
欲望のままに道具を使った時、結果として何が起こるのか。
生とは、死とは何か、それから逃避することに意味はあるのか。
数多の作品で語られてきた根源的なテーマであり、同時に最も難しい命題でもありますが、本作はかなりの完成度でこれを達成しています。

単独でも読めます、とにかくオススメ。
一巻では枝葉的な存在だった竜も、本作ではかなりメインで出張ってます。

かくて、『エアの創造』の物語は見事な結末を迎えました。
ところがぎっちょん、ゲドの物語はこれでは終わりません。

続く四巻ではヒーローとしての役目を終えた彼の姿が描かれます。
正直に言いましょう――夢を信じていたい少年にはオススメしません。
もう少し大人になってから読んで下さい。
というわけで、続きはまた来週。



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君の名はテナー

2005-05-17 15:00:31 | ファンタジー(異世界)
さて、三部作二つ目の第168回は、

タイトル:こわれた腕輪――ゲド戦記II
著者:アーシュラ・K・ル・グウィン
出版社:岩波書店

というわけで、ゲド戦記第二巻です。
アースシーの東端にある独立国家――カルガド帝国が今回の舞台。

兄弟神を祀り、王の死後の安息所となるアチュアンの墓所には一つの伝統があった。
男子禁制の神殿を束ねる大巫女が死んだ時、時を同じくして生まれた娘をその生まれ変わりとして、次代の大巫女に据えるのである。今回選ばれた娘の名はテナー。

五歳になったテナーはアチュアンの墓所に連れてこられ、一年間教育を受けた後、神殿の大巫女『アルハ』となった。十四で成人し、十五になった頃にはもはや帝国最高の巫女として神殿の一切の権限を握っていたが、彼女は退屈しか感じてはいなかった。

そんな折、神殿の下にある巨大な地下迷宮に謎の男が侵入したという報告が入る。
闇を支配する名なき者と呼ばれる強大な存在は、自分達を崇めぬ者に容赦がない。
彼らを敵に回して無事な者がいるとすれば、外海から来た邪な魔法使いしかいない。

やがてその男は闇の力に屈し、捕らえられる。
だがアルハはその男を処分しなかった、墓所以外の世界のことを聞きたかったのだ。
彼女は禁を破り、虜囚となった男に会いに行く。彼の名は――ハイタカ。

もうお解りでしょうが、今回の主役はゲドではありません。
もっともこれはゲド戦記の特徴なので気にしてはいけない。

テナーは、言ってみれば女性版ゲドです。
ゲドが若気の至りで自らの影を放ち、それと対決するはめになったように、テナーもまた、かつては光の中にいたはずの自分と名なき者に仕えるアルハとしての自分との間で葛藤し、戦うことになります。
ここで、前巻でオジオンがやっていた役をゲドがやるあたり、いい歳の食い方してるなぁ……と。もちろん、実際のところゲドは自分一人で地下迷宮に挑み、目的を達するつもりだったのだけど。(笑)

前巻の戦いの決着が×××××(自主規制)であったように、本巻の結末も名なき者を強力な呪文でなぎ倒し、美少女片手にハブナー凱旋といった――

ハリウッド映画のようなオチはありません

ゲド一人、テナー一人では成し得なかった偉業を二人は達成します。
スーパーヒーローが大活躍、ってのも嫌いじゃないけどこっちの方が納得いくかな。
つかテナーが心を開いた後、それまでの疲れ切った状態から一転、やたら元気になってしゃべりまくるゲドって……色んな意味でオジサン化してますね(笑)。

というわけで、『エアの創造』の二行目の冒険は終わりました。
次回は三行目、さらに困難な生と死の戦いが待っています。



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奴の名はゲド

2005-05-16 23:57:30 | ファンタジー(異世界)
さて、三部作スタートの第167回は、

タイトル:影との戦い――ゲド戦記I
著者:アーシュラ・K・ル・グウィン
出版社:岩波書店

であります。

かのル・グウィンの傑作ファンタジーです。
全六巻ですが、各巻は一つの話として独立しています。
本来三部作として書かれ、十年以上の時を経て続編が書かれました。
今週はまず、前期三部作を紹介していきます。

で、一巻目にあたる本書――

物凄く奥が深い魔法物語

です。
ゲドの生い立ちから、青年期までを描いています。

アースシーと呼ばれる世界の辺境にゴントという名の島がある。
少年ハイタカは魔法使いオジオンに魔法の才を見出され、彼に仕えることになった。
しかし、偉大な魔法使いになることを望む彼は魔法学院ロークに留学することを選ぶ。

真の魔法使いはここでしか生まれないと言われるローク島。
ハイタカは学院内でめきめきと頭角を現していくが、同時に不満も感じていた。
師達は言う、宇宙には均衡があり、魔法をみだりに使えばそれが狂うのだと。

ある日、ハイタカは友人との諍いから降霊術を行い、太古の霊を呼び出してしまう。
一命はとりとめたが、死の世界を垣間見たことで彼は己の影を解き放ってしまった。
課程を終えロークを去るハイタカ。そして影との熾烈な戦いが始まる――。

小学生の頃に読んで、とにかくハマりました。
若者らしく向こう見ずなハイタカが気に入ったのもありますが、世界観がとにかくよくできていたのが主な理由です。

アースシーの生物、無生物はすべて真の名と呼ばれるものを持っています。
これは言ってみれば遺伝子コードのようなもので、生まれた時から決まっている。
ハイタカの場合だと、タイトルネームであるゲドがそれに当たります。
この真の名を知られると、一切の魔法を封じられてしまうというから恐ろしい。

名が実在そのものを現している世界。
それを言葉にして操る者達、魔法使い。
ゲドの成長は、すなわち言葉を知ることでもあります。
(そこできて、師匠が『沈黙のオジオン』とは、本当に上手くできている)

三重丸のオススメ。
児童文学だと思っていた人は、まず読んでみて下さい。
少なくとも、子供向けおとぎ話……ではないです。つーか難解。

最後に本書の巻頭詩を紹介しておきます。

ことばは沈黙に
光は闇に
生は死の中にこそあるものなれ
飛翔せるタカの
虚空にこそ輝ける如くに
――『エアの創造』――

一行目がそのまま、本書にあたることがお解りでしょうか?
次巻、『こわれた腕輪』では二行目に当たる光と闇が描かれます。



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主人公に違和感

2005-05-15 14:17:49 | 時代劇・歴史物
さて、ちょっとだけカテゴリーに迷ったの第166回は、

タイトル:しゃばけ
著者:畠中恵
出版社:新潮社文庫

であります。

時代劇、と言ってもほとんど侍は出てこないし、剣豪もいないし、派手な立ち回りもありません。
江戸に店を構える廻船問屋長崎屋の一粒種一太郎が主人公。
町人の話なので、役所勤めが出てくると言えば岡っ引きくらい。

この一太郎が、江戸で起きた殺人事件を解決するストーリーだけど、ただのミステリーっぽい話ではない。

主人公の一太郎とともに事件解決を担うのは、町人でもなく岡っ引きでもない。
小さなころから慣れ親しんだ付喪神を始めとする妖怪たち。
メインは、長崎屋の手代として働く佐助=犬神と仁吉=白沢のふたり。

ただし、これまた妖怪たちを操って、派手に何かをやらかすわけではない。
一太郎、とにかく病弱で、死にかけたことは一度や二度ではない。
そのおかげで両親の溺愛過保護ぶりは、まぁ仕方ないとしても、この佐助、仁吉コンビの過保護ぶりも両親に負けず劣らず。

咳のひとつでもしようものなら部屋に連れ帰って布団に押し込めるくらい。
そんな主人公だから、どうしても捜査は地味~に妖怪たちを遣って情報を集めたり、自分の頭でどうにかするしかない。

だから、盛り上がりという点ではいまいちで、進み方は平坦。
ほとんどミステリーは読まないので、ミステリーとしてはどうかはわからないけれど、構成はしっかりしている。

また一太郎の生い立ちなどとも絡め、様々な情報から原因を推理し、解決まで持っていくところはするするっと読めた。
文章も時代ものと言ってもわかりにくくはないし、平易で読みやすい。

ただ、気になるのがないわけではない。
それは、この主人公の一太郎のキャラクター。

違和感だらけで統一感がないように見える。

身体は病弱だけど、頭の回転はいいし、おどおどした弱さも見られないし、逆に胆力もある。
別にキャラとしていないタイプではないけれど、話し方や行動と言った部分から、どうしても、頭の中で統一感のあるキャラとして動いてくれない。

手代の佐助、仁吉コンビや両親、岡っ引き、幼なじみ、果ては妖怪たちはそんなことはないから、これまたなんでだろうと思ってしまう。

ただし、一太郎の生い立ちなどを考慮して、あえてこういうキャラにしたと言うのなら、この作家はとてつもなくキャラの作り方と動かし方がうまい、のかもしれない。

とはいうものの、時代ものとしてはとても入りやすい小説だと思う。
妖怪は出てくるけれど、おどろおどろしたところはないし、派手さはないけど妖怪がいると信じられていた時代の雰囲気みたいなのも自然に溶け込んでいる。

時代ものを読んでみようと思って初めて手にするにはいいのかもしれない。

恋愛物語……っぽいかも

2005-05-14 13:48:06 | SF(国内)
さて、意外に短くまとまって最終巻の第165回は、

タイトル:スカーレット・ウィザード 5
著者:茅田砂胡
出版社:中央公論新社 C★NOVELS FANTASIA

であります。

まず一言。

イゼ○ローン要塞と言ってはいけません(笑)

それはなぜか。
4巻で誘拐された子供は、クーア財閥の重役たちの手に渡り、そして本社兼養育場所に、でっかくて黒くてまん丸な要塞に住むことになるから。

いや、別に銀○伝にはまったく興味はないし、大学時代の友人が好きでビデオを見せてくれたので知っているだけだけど。

さておき、このパクリ寸前の要塞を攻略し、子供を取り戻すのが最終巻のストーリー。

ただし、ぶっ飛んだ戦闘機乗りのジャスミンと宇宙に名だたる海賊のケリーと言えどもどでかい要塞にたったふたりで立ち向かうことはできない。
さらに相手は要塞、民間人の立場で戦争なんかふっかけたらお縄は必至。

そこで考えたのが映画撮影。
映画に使うんだからと元軍人のジャスミンは連邦軍に出てきてもらって要塞とどんぱち。
ジャスミンには内緒でケリーは中央宇宙の大海賊の首領を呼びつけて要塞とどんぱち。

話の前半は、いかにして要塞を攻略するかの準備段階で、後半が実際の戦闘シーン。

さて、最終巻は要塞攻略を経て子供を取り戻すところで終わりというわけではない。

子供を取り戻してから1年契約だった結婚契約を延長し、クーア財閥の総裁夫妻としての生活が描かれ、そしてようやく恋愛物語っぽくなる。

メインはなぜケリーを夫に選んだのかをいままでの話の中で出てきたケリーの過去とかと絡めて語られる。

ただし、あくまで「っぽい」くらいのレベルなので、読むひとによっては、「っぽい」どころではないくらい恋愛色は薄いかもしれない。

しかし、けっこう伏線とかうまい具合に使っているし、まとまっているほうだと思う。

デルフィニア戦記は全18巻と長いけど、これは全5巻と比較的手に取りやすい巻数になっているので、この作家さんが初めてのひとにはいいかもしれない。
もちろん、1巻完結なら、「桐原家の人々」のシリーズがあるけど、こっちは現代物なので、ファンタジーで、となるとこれがいちばん手頃。

赤ゴジラと黒ゴジラ

2005-05-13 21:39:00 | SF(国内)
さて、シリーズも終盤になると戦闘に派手さが出てきたの第164回は、

タイトル:スカーレット・ウィザード 4
著者:茅田砂胡
出版社:中央公論新社 C★NOVELS FANTASIA

であります。

黒ゴジラ=ケリー。
赤ゴジラ=ジャスミン。

あとがきに出てきた呼称だけど、うーむ……、かなり言い得て妙(笑)

3巻に引き続き、宇宙一の船乗りであるケリーの独壇場……なのが前半。
たったひとりで誘拐した海賊相手に大立ち回りを演じ、さらに相棒のダイアナとともに艦隊戦。

ふつうに艦隊戦をやらかしてくれるならいいのだが、そこは夫婦揃って非常識を突き抜けたキャラだけに、半端なことはしない。
一部始終を見ていたクーア財閥の豪華船のクルーが、常識を懐かしむくらい。

まぁ、宇宙船の速度の壁と言われた速度を平気で突破し、その速度でどでかい宇宙船相手に超近接戦闘を実行してしまうのだから、そりゃぁ誰だっておかしいと思うぞ(笑)

と、前半はケリーの活躍が入ってからインターバル。
3巻くらいからじわじわと過去の話が出てきたりしていて、ここである程度のところまでが公開される。
もちろん、きっちりと夫婦に関わる伏線でもある。

そして終盤に起きる子供の誘拐、豪華船の爆破未遂、夫婦の死亡報道など、ここに来て重役たちの計画が最終段階に入る。

で、夫婦ふたりで取り戻しにいくことを決意してこの巻はおしまい。

うーむ、なんか前半だけで終わってしまっているな(笑)
まぁ、実際見所は戦闘シーンだし、あとはだいたい説明っぽいところがほとんど。

もちろん、最終巻に向けて必要なものであるけど、前半が派手なぶん、地味に進んで次の巻へ、って感じになっている。

……3巻のときといい、4巻といい、引っ張り方はうまいのかもしれない。

実際にあったらやりたいゲーム

2005-05-12 10:01:19 | 木曜漫画劇場(白組)
さて、近未来と言ってもそこまで発達してないの第163回は、

タイトル:BREAK-AGE(全10巻)
著者:馬頭ちーめい
出版社:ASCII

であります。

鈴:ゲーマーなら一度はやってみたいゲームになるだろうと思うLINNでーす。

扇:つーか、知らない人には意味不明だぞーと突っ込むSENでーす。
(これが我々の正しい関係だな)

鈴:ボケつっこみの関係なら確かにそうだな。
さて、早速舞台に話をすると、2007年、「デンジャー・プラネット(以下DP)」という体感ゲームを主体にした話であります。

扇:あと二年……ゲーセン、既に斜陽だよ。
一言でいっちまえば、仮想空間内で自分のチューンナップしたロボットに乗って戦うゲーム。

鈴:いや、アミューズメントパークと言えば何年かはもつぞ(笑)
システム的には、ストーリーモードで決められたシナリオを進んでいくものと、作ったロボットで戦うモードの2種類。本作では、基本的には対戦モードが主体。

扇:んじゃ、いきなりキャラ紹介と行きますか。
仁村桐生(にむらきりお)。DPに青春を費やす高校一年生。女顔、優柔不断、色んな意味で健康優良児、と女性に遊ばれること確定の主人公。『九郎』という名の高機動型バーチャル・パペット(以下VP――DPでプレイヤーが乗るロボットの総称)を操る。技術者としては天才的だが、乗り手としては上の中ぐらい。

鈴:では、桐生のパートナーで、弁慶と言う乱戦に強い超大型VPを操る超一流のVP乗りである高原彩理。
ひとつ年上でお姉さんを演じようとしてぜんぜん演じきれていなかったりする。まぁ、ASCIIなんて出版社で少女マンガらしい主人公ではあります(笑)

扇:そこがイマイチ好きになれんとこなんだよなぁ。
倉田大輔。いわゆる、主人公の相棒。いつも笑顔だが、単なる地顔。おおむねこういうキャラは主人公に都合良く使われて終わるもんだが、さりげないとこで活躍したりする侮れない奴。実は本作で一番いい女――ネリーを落とす可能性が一番高い男でもある。

鈴:以前書いた小説版では、アメリカに行ってしまって進展なしだったな。
では次は、ビデオゲーム同好会の会長の長船悠樹。材料工学専門。DPでも地方大会を優勝したことがある強者だけど、この話では裏方。
材料工学の知識を活かして様々な武器を開発するも、本人は常に着ぐるみ着用の変人(笑)

扇:副会長の任谷篤志。あっぽな姉とブラコンの妹に挟まれた故にか、桐生に甘く彩理に厳しい人。会長とは最強のコンビ。頭の回転は速いし、激しくツッコミ型だが、ある意味会長よりネジが飛んでる人なのでお堅いイメージは全くない。

鈴:では木戸初利、通称ビリー。神戸から引っ越してきた腕利きのファイター。
ただし、旧式のリボルバーを使うVPを操ることに固執して結局桐生に一度も勝てない不幸なひと。
一度しか出てこないお姉さんの安奈の西部劇に出てくるような姿はけっこう好みのひとも多いのではないかと密かに思っている(笑)

扇:銃器使わないくせに桐生を瞬殺した最強の女侍ネリー、桐生に横恋慕するジェラルディンと有珠(ありす)、ジェラの兄貴で桐生に色目を使うトーマス(笑)、鳴り物入りで出てきた割には大して活躍できなかった海音(かいね)、等々……とにかくこの漫画、アクの強い連中が山ほど出てきます。キャラ漫画としては一級品。もちろん、それだけとは言わないが。

鈴:ひとり忘れているぞ。久我透。元デッガーのテストパイロットでこれまた超一流のVP乗り。
いろんな陰謀の中でとんでもない可変VPの乗り手として登場。ただし、奥様には(小説版)頭の上がらない不幸なひと。

扇:好きなキャラはまだいるが、そのへんで終わりにしとこう。
で、ストーリーだが大ざっぱに言うと、桐生&彩理のラブコメ、それからDPを巡る会社同士の駆け引きにビデ研が関わっていく話。

鈴:関わっていく、と言うわりには、会社の商品としてVP開発したり、九郎と弁慶の合体システムを構築したり、果てはどっかの旅館の宴会芸にVPを使ったりと、ビデオゲーム同好会はとても学校の同好会とは思えない活躍をしてはいるがな。
だいたいは桐生と会長のふたり舞台だが。

扇:た、だ、し。
この話、プ×レ×3×郎やプ×モ×四×と違って、DP戦以外の枝葉の話が異常に充実してます。
つーか、ミリタリー漫画の主人公なのに女装してオカマバーでバイトしてるってどうよ、桐生君?

鈴:しかも特別手当(指名)を受けられるくらい人気が出てしまう主人公てどうよ!?
いや、まぁ、趣味だろうと何だろうとおもしろいからいいんだけどね。
枝葉の話というと、輝秀閣(会長のおじの経営する旅館)で展開されるDP軽演劇。普段はそれなりにまじめにバトルをかましている桐生たちのVPが、プロレスラーになったり、役者になったりとかなりギャップがあって楽しめます。

扇:とまぁ、はっきり言っておちゃらけと真面目の境界線を斜め三十五度の角度で蛇行運転してる連中ですが、最終十巻ではかなりマジな活躍を見せてくれます。
イマイチマイナーな作品ですが、ロボットorゲーム好きだろうが嫌いだろうが関係なく読める話なので、是非是非読んでみて下さい。

鈴:本屋でバイトしていた時代、ASCIIの目録にはB、同時期のモンスターメーカーという作品にはAでいい点がついていたにもかかわらず、実際はこの作品のほうが売れていたくらいなので、出版社の思惑よりも売れていた作品ですのでオススメです。

扇:というわけで、相変わらず時代にまったく乗らない木曜漫画劇場、今週はこれにて終わりでございます。
また来週をお楽しみに……してる人いるのかな?

鈴:うーむ、いるのかどうかはかなり疑問だなぁ(爆)
まぁでも、この木曜劇場はふたりでオススメのマンガを取り上げているので、損はさせません……たぶん(爆)
では、読んで手にとってもらえることを祈って……さよーなら~



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