さて、最後の書と言いつつ最後じゃない第174回は、
タイトル:帰還――ゲド戦記最後の書
著者:アーシュラ・K・ル・グウィン
出版社:岩波書店
であります。
先週に引き続き、ゲド戦記の紹介です。
巻数的には第四巻に当たります。
前三巻については、第167回、第168回、第169回を御覧下さい。
ゴハという女がいる。
夫を失い、息子と娘が家を出た後も一人でかしの木農園に住むよそ人である。
テルーという娘がいる。
心なき者達に強姦され右の顔と腕を焼かれながらも、彼女は生きることを選ぶ。
ハイタカという男がいる。
死との戦いで魔法の力を失った時、彼はすべてに背を向けて逃走を開始する。
三人に人並み外れた力はない。
だが、自由を維持するという最も困難な闘いに挑まなくてはならない。
権力、我欲、妄執、様々なものを抱えた者達が三人を包み、翻弄していく。
すがるものは既に失われ、過ぎた時間は過酷な現実を浮き彫りにするばかり。
そして、悪意がその重囲を狭めていき、ついに――。
暗っ!
とか言ってはいけない。
重い話なのは確かです、地味さで行くとシリーズトップ。
しかし屁理屈抜きにして、現実を描いた大人のための物語です。
主役はかつてゲドとともに闇からの脱出を果たしたテナー。
ゲドの師オジオンに魔法か現実かの選択を与えられた時、彼女は後者を選びました。
女だけの世界から男女が共存する世界に飛び出した彼女は、そこに厳然と存在する男性的権威に憤りを覚えつつ、二十五年の時を過ごします。
ファンタジーの象徴とも言える魔法を捨て、日常に身を置いたテナーの視点は非常にハードです。そこには謎めいた神秘のヴェールも、哲学的な知のカーテンもありません、徹底したリアリズムのみがあります。その意味では、前巻までと本巻は完全にベクトルが違います。
ただし、ここで引いてはいけない。
どんな世界にも時間の流れがあり、現実があります。
華々しい物語だけが人生のすべてではないのは物語の主人公も同じなのです。
子供時代に読んで欲しいとは言いません。
ゲドやテナーのように世界を知り、現実を知った時に読んでみて下さい。必ず何か得るものがあります。
というわけで今回はこれまで。
ちなみに、副題が最後の書となっていますが五巻目があります。
それについてはまた明日。
P・S
真面目なことを書いたら頭がぐるぐる巻きになりそうになったので、ちょっとだけ不真面目な話をします。題してゲド戦記刑事物化計画。
第一巻が自分が逃がした犯人を追う新米刑事、第二巻が他国に潜入捜査を行う警部補、第三巻がなぜか現場に出てくる警視総監、んで本巻は定年で仕事をやめた後、昔捕まえた犯人の影に怯える元刑事……どうでしょう?
単なる思いつきなので深く考えないで下さい、何となく難解な物語が解りやすくなるような気がしただけです。(なんで刑事物やねんというツッコミは不許可っ!)
――【つれづれナビ!】――
◆ 『ゲド戦記』のまとめページへ
◇ 『海外作家一覧表』へ
◆ 『つれづれ総合案内所』へ
タイトル:帰還――ゲド戦記最後の書
著者:アーシュラ・K・ル・グウィン
出版社:岩波書店
であります。
先週に引き続き、ゲド戦記の紹介です。
巻数的には第四巻に当たります。
前三巻については、第167回、第168回、第169回を御覧下さい。
ゴハという女がいる。
夫を失い、息子と娘が家を出た後も一人でかしの木農園に住むよそ人である。
テルーという娘がいる。
心なき者達に強姦され右の顔と腕を焼かれながらも、彼女は生きることを選ぶ。
ハイタカという男がいる。
死との戦いで魔法の力を失った時、彼はすべてに背を向けて逃走を開始する。
三人に人並み外れた力はない。
だが、自由を維持するという最も困難な闘いに挑まなくてはならない。
権力、我欲、妄執、様々なものを抱えた者達が三人を包み、翻弄していく。
すがるものは既に失われ、過ぎた時間は過酷な現実を浮き彫りにするばかり。
そして、悪意がその重囲を狭めていき、ついに――。
暗っ!
とか言ってはいけない。
重い話なのは確かです、地味さで行くとシリーズトップ。
しかし屁理屈抜きにして、現実を描いた大人のための物語です。
主役はかつてゲドとともに闇からの脱出を果たしたテナー。
ゲドの師オジオンに魔法か現実かの選択を与えられた時、彼女は後者を選びました。
女だけの世界から男女が共存する世界に飛び出した彼女は、そこに厳然と存在する男性的権威に憤りを覚えつつ、二十五年の時を過ごします。
ファンタジーの象徴とも言える魔法を捨て、日常に身を置いたテナーの視点は非常にハードです。そこには謎めいた神秘のヴェールも、哲学的な知のカーテンもありません、徹底したリアリズムのみがあります。その意味では、前巻までと本巻は完全にベクトルが違います。
ただし、ここで引いてはいけない。
どんな世界にも時間の流れがあり、現実があります。
華々しい物語だけが人生のすべてではないのは物語の主人公も同じなのです。
子供時代に読んで欲しいとは言いません。
ゲドやテナーのように世界を知り、現実を知った時に読んでみて下さい。必ず何か得るものがあります。
というわけで今回はこれまで。
ちなみに、副題が最後の書となっていますが五巻目があります。
それについてはまた明日。
P・S
真面目なことを書いたら頭がぐるぐる巻きになりそうになったので、ちょっとだけ不真面目な話をします。題してゲド戦記刑事物化計画。
第一巻が自分が逃がした犯人を追う新米刑事、第二巻が他国に潜入捜査を行う警部補、第三巻がなぜか現場に出てくる警視総監、んで本巻は定年で仕事をやめた後、昔捕まえた犯人の影に怯える元刑事……どうでしょう?
単なる思いつきなので深く考えないで下さい、何となく難解な物語が解りやすくなるような気がしただけです。(なんで刑事物やねんというツッコミは不許可っ!)
――【つれづれナビ!】――
◆ 『ゲド戦記』のまとめページへ
◇ 『海外作家一覧表』へ
◆ 『つれづれ総合案内所』へ
なんか、納得させられたよ。
私は、「ル・グィン、ファンタジーファン育成化計画」だと思っていたわけで、そうすると4,5は、「おめでとう。これであなたもファンタジー通」ということに。
どうしても4巻は主婦の視点で見てしまう。
リアリズムのなせる業ですね。
私的には、この巻が一番好きなのですが、確かに地味さ加減はダントツトップ。
地味でも、内容のあるものなら、それでよし!
影に追われるゲドのバックで『太陽にほえろ!』が流れてたりするのです。(笑)
私は見事に育成されたクチなので、『育成化計画』には異論の挟みようがないですね。
四巻も好きなんですけど、主観派の男性にとってはちょっときついかも知れませんね。文中にテナーの心情がダイレクトに出てるので……。
外伝、五巻となかなか派手になりましたが、やっぱり作者も色々言われたのかな。確かに重いけど、シリアスでいくならこれぐらい重くないと、と思ったりもしますね。