つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

さぁ、いくつ言えるかな?

2005-03-21 19:40:05 | 事典/図典
さて、いつまでたっても漫画を紹介しない第111回は、

タイトル:空の名前
著者:高橋健司
出版社:光琳社出版

であります。

ふと気付くと、気温と日没と病気以外に季節を感じていない自分がいる。
花も食事も季節のものなど全く気にしていない。衣替えもかなり適当だ。
行事なんて興味がない、カレンダーは曜日が解ればそれでいい。
そんな生活送ってませんか?
私は送ってます。(←おい)

本書は天候および季節に関する言葉を美しい写真と共に紹介する『眺める事典』です。小さめの写真が主なのはちょっと残念ですが、見開きいっぱい使った大きな写真も多数収録されており、写真集としても充分楽しめます。

雲の名前、雨の名前、霧の名前、雪の名前、風の名前、雷や虹や不知火などの自然現象、読みながら、「あ~、綺麗だなぁ」と思いつつ、実際にそれらを眺めることが少なくなったことに気付かされる……。

というわけで、ちょっと遠いお散歩に出かける時に持って行きましょう。広い自然公園で寝っ転がる時や、カメラ片手にドライブする時なんかに広げると非常に楽しいです。あ、学校の屋上で空を眺める時でも良し。うーむ、学生時代にやっときゃ良かった。

自然を忘れかけてる人にオススメ。自然が好きな人にもオススメ。
3200円となかなか強敵ですが、元は取れます。

あなたの人生、変わる……かも

2005-03-20 16:20:03 | SF(海外)
さて、漫画も含めることにしたとか言いつつ漫画でない第110回は、

タイトル:あなたの人生の物語
著者:テッド・チャン
文庫名:ハヤカワ文庫

であります。

「テッド・チャンを読んでる奴はいねかぁ~」

いますね、沢山。友人の薦めもあって私も手を出してみました。
短編集なので、例によって一つずつ感想を書いていきます。

『バビロンの塔』……旧世界のテクノロジーで、本当にバベルの塔を造ってしまったとしたら? という話。工人達の会話や、塔の歴史など、そこかしこにリアリティを感じさせるものがちりばめられているが、厳密に言うとおとぎ話。自重で塔が潰れてしまうんじゃないかとか、風が強すぎて上の方は作業どころじゃないだろとか、下世話な突っ込みを入れつつ読んでいたら、いともあっさりとテッド・チャンの魔法でかわされて塔のてっぺんまで連れて行かれる。しかもさらにその上には――とと、秘密を全部しゃべってしまいそうなのでここでストップ。少なくともこれ一作だけで、「テッド・チャンは他の奴等とは違う」と言い切ってしまえる美しい短編。一押し。

『理解』……ある人物の『知的進化』の過程を詳細に描いた力作。中盤、会話がまったくなくなり、主人公の思索だけが延々と繰り返されるためやや冗長に感じられるが、ある存在の登場により一気にストーリーが加速する。知的進化といえば『アルジャーノンに花束を』を思い出すが、あれと本作とは全く毛色が異なる。ある意味悲劇だが、それは主人公にとってではない。

『ゼロで割る』……小学生の頃、1割る0は何? と聞かれて、は? となった記憶がある。割る0ってことは割ってないんじゃないか? と子供ながらに思ったからだ。その質問が、数学ではタブーとされていることを知ったのはずっと後のことだった。あー、『Q・E・D』の彼ならどう答えるんだろ? ――全然、話の内容に触れてませんね、このコメント。

『あなたの人生の物語』……主人公は言語学者の女性。軍の要請でエイリアンと接触し、その言語を解析することになる。そして、一定期間を過ぎて彼女自身にある変化が――。一見、過去と未来を交互に見せる手法を使った一般的なストーリーに見えるが、大きな間違い。未来の場面の主人公の心理描写がどこかおかしいのだ。この奇妙な感覚はストーリーを読み進めていくうちにさらに濃くなり、すべての謎が解けた上で未来と過去が接触して物語は終わる。タイトルの付け方が絶妙。

『七十二文字』……魔法が科学として扱われている世界の物語。この作品に限らないが、テッド・チャンが造る世界は非常に計算されており、必然がストーリーを推進させキャラクターを動かしている感がある。これもまたそうで、名辞と呼ばれる支配の言葉(要はプログラムと回路を一緒にしたようなもの)を使って、来るべき人類の危機に立ち向かう者達の姿を描いている。あ、ちなみにドンパチじゃないです。飽くまで研究によって人類を救う話。

『人類科学の進化』……旧人類と超人類が混在する世界で、旧人類の同胞に未だ自分達の科学は死んでいないことを訴える架空論文。

『地獄とは神の不在なり』……『天使降臨』を偶発的に発生する自然災害として扱ったユニークな話。天使によって人生を狂わされた者、救われたと感じていた者、未だ降臨に立ち会っていないが神を信じている者。三人のキャラクターが交錯する時、そこに再び天使が現れ――。天国と地獄が実際に存在している世界、というのが驚き。ただし、宗教の解釈は現実世界と同じで、飽くまで個人個人が自分でどう取るか、である。

『顔の美醜について――ドキュメンタリー』……手術によって、美醜による偏見を捨てることができるとしたら? という実験作。顔を整形するのではなく、他人の顔を見た時に、美醜で相手の印象を決定しなくなる、というのがミソ。副題にあるように、様々な人物のコメントの連続で話が展開される。作りとしては面白いが、結論が出ない命題であることを証明しただけで終わる。

以上! 長かったぁ、もう満腹です。
とりあえず、SF好きなら絶対のオススメ。
全部が全部SFかと言われるとそうでもないから、SF苦手な人にも読んで欲しいですね。
ちと難解な話もあるので、軽く読み飛ばすには向いてないけど……。



――【つれづれナビ!】――
 ◆ 『海外作家一覧表』へ
 ◇ 『つれづれ総合案内所』へ

時代を反映して

2005-03-19 11:29:21 | 古典
さて、これからマンガも含めることにした第109回は、

タイトル:とりかへばや物語(1)(2)(3)(4)
著者:不明(訳者 桑原博史)
出版社:講談社学術文庫

であります。

含めると言いながら古典(笑)

「とりかへばや」というのは、「とりかえたいなぁ」と言う意味。

主人公は、活気があって男勝りな姫君、もうひとりが内気でなよなよした若君。
長じるに連れて姫君は公達として、若君は姫として世間に出るようになる。

これだけならまだしも、まるで源氏物語のように姫君は若くして中納言、若君は後宮に入って女東宮(にょとうぐう)付きの尚侍(ないしのかみ)に。(女性の最高職。ただし、そのうち、帝の愛妾みたいな側面を持つようになった)
さらに姫君は右大臣家の姫君と結婚するわ、若君は女東宮に手を出すわ……話の内容はかなりはちゃめちゃな内容になってる。

ざっくりとした話はタイトルの各巻のリンクからamazonに行けばわかる。

まぁでも実際に読んでみた感じでは、姫君、親友の宰相中将(さいしょうのちゅうじょう)に押し倒されて子供を産む。けれどこれを捨てて若君と入れ替わって後宮へ戻り、さらに帝に愛されて中宮になって幸せな人生を歩むことになる。

ただ、ラストにこの宰相中将(三位の参議と兼ねる中将。概ねいいとこのぼっちゃんがなる)がいまは中宮となってしまった姫君の子供を慈しみながら、かのひとはどこへ……と言うシーンがえぐい。

ストーリーもかなり無理がある。
だいたい姫君と若君が入れ替わることになるわけだけど、この時点で姫君は右大将、若君は尚侍。
まったく接点のない仕事の割に、あっさりと入れ替わって周囲に溶け込むふたり。

いちばんの難点はここかなぁ。

でも、やはり時代を反映して、雰囲気は退廃的で、重い。(成立は平安末期)
けっこうどろどろしたところもあるし、暗い、重い話が好きな私にとってはいくつかの難点を除けばけっこう楽しめる作品だと思う。

まぁ、枕草子や源氏物語のようにメジャーではないけど、ここまで残ってる作品だけのことはある。

ただ、やはり学術文庫なので、原文、語釈、訳文の構成。
他にも訳文だけのものもあるので、逆にそっちを読むほうが古典が苦手なひとにはいいかもしれない。

でも、古典好きとしては、原文でしか味わえない雰囲気とか、そういうのを見てもらいたい、とは思うけど。

またやってしまうぞの第2弾(第108回記念)

2005-03-18 20:32:44 | 雑記
さて、何の記念だかよく解らない第108回は、

タイトル:Dungeons & Dragons Shadow Over Mistara
著者:琵琶萌黄
出版社:猫文庫

であります。

扇:どもー、毒舌街道まっしぐらの相棒を持った不幸なSENでーす。

鈴:猫かぶりの腹黒男を相棒に持った不幸なLINNでーす。

扇:つーか、あちこちシリーズで誤魔化したとは言え、よくここまで続いたねぇ。

鈴:うむ、煩悩の数だけよく毎日毎日続けたもんだ。まぁ、今回を含めて2回はこんな駄文だけど(笑)

で、タイトルのD&D SOWは、某ゲームメーカーのカプ○ンがアーケード用に制作したアクションPRGを元にした、仲間内だけで楽しむために書いた話。

たぶん、不特定多数ではないので著作権法違反にはならない……はず。

扇:いきなりバラしましたな。

鈴:前がぜんぜん話の概要に触れなかったのでな。

扇:とりあえず、キャラ紹介でもしとくか。まずは主人公(?)から。

鈴:うむ。では、まずパーティはゲームで選べる全6キャラ。
ファイター(戦士):ルーファス
エルフ:レスティア
クレリック(僧侶):ラズマトフ
ドワーフ:ゲオルフォン
シーフ(盗賊):レイロミスト
マジックユーザー(魔法使い):アーミリティ
で、6キャラクターであります。

扇:実はファイター主人公じゃないし、エルフと誰かが恋仲になったりもしないし、クレリックとドワーフはただの脇役だし……とかなり型破りだったりしますけどね。

鈴:型破りと言うな(笑)
ただし、クレリックとドワーフが脇役なのは否定しないけど~(笑)

ストーリーは、勧善懲悪もの。
魔神復活を企むエンシェント・ドラゴンであるシンを倒すための冒険譚。
まぁ、ゲーム自体をやったひとはいまさら説明する必要はないと思うけど。

扇:でも正義の味方じゃないよね、こいつら。

鈴:まぁ、確かに、正義の味方ではない。
もともとは調査依頼だし、そのうちかなり私事で動いてるし。
まぁ、ラスボス倒したのも使命感と言うより、私怨っぽいところがあるしなぁ。

扇:そうそう、元は親父の仇を取るために旅を続けるルーファスが主人公だった。

鈴:ちゃうわいっ!
しかし、誰が主人公であっても、当初は全員の見せ場を作るはずだったが、動かしやすさからレイロミスト、レスティア、アーミリティの3人がメインキャラとしてストーリーを引っ張っていったなぁ。

扇:そういや、美女二人を連れた超絶美形(自称)の魔法使いが暴れる話だったな。

鈴:なんでそうストーリーを歪曲すんねん。だからひねくれてると言われんねやぞ(笑)

さておき、この小説、もとのゲームが1コインでクリアまで1時間は遊べるゲームだけあって、かなりの枚数を費やした。
確か原稿用紙で800枚を超えてたはず……つか、確認したら980枚だった。
我ながらよく書いたなぁ、とは思うけど。

扇:ファンには是非読んで頂きたいが、公開する予定はない。つーか、できない。

鈴:できんなぁ。捕まりたくはないし(爆)
個人的に見せて、と言われれば、ってとこだなぁ。
そのときにはこのゲームについて暑苦しく語ってもらおう。

扇:ちなみに元ゲーをやりたい方はセガサターン版を買うか、基盤探して下さい。ファイナルファイト系の横スクロールアクションですが、プレイ中の選択肢がひじょーに多いのでハマる人はかなりハマると思われます。つっか、書評じゃないし。(笑)

鈴:ぜんぜん書評じゃないなぁ。
まぁ、もともとゲームのストーリーだからゲームをやってないと、ってのはある。
でも、個人的にはけっこうお気にの作品だったりするけどね。

このゲームが好きで、興味があるひとはメールかコメントによろしく~(笑)

扇:というわけで、第60回に続き、内輪ネタだけで済ませた第108回、いかがでしたでしょうか? 特に記載していてませんが、つれづれ読書日記はコメント、トラックバックどちらも大歓迎ですので、苦情も含めてどしどし御感想をお寄せ下さい。

鈴:ただし、2ch語は避けてください。
解読できないので(笑)

それでは、今回はこの辺で。
さいなら、さいなら、……さいならっ

扇:いやー、書評って……本っ当に不毛ですねぇ。(嘘)


(閃凛電脳遊戯館に関連記事があります。原作ゲームに興味がある方は、どうぞ御覧下さい)

十二国記FINAL(現時点)

2005-03-17 19:31:39 | ファンタジー(異世界)
さて、長かった企画も今回でおしまいの第107回は、

タイトル:華胥の幽夢 十二国記
著者:小野不由美
出版社:講談社X文庫ホワイトハート

であります。

短編集です。一つずつ感想を述べます。

『冬栄』……時代は『風の海 迷宮の岸』の少し後で、泰麒が南西の極――漣を訪問する外伝。何故彼が送られるか、その理由は『黄昏の岸 暁の天』でちょっとだけ述べられています。本編の泰麒は受難続きですが、こちらの泰麒は割と幸福。相変わらず自分の能力について落ち込むことは多いですが、子供らしく元気いっぱいなところも見せてくれます。ファンは必見。

『乗月』……『風の万里 黎明の空』で登場した祥瓊の母国、芳のその後の話。峯王を討った恵州州候月渓の苦悩を描いた作品で、心理描写が素晴らしいです。ちょっとだけ、陽子、祥瓊、図南の翼の珠晶との絡みもあります。簒奪者となることを拒み、一州侯に戻ろうとする月渓とそれを止めようとする人々の会話は非常に重みがあり、読ませます。お気に入り。

『書簡』……心優しき半獣楽俊と陽子の手紙のやり取り、という一風変わった話。大学に入ったはいいが、半獣としていわれのない差別を受けている楽俊。官吏に邪魔者扱いされ、それでも荒廃した国を立て直さなくてはならない陽子。どちらも気合いだけではどうにもならないことを知っていながら、空元気を見せて背伸びをする二人の姿が清々しい。

『華胥』……才の国で起きた殺人事件を扱ったミステリ。傾きかけた才、それでも自身の道に疑念を抱かぬ生真面目な王。国の行く末を不安視しながらも王の欠点を指摘できない人々。そして、その背後に潜む悪意。様々な人々の想いを描き、政とは何かを問う社会派ミステリー、ですね。非常に上手くまとまっています。

『帰山』……奏国王家の放蕩息子利広が今まさに倒れんとする柳を訪れる話。治世六百年、伝説まで後八十年に迫った奏の内情がちょっと明かされます。詳しくは書きませんが、「こりゃ、当分無敵だわ」ってな状態。しかし、長い治世の国ほどおちゃらけた感じの人々が多いのは、人間捨てて長いからなんでしょうかね?

以上、様々な国を描いている本作。かなり楽しめました。
長編も短編も上手なんて羨ましいなぁ……。

さて、連続十一回でお送りしてきました十二国記書評いかがでしたでしょうか?

拙い文章ですが、少しでも十二国記の世界を感じて頂けたなら望外の喜びです。
無論、この企画で読んでみる気になったというのなら、さらに嬉しい。
その上コメントして頂けるなら……もう感無量です。

今後も新刊が出るたびに紹介してきたいと思っておりますので、お楽しみに。
では、今日のところはこれにて。



――【つれづれナビ!】――
 ◆ 『十二国記』のまとめページへ
 ◇ 『ライトノベル一覧表(その2)』へ
 ◆ 『つれづれ総合案内所』へ

十二国初の取り組み

2005-03-16 19:21:38 | ファンタジー(異世界)
さて、陽子の発案でいろんなことをする第106回は、

タイトル:黄昏の岸 暁の天(下) 十二国記
著者:小野不由美
出版社:講談社X文庫ホワイトハート

であります。

この下巻での見せ場はいくつかある。

まずひとつはタイトルにもあるように十二国が歴史上初めて他国の麒麟のために、各国の麒麟が集まって泰麒を捜す、と言うのが話のメイン。

李斎が頼ってきた慶はもちろん、陽子と親しいから巻き込まれた雁、南の大国奏、珠晶が治める恭、「風の海 迷宮の岸」でも泰麒を連れ戻すために出てきた漣、「風の万里 黎明の空」で鈴がいた才、そして初お目見えの範。

合計7国の麒麟が集まって、泰麒を捜すことになる。

まぁ、ストーリー上、泰麒が蓬莱に流されたのか、崑崙(中国)に流されたのかわからないので、二手に分かれる。
崑崙へは奏、恭、才の3国なので、蓬莱へ向かうのは、慶、延、漣、範。

と言うわけでこれだけの麒麟が出てくるわけだけど、まぁ、ものの見事に性格が違う。
景麒と延麒はいままでよく出てるからいいけど、氾麟はいたずら好きのちょっと生意気な少女と言う様子。
控えめでおとなしい廉麟がいちばん麒麟らしいのかもしれない。

さておき、麒麟自身が渡って使令を使って捜索は始まる。

ストーリーのメインはこの捜索の話。
その合間に李斎の話がちょこちょこと入ったりする。

さて、もうひとつの見せ場……といえるかどうかはわからないけど、この世界の神に逢うこと。

最初は諸国が協力して泰麒を捜すことが天綱に触れるか、などを訊くために蓬山の主、碧霞玄君のもとへ。
そこで、玄君は天へ諮ってその答えを得てくる。

そして泰麒が戻ってきたあとには、陽子、延麒、李斎は西王母に面会し、泰麒を助けてもらう。

この話になってなにかだいぶいろんなこと……かなり設定的なことがわかってくる。

さらにもうひとつは泰麒。
魔性の子を読んでいればそうはないのかもしれないけど、泰麒を連れ戻すところ。

まぁ、大きくはこんなところだと思う。
見せ場じゃないけど、上巻から続く李斎の心理描写は秀逸。
相変わらず、人間を描くのはうまい。

けど、ただひとつ。
ラストに泰麒と李斎はたったふたりだけで戴へ戻ることにしたわけだけど、いままでと違って、ちょっとここが中途半端、かな。

まぁ、これからの戴の話を、と言うのはわかるけど、いままできっちりと、終わらせていただけに惜しいところ。

十二国記シリーズの中では、最も評価が低いかもしれない。

それでも他の氾濫する小説群の中で言えば、抜きん出ていい話ではあるんだけどね。



――【つれづれナビ!】――
 ◆ 『十二国記』のまとめページへ
 ◇ 『ライトノベル一覧表(その2)』へ
 ◆ 『つれづれ総合案内所』へ

魔性の子を読みましょう

2005-03-15 19:28:40 | ファンタジー(異世界)
さて、十二国記シリーズもあと3冊となった第105回は、

タイトル:黄昏の岸 暁の天(上) 十二国記
著者:小野不由美
出版社:講談社X文庫ホワイトハート

であります。

この話ではふたつの国がメインの舞台。
「風の万里 黎明の空」から2年後の陽子が治める慶国と、「風の海 迷宮の岸」の舞台となった戴。

始まりは、戴から。
乱の鎮圧に向かった泰王の身を案じる泰麒。
そこへ現れた戴国の重鎮、振り下ろされる剣、襲われる泰麒……。

まぁ、さておき、慶では、「風の海~」にも出てきた李斎が戦い、傷つき、ぼろぼろになって陽子を訪ねてくる。
戴を救ってもらうために……。

と、ここであらすじを書いていくとべらぼうに長くなってしまいそうなので今回はなし。

だって、構成が戴を救ってくれと言われ、何ができるかを考える陽子……慶国と、泰王である驍宗が王朝を整え、策謀の末、泰王、泰麒ともども行方不明になる戴国の話、十二国記シリーズのもととなった新潮社の「魔性の子」……泰麒が再び蓬莱(日本)に戻ってからの話、と3つの舞台で語られる、と言う形式だから。

さておき、上巻の話はほとんど戴。
王朝での驍宗の改革や策謀、急進的な驍宗への不安などなど、驍宗が登極してからの経緯がほとんど。

その合間に、慶での陽子たちの話が入り、蓬莱での泰麒の話が入る。

話の舞台は変わるし、戴は6年ほど前だから、時間も違う。
よくもまぁ、これだけ場所も時間も違うのを絡めて、まったく違和感なく書いていけるよ、と思う。

戴での話はどちらかと言うと李斎の回想みたいなところがあるからなのかもしれないけど。

李斎の話を聞き、延王尚隆、延麒六太を交えてどうするか、何ができて何ができないかなどなど、上巻はけっこう淡々と進んでいく。

ただ、戴での話は王宮での話……つまり政治的な色が濃いから、どうしてもこうなってしまうんだろうなぁ。

でも、下巻はいろんなところで見せ場がある。
世界の成り立ちや条理のことなどなど。

と言うわけで、続きは下巻に……。



――【つれづれナビ!】――
 ◆ 『十二国記』のまとめページへ
 ◇ 『ライトノベル一覧表(その2)』へ
 ◆ 『つれづれ総合案内所』へ

蓬山へGO

2005-03-14 19:54:31 | ファンタジー(異世界)
さて、なんかこのパターンが気に入ってしまった第104回は、

タイトル:図南の翼 十二国記
著者:小野不由美
出版社:講談社X文庫ホワイトハート

であります。

場所は恭国、先の供王が斃れてから27年。
荒れ果てていく国を憂えて王になるために蓬山へ向かう主人公の珠晶……。

つか、主人公の珠晶、12歳の女の子であります。
聡明な、と言えば聞こえはいいけど、賢しくて口が達者、プライドは高いけど、諭されてそれを認めることができないほど狭量ではない。

まぁでも、もともと大富豪の娘でお嬢さん育ち。
そういう面もしっかり出てるけど、はきはきした物言いや態度とか、あまりいやらしさを感じさせないキャラ。

さて、話はあまりにも長く王が出ない現状と、自分は王の器ではないとして昇山しない大人たちを見かねて、ならば自分が、と言うことで珠晶は安全な実家を出奔する。

途中、出奔するときに連れてきた騎獣を奪われたりはしたけど、無事黄海へ続く乾県へつく。

そこで黄海に入るわけだけど、ここで連れがふたり。
ひとりは黄海で騎獣を捕らえることを生業にしている頑丘、そしてこれまた得体の知れない優男の利広。

ここからは昇山する珠晶たちの旅物語。
前半は、珠晶、頑丘、利広の3人で、おなじ昇山する者たちと黄海を進んでいく。

ここで黄海で生きるための手法をいろいろと見るわけだけど、もちろんそうでない者のほうが多い。
そうした知恵をなぜ教えないのかとよく頑丘と衝突する。

それでもしばらく一緒にいて、とうとう耐えられなくなって離れてしまう。

ここからが見せ場で、強大な妖魔がいて行ってはならないと言う道を別の者たちと進んでしまう。
妖魔の脅威に足がある者は逃げ、そうでない者は取り残される。
そんな者たちを心配して道を戻り、協力して妖魔を撃退する。

ちなみに、このとき、頑丘たちのように黄海に慣れた者がするような行動を珠晶は実践してしまう。
あえて言うけど、まだ12歳。

このあと、黄海で唯一すがれる神である犬狼真君(一部のひとには待ちに待ったひと)に出会ったりと、いくつかの出来事を経て、そして恭麒に出会い、登極する。

後半は完全に珠晶のひとり舞台。
様々なことを考え、困難を乗り越え、そして麒麟に選ばれる。

構成がどうとか、流れがどうとかはもういままでにさんざん言ってきたので言わない。
とにかく、この話は、珠晶に尽きる!

12歳は思えない聡明さと、子供らしい単純さ。
昇山しようとする気概とそして王に選ばれてしまうだけの器。

また陽子とは違ったかっこよさってのがある。

そして、また相変わらず最後のセリフが憎らしいくらいにいい。

「だったら、あたしが生まれたこきに、どうして来ないの、大馬鹿者っ!」

らしいっ、らしいぞ、珠晶!

まぁ、「風の万里 黎明の空」ではすでに在位90年を数える王朝になってるけど、この「風の万里 黎明の空」みたいな珠晶の登極後の話も読んでみたいと思う今日このごろ。



――【つれづれナビ!】――
 ◆ 『十二国記』のまとめページへ
 ◇ 『ライトノベル一覧表(その2)』へ
 ◆ 『つれづれ総合案内所』へ

麒麟でGO!

2005-03-13 11:30:54 | ファンタジー(異世界)
さて、陽子の活躍がかなりかっこよかった第103回は、

タイトル:風の万里 黎明の空(下) 十二国記
著者:小野不由美
出版社:講談社X文庫ホワイトハート

であります。

下巻に入ってしばらくしてから一気にストーリーは動く。
止水郷での出来事から、教えを請うている遠甫と言う人物から慶国の実情を知る陽子。
そして清秀を殺され、復讐を決意する鈴。
楽俊に景王がいかにして玉座を選んだのかを知り、その人となりを知りたいと景王を目指す祥瓊。

それぞれが新たな理由を持って慶国へ入り、止水郷へと向かっていくこととなる。

さて、ストーリーが動くのは、極めて悪辣な官吏……郷長が治める拓峰で乱を起こすために集まった義賊たちの存在が出てから。

鈴はこの郷長である昇紘に復讐するためにこの義賊の仲間になり、着々と乱の準備をする。

祥瓊はと言うと止水郷でひとを集めて、戸籍もくれて……なんて噂を聞いて、止水郷へ向かうことにする。
辿り着いたのは止水郷よりまだ東の和州州都明郭。そこで、芳でしか行われていないはずの磔刑を見て愕然とし、思わず刑吏に石を投げてしまう。

それで追われることになり、陽子の助けを得て、そして傭兵だと名乗る得体の知れない男に助けられる。

で、陽子はと言うと景麒と一緒に明郭に行ってみたりと和州の実情がどんなものなのかを見聞し、いかに王として何も出来ていないかを実感する。
そして、里に戻ってみると里家が荒らされ、一緒に住んでいた子供たちは殺され、傷つけられ、遠甫までがいない。

理由はわからないが、関係がありそうなのは拓峰で出会った男たち。
そこで、あの義賊に出会い、そして鈴に出会い、昇紘を討つために集まったことを知り、これに加わる。

ここでまず陽子と鈴がともに戦うことになる。

祥瓊はと言うと、厄介になっているところが実は侠客の集まり。
義賊が拓峰で、こちらは和州州都明郭で王に国の実情を知ってもらいたいと集まっていた。
そこで義賊に武器を渡すための使いに選ばれたのが祥瓊。

ここで接点が出来る。

そしてとうとう拓峰で乱が起きる。
様々な計略を用いて郷城を落とし、昇紘を捉える陽子と義賊の仲間たち。

ここからはほとんど合戦。
拓峰での乱を知った祥瓊たちまで参戦し、拓峰の兵だけでなく、州の軍……州師まで出てきてどんどん規模が大きくなってくる。

続いて明郭にまで乱が起こり……とうとう禁軍……いわゆる王の近衛軍のようなのまで出てくる。

ここまではテンポのいい合戦が続いていて、読みやすい。
女性の作家にしては剣を持って戦う場面とかもしっかり書かれているし、流れがよく、どこも描写で引っかかったりするところがない。

上巻は陽子、鈴、祥瓊の3人の人間ドラマが中心で、下巻は前半がこの乱を起こすための話。
里家が襲われたり、武器を集めたりと、その後に続くこの戦いの緊張感と言うものを最初は淡く、そして引き絞られた弓のように高めていく構成はすばらしい。

合戦の描写も上に書いてあるように流れはいい。
文章はけっこう地の文が長いんだけど、ほんとうにそれを気にさせない。

そしてやはり最後の締めは陽子。

禁軍が出てきたことで「月の影 影の海」のときのように戦いに慣れた覇気を、怒気とともに纏う陽子。
かっこよすぎっ!

さらに景麒に騎乗し、禁軍……王師の将軍に向かって出陣の真偽を糾す姿はいかにも王。
そして、勅命をもってこの乱の原因ともなった官吏を捕らえ、王宮に戻ることになる。

まぁ、その後のエピローグのところはさておき、このクライマックスのあとの、もうひとつの見せ場が戻ったあと、陽子が初勅を宣言するところ。

「諸官はわたしに、慶をどこへ導くのか、と訊いた。これで答えになるだろうか」
 諸官の返答はない。視線だけが王に向かう。
「その証として、伏礼を廃す。――これをもって初勅とする」

クライマックスに続いて、最後の最後でもうひとつあるのがまた憎い。

書いてなかったけど、この初勅のことは上巻からあった話だからこれまたうまく構成されている。

何度読んでもこのラストはクライマックスの余韻と相俟って印象に残る。
上下巻あわせて700ページを超えるくらい長くはなったけど、このシリーズの中ではこの陽子の話が3本の指に入るくらい気に入っている。



――【つれづれナビ!】――
 ◆ 『十二国記』のまとめページへ
 ◇ 『ライトノベル一覧表(その2)』へ
 ◆ 『つれづれ総合案内所』へ

出奔でGO!(謎)

2005-03-12 14:06:23 | ファンタジー(異世界)
さて、十二国記シリーズの正当な続編の第102回は

タイトル:風の万里 黎明の空(上) 十二国記
著者:小野不由美
出版社:講談社X文庫ホワイトハート

であります。

正当な続編、と言うわけで最初の「月の影 影の海」の主人公の陽子が景王になってからの話。

でも、この話は陽子だけの話ではない。

いつもの通りの成長話。
でも、今回は陽子に加え、おなじ海客の鈴、討たれた芳王の元公主の祥瓊。

まず本当の主人公、陽子。
玉座につくことを選び、晴れて景王となったけど、王になってももとは海客。
違う世界から来たからこの世界のことなど何もわからない。

どうすればいいのかわからない。
そんな苦悩の中、民の暮らしを見るために身分を隠してある里に厄介になる。
そこで経験する数多の出来事。もちろん、それは下巻に続く話の中のひとつ。

てか、上巻は陽子の話より、鈴、祥瓊の話のほうが多い。

では鈴。
だいたい、十二国記ではこういうメインキャラにはたいていそのキャラの考え方とかを変えるべく、ひとりのキャラクターが用意されている。

鈴の場合、旅の途中で出会った少年の清秀。
この少年の言動や態度で成長し、そしてその死で決定的になる……わけだけど、仙になって百年も経つのに成長しろよ……と言いたくなる。

まぁ、いろいろと過去がある。
海客でいきなり流されて、言葉も通じない、常識はわからない、などなど。
でも、何の努力もしないで人に哀れんでほしい、ってのはどういう了見だ? と言いたくなる。

さておき、鈴の場合は、こうだけど、祥瓊の場合は「月の影 影の海」で陽子を救う巡り合わせになった楽俊。

まぁ、鈴も祥瓊も、何考えてんだ、おまえら、的なキャラだな。
もともとは、公主でその責任を果たさなかったから憎まれ、恨まれた。

でも、それをまったく理解せず、自分勝手に恨まれるのは自分のせいではない、と言い張るところは鈴とよく似ている。

挙げ句の果てには自分が失ったものをすべて手に入れたと勘違いして陽子を、同じ年頃で王になったと言うだけで恨み、憎み、弑逆すら考える。

だけど、祥瓊のほうはまだ楽俊のおかげでまだマシかな。
だいたい、さんざんなどん底から陽子を引き上げるだけの器のでかさがあるネズミだけにね。

まぁ、鈴と祥瓊をあえて較べるなら、ってとこだろうけど。

ともあれ、このふたり……鈴は清秀、祥瓊は楽俊と旅をして、心や考え方に僅かながら変化が起きる。
こういうところの流れはやはりうまい。

それに、元々の理由はどうあれ、慶へ向かうことになったふたりが、出会うべくして清秀、楽俊と出会い、そして慶へ辿り着く。

陽子も何が起きているのか見えないまま、和州止水郷へ向かい、ふたりと出会う。

まったく別の原因、旅路、目的がある3人がごくごく自然に集まってくるストーリーの流れのなめらかさはやはり感服する。

しかも上巻はうまいところで切っている。

華軒にひかれ、命を落としてしまう清秀。
それを抱いて鈴に渡すのは陽子。

ようやく3人が集い、ひとつの目的に向かって話が進んでいく際のところで終わらせている。

くそぅ、下巻が気になるじゃねぇかよっ!

下巻に続く



――【つれづれナビ!】――
 ◆ 『十二国記』のまとめページへ
 ◇ 『ライトノベル一覧表(その2)』へ
 ◆ 『つれづれ総合案内所』へ