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ヴェニスの商人

2006年01月09日 | は行 外国映画
シェークスピア作品の中でも異色を放つ「ヴェニスの商人」。この映画がなかったのというのは意外だったが、見ればさもありなん・・・だった。

シェークスピア作品には、さまざまなジャンルがある。言わずと知れた悲劇。四大悲劇といわれる作品群は、人間の欲望・ねたみ・復讐心・裏切り・等々、人間のもろさと悲しさをよくも描いたものばかり。そして、映画にはぴったりの話。美しい姫君、愛と欲望、他人の足を掬おうと虎視眈々と狙っている人たち。因みに私が一番好きなのは「マクベス」だ。

そして喜劇。軽やかで、全編楽しい勘違いの塊。「真夏の夜の夢」、「じゃじゃ馬ならし」、「から騒ぎ」等々。最近よく見る韓流映画には、このシェークスピアの喜劇魂があきらかに根底にある。「十三夜」なんてのが結構好きな話だ。明らかに違う容貌の双子が、そっくり入れ替わるのだが、ありえないシチュエーションを舞台ならではの見方で迫るあたりが面白い。

話の宝庫。さまざまなシチュエーショに、ありとあらゆる立場に、無限の展開を秘めているのがシェークスピアの描く世界だが、宗教色の濃い話はあまりない。「ヴェニスの商人」も、宗教が前面に押しでているわけではない。かつて(若いとき)シェークスピアを読み耽ったときも、シャロックは悪の権化、わしっぱなの魔法使いのイメージの弾劾されるべき高利貸しと受け止めた。

しかし、今の立場でこの世界を見ると、なんとも今日的な話であった。監督の意図からいかにも今日的に描いたのかもしれないが、この話には普遍的な問題が込められていたではないか!

ヴェニスの大商人・アントーニオ。若き友人バッサーニオを救おうとする、善人の塊のような男。しかし、なぜ命をかけて若き友人を救うのか?・・・・そうだよね。そうそう。こう描いてくれて、なんだか、長年の悩みがすっきりしたみたいな感じ。(え、なんで?と思った方は、ご覧ください。)



クリスチャンの世界で、金利を取る事は悪とされる。しかし、金儲けはいいのね。なんとも都合のいい教えの中で、アントーニオは財をなす。そして、クリスチャンに嫌われ、土地をもつ事を許されず、クリスチャンに忌み嫌われる仕事につくしかなかったユダヤ人たちは、その才覚で財をなし、コミュニティを守り、また更に嫌われる。その象徴が金貸しシャイロックだ。

バッサーニオは、愛に燃える若き軽薄な男。しかし、軽薄も若さの特権だ。アントーニオにしっかりと甘え、美しい女性に胸を焦がし、いとも単純に生きる。(ジョセフ・ファインズ・・・ぴったり)愛する女性ポーシャの心をつかむために、見栄を張るバッサーニオ。アントーニオは、こころよく金を貸そうとするが、たまたま彼の舟は全部出航中。あの憎むべきシャイロックに借金をするしかない。

担保にしたのはアントーニオの肉1ポンド。そして計算されたようにアントーニオの舟は見事に沈む。バッサーニオはポーシャの心を得、友人を苦境に立たせる。進退窮まった彼を救うのは誰か?



悪の権化であったユダヤ人には、苦悩が満ち溢れていたのだと描いた監督。軽薄な男たちの世界に必要なのは、女の冷静な判断力と広い心だった!というあたりを強調したのが、いかにも今日的だった。描かれたのは、狭いクリスチャンと狭いユダヤの自分達だけが全ての世界。この話の唯一の救いは、ユダヤの娘、シャイロックの娘の恋の成就。この救いこそが、一番象徴したかったことなのでは、とも思えた。

原題の「The Merchant of Venice」の商人=Mercahntと、裁判で何度も繰り返される慈悲=mercyの言葉の対比が面白い。ユダヤの力がなければ、ありえなかった今の映画の世界。ユダヤを悪の権化にした「ヴェニスの商人」をハリウッドが描くわけにはいかない。しかし、「ヴェニスの商人」はシェークスピアの中で紛れもない傑作。結局はどこか痛み分けのような描き方をして、監督がうまくまとめたなあというのが素直な感想。そして、配役の妙が見事。見た甲斐のある映画だ。


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7 コメント

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こんばんは (あん)
2006-01-09 22:35:16
ジェレミーファンのあんとしてはアントーニオの描き方に物足りなさを感じました。いくら、おホモ達でもあそこまでやるかしらね(^O^)。
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TB、ありがとう (sakurai)
2006-01-10 08:24:36
ジェレミーファンとしては、物足りなかったでしょうね。ユダヤ人の苦悩を大きく描いた解釈でしたから、ジェレミー側をあんまりクローズアップできなかったのでしょうね。

一時、ジェレミー・・・どうした?作品が続いてましたが、「キングダム・オブ・ヘブン」あたりも良かったですね。復活でしょうか。
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シェークスピア (kossy)
2006-01-12 09:10:18
記事を拝見していると、ほとんどの映画がなんらかの形でシェークスピアの影響を受けているんじゃないかと気になってきました・・・やはり全部読んだほうがいいのかも。
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私も (sakurai)
2006-01-12 10:42:52
読みふけったのは、ずいぶん若い頃で、かなり頭の中の消しゴム増量中なので、だいぶうろ覚えになってきましたが、どの話も結局はシェークスピアにたどり着いたりして・・・。

映画業界も、むかしっから、ネタに尽きたら、『シャークスピア様さま』といわれてましたからね・・・。



監督の御意向か、シェークスピア俳優、3人も豪勢に使っちゃって、よだれもんでした。



3年くらい前にジョセフの兄ちゃんのレイフ様が、日本で公演した「ハムレット」が見れなかったのが、いまだに心残りです・・・。
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おじゃまします (ピロEK)
2006-10-17 23:00:51
おじゃまします。

私のブログにコメント&コメントをいただきありがとうございました。

sakuraiさんは、シェイクスピアにお詳しい様子ですね。

私はほとんど知らないためか、普通に「シャイロックが可哀想」と思いながらの鑑賞でした。

では、また来ます。今後ともよろしくおねがいいたします。
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>ピロEK (sakurai)
2006-10-18 08:29:01
こんにちわ。

いらしゃいませ。どうぞよろしく。

詳しいというよりも、商売柄(世界史の教師)詳しくならざるを得ないというあたりです。でも、この商売、映画を見るのに、随分と役に立っているので、自分に感謝してます。

「シャイロックがかわいそう」と感じたのなら、きっとこの映画を作った意図は成功だと思います。そうでなければ、ハリウッドが「ヴェニスの商人」をわざわざ作らないと思いますから。

これからもどうぞよろしく。
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シャイロック派 (oguogu)
2007-01-10 17:27:39
TB&コメントさせて貰いますね~
見応えありましたよね~。
パチーノはやっぱり素晴らしい俳優さんです。
あの頑固な雰囲気や、裁判官に詰め寄る姿のシャイロックはパチーノ以外に演じれまい!
これからも度々お邪魔させて貰いますのでよろしくです~
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