迷宮映画館

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胡同の理髪師

2008年08月26日 | は行 外国映画
床屋さんのあの独特の匂いは、どこからくるんだろう。
ちょっとケミカルな、でもなんだか懐かしくって、いい気持になる匂い。
じょわーーとあったかいタオルを当ててもらうのがうれしいのだが、小さい頃はあれを当ててもらえなかった。
何歳になったら当ててもらえるんだろう・・・と思った覚えがある。

実家の隣は床屋さん。
商店街の一角で、あの赤と青を白のグルグル回ってるやつが、隣にあった。

ちょっと髪が伸びてくると、すぐに「髪切ってこい」と言われて、隣に行った。待ってる間、あざやかに動く手と、よーく切れる剃刀の切れ味を、じーっと眺めていた。

しゃっしゃっと、剃刀をといで、ぐにょぐにょと石鹸を付けてもらい、じゃーー、じゃーーとそる。髪をしゃかしゃか切る音も好きだった。実はあたしは、床屋さんが大好きで、おっきくなったら、床屋さんになりたいと、ひそかに思っていた。

その思いは、いつの間にか行かなくなった床屋さんから離れて行ったが、自分の子供らの髪を切ってた時、その思いがよみがえった。しゃかしゃかと髪を切って行く感触。。。好きだなあ。

と、自分のことはどうでもよくて、この北京の古くからの街並みである胡同に住む、チンおじいさん。90越えて、まだ現役の床屋さんだ。どこか仙人のような風貌で、その立ち居振る舞いも、世俗を超越しているように見える。

毎日、6時で起きて、5分遅れる時計を直す。判で押したような毎日を送り、近所のお得意さんたちの頭をあたり、午後は麻雀。仕事をくびになった息子の愚痴を聞き、9時になると、就寝。

きっと、何十年もずーっと変わらぬ生活を送ってきたのだろうけど、その一つ、一つが絵になる。けっしてあせらず、悠久の時の流れに身を任すように、ゆったりと過ごす。

しかし、時は刻々と流れる。年を重ね、自由の効かなくなっていった友人たちが、鬼籍の人となって行く。自分だって、90を過ぎた身。いつ何時、お迎えが来るのかわからない。自分の葬式の準備なんかも考えないと。

胡同のあっち側では、着々とオリンピックの準備をしているのだろうか。高層ビルが建てられている。時代は、ものすごいうねりを立てて、猛スピードで流れていくが、チンさんの周りの空気は、いつ何時でも同じ。何にも動じないその姿は、なにやら神々しかった。

その姿を、演技でもなく、ドキュメンタリーでもなく、淡々と流れていく姿を切りとった秀作。なんだかあくせくしている自分が、せせこましく感じられてしまった。

◎◎◎◎

『胡同の理髪師』

監督 ハスチョロー
出演 チン・クイ チャン・ヤオシン ワン・ホンタオ ワン・シャン マ・ジンロン トン・ジョンチ ユウ・リピン ソン・グァ シュ・フェジー


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