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第494回 小三治の俳句で笑おう

2022-10-14 | エッセイ
 先年亡くなられた柳家小三治師匠は、好きな落語家のひとりです。テンポと歯切れのいい語りで、「船徳」、「湯屋番」などの若旦那モノや「小言念仏」などをもっぱらCDで楽しみました。


 で、師匠といえば、落語もさりながら、冒頭で語る「まくら」(のほう?)が面白いとの定評でした。普段の高座では、時間の制約もあり、噺の背景だとか、現代の関連した話題とかをさらりとやるものの、独演会では、かなり自由に、独立した噺のように語ることも多かったようです。

 「ま・く・ら」とその続編「もひとつ ま・く・ら」(ともに講談社文庫)には、アメリカ語学留学記やら、趣味のオートバイとかオーディオの話など、CDでは聞けない「まくら」が盛りだくさんです。なかでも、師匠が参加していた俳句の会の話題が(一時、私も行きつけの店の俳句の会に参加していたこともあり)興味を引きました。句会での「作品」を中心にお届けします。1994年5月の独演会でのものです。★ ★内が俳句の作品で、< >内は、師匠の語り、句評など同書からの引用になります。

 師匠が参加していたのは「やなぎ句会」です。同業で心得のある入船亭扇橋を主宰者に、小沢昭一、永六輔、加藤武(文学座)、江國滋(作家)、矢野誠一(演芸評論家)など10人ほどの諸氏で、当時で25年ほど続いていたといいますから本格的です。
 まず話題に上ったのが、インドネシアのバリ島での句会です。5~6年前に企画され、いろんな事情で延び延びになっていたのが、独演会の少し前の4月に実現しました。メンバーによる現地での講演会、高座を終えての句会の模様です。

 「優勝」したのは、小沢昭一さん。
★炎天に物売る人の歯の白く★ とか、★白人の赤く灼(や)けてる読書かな★ とプールサイドの情景を詠んだ句が点数を集めました。カラフルで南国の気分が溢れています。でも、肌の色を引き合いに出したのが、師匠は気になったようで、悔しさ半分で、<早い話が人種差別でしょ、これ(笑)。>とツッコミを入れていました。

★余生とはかくありたきやバリの波★ は永さんの句。ちょうど「大往生」という本を出版、話題になってた頃でしたから、<何だかよくわからない。つまり、「大往生」のノリですね。これは。>とバッサリ。点数も入らなかったそう。
 さて、師匠の作品ですが、選ばれたのはこれだけ。
★きんたまのように椰子(やし)の実覗(のぞ)きけり★
 きっと、こんな光景が思い浮かんだんでしょうね。


<これじゃあ優勝はできません(笑)。でもね、ほんとにそう見えるんですよ、椰子(やし)の実が(笑)。> <選ぶ人は少なかったですがね、ただ、素直な佳い句だと言われました(笑)。>
 独演会ならではのアブない作品の披露でした。

 話は前後しますが、バリ島句会の少し前の3月の句会の模様も「熱く」語っています。師匠が優勝したのですから、それも道理です。
 「韮(にら)」のお題で、
★包丁の切れ味小気味韮の束★ は、永さんが天を抜き(1位の点数を付け)、
★ざく切りの韮うず高し博多の灯★ も高得点だったようで、<博多へ行くとモツ鍋ってのがありますね。(中略)「モツ鍋」って言葉を一言もつかわないってぇところがね。これが玄人ですね(笑)。>と、自句自讃。さらには、「春暁」のお題で
★春暁や短かき夢を織りつなぐ★ も高得点だったとのこと。<フッとまどろんじゃあ夢見て、またまどろんじゃあまた違う夢を見て、さっきの夢とこっちの夢となんかつながるような気もするなあ、っていうそんな感じを・・・>な~んて自ら解説までして、絶好調ぶりがうかがわれます。

 ほかの方の句も紹介しましょう。「ひらひらと」の冠付けで、扇橋師匠の
★ひらひらと彼岸詣りの女かな★ には小三治師匠だけが天を抜きました。<彼岸詣りへ行く女の姿、風情、女の性格、心まで見えてくる、とても佳い句だったと思います。>と自身の鑑賞眼の高さをやっぱり「自慢」。
 「伊勢参り」というお題での永さんの句。
★伊勢参りかたじけなさに大笑い★ には<何を考えてるんですかね、この人は(笑)。一ぺん病院に行ったほうがいい(笑)。>と散々の評。
 師匠の独演会ですから、言いたい放題になってますけど、和気藹々とした雰囲気は伝わってきます。俳句という小三治師匠にとっては本業ではない分野の話題でしたが、お楽しみいただけましたか?師匠を含め、多くのメンバーが故人となっておられるのがちょっと寂しいですね。

 それでは次回をお楽しみに。
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