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第357回 壷算サギにご用心

2020-02-14 | エッセイ

 

 いきなりの私信で恐縮です。石野君、伊藤君、小川君、三宅君、山田君、アクセスありがとうございます。先日のミニ・クラス会楽しかったですね。当ブログを引き続きご愛読いただければ嬉しいです。

 それでは本題に入ります。落語の演目に「壷算(つぼさん)」というのがあります。なかなか良く出来た一種の詐欺噺で、こんな落語的手口です。

 台所の壷(水を入れておく甕(かめ))が壊れたからというので、新しいのを買ってくるように頼まれた男(これが主人公)が、頼んだ男を連れて店にやってきます。
 店には、小さい壷と大きい壷が置いてあります。頼まれた男はまず、小さい方の壷に目を向けます。5円だというのを、3円まで値切って、カネを払って、二人でかついで、店を出ます。

 少し行ったところで、頼まれた男が、思い出したように連れの男と店に戻ってきます。やっぱり大きい壷にする、と店主に告げて、こんなやりとりが展開します。
 
「ついては、この小さい壷を引き取ってもらいたんやけど、ナンボ(いくら)になるかな」
「今、買うてもろたばっかりですので。3円で・・・」
「わかった。ほいで、その大きい壷はナンボかいな?」
「小さいのを3円にさしてもらいましたから、6円ということで」
「ええやろ、ほなら、この壷を3円で引き取ってもろて、そこにさっき払うた3円があるな。都合6円になるわな。ほな、この大きい壷、もろうていくで」
「へえ、おおきに・・・・ちょ、ちょっと待っとくんなはれ(待ってください)。ワテ(私)の手元には3円しかおまへんねんけど(ないんですけど)・・・・」
「ええか、よう聞けよ」と先ほどの説明を繰り返す男と、半泣きでソロバンまで持ち出して、首をかしげるばかりの店主。お決まりの落語的ドタバタの展開が笑いを誘う趣向です。
 でも、どこがどう間違ってるのかを小学生に、きちんと説明するのって、意外と難しそうです。
 画像は、「桂枝雀 上方落語傑作集」CDのカバー画から、一部を借用しました。

 

 ロシアにも、同じような趣向の話があります。

 お金に困っているイワンがアブラハムに「1ルーブル貸してほしい。2倍にして返すから」と持ちかけます。それに対してアブラハムは、「そんなのは信用できない、斧を担保にするなら」といって、斧を取り上げ1ルーブルを貸します。そして、こう提案します。
「2ルーブルを一度に返すのは大変だから、今1ルーブル返しておいたらどうだ」
 それに乗せられたイワン。斧を取られた上に、手元には何もありません。いかにもトホホな結末ですが、こちらのダマシの理屈は分かりますよね。

 さて、この手の詐欺話は、落語とか民話の世界だけの話かと思ったら、実際にあったのを読んで、ちょっと驚きました。その本とは「唐牛伝」(佐野眞一 小学館文庫)です。

 60年安保当時の「花の全学連」委員長であった唐牛健太郎(かろうじ・けんたろう)の生涯を軸に、その周辺の人々との交遊などを描いた労作で、伝記とはいいながら、60年安保という政治の季節へのオマージュような作品でもあります。

 政治活動から身を引いた唐牛は、漁師、建設作業員、オフィスコンピュータのセールス、居酒屋の亭主などいろんな仕事を転々とする一方、転向右翼の田中清玄など、様々な人物との交流も広げていきます。そんな中のひとりが、医療法人徳洲会の徳田虎雄です。

 奄美大島を舞台に、徳田が国政選挙に立候補し、保岡興治(自民党公認)との一騎打ちとなった選挙戦は、札束が乱れ飛ぶ壮絶な戦いとなりました。オフコンセールスマン時代の唐牛を知る人物が、唐牛から聞かされたこんな選挙エピソードが同書に引用されています。

<相手候補(保岡)の運動員が1万円を入れた封筒を配って歩くと、徳田陣営はその後から行って、「相手は1万円持ってきたでしょう。私は2万円あげますから、その1万円ください」って言うんだ(笑)。そうすると「相手はいかにも2万円もらったような気になるけど、実はこっちも1万円しか払ってない」みたいなことを言っていましたね。>

 地縁、血縁も絡んだドロドロの選挙戦という雰囲気、高揚感の中では、こんなマンガ的、落語的な話が通ってしまうんですね。買収工作などと目くじらを立てる前に、なんだか、ほっこりしてしまいました。

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。

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