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第531回 微生物たちの「超進化」

2023-07-07 | エッセイ
 以前、NHKスペシャルの「超進化論」シリーズから「植物編」をお届けしました(第510回 植物たちの「超進化」ー文末にリンクを貼っています)。
 今回は、微生物編です(2023年1月8日放映)。微生物とは目に見えないすべての生き物、バクテリアのことで、17世紀に顕微鏡が発明されて以来、いろいろ研究が進んでいます。バイ菌、病原菌などという言い方もあって、人間に害を及ぼす面ばかりに目が向きがちです。でも、微生物自身が進化すると同時に、動物や植物の進化にも大いに関わってきた、というのが最近の研究成果です。番組に拠りながら、ご紹介することにします。なお、画像は、番組から拝借しました。

 人間の口の中には、2000億もの微生物がいて、口や歯の清潔、食べ物の消化の手助けなどをしています。また、腸内には、1000種、100兆もの微生物がいて、食物の消化、吸収を手伝い、腸内環境の整備など、私たちの生命活動に大いに貢献しています。これだけでも驚きですが、もっと凄い能力を発揮するのがいます。まずは、微生物自身が進化してきたいくつかの事例です。
 ジョンズ・ホプキンズ大学のシビン・ジョウ研究員は、がん治療への応用を研究しています。がん細胞は成長が早く、内部には酸素がありません。そのため、生命活動に酸素を必要とする抗がん微生物は細胞内部まで入り込めず、治療効果が上がらないケースが多くありました。そこで彼が注目したのがクロストリジウムという微生物です。普段は土の中の脂肪分を栄養にしていて、酸素がないのを最適環境にしています。これを患者の血管に注入するのですが、血管の中は、酸素がいっぱいです。そのため、酸素から身を守る鎧(よろい)のような組織を身につけています。そして、がん細胞に到達すると、鎧を脱ぎ捨てて、酸素のないがん細胞の内部にどんどん入り込み、その細胞を食べ始めるのです。あるがん細胞への臨床実験では、わずかに1日で、大幅に癌が消滅したといいます。臨床例がどんどん増えて、がん治療への新たな道が開けることを期待しましょう。
 最近では、プラスチックを食べる酵素が発見されています。プラスチックなんて、地球の歴史から見ればごく最近に人間が作り出しました。それを栄養素として食べるまでに進化する・・・地球環境問題の解決につながるかもしれないスゴい微生物がいるものです。

 脳を操る微生物がいるらしい、との研究も行われています。チェコ・カレル大学のフレグル研究員がトキソプラズマで調べたものです。ネズミを使った実験で、いろんなニオイの元が置いてあるスペースでの行動を観察しました。トキソプラズマに感染していないネズミは、天敵であるネコのニオイに近づいた率は、11%でした。ところが、この微生物に感染したネズミの場合、その率は33%になったのです。明らかに行動が大胆になっています。実は、トキソプラズマは、ネコの体内だけで子孫を増やせるのです。ネコを恐れないよう脳を操作して、ネコへの感染チャンスを増やそうという戦略ではないか、との仮説です。人間でも、感染した人の交通事故率が、感染していない人の2.65倍という研究結果があり、脳を操作して、大胆な行動に駆り立てる、との仮説を補強しています。くれぐれも感染しないよう気をつけたいものです。

 微生物は組織の作りがシンプルで、世代交代が早い(どんどん増殖する)ので、突然変異も発生しやすいという特徴があります。先ほどのいろんな能力も、その変異で身につけたと考えられています。でも、それだけでなく、動物や植物が進化する駆動力にもなっている、というのが更なる驚きです。
 話は、大気のほとんどが二酸化炭素であった20億年前に遡ります。水中に「アーキア」という単細胞的な微生物がいました。我々人類にもつながる生命体とされています。イメージ図です。

 その頃、光合成細菌(二酸化炭素を吸収して、酸素を放出する細菌)が急激に増え始め、大気中の酸素が急増しました。アーキア自身にとって酸素は猛毒ですから、このままでは絶滅の危機です。生き延びた謎を解明するヒントとなる発見がありました。2006年、和歌山県沖の深海(約2500メートル)から、オーキアに近い種を採取し、12年かけて培養に成功したのです。こちらです。

 先ほどの原初のアーキアと見比べれば、長い腕のようなものが出ているのがわかります。この腕をどう使ったのでしょう。こちらの画像をご覧ください。

 右のピンク色で示した好気性細菌(酸素下で生きられる微生物)を体内に取り込んで生き延びた、という仮説です。この好気性細菌は、のちにミトコンドリアと名付けられ、酸素の処理だけでなく、免疫機能など重要な役割も担うことになります。

 4億年前にも、重要な出来事がありました。それまで動物の腸内は、微生物をすべて排除していました。ところが、この時期から、微生物を取り込み、共存できるよう進化したのです。例えば、植物繊維を消化できる微生物が住みつきました。その結果、陸の植物をエサにできるようになり、水中動物たちの上陸が始まったのです。
 元をたどれば、アーキアが、猛毒である酸素の処理能力を身につけたのがすべて、とも言えます。これがなければ、我々人類も地球に誕生していなかたのかも・・・・壮大なイフ(もしも)仮説、そして生命の不思議さに圧倒されました。
 いかがでしたか?なお、冒頭でご紹介した記事へのリンクは<こちら>です。合わせてご覧いただければれば幸いです。それでは次回をお楽しみに。
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