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第319回 奇跡のしくみ

2019-05-17 | エッセイ

 人間を宿主とする寄生虫といえば、回虫です。私たち団塊世代が子供の頃は、検査があったり、クスリを飲まされたりしたものです。
 理科室なんかにも、ホルマリン漬けの標本が並んでたりして、大迷惑ながら、身近といえば身近な存在でした。
 さすがに、最近は衛生状態が大幅に改善して、話題に上ることは少ないようです。花粉症などのアレルギー症が増えたのは、回虫を駆除したからだ、という説が、時々話題に上る程度でしょうか。

 単にほかの生物のカラダに入り込んだだけでは、自分の生命を維持し、子孫を残すことはできません。なんらかの方法で外に出るなり、場合によっては、更に別の生物の体内に入り込む必要があります。
 「遺伝子が解く! その愛は、損か、得か」(竹内久美子 文春文庫)の中から、そんな寄生を巡る興味深くて、奇跡のような2つのケースをご紹介しようと思います。

<ハリガネムシの場合>
 ハリガネムシには、いくつか種類がありますが、いずれも「針金」という名前の通り、体長は、数十センチ(時には、1メートルになるものも)で、直径は、1ミリほどの虫です。

 この虫が、宿主とするのは、カマキリです。夏の終わりから、秋にかけての時期、カマキリから、水中に出たハリガネムシは、オスとメスが、水中で交尾し、翌年の春に、水中の草などに卵を産みつけます。
 卵がふ化して、幼虫になった時、カゲロウやユスリカのような昆虫に食べられ(第一の宿主)、その体内にある袋の中で過ごします。

 そうして、再び春になって、水辺にいる羽化したカゲロウやユスリカが、カマキリに食べられることによって、カマキリの体内(本来の宿主)に入り込む、というわけです。

 ところが、本来、カマキリには、水辺をうろつく習性はありません。
 ハリガネムシが取りついたカマキリだけが、そういう行動をとるので、カマキリの脳にそういう指令を出す、というか、操作をしているとしか考えられないというのです。「洗脳」という恐ろしい言葉を連想してしまいます。単に、他の生き物に「取りつく」だけでなく、思い通りに操る実に巧妙で、恐ろしい仕組みです。

<カタツムリに寄生する吸虫の場合>
 ある種の吸虫は、鳥の腸管に寄生します。糞とともに排出されて、地上のエサにまぎれて、次の宿主であるカタツムリに寄生します。と、簡単に書いてますけど、カタツムリなんかに見向きもしない鳥に食べてもらわなければいけません。

 そのために、吸虫が考え出した(?)のが、奇妙奇天烈、仰天な以下のような方法です。

 鳥へと回帰(寄生)すべき時が来たら、吸虫は、カタツムリの触覚に入り込みます。触覚はぱんぱんに膨らみ、吸虫の横縞模様が透けて、昆虫の幼虫のように見えます。いささかグロテスクですが、こちらがその画像です。


 それだけで鳥に食べてもらえるほど、世の中(?)甘くはありません。やはり「洗脳」のようなことをして、カタツムリが普通は行かない明るいところや、木の枝の先のようなところへ誘導します。

 その上で、触覚を旗のように振らせて、鳥に、居場所を知らせる、というから、念がいってるというか、徹底してます。ハリガネムシをはるかに凌駕するダイナミックな作戦です。

 う〜む、これら2つの事例に限っても、その仕組みが確立するのにどれだけの試行錯誤があったことでしょうか。考えただけで気が遠くなりそうです。
 「寄生」という「生き方」に潜む生き物の世界の奥深さと不思議さにあらためて圧倒されます。

 いかがでしたか?それでは、次回をお楽しみに。

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