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第169回 謝らないアメリカ人

2016-06-10 | エッセイ

 すぐに謝るのが日本人。会社とかの不祥事で、担当役員なんかがグダグダと釈明したあとで、全員が、ガバッと立ち上がり、「大変っ、申し訳っ、ございませんでしたっ」と一斉に、深々と頭を下げる。とりあえず謝っておいて、誠意らしきものを示し、世間、株主の矛先をそらしておこうという底意がミエミエのアホらしいセレモニーである。謝ったからといって、非を認めるわけではなく、訴訟とかになれば、それはそれで、話が別。責任など認めず、徹底的に戦う、というのも日本流。

 いっぽうで、生半可なことでは謝らない、というのがアメリカあたりも含めたグローバルスタンダード、というのが世の常識。
 つい先日も、つくづく、そのことを思い知らされる「事件」があった。日本ではあまり報道されていないようなので、まずは、その概要を紹介する。

 アメリカのシンシナティの動物園でのこと。母親と来ていた3歳の男の子が、フェンスを越えて、3メートルほど下のマウンテンゴリラのいるプールに落ちた。入園者が撮影したビデオで見ると、最初、ゴリラは危害を加える様子はなかったが、そのうち、男の子を振り回し始めた。その後の映像は放映されていないが、最終的に、動物園側は、ゴリラを射殺し、子供は、救出された、というのが顛末だ。野生のマウンテンゴリラです。成獣だと200kgにもなるといいます。デカいです。



 絶滅危惧種であるマウンテンゴリラの射殺の適否も議論にはなったようだが、動物愛護協会やら、市民などの非難が集中したのは、当然のことながら、母親に対してである。中には、殺人をほのめかす脅迫などもあって、一家は警察の保護下に置かれるという事態に発展する始末。

 そんな中、当の一家の声明(Family Statement)が報道された。まずは、全文と拙訳をお目にかける。

 "He is home and doing fine."
  "We extend our heartfelt thanks for the quick action
   by the Cincinnati Zoo staff.
  We know that this was a very difficult decision for them,
   and that they are grieving the loss of their gorilla."
(息子は、家で元気にしています。シンシナティ動物園のスタッフによる迅速な措置に心から感謝します。この措置がスタッフにとって、非常に困難な決定であったこと、そして、スタッフが、ゴリラを失ったことを悲しんでいることを、私たちはわかっています。)

 どうですか?木で鼻をくくったような、とはこういう文章のことをいうのでしょうね。謝罪とか、非を認める表現は一切ありません。さすがに、迅速な「措置」への感謝は述べられてますが。

 「子供のことなんかどうでもええわ。、殺されたゴリラのほうがよっぽど可哀想ちゃうんか」
 冒頭の文章を見た関西のオッチャンは、神経を逆なでされて、えらく怒ってた。射殺とか、死とかの刺激的な言葉も巧みに避けられています。弁護士の手が入っているに違いありません。

 なにしろ訴訟大国アメリカのこと。動物愛護協会あたりから、親が訴えられる可能性があります。動物園から訴えられないとも限りません。謝罪するということは、非を認めることであり、非を認めるという以上は、その責任(損害賠償、刑事責任など)を負わなければならない、というのが彼らの理屈であり、それはそれで筋が通ってる。だから、この一家も世間からどう思われようと、今の時点で、ヘタに謝るなどというリスクを犯すつもりはさらさらない、ということなのでしょう。(続報によると、母親に対する刑事訴追は行われないこととなった。動物園側の独自の調査は継続中とのこと。)

 仮に、訴えられれば、親としては万全の注意を払っていた、その上で転落したのだから不可抗力だ、動物園側の安全対策に不備がある・・・などありとあらゆる理由、理屈を持ち出して、抗弁するに違いありません。
 それはそれで、自分の身を守るためのアメリカ流のやり方ですが、いかにもストレスに溢れた、住みにくそうな社会に思えてしかたがない。通り一遍の釈明と、とりあえずの謝罪(世間を騒がせたこと、関係者に迷惑・心配をかけたことへの謝罪だけで、まったく意味がないのが圧倒的に多い。「不適切だが違法ではない」などという言い訳が、これからは、大手を振ってまかり通ることだろう)で事足れりとし、また、それを許容する日本の社会も、それはそれで、ストレス一杯であるのだが・・・・・

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。

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