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第191回 「彼」と「彼女」をめぐって-英語弁講座9

2016-11-11 | エッセイ

 英文科ご出身の「孫平様」にもご愛読いただいてますので、いい加減なことが書けず、緊張します(汗)。出来る限り正しい情報をお届けできるよう努力しながら、当シリーズを続けていこうと思います。引き続きご愛読ください。

 さて、以前、ファーストネームを話題に取り上げましたが、今回は、三人称(「彼(ら)」と「彼女(ら)」)という呼称にこだわってみようと思います。

 半世紀以上の昔、英語を習い始めてすぐ、he=彼、she=彼女、と覚えさせられました。彼氏、彼女は、もっぱら「恋人」の意味で使ってたと思いますが。日常的に、彼、彼女なんて使うかなぁ、なんか日本語に馴染まない言葉だなぁ、というの当時からの疑問。

 それも道理で、作家の井上ひさしによると、日本人の祖先は、そもそも三人称の代名詞を必要としていなかった、というのです。どうしても必要なら、その人の名前とか、職業とか、身分、肩書きなどで呼べば良かったわけですから。こちら、井上ひさしさん。



 ところが、明治維新によって、西洋語が入って来て、男女の区別のある三人称の代名詞に訳語を当てる必要が出てきたのです。その時、一旦は、古くから使われていた彼(かれ)を当てるのですが、この代名詞は、本来、男女共用です。仕方がないので、「彼」は男専用にして、女性用には、「彼女」という言葉を当てることにしたらしいのです。ただし、最初の頃は、「あのおんな」「かのおんな」と読まれていたようで、「かのじょ」が定着したのは、明治10年頃から、というのですね。(出典:「井上ひさしの日本語相談」(朝日文芸文庫))

 そういえば、日本人の場合、会話の中で、その場に居あわせない人物のことは、名前とか愛称で呼ぶのが普通ですね。「彼」とか「彼女」とか呼ぶのは、ちょっと他人行儀、距離を置いてるニュアンスがあります。
 ところが、英語だと、家族同士だとか、親しい人でも、「その場に居合わせない」人は、第三者ですから、ごく普通に、三人称のheかsheを使います。あくまで原則を貫くわけです。

 子供が家で、父親に尋ねます。”Where's mom?”(お母さんはどこ?)
 台所にいるとすれば、”She's in the kitchen.”
 日本人の感性だと、子供の目線から見て「「お母さん」は、台所だよ」が普通でしょうけど、英語だと "she"の出番、というわけです。
 
 さて、親しい人が何人か集まっているの会話の場合、皆んな、その場に居合わせていますから、お互いは、「完全な第三者」ともいえない微妙な関係になります。したがって、話に加わっているメンバーのことに言及するのに、いきなり、"he"とか"she"で呼ぶのは礼を欠く行為とされています。

 まずは、ファーストネームとか、ニックネームなどを使う。その上で、会話が進むにつれて、
"he"とか"she"で言及するのは、OKといった感じでしょうか。呼び方ひとつでも、親しさ、距離感を大切にするのが、とりわけアメリカ流といえそうです。

 「代名詞もいろいろ」。「彼」と「彼女」も一筋縄では行きませんねぇ。

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。

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