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第518回 「どや」「大概」-大阪弁講座54

2023-04-07 | エッセイ
 今回の大阪弁講座は、<どや>と<大概(たいがい)>を取り上げます。どうぞお楽しみください。

<どや>
 中島らも(故人)の古いエッセイを読んでいたら、彼が大阪でコピーライターをしていた時に、街で出会った飛び切りの広告コピーを話題にしていました(「西方冗土」(集英社文庫)所収)。
 市内の中之島公園に屋台のタコ焼き屋が出ていて、こんな貼り紙がしてあったと面白がっていました。
「おいしいタコヤキ、二百円でどやっ!?」

 そういえば「どや(っ)」というコテコテの大阪弁があったなあ、と取り上げることにしました。
 「どうだ」が大阪弁的に「どうや」、さらに「どや(っ)」と短縮化されたのが成り立ちのようです。
「~したら「どうだ」」「~するのは「どうだ」」と同じように、助言したり、行動を促すのにまずは使われます。
 「そろそろ時間やで。出かける用意したら「どや」」
 「そういつまでもケンカしとらんと、仲直りしたら「どや」」
 「どや」の言い方の強弱で、軽い助言から、命令調まで使い分けられる便利さがあります。

 もうひとつは、「「どうだ(ぁ)」、スゴいだろっ」なんかで使われる自慢の「どうだ」です。
 「「どや(っ)、オレが一言発言しただけで、全部決まりや。大したもんやろ」
 そうそう「どや顔」というのがありました。自慢げな顔を半ばあざけって使うのですが、「どうだ顔」じゃなく「どや顔」と大阪弁が標準になっているのが不思議です。

 さて、タコ焼きの「どやっ」をどう解するかですが・・・・
 こんなにおいしいタコ焼きを是非食べてくれ、と半ばお勧め、半ば命令調でざっくばらんに訴えてる、そんな大阪のオッチャンの顔が思い浮かびます。
 そして、オレはこんなうまいタコ焼きを作って、しかも200円という安い値段で売ってる、なんと良心的な、、、とちょっぴり自慢の「どや」も入ってる気がします。
 それにしても、大阪人の言語感覚には毎度の事ながら感心させられます。

<大概(たいがい)>
 薩摩弁に「大概大概(てげてげ)」という言葉がある、というのを司馬遼太郎のエッセイで読んだことがあります。人の上に立つ者の心得として、あまり事細かく指示したり、干渉しない、おおまかな方針を示したら、あとは任せる、というような鷹揚な態度をこう評するというのです。
そう、西郷隆盛の顔が思い浮かびます。
 漢字と読み方にギャップがあって、司馬は、中国語か朝鮮語が起源ではないかと推測しています。でも「たいがい」を江戸っ子風になまれば「てぇげぇー>てげ」になりますから、やはり日本語じゃないでしょうか。

 「たいがい」を「たいてい」とか「おおよそ」の意味で使うのは、大阪に限らないと思うのですが、使用頻度は圧倒的に高い気がします。
「その時間やったら「たいがい」家にいてるわ」とか、「用事を片付けて、出かけるのは、「たいがい」昼頃やな」などの用例を思いつきます。

 そして、もう少し幅広い意味で使える、という大阪的特徴があります。その代表的な例が、「たいがい」にしとき」というもの。くどくどと愚痴を並べ立てたり、文句を言ってる相手を嗜(たしな)めるのに最適の表現で、「ほどほど」よりキツイ響きがあります。共通語だと「いい加減にしろ」ってとこでしょうか。
「さっきから黙って聞いてやってたら、いい気になって泣き言や愚痴ばっかり。聞かされる身にもなってみぃ。「たいがい」にしとき」

 いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。