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第413回 中学理科の今

2021-03-19 | エッセイ

 今でこそ科学全般に広く(ただし、浅く)関心を持ち、当ブログでも時折話題にしますが、中学、高校を通じて理系の科目にはあまり興味が持てませんでした。いささか古い定説を暗記させられる科目との(勝手な)思い込みがあったようです。
 前回の数学編(第386回ー文末にリンクを貼っています)でネタ元にしました「人生に必要な教養は中学校教科書ですべて身につく」(池上彰/佐藤優 中央公論新社)の理科編によれば、現在の教科書には「「今、習っていることが、現実の社会や生活とこのように関わっています」という具体例やエピソードが満載です」(同書での池上氏の発言)というのです。
 生物、物理、地学、宇宙など幅広い分野をカバーする「理科」から、その最新ぶりをご紹介します。

 まずは、遺伝子分野です。私たちの頃は、メンデルの法則くらいでしたが、遺伝子組み換え技術のおおまかな方法、そして、その応用の最先端ともいえるiPS細胞作成技術と、移植医療などの応用分野にまで話は及びます。
 遺伝子組み換え技術について、「負の側面も持つかもしれない。(略)その技術を大多数の人が理解し、納得した上で社会生活に反映させていくことが求められている。」(大日本図書「新版 理科の世界3」)との記述は、当然といえば当然ですが、執筆者の良心を感じました。

 阪神淡路、そして東日本という未曾有の大震災を経て、地震のメカニズム(日本列島は4つのプレートがせめぎあっていることなど)、そして、火山が多いことなどに触れた上で、こんな記述があります。
 「富士山は(略)いつ活動が起こってもおかしくない時期にきていると考えられている。」(大日本図書版1)」そして、噴火した場合の甚大な被害想定の説明が続きます。
 富士山噴火は充分に想定できる事態ですけど、最近の教科書は、随分大胆になったものです。江戸中期(1707年)の宝永大噴火を描いた絵が残っています。

 目を宇宙に転じてみましょう。
 「めい王星は、最近まで9番目の惑星とされてきたが、太陽系についての研究が進んだ結果、2006年に惑星の定義が定められ、太陽系外縁天体と呼ばれるグループに分類された。」(東京書籍「新編 新しい科学3」)そうそう、そんなニュースがありました。

 この話題をめぐって、本書で二人が語っています。めい王星は、アメリカ人が発見した唯一の「惑星」だったので、「降格」に、アメリカが最後まで抵抗し、決定までに時間がかかったのだと。そこまで教科書には載っていませんが、人間くさいエピソードに頬が緩みました。

 地球を構成する元素は、もともと宇宙にあったものが、超新星爆発などで、まき散らされ、それが集まったものです。こんな記述があります。
 「宇宙は約138億年前に誕生したと考えられていて、太陽を中心とする太陽系は、約46億年前に宇宙をただようガスやちりから誕生したと考えられています。ということは、私たちのからだを作っている元素は、いちどはどこかの星の中にあったことになります。私たちは「星のこども」なのです。」(東京書籍版3)
「星のこども」なんてロマンチックですねぇ。こんなロマン溢れる教科書で習ってたら、理科が好きになってたかも。

 さて、「理系離れ」を意識してるのでしょうか。理系の知識を活かした「仕事」の紹介に力を入れているのが、いかにも今時の教科書です。

 NHKニュースの天気予報などを担当した気象予報士の菊池真以さんが語っています。
「・・・気象予報士がよく使うデータの中には、気象衛星で観測した雲のようすや、地上天気図、高層天気図・・・などがあります。どれも中学校で学習する内容を基本にして見ることができるものです。」(東京書籍版2)
 馴染みのある仕事を通じたうまい訴求です。

 極めつけは、「宇宙飛行士になるには」という超実践的なコラム(大日本図書版3)です。
 必要とされる知識、技能を身につけ、人並み外れた身体能力、精神力などを兼ね備えていなければならないことが、たっぷりと、これでもかというほど具体的に記述されているといいます。
 ガガーリン世代の私にとっては、まさに隔世の感です。理系離れが言われる中、理系の仕事にも目を向けてもらおうという執筆者の熱い想いが伝わってきます。
 数学編(第386回)へのリンクは<こちら>です。

 いかがでしたか。それでは次回をお楽しみに。