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第343回 笑いも世につれーさんま、たけし、タモリ論

2019-11-01 | エッセイ

 相変わらずのテレビ離れで、若い頃は、大いに笑い転げた「さんま」とか「たけし」とかの大御所の名前を番組表で見かけても、「見飽きたなぁ」感が先に立って、リモコンに手が伸びません。

 そんな折、「東洋経済オンライン」というビジネス誌のウェブサイトで、お笑い評論家のラリー遠田氏が、「明石家さんま」を「老害化する笑いの天才」と断じている記事が目に止まりました。社会性、批評性に富むレベルの高いもので、私も大いに頷くところが多かったです。

 ついでなので、「たけし」と「タモリ」については、まったくの私見を書き加えて、ご紹介しようと思います。

 さて、ずっと好感度上位のタレントで、存在感を示し続けてきた「さんま」に、今年、異変が起こりました。氏の記事によれば、「日経エンタテイメント」(2019年8月号)の「好きな芸人・嫌いな芸人」調査で、嫌いな芸人の第1位になってしまったというのです。

 「いい彼氏ができたら仕事を辞めるのが女の幸せ」といった古い価値観の押し付け、「カトパン(加藤綾子)を抱きたい」とのセクハラまがいの発言、最近では、性別非公表のタレントのりんごちゃんに対して、「りんごちゃんなんかは男やろ?」と詰め寄って、顰蹙を買ったりという言動が重なった結果ではないか、というのが氏の分析です。昔ならともかく、性差別、LGBTへの意識が高まっている現在、「セクハラ芸」で笑いを取りに行くのはナンセンスでしかありません。

 「さんま」のもう一つの弱みとして、氏は、ビートたけしの「バカ論」(新潮選書)での「さんま評」を引用しています。< >内が引用です。
<バラエティ番組の中で、素人でも誰でもどんな相手だろうときちんと面白くする。けれど、相手が科学者や専門家の場合、結局自分の得意なゾーンに引き込んでいくことはできるし、そこで笑いは取れる。でも、相手の土俵には立たないというか、アカデミックな話はほとんどできない。男と女が好いた惚れたとか、飯がウマいマズいとか、実生活に基づいた話はバツグンにうまいけど。>

 「爆笑問題」の大田光なんかが、ニュースショーで(テレビ的に)気の利いたコメントができるタレントとして「重宝」されているのを見るにつけ、なるほど、お笑い芸人にも、幅広い教養が求められる時代だと気付きました。むしろ、「さんま」のように、今更芸風を変えようもない、時代遅れの芸人を使い続けるテレビ業界の見識が問われそうです。

 さて、ビートたけしといえば「赤信号、みんなで渡ればこわくない」を思い出します。徒党を組んで悪事を企てる連中を揶揄するのに使われるほどの毒と批評性に富んだギャグでした。
 また、パーソナリティを務めたラジオ番組「ビートたけしのオールナイトニッポン」では「この番組はナウな君たちの番組ではなく、完全にオレの番組です」と公言して、世にはびこる偽善に痛烈な矢を放つなど、まさに一時代を画す活躍、人気ぶりでした。当意即妙、放送コードギリギリの危ないジョークのキレも鋭く、底知れぬ才能で、私も大いに楽しませてもらったひとりです。

 最近も、時折、「たけしのなんとかかんとか」などと銘打った冠番組を、番組表で目にします。う~ん、ちょっと気にはなるんですけど、「昔の名前で出てる」感は否めず、スルーしています。

 と、ことほど左様に、世の中がどんどん変わる中、お笑いの世界で、長期にわたって、人気と鮮度を保ち続けることは、いかに才能があろうとも難しいようです。

 そんな中、時代の流れを読んで、巧妙な変身で、独特の存在感を保ち続けているのが「タモリ」ではないでしょうか。
 その登場は衝撃的でした。イグアナの形態模写、4ヶ国語麻雀、そして「ハナモゲラ語」では、日本語をオモチャにするなど、従来の枠に収まりきらないアナーキーな芸風でした。でも、それだけで生きていけるほど甘くはない、と本人も感じたのでしょう。ほどなく「笑っていいとも」(フジテレビ系列)という格好の舞台を手にしました。

 あらゆる分野のゲストとの日替わりトークでは、彼の教養と笑いのセンスが存分に発揮されました。また、自らが芸を披露するというよりは、いろんな芸人を呼んで、育てるプロデューサー的役割もこなす活躍ぶりが光っていました。

 31年間続いた「いいとも」が、2014年に終わって、どうするのかなと見ていると、なんと「NHK」から、しかも「教養番組」、さらに、「ここ一本に絞って」デビューしました。そう、「ブラタモリ」です。

 全国各地を訪ねて、その地ゆかりの歴史ウンチク話を披露する趣向で、しっかりした台本があるはずです。でも、例えば、京都に残る秀吉時代の遺構である土塁の一部を指して、「これは、御土居(おどい)ですね」とタモリが語ると、いかにも自然で、嫌味なく聞こえます。ベースにある教養のなせる技でしょうか。若いおネエちゃんと一緒で、ホントに嬉しそう。


 でも相変わらず「非NHK的な」黒めがねで登場してるのが不思議です。ーーーいまや「NHK御用達」で、「教養番組」をやってますが、お笑い芸人としてのブランド、原点も忘れてはいませんよ、むしろ、そのギャップを楽しんでほしいーーーそんなメッセージを込めているのかなと想像しています。

 「歌は世につれ」と言いますが、「笑いも世につれ」ないと生き残れない時代なのでしょう。

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。

<追記>後ほど関連した話題を、「第387回 笑いのヨシモトー強さの秘密」としてアップしています。

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