Rosa Guitarra

ギタリスト榊原長紀のブログです

弱者の心

2010-08-08 | ギターの栄養



弱者の心が生んだ戦争によって
軍人という人間が作られる


その中で人徳ある人間が上官に任命され部下の命を預かる


命という人間の一番の尊厳を預かった上官は
自らを戒め、戒め過ぎた結果
自分の真の心を削り取ることになる


そして偽わりの聖人君子が出来上がる





上官には娘がいる

娘は父のもとに慕う沢山の部下を見てこう思う

「お父さんは立派な人だ」


偽わりの聖人君子は、本来、娘のために使うはずだった愛情を
戦争のために浪費し
そして戦争が終わってから
偽わりの聖人君子のまま寿命をまっとうして逝った


娘は気付かずに生き続けた
自分が正義の子だと疑わぬまま...

本当は自分に流れ込むはずだった愛が
戦争によって吸い上げられ浪費され
自分が受け取れなかったことを知らぬまま...


やがて娘は結婚し
赤ん坊を産んで母となった

自分が受け取るはずだった愛を受け取れなかった母は
身近な一番無垢な存在に潤いを求めた

母の中の無意識の枯渇が、なかば強引に
赤ん坊からの愛を求めた

その無垢な存在自体が愛そのものである赤ん坊から
潤いを吸い取ろうとした

新しい命を育むことの影にこっそり隠れて
渇いた心が弱者の心となって...



そうして何十年も過ぎ
赤ん坊は大人の娘に成長した

何十年の間の無意識の略奪に合い続けたかつての赤ん坊は
カラカラに渇き切っていた

母は今だに無意識に娘から奪い続けていた

枯渇した自分の娘が、その自らの枯渇によって苦痛の中に居、
また誰かから奪おうとしてしまっていることにも気付かずに...

そして連鎖した弱者の心が
また戦争の種を撒いていることに気付かぬまま...


奪う心が、奪われる誰かの心に憤りの火を点け
そこで初めて目に見える形となって小さな戦争が勃発しても
その瞬間を見極める訓練をしてこなかった彼女達には
食い止めることが出来ない



誰もが戦争を非難するが
その人達の心の中にも戦争の火種がある

そして彼らが自らの中の弱者の心に負けた時
いつでもその戦争は勃発する

そのことに気付かぬ人間が
本当の意味で戦争を起こすのだ




>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>




弱者の心が生んだ戦争によって
どこかの国に爆弾が投下され

その中の不発弾によって
無邪気な少年が片腕を失った

瀕死の少年は破傷風にかかり激しい発作の姿を家族に晒した

そしてギリギリの淵から生還した少年の心にも
少年に「生きろ」と叫び呼びかける家族の心にも
一生消えることのない深い傷跡を残した


まだ幼かった少年の妹は
兄の傷口の血の光景や
背骨が折れるほど体が反り返る発作の光景を見た

その恐怖に震えながら
長い時をかけて彼女は自分を奮い立たせる鍛錬をした

それは本来彼女が負うべきものを遥かに超えた加重が課せられていることに
彼女自身は気付く余裕も無く
自らの無邪気さを削る形でそれは為されて行った


月日が流れ彼女は結婚して男の子を産んだ


新しい命を授かった幸せな心は
傷のことを忘れたように思えたが
実際はその奥深くに深い傷は燻り続けた

家族や愛のためにと頑張るほど
かつて自らを削り取って奮い立たせた自分が顔を出した

かつてのおぞましい事件から受けた恐怖が
彼女の中で何かわけのわからない感情となって吹き出すのだった


彼女は家族のために頑張ることと同時に
自らの傷やかつての恐怖を周りに理解してもらおうとしていることに気付けずにいた

そして周りもどうすることも出来なかった

過去に受けた鮮烈な恐怖と
苦境の中で自分を奮い立たせることが
離れられない一対のものとなって彼女の中に定着し
それと供に生きてしまっている自分に気付けずにいた


周りに優しさを施すごとに
彼女は自分自身意味もわからず荒れた

彼女の身近な者達は
彼女からの優しさの後には
自分達に向けられる荒れ狂う心が一対であることを
繰り返す中で摺り込まれていった

そしてそれはまだ幼い彼女の子供に恐怖と葛藤を摺り込んだ



優しさの後には必ず破壊が伴うと
湾曲した愛を覚えて育った彼女の息子は
破壊から遠く遠く離れた優しさを求めて枯渇するようになり
いつしか自分だけの純粋な平和の理想郷を築こうとし始めた

成長するごとに
少しの不協和音さえ見逃さない過敏なアンテナを身につけた彼は
人の優しさの影に隠れる偽善をいとも簡単に見抜くようになった

そしてそういうものを徹底的に排除してゆくうち
彼は孤独になった



孤独と純粋の持ち主である彼を周りはガラスと呼んだ

近付くとガラスはいとも簡単に砕け
近付いた人間のその心に傷を負わせた

ガラスは柔らかく人を包むことが出来なかった
ただ透明に透明になっていくしか自分の生き方を見いだせなかった

ガラスと孤独と、それと共に酷いコンプレックスを持っていたら
彼はヒットラーのようになっていたかもしれない

でも彼はそうではなかった

それは彼は自らが権力を持たぬよう慎重に生きて来たからだった

そういう意味で彼は自分も信じていなかった


「自分を信じない」と言う彼のことを気の毒だと思うどこかの誰かが
彼に信じることの素晴らしさを説いた

しかし彼に信じることを説く人間自身が
実は時々こっそり偽善を利用しながら生きてることも
ガラスには全て映り込んでいた

ガラスには孤独になって行く以外の救いがないように見えた


透明になるごとに砕けやすくなってゆくガラスは
不発弾を落とした国の兵士の心を映した

戦争を起こした人間の心を映した

母親の荒れ狂う理由を映した


そして全てを映し切る頃には
あまりにも脆く
身動きさえ出来ない体になっていた

そして遂に
自らの中の弱者の心を消し去った


その時初めて
本当に戦争が終わったことを
ガラスは満たされた想いの中で感じた

これからが本当の人生なんだと
動けぬ体でそう思った







>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>







高みに登りたければ
他人を蹴落とさずとも
空気になればいい


頑張り過ぎて
全てを破壊しきる前に
空気になればいい





世界中の命が発する様々な温度で
空気は勝手に動く

高い空へ上昇し
知らない国へも繋がっている






身体が動けぬからといって
人生が終わったわけではないと人は言う

だけど
身体の動けぬ人のことを、動ける人は理解出来ない

現実に動けない不自由さを理解は出来ない




ただ
動ける人は
心の自由というものを以てだけ
動けない人と理解し合える





誰もがお互いを理解し合いたがっているのに
上手く理解し合えないことを感じ続ける


そして諦めた時に弱者の心が生まれる






ギタリストがギターを失ったらもう誰とも理解し合えないか

絵描きからキャンバスを取り上げたら誰とも理解しあえないか

物書きから筆を取りあげたら誰とも理解し合えないか

僕等から言葉を取り上げたら誰とも理解し合えないか




いや

それは違う





生きてる命がある間は
自由と幸せに向かおうと願う心が
僕等の世界共通言語なのだ




弱者の心を捨てるために
その代償に何か失ったと感じるのは

きっと...

気のせい




今、という瞬間を生きることを諦めなければ
命の本流から外れることはない




きっとそういうふうに出来てるのだ































































コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 夏の青空 | トップ |  »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。