Rosa Guitarra

ギタリスト榊原長紀のブログです

トンネル絞め...という技

2010-02-06 | 良寛さん万歳


二松学舎での馬頭琴コンサートのためのリハーサルを
本番前日にした

公に触れて廻ってはいないが、まぁ...馬頭琴奏者は妻であるのでリハは家でやる

今ウチには10ヶ月の子供が居るので
両親とも楽器に集中することは子供が眠っている時以外は不可能なのだ
コンサートが決まったのは大分前だから、日にちはたっぷりあったのだが
リハの時間を捻出出来ないったらありゃしない

子供は大体毎日、午後に昼寝をしてくれる
その隙を狙って大分前からちょこちょこ音合わせはしていたのだが
前日には何としても、しっかりと集中したリハーサルをやりたい

万が一前日に昼寝してくれなかったら、仕込み不足でステージに立つことになる
そのことだけは避けたいので助っ人を頼んだ


両家に打診したところスケジュールが空いていたのは妻のお義父さんだけ
ということでリハの間、子供の面倒を見ていただくことになった





現役時代は語学の教師であったお義父さんはとにかく物静かな方で
気が付くと、ころがってる本なんかをスッと開いて
静かに流し読みしていたりする

きっと勉強自体が好きなんだろうな、と思う

現実で俗な会話をするより
書物の中の美しいものに触れていることを愛する口数の少ない人である


親戚が大勢集まる時などお義父さんはほとんど口を開かない

それは、そこで繰り広げられている会話を軽んじているからではなく
会話に、俺が俺がと割って入ることをしたくない人なのだ


昨晩明け方まで起きていた僕は、昼頃だらしなく起きると
もうお義父さんは来ていて、息子と遊んでくれていた


「おはようございます...もう来ていただいてたのにすみません...寝坊しまして...」
とかなんとかモゴモゴ言って顔を洗いに出た


普段口数の少ないこのお義父さんが、赤ちゃん言葉を駆使しながら
息子と無邪気に対話を繰り広げてくれる光景を見るのが僕は好きだ


僕が起きてくると、息子はやはり父親である僕の存在を意識して
顔を洗ってるとこにハイハイしてきたりする

こっちに来るからつい息子と戯れ合って、しばらくしてからふと
お義父さんが本を開いてることに気が付いた



子供との遊びに父親が大手を振って登場してしまったら
おじいちゃんはやること無くなっちゃうんだな...

特にお義父さんは
相手を前に立て、御自分を後ろに置くような性格だし

そう気付いて、そこからは息子がハイハイで近付いて来ても
今日は目を合わさないようにした


その後息子は、お祖父ちゃんに遊んでもらうことに集中
扉を閉めた向こうの部屋でずっとお義父さんと静かに過ごしてくれていた





無事リハーサルも終了
閉めてあった扉を開けて、また4人で過ごす

お義父さんが突然「トンネル抜けしようかぁ」と言いながら
足を少し開いて息子の前に立ちはだかった


僕は正直(え~...足の間なんてくぐらないんじゃないかな...)と思った

早速息子は嬉しそうにハイハイでトンネル抜けをし出した

ニコニコ笑顔で何度も繰り返している


何度目かトンネルをくぐりぬけようとした息子の身体を
お義父さんが足を使って挟んだ

すると息子が声を上げて笑った



(へぇ...こういうので赤ちゃんて喜ぶんだ...知らなかった...)


サーカスとかの訓練されたプードルが
飼育係が歩く間を縫って又くぐりの芸をするみたいに
息子はきゃはきゃは言いながらトンネル抜けを何度となく繰り返し
お義父さんの足で挟まれながら驚喜の雄叫びを上げていた


僕はこの素敵な技に「トンネル絞め」という名前を付けた





お義父さんと、その娘である妻との間にいつも漂う
親子ならではの照れや諦めや見栄なんかが醸し出す
何となしにバツが悪いようなシラケたような空気を感じながらこう思った



かつて娘が赤ちゃんだった頃
きっとお義父さんはこの技を娘にかけたに違いない

そして娘が成長し、言葉を喋るようになり出したら
このシャイなお義父さんはもうこの技を封印したに違いない


だから、娘は何も覚えていない

自分がどんな風に愛され、どんな風に遊んでもらっていたか...




よく言われることだが
孫、という存在が、親とその親である祖父母の間の
長年にわたって固まってしまったものを解きほぐしてくれる



トンネル絞め、という技は

赤ちゃんがかけられて喜んでる様子を呈しながら
実は
掛けてる祖父母と、それを見てる親の両方にかけられた
ほぐしの技だったのかもしれない


















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