Rosa Guitarra

ギタリスト榊原長紀のブログです

テストミックス3

2016-01-22 | 榊原長紀 「キミと僕」


昨年末にジャケ絵の完成に伴って
今度はプロの方に音のミックスダウンをお願いした

丁寧にやって頂きたかったので〆切は決めず


ジャケ絵の時と同じように、最初に自分が抱いているイメージを
なるべく細かく具体的にお伝えした
そして今年に入りテストmix1が来た

すると
欲しいものと全く違うものに出来上がって来た




修正をお願いするために
更に細かく指定したり参考音源を添付したり

そしてテストmix2として出来上がって来たのものは
僕のオーダーしたものは全て網羅してあるのに
欲しいものからは更に遠ざかっていた


腕は確かだしコミニュケートにもブレの無いプロフェッショナルなエンジニアさんであり
事前に彼の作品も聴かせてもらい
これなら僕の感覚と重なり合わせられる、と確信していたのに
細かくリクエストするほど音が理想型から離れて行く…という


僕にとってこんなに精神を蝕まれることは無い
昨年ギターの録音時には突発性難聴
ジャケ絵が完成して間もなく帯状疱疹という
決して望んで等いないが何故か引き寄せ背負ってしまう僕特有の身を削る性も
多分これ以上はもう心身が持たないだろうと思い始める

そして僕が求める世界がきっと異常な領域で
プロの人にも理解してもらえないのかもな
と思って泣く泣く
「どうしたら上手く伝えられるかもうわからなくなってしまったので
拙いのは重々知りつつですが自分のmixを使うことにします」
という内容のメールを送った


するとエンジニアさんから
「最後にもう1テイクだけ聴いてみてください
これでも違うようだったら榊原さんのmixで行きましょう」と
テストミックス3というのが送られて来た


期待しないように...
でもどこかで期待しているのだろう
恐る恐る聴き始めた途端
しっくり感に包まれ
聴き進めるうちに懺悔の徒のように頭を垂れ
音の世界に埋没した


僕が欲しい要素がそこにはほとんど詰まっていた



狐につままれた気分でメールした

「なんか...良いかも、です」

と返信するとエンジニアさんから来た返事にこうあった

「実は一番最初に自分が良いと思うようにミックスしたテイクなんです」と



僕がなるべく細かく詳しくリクエストしてからは
プロとしてそのリクエスト項目の一つ一つに応えてくれたので
むしろエンジニアさんの美学が消滅してしまった
ということだったようだ

音楽を言葉で説明することは出来ないこと
改めて身に沁みる思いだった


mix作業の続投はもちろんお願いした



。。。




既存のフォーマットでは解決出来ないクリエイティブ作品を
他者と協力し合いながら作り上げるのはホントに難しい

作品に対し芸術的に関わるということは
この世界の負の存在に対する正の主張であり
負に依って付いた自分の傷口から滲んだ血が
ガソリンとなるのだから
濃くしようとするほど
関わろうとするほど
そしてガソリンが足りなければ
傷口を自らの手で開いて血を溢れさせることにまでなるのだから
下手すると神経がぼろぼろになる


だから
こういう領域に足を踏み入れる人は少ない


僕も仕事でこういう領域に足を踏み込んで
次からもう呼ばれないことも多々ある

踏み込む人も少ないし
踏み込まれても困る人も多いのだろうと思う





ミックスダウンに関し
エンジニアさんにどう説明しても欲しい音に近づかないことで
僕はもう他者に託すことを諦めようとした

その諦めの決断がエンジニアさんのスイッチをONにし
エンジニアさんは僕の細かい注文を無視して
彼の美学を音に投影した

そのテストミックス3を僕はとても美しいと感じて
紡がれる音の波に引き込まれ
いつしか懺悔の徒のように頭を垂れ
気が付けば聴きながら涙が出たのだった



エンジニアさんが「あるライン」を越えてくれたのを
明確に感じた

「あるライン」とは
プロがミスを避けるため
ある意味プロがプロであるために用意している「押さえ」のこと

それを取っ払い
下手すればクライアントから
「あんた何やってくれちゃってるの?
こっちがオーダーしたのと全然違うことやってくれちゃってるじゃない?
どういうつもりなさ」
と大叱咤を受けることも否まず
自分の美学を思い切りぶつけてくれることだ


エンジニアさんがこの領域に入ったことを
僕はとてもハッキリ感じられる


そしてそのことに感動してることを伝えたくてメールで送ったが
もしかしたら社交辞令だと受け止めてるかもしれない
信じてもらえてないかもしれない


だからここにこうして書き残したいと思うのだ





この人生を面白く豊かに生きる方法を
また一つ学んでいる


擦り傷はどんどん増えるが生きる面白みは増している











コメント
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