さいかち亭雑記

短歌を中心に文芸、その他

2023年07月27日 | 現代詩
「だから、自分のなかでなにかを志向する文脈がまだ十分に熟成されていないのに、何かの検索をきっかけにして、自動的に個人の嗜好に合わせたものが紹介されるようになる。いわば、嗜好品の見本が押し寄せる。これに年中従っていると、流されっぱなしになる。これはかなり自分を見失った状態だ。」
「そもそも、見失うような自分なんてあったのだろうか。」
「もともと『自分のなかでなにかを志向する文脈』というものが、相当に浮薄なものだということは、わかる。けれども、個々人の持っている生活史性のようなものは、そう簡単に変更されるものではないだろう。そこはやはりこだわりを持ち続けなければいけない、と言うより、そうしないとおもしろくないだろう。」
「さっき作った詩をひとつ出して見ようか。」

  的

的をつくって、その周辺に
ためしに足元の土くれや、木の枝の端のようなものを
投げてみる。
そうすると、的がだんだん
的らしくなり
色が濃くなってくる気配がある。

  「良(よ)う候(そろ)」

そのむかし
戦争映画のなかで 飛行機乗りが言っていたことばだが
中学生には不思議なひびきを持っていた。

  ようそろ
  はっ、はっ、はっ、ようそろ

潮が満ちて来ると、海辺のふじつぼの先端の
爪みたいなさきっぽから顔を出す感じの
吹き出る笑いが
ミジンコの足の谷間に瞬く間に大量発生する。

すると
的が、ひかりはじめた
木の枝のすきまから
白いひかりが射しこんで反射する
的が 膨らみ、大きくなって
輝きを増している

眩しくて目をあけていられない
的が拡大して どんどん大きくなって
もう見ていられない

見ていられないよ





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